スティーヴン・スティルスのラテン風味
現役時代のアルバムが二つしかないスティーヴン・スティルスのマナサス(『マナサス』『ダウン・ザ・ロード』)。やたらとカッコよくて昔から大好きなんだけど、普通のロック・バンドだとしか思っていなかった。だから殆ど気付いていなかったんだけど、今聴くと、二つとも相当にラテンなフィーリングがあるよね。
以前しぎょうさんが二作目『ダウン・ザ・ロード』の三曲目「ペンザミエント」は、今聴くとサルサそのものだとしか思えないとツイートしていた→ https://www.youtube.com/watch?v=FlkMyu-MA8M このライヴ・ヴァージョンなども完全にサルサだ→ https://www.youtube.com/watch?v=b1VlTSZtxxg
「ペンザミエント」は、サウンドがサルサなばかりか、歌詞も全部スペイン語だし、今貼った1973年ウィンターランドでのライヴでは、スティーヴン・スティルスがスペイン語で喋っているもんねえ。最近知ったことだけど、スティルスは父親の仕事の関係か、子供時分に中米に住んでいた時期があるようだ。
おそらくはそういう中米滞在時分に、かなりラテン音楽に親しんだんだろう。アメリカ合衆国でもフロリダ等ラテン系住民の多い地域に住んでいたようだし、そういう音楽環境があったんだろう。そのまんまサルサなナンバーは「ペンザミエント」だけだけど、それ以外にもラテン風味な曲は相当ある。
マナサスの二つのアルバムで、そういうラテン・フィーリング横溢のナンバーをあげていたらキリがないと思うくらい多いんだよなあ。マナサスにはブルーズ・ロック風、カントリー風など、実に様々な音楽性が混在しているけど、二枚組LPだった『マナサス』は各面ごとにテーマみたいな言葉がついていた。
マナサスでのラテン風味には、二つのアルバムともに主に打楽器で参加しているジョー・ラーラの貢献も大きいようだ。そのジョー・ラーラとの共作ナンバーなんかが、完全にラテン・テイストなんだよね。例えば一作目二曲目「ロックンロール・クレイジー/キューバン・ブルーグラス」の後半などもそうだ。
タイトルに「キューバン」と入っているだけでなく、サウンドもティンバレス等のラテン・パーカッションをジョー・ラーラが担当して、サルサ風なラテン・テイストを強く加味している。一枚目B面「ザ・ウィルダネス」サイドは完全な米田舎町風のカントリー・サイドで、ここではラテン風な曲はないけど。
二枚目A面の「コンシダー」サイド一曲目の「イット・ダズント・マター」や六曲目の「ラヴ・ギャングスター」になると、再びラテン・パーカッションが入ってくる。後者はスティルスとビル・ワイマン(ローリング・ストーンズ)との共作名義になっているけど、二人の関係の詳しいことは全く知らない。
だけど、ビル・ワイマンがゲスト参加して弾いているようだ。彼のベースは、イマイチ好きじゃないというか、ストーンズでもそうだけど、よく聞えないような気がするんだよね。だからどうも特徴がなんだか掴みにくい。ストーンズでもオッ!と思うベース・ラインは、キース・リチャーズだったりロニー・ウッドだったりするからなあ。
二枚目B面「ロックンロール・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」サイドは、その名の通り、ロック・ジャイアンツ・トリビュートなテーマのようだから、ラテン・テイストはあまり聴かれないけど、それでもラテン・パーカッションはまあまあ派手に入っているからなあ。結局ラテンじゃないのは一枚目B面だけだ。
特に、約八分とアルバム中一番長い曲の二枚目B面三曲目の「ザ・トレジャー」も、サルサっぽいラテン・ナンバーだ。そして、前半でファズの効いたエレキ・ギターのソロが入るという、僕なんかにはもうたまらない展開の曲。そのギター・ソロはアル・パーキンスなのかスティルスなのか?
と思って聴いていると、途中からリズムが変ってシャッフル・ビートになり、スライド・ギターのソロが出てくるから、このスライドはおそらくアル・パーキンスだろう。アルはアルバム中でペダル・スティール・ギターも弾いているみたいだし。アルはアルバム中実にたくさんスライド・ギターを弾く。
昔この二枚組を聴いた時に一番グッと来ていたのが、アルバム中実に頻繁に出てくるそのスライド・ギターのサウンドだった。昔からスライド・ギターの大ファンなんだよね。一番最初に聴いたのは、おそらくオールマン・ブラザーズ・バンドの例のフィルモア・ライヴ一曲目のデュエインだったはず。
オールマン・ブラザーズ・バンドの方はスライドを弾いているのがデュエインであることが分っていたけど、『マナサス』では、スティルスはじめ複数のギタリストがクレジットされているので、昔は誰が弾いているのか、よく分らなかったんだよねえ。実を言うと、今でもイマイチ分っていないのだ。
二枚目『ダウン・ザ・ロード』でも一曲目からいきなりスライド・ギターが炸裂するし。二枚目の方にはジョー・ウォルシュがスライド・ギターでクレジットされていて、確かにジョー・ウォルシュっぽいサウンドというかフレイジングだから、間違いなく彼なんだろう。彼はイーグルズで聴き慣れていたから。
脱線だけど、イーグルズとジョー・ウォルシュというと、僕は、解散前のリアルタイムでは彼が参加してからの二枚(『ホテル・カリフォルニア』『ザ・ロング・ラン』)しか知らなかったから、彼のギターが必須みたいな感じだったけど、今ではどう聴いても、もっと前のバーニー・リードン在籍時がいいよね。
そして三曲目「ペンザミエント」。昔からラテン・テイストが(ジャズなどでも)大好きな僕だけど、サルサを知ったのは相当遅かったから、最初に聴いた時はただのラテン・テイストの強い曲だなあと思っていただけ。ラテン・ナンバーらしくフルートも入るけど、マナサスでフルートが入るのはこれだけ。
次の「ソー・メニー・タイムズ」は、アクースティックな完全なるカントリー・ナンバーだ。こういう振幅の大きさというか多彩な音楽性がマナサスの魅力だよねえ。ブルーズ系やラテン風味が大好きな僕だけど、同時にロックにおけるカントリー風味でそこにペダル・スティールが入ったりするのも好きなんだ。
八曲目「グァグァンコー・デ・ヴェロ」は、スペイン語の曲名通り、これも完全なるラテン・ナンバーで、ジョー・ラーラのパーカッションが派手に活躍する。この曲もスティルスとジョー・ラーラとの共作名義になっている。こうやって見てくると、マナサスは二つのアルバムともラテン・ナンバーが多い。
スティルスはバッファロー・スプリングフィールド時代からラテン・ナンバーがあったりするし、やはり最初に書いたように幼少時の中米滞在経験から、その音楽性は最初からそういう指向が強い人なんだろう。昔は全く分っておらず、マナサスでも、ブルーズ・フィーリングに惹かれていただけだったけどね。
前から何度か書いているように、1970年代の米国音楽には、ロックでもソウルでもファンクでもジャズでも、同時代に大流行したサルサやラテン音楽の影響が随所に見られるというか、一種の同時代的共振のようなものがあったと思うんだけど、72/73年のマナサスも例外ではないってことだね。
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