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2016/02/24

スティーヴィーのスタンダード曲集

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ほんの一時期だけ、スティーヴィー・ワンダーのアルバムでは『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』をよく聴いていたことがある。スティーヴィーのファンで、そういう人はおそらく殆どいないんじゃないかと思うけど。これはタムラ(モータウン)への1963年のスティーヴィーの三作目。

 

 

確かその頃のスティーヴィーは、<リトル・スティーヴィー>という愛称が取れたか取れないかの頃で、まだ13歳。この『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』というアルバムは、そのアルバム・タイトルでも分る通り、ジャズ系のスタンダード・ナンバーばかり採り上げて、オーケストラをバックに歌っている。

 

 

大学生の頃は、スティーヴィーのアルバムでは、以前書いた通り二枚組LP+EPの『キー・オヴ・ライフ』しか持ってなくて、『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』も、おそらく東京に出てきてから、タワーレコードかどこかの大手輸入盤ショップで買ったんだった。

 

 

これを買った理由は、もちろん僕が熱心なジャズ・ファンだったからで、ジャズ系のスタンダード・ナンバーばかり歌っているスティーヴィー・ワンダーって、どんな具合なんだろうと凄く興味があったわけだ。入っているのもスタンダード曲の中でも好きな曲ばかりだったしね。ジャケットも気に入った。

 

 

特に二曲目に入っている「星に願いを」。ネッド・ワシントン〜リー・ハーライン・コンビのディズニー映画ナンバーであるこの曲は、あらゆるポップ・ナンバーの中で、僕が最も好きな曲(の中の一つ、ではない)だったことは、以前書いた。ジャズマンによる無数のカヴァーがあって、特にルイ・アームストロングのが大好き。

 

 

こういうアルバムを企画したのは、タムラ(モータウン)の社長、ベリー・ゴーディーだったらしい。彼の発案で、ジャンル・クロスオーヴァーな作品を、しかもフル・オーケストラをバックにスティーヴィーに歌わせたわけだね。しかし売れなかったらしい。今でも殆ど人気はないはず。

 

 

でも『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』を聴いてみたら、なかなか悪くなかった。もちろんジャズ系歌手のような上手さはなかったんだけど、13歳という若い声の初々しさが微笑ましくて、まあ押し引きというか緩急というか、そういうものはまだ全く分ってないんだけど、これはこれで楽しかった。

 

 

どの曲も声を張上げていて一本調子なんだけど、若くて伸びやかな声には好感が持てたんだよなあ。まあしかし、スティーヴィー等ソウル系のファンにも、もちろんこういうスタンダード曲をよく聴くジャズ系のファンにも、これは全くアピールしない内容のアルバムではあるだろうなあ。

 

 

マルチ楽器奏者のスティーヴィーだけど、『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』では、ほぼヴォーカルに徹している。この頃のアルバムはこれ以外もそうなんだろうか?僕が熱心に聴いているのは、1963年のこのアルバムを除けば、66年の『アップ・タイト』からなので、知らないだけなのだ。

 

 

僕の知る限り、1970年代以後はほぼどんな楽器でもこなすようになり、それで一人多重録音でスタジオで創り上げたような曲も結構出てくるようになる。一番好きなのが『キー・オヴ・ライフ』付属EPに入っていたインスト・ナンバーの「イージー・ゴーイン・イヴニング」で、全部の楽器をやっている。

 

 

『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』収録曲で僕が一番気に入っていたのが、有名な「明るい表通りで(On the Sunny Side of the Street)」だ。これは歌物もインスト物も含め、もう無数にジャズマンによるカヴァーが存在する。歌物ではこれもやはりサッチモのが一番有名かも。

 

 

インストルメンタル物なら、エリントン楽団のジョニー・ホッジズの吹くヴァージョンが一番有名だろう。そういった無数のジャズ・カヴァーで親しんできた曲で、それだけにリトル・スティーヴィーのヴァージョンを楽しみに聴いた。なかなかいいよ、ここでは。しかもこの曲だけ彼のハーモニカ・ソロが入っている。

 

 

