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2016/01/14

ホレス・シルヴァーの天才的作編曲能力

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以前マイルス・デイヴィスのアクースティック・ブルーズ関連の記事(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/09/post-e6f0.html)で、『ウォーキン』のことを少し書いた。これにホレス・シルヴァーが参加していて、A面とB面はパーソネルと録音年月日がちょっとだけ違うけど、どっちでもホレスがピアノを弾いている。そして、僕の推測では、このアルバム収録曲のアレンジを書いたのがホレスなんじゃないかと思う。

 

 

もちろんこれはアレンジャーのクレジットもないし、ネットで調べてもそんな情報は出てこないから、僕の当てずっぽうな勘に過ぎない。だけど、あのアルバムの参加メンバーで、当時ああいったアレンジを書けたのはホレス・シルヴァーだけだし、後のホレスのリーダー作で聴けるアレンジとちょっと似ている。

 

 

ホレス・シルヴァーというジャズマン、僕が非常に高く評価しているのは、コンポーザー/アレンジャーとしての才能であって、一ジャズ・ピアニストとしては、そんなに大したことはないんじゃないかと、昔から思っているんだなあ。こんなこと言うと、総攻撃食らいそうだけど。

 

 

僕が最初にホレス・シルヴァーを知ったのは、例のアート・ブレイキーのライヴ盤『バーランドの夜』(1954年)だった。あのバンドのボスはもちろんブレイキーで、目玉が新星クリフォード・ブラウンだったわけだけど、実質的な音楽監督だったのがホレスだったようだ。曲も書き、アレンジもしていた。

 

 

この時のバンドが、実質的なジャズ・メッセンジャーズの母体となったようだけど、ジャズ・メッセンジャーズとしてのデビューに際しては、ブレイキーとホレスとの間で一悶着あったらしく、バンド名称をブレイキーが、バンドの面々をホレスが持っていくということになった。

 

 

だからホレスのソロ第一作が『ホレス・シルヴァー&ジャズ・メッセンジャーズ』というタイトルなのが、なんだか当時はワケが分らなかった。ブレイキーの方のジャズ・メッセンジャーズの大ファンだったし、『バードランドの夜』でホレスも好きだったから、すぐに買ったけど、中身の面白さもよく分らなかった。

 

 

このホレスのソロ・デビュー作(1955年録音)のドラムはブレイキーだ。このアルバムの録音後、決裂したということなんだろう。以前書いたように、音楽における「ファンキー」という言葉の捉え方を、当時は非常に狭く考えていたから、「ザ・プリーチャー」とか「ドゥードゥリン」なども、ピンと来なかった。

 

 

大学生の頃ホレスのリーダー作で好きだったのは、もっと後のブルーノート録音、1957年の『スタイリングズ・オヴ・シルヴァー』とか、59年の『ブローイン・ザ・ブルーズ・アウェイ』とか、64年の『ソング・フォー・マイ・ファーザー』とかだった。非常に明快にファンキーなハードバップだよねえ。

 

 

『ソング・フォー・マイ・ファーザー』は、タイトル曲のピアノ・イントロを聴けば、ロック・ファンだってピンと来るはず→ https://www.youtube.com/watch?v=CWeXOm49kE0 そう、スティーリー・ダンの「リキ・ドント・ルーズ・ザット・ナンバー」だね→ https://www.youtube.com/watch?v=zv-tjDsdduc

 

 

これはパクリとかいうものではない。スティーリー・ダンのドナルド・フェイゲンはジャズにもかなり造詣が深い人。これが入っている『プレッツェル・ロジック』には、デューク・エリントンの「イースト・セント・ルイス・トゥードゥル・オー」のカヴァーもある。「リキ」も、これはオマージュだろう。

 

 

僕はスティーリー・ダンを聴始めるかなり前にホレス・シルヴァーの方を聴いていた(多くの方は逆かもしれない)。しかも、スティーリー・ダンも、ウェイン・ショーターやスティーヴ・ガッドやラリー・カールトンなど、ジャズ系ミュージシャンが参加している後期の作品『エイジャ』や『ガウチョ』から入ったわけだから。

 

 

それはともかく、ホレス・シルヴァーのリーダー・アルバム。さっき書いた1950年代後期〜60年代前半のブルーノート作品では、いずれもホレスの曲ばかりで、しかも大変よくアレンジされている。大学生の頃一番好きだったのが、『ブローイン・ザ・ブルーズ・アウェイ』で、「シスター・セイディ」とか。

 

 

 

当時も今も、ホレスのアレンジで一番感心しているのが、セカンド・リフの使い方の上手さだ。トランペットやサックスのソロが終って、ピアノ・ソロに入る前に、大抵メイン・テーマ・メロとは違うホーン・リフが入る。場合によっては、ピアノ・ソロが終ってメイン・テーマに戻る前に入ることもある。

