一番好きなポピュラー・ソング「シボネイ」
僕が一番好き(なものの一つではない)な個人的ポピュラー・ソング No.1は、長年リー・ハーライン作曲、ネッド・ワシントン作詞のディズニー・ソング「星に願いを」(When You Wish Upon A Star)で、これが入っているレコードを見つけては、全部買っていた。
一番好きだったのが、ルイ・アームストロングがディズニー・ソングばかりやった1968年の『ディズニー・ソングズ・ザ・サッチモ・ウェイ』収録ヴァージョン。この曲は映画『ピノキオ』の挿入歌で、あの映画でこの曲が出てくるのは泣ける感動的な場面だったから、それで好きになったのだった。
しかし、この一番好きな私的ポピュラー・ソング No.1は、21世紀に入った頃からは、完全にキューバのエルネスト・レクオーナが1929年に書いた「シボネイ」になっている。これがこの十年ほどは大好きでたまらず、そうなったのがネット時代になってからだったので、探してダウンロードしまくっている。
「星に願いを」だった時代は、レコードやCDを買って集めるしかなかったんだけど、「シボネイ」の場合は、ネット時代だし、また2011年に転職してからは給料が減ったので、CDを買いまくるというわけにもいかず、iTunes StoreやYouTubeで検索してこの曲ばかりダウンロードしているんだよね。
そこから厳選して、iTunesで「シボネイ」ばかりの一時間半くらいのプレイリストを作って楽しんでいる。Allmusicというサイトで "Siboney" で検索すると、一万七千以上ヒットするので、これもセバスチャン・イラディエールの「ラ・パローマ」同様、ムチャクチャ多いよね。
ちなみに "La Paloma" でAllmusicで検索すると、三万四千以上出る。この曲の場合は、ドイツのレーベルから、「ラ・パローマ」ばかりの様々な歌・演奏を集めたCDが、今のところ第六集まで出ているので、僕も全部買って楽しんでいるけど、「シボネイ」にはそういうCDはない。
どこかのレーベルが「ラ・パローマ」集みたいに「シボネイ」集を出してくれると有難いんだけど、僕の探した範囲では発見できないので、自分で集めてプレイリストを作っているというわけ。同じ曲ばかり一時間半も続けて聴いてどうするんだ?と言われそうだけど、実に多様なヴァージョンがあるからね。
僕が「シボネイ」を知ったのはかなり遅くて、2001年のロス・スーパー・セヴンの『カント』一曲目にあるのを聴いたのが初。ロス・スーパー・セヴンは、イースト・ロサンジェルスのチカーノ・ロック・バンド、ロス・ロボスのいくつかある別働隊の一つで、他にもラテン・プレイボーイズが僕は大好き。
ロス・ロボスは元々ラテン風味が強く、曲調もそうだし、よくスペイン語でも歌うし、別働隊もそういう趣のものが多い。ロス・スーパー・セヴンの2001年『カント』も、スペイン語の有名曲は「シボネイ」のみだけど、他のオリジナル曲も全部スペイン風味。
『カント』には、同じチカーノのリック・トレヴィーノやルベーン・ラモス、ペルーのスサーナ・バカ、ブラジルのカエターノ・ヴェローゾなども参加していて、「シボネイ」以外の曲もタイトルも歌詞も全部スペイン語(ラストのカエターノによる「ベイビー」だけ英語タイトルだけど、歌詞はスペイン語)。
他の曲はともかくとして、僕は『カント』一曲目のラウル・マロが歌う「シボネイ」に痺れちゃったのだ。ラウル・マロは主にカントリー畑で活躍する人だ(がよく知らない)けど、調べてみたらマイアミでキューバ人の両親のもとに生まれた人だ。マイアミだけど、亡命キューバ人ではないみたいだ。
ラウル・マロの歌う「シボネイ」は、彼のヴォーカル+ドラムス+ピアノの三人だけというシンプルな編成。シンプルすぎてスカスカな音だけど、そのスカスカな感じがかえって曲の持つハバネーラ風なリズムとメロディの美しさを際立たせていて、いい感じ。
これですっかり「シボネイ」という曲に惚れてしまった僕は、その後この曲をいろいろと探しまくることになった。当然元はスペイン語詞なんだけど、1942年に英語詞も付いたようだ。英語詞はスペイン語詞とは全く無関係な内容だから、あまり好きではない。ビング・クロスビーも歌っているけどね。
僕の作った「シボネイ」集も、全部スペイン語の原詞で歌っているものか、インストルメンタル演奏のものばかり。唯一アメリカ人歌手コニー・フランシスのヴァージョンを入れてあるけど、彼女はスペイン語詞で歌っているので。それ以外は全部キューバ人かラテン・アメリカ人かスペイン人のものばかり。
あ、小野リサのボサ・ノーヴァ・ヴァージョンも入れてある。でも彼女もナイロン弦ギターを弾きながらボサ・ノーヴァ風にやっているけど、歌詞はやはりスペイン語で歌っているし。インストルメンタルもので少し変ったところでは、スペインのフラメンコ・ギタリスト、パコ・デ・ルシアの独奏ヴァージョンとか。
インストルメンタルものでは、プレイリストのラストに、キューバ人ピアニスト、ルベーン・ゴンサーレスが、ベースとボンゴの伴奏でやるライヴ・ヴァージョンも入れてある。 ルベーンは、例の『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』で有名になった人。
貼った音源をお聴きになれば分る通り、歳のせいなのか若干指がもたつくような瞬間もあるし、大した演奏じゃないかもしれないけれど、ハバネーラ風リズムの骨格がクッキリとしているし、旋律も美しく際立っていて、案外好きなのだ。ルベーンは『ブエナ・ビスタ』でもこの曲をやっているし、単独アルバムにもある。
同様に古くから活動しながら『ブエナ・ビスタ』でブレイクしたキューバ人では、オマーラ・ポルトゥオンドの歌う「シボネイ」も入れてある。まあオマーラの場合も『ブエナ・ビスタ』とは関係なく一貫して活躍を続けている大歌手だけどね。
そっちの方が好きだからトラディショナルなスタイルでの演唱が多い僕の「シボネイ」プレイリストだけど、ラテン・アメリカン・オーケストラ&リコ・デ・アルメンダによる、現代ラテン・ロック風なアレンジのものも入れてある。小野リサのボサ・ノーヴァ・ヴァージョンも若干現代風だけどね。
まあしかし、「ラ・パローマ」集CD六枚をインポートしてある以外で、こういう単独曲だけのいろんなヴァージョンを自分で集めて作ってあるプレイリストは、「シボネイ」集以外には、ダフマーン・エル・ハラシの「ヤ・ラーヤ」集と、フィリー・ソウル・ナンバー「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」集の三つだけなんだよね。それくらいこの三曲は好きなのだ。
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