また三曲目で、チャールズ・チャップリンの有名な「スマイル」も歌っていて、それもなかなかいいフィーリングだ。実はこの有名曲、有名なのに、僕はこのアルバムのリトル・スティーヴィーのヴァージョンで初めて聴いて、それで好きになった曲だった。当時はチャップリン映画は映画館ではあまり観られなかった。

 

 

このアルバム収録曲は、八曲目の「ゲット・ハッピー」以外は、全部バラード・ナンバー。その辺もバラード好きの僕にはピッタリの内容だった。アップ・テンポの「ゲット・ハッピー」では、ジャジーな楽器ソロも入る(スティーヴィーではない)。これも無数のヴァージョンがあるよね。

 

 

もちろん無数のカヴァーがあるなんて言出したら、このアルバム収録曲は全部超有名なスタンダード・ナンバーばかりなんだから、全部の曲について言えることではある。歌物でもインスト物でも、主にジャズ系の人達によって、このアルバムのスティーヴィーをはるかに超えるヴァージョンが存在する。

 

 

そして書いたように、このアルバムで知ったチャップリンの「スマイル」以外の曲は、全ての曲についてそういうジャズマンたちによる優れたヴァージョンをいろいろと既に聴いていたにも関わらず、このリトル・スティーヴィーのアルバムを気に入って一時期愛聴していたのは、いったいどうしてなんだろう?

 

 

肝心のスティーヴィーのヴォーカルだって、大学生の時に『キー・オヴ・ライフ』を聴いていて、どう考えてもそういうものの方がはるかに優れていると思うのになあ。その頃、あまりスタンダード曲などのジャズ・ヴォーカルとは縁のなさそうソウル歌手だと思っていたから、単に少し新鮮に感じただけなのか?

 

 

もちろんそういう側面は否定できない。熱心なジャズ・ファンだった僕は、普通はジャズとはあまり関係なさそうな歌手やミュージシャンがジャズ・スタンダードをやったりしているアルバムを発見すると、どんな風になっているんだろうと興味津々だった。昔はそういうアルバムをいろいろ買って聴いた。

 

 

でもそういう興味本位だけで買ったアルバムは、一度聴くと大抵あまり面白く感じず、殆どはそのままお蔵入りしてしまっていた。ところがスティーヴィーの『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』だけは大変気に入って、しばらく繰返し何度も聴いていたもんなあ。なにかあったんだろうなあ。

 

 

このアルバムのなにがそんなに気に入ったのか、今CDで聴直しても、イマイチよく思い出せない。今聴き返すと、バックのオーケストラのアレンジとサウンドはいいとは思うけど、先に書いたようにスティーヴィーの歌はかなり一本調子で、あまりピンと来ないんだよなあ。

 

 

つらつらと考えてみるに、やはり13歳という若さでのスティーヴィーの初々しい歌声で綴られるスタンダード・ナンバーを、微笑ましくて親しみやすく感じていたんだろうなあ。聴く側の僕は既にこういうスタンダード曲はほぼ全部知り尽していたから、まだ20代だったけど、まるで子供を見守る親のような?

 

 

つまり『キー・オヴ・ライフ』とかの70年代のアルバムは、正対してじっくり対峙するような聴き方だったけど、『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』は、余裕を持ってゆっくりと見守るような、そしてその初々しい歌を好ましく感じるような、そんな気持だったんだろうなあおそらく。

 

 

スティーヴィーは1960年代初頭からレコーディング活動を開始しているから、既に相当なヴェテランのように感じているけど、1950年生れのまだ65歳なんだよね。70年代以後の傑作群を始め、それ以後は完全に功成り名を遂げた一流ソウル・ミュージシャンになっているけど、まだまだ若い。

 

 

エスタブリッシュメントとなった今のスティーヴィーが、13歳の頃に歌った『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』のようなスタンダード・ナンバーを歌ったら、果してどんな感じになるのか、凄く興味があるんだよね。ひょっとしたらライヴ・ステージなどでは歌っているのかなあ?

 

 

とまあそんなことを少し考えながら、今日また『ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート』を聴直していた。わずか33分程度しかないアルバムだけど、これはこれで悪くはないよね。でもまあこれ、一般のジャズ・ファンも一般のソウル・リスナーも、かなり退屈に感じちゃうよねえ。

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