 

 

こういうセカンド・リフ(と僕が勝手に呼んでいるだけ)は、最初に書いた『ウォーキン』収録曲でのアレンジでも聴ける。一曲目のタイトル・ナンバーでも二曲目の「ブルー・ン・ブギ」でも、サックス・ソロの背後にホーン・リフが入り、ピアノ・ソロが終ると、セカンド・リフが入っているのが聴ける。

 

 

そういったスモール・コンボでのホレス・シルヴァーのアレンジ能力は、殆ど天才的と言ってもいいくらいの閃きというか素晴しさだ。そして個人的な見解では、その最高傑作が『6・ピーシズ・オヴ・シルヴァー』の「セニョール・ブルーズ」。

 

 

 

「セニョール・ブルーズ」は、タイトル通りラテン・テイストな曲調のブルーズ・ナンバーで、ブルーズもラテンも大好きな僕にとっては、理想的なハード・バップだ。この『6・ピーシズ・オヴ・シルヴァー』というアルバム、大学生の頃は地味な内容だなあと思っていたけど、今では一番好きなアルバム。

 

 

「セニョール・ブルーズ」でも、お聴きになれば分るように、ホーンのソロの後、ピアノ・ソロの前にセカンド・リフが入る。そしてこの曲の場合は、そのセカンド・リフの部分だけ、リズムの感じが変化するのも面白いよね。いつもはあまり面白くないと感じるホレスのピアノ・ソロも、この曲ではいい。

 

 

今も聴直したけど、この「セニョール・ブルーズ」というのは、完璧なマスターピースだね。どこからどう聴いても欠点がない。モノラル録音なのと、ハード・バップにしては地味な感じがするといった程度だろうけど、どちらも欠点にはならない。ホレス・シルヴァーの曲単位での最高傑作に間違いない。

 

 

こういうのが好きなわけだから、ソロ第一作の『アンド・ザ・ジャズ・メッセンジャーズ』に入っている「ザ・プリーチャー」や「ドゥードゥリン」のファンキーな面白さが、以前の僕に分るわけがなかった。

 

 

「ザ・プリーチャー」→ https://www.youtube.com/watch?v=GEvru0HLKJc

 

「ドゥードゥリン」→ https://www.youtube.com/watch?v=tu4o65SwUIw

 

 

「ザ・プリーチャー」は、テーマ・メロディが「線路は続くよどこまでも」によく似ている、なんかちょっと民謡みたいな素朴さ。こういうファンキーさって、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの1960年代末のファンク・ナンバーが持っているフィーリングに似ている、というか通底するものがあると以前指摘した(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-fd24.html)。ちょっとユーモラスで弾ける感じ。

 

 

「ドゥードゥリン」も、今聴くとなかなかファンキーで面白い。そしてこの曲では、珍しくホレスのピアノ・ソロがトップ・バッターだ。バンドではいつも管楽器優先のホレスには、こういうのはあまりない。そしてなかなか悪くないよねえ。

 

 

そのホレスのピアノだけど、一時期の彼のリーダー・アルバムには、大抵ラスト付近に一曲、ピアノ・トリオでの演奏が入っていて、ファンはそういうのもかなり好きだったようだ。今でもネットでそういう意見を見掛ける。だけど僕個人は、どうもそういうのはあまり好きではなかったし、今でもそうだ。

 

 

ピアノ・トリオとなれば、ホレスのピアノが聴き物なんだから、僕も諦めて聴くけど、その他多くのバンド編成で録音している曲では、トランペットやサックスの達人のソロの後に、ホレスの木訥としたピアノ・ソロが来ると、なんかちょっと興醒めしてしまう気分だった。マイルスの『ウォーキン』でもそうだった。

 

 

音源を貼った「ザ・プリーチャー」も「ドゥードゥリン」も、ホレスのピアノは、いつも管楽器の伴奏に廻っている時の方が面白いんじゃないかというのが正直なところ。そして、彼のピアノは左手に非常に特徴がある。モダン・ジャズのピアニストにしてはやや珍しく、左手のリズムがかなり強力だ。

 

 

その左手でヒョコヒョコ跳ねるリズムが、ホレスのピアノのファンキーさだけど、右手で弾く素朴なメロも、彼の書く曲のわらべ唄みたいなフィーリングと共通している。そう考えると、彼のピアノも悪くないんだろうけど、まあやはり一種のコンポーザーズ・ピアノみたいなもんで、やはり書く曲がいいんだ。トランペット+サックスという二管編成の作編曲能力なら、ひょっとしてモダン・ジャズ界最高の存在だったかも。

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