古典復興?〜デヴィナ&ザ・ヴァガボンズ
デヴィナ&ザ・ヴァガボンズというバンドがあって、僕は2011年の『ブラック・クラウド』と2014年の『サンシャイン』しか聴いていないんだけど(マトモなCDはまだこの二枚だけのはず)、これがなかなかいいんだよね。2011年の『ブラック・クラウド』リリースが知ったきっかけだった。
全然名前を聞いたことすらなかった人(バンド)だったんだけど、ある人にオススメされて買って聴いてみたら、これが完全なる僕好みの音楽。簡単に言えば、20世紀初頭の初期ニューオーリンズ・ジャズとブルーズその他をルーツにした古い音楽を、21世紀の新感覚で蘇らせたような雰囲気なんだよね。
リーダーであるデヴィナ・ソワーズがピアノかフェンダー・ローズを弾きながらヴォーカルも担当(ウクレレも弾く曲がある)。それ以外は基本的にアップライト・ベース、ドラムス、トランペット、トロンボーンという編成。二枚目の『サンシャイン』には、クラリネットとヴァイブラフォンもゲスト参加している曲がある。
ドクター・ジョンのニューオーリンズ・クラシックス集『ガンボ』などのファンの方々なら、間違いなく気に入っていただける内容なんだよね、二枚とも。デヴィナの弾くピアノはコロコロ転がって跳ねていて、まさにニューオーリンズ・ピアノだし、ホーン・アンサンブルもニューオーリンズ・ジャズ風だし。
とにかく2011年の『ブラック・クラウド』が出た時は、大好きになって聴きまくり、しかもその年の新作部門第二位に選んだほどの高評価をした僕。その年はサカキマンゴーさんの『オイ!リンバ』が出た年だったから、絶対に一位にはできなかったけれど、個人的な好みだけならデヴィナの方だった。
一枚目の『ブラック・クラウド』は、最初と最後にイントロとアウトロみたいな、一分程度のバンドのインストルメンタル演奏が入っている。その二つのトラックはどう聴いてもニューオーリンズ・ジャズだ。本編中でも四曲目の「スタート・ラニン」中盤で突然快活なニューオーリンズ・ジャズに移行する。
その「スタート・ラニン」中盤以後は、完全にそのまんまな4ビートのニューオーリンズ・ジャズなんだけど、こういう露骨なのはこれだけ。でもそれ以外も、二曲を除いてそんな音楽のエッセンスが詰っていて、僕みたいな20世紀初頭のアメリカ南部音楽が大好きなファンにはたまらない。
デヴィナの弾くピアノにもヴォーカルにも、なんというか一種猥雑なとでもいうかホンキー・トンクな味わいがあって、21世紀の現代にこんな人は探してもなかなかいないんじゃないかなあ。ブログでも以前書いたジャネット・クラインもいるけれど、彼女よりデヴィナの方が米南部風で、しかもブルーズ寄りで僕好み。
「二曲を除いて」と書いたのは、八曲目の「リヴァー」と13曲目の「キャリー・ヒム・ウィズ・ユー」だけが、ニューオーリンズ風ではなく、どこからどう聴いても完全なサザン・ソウル・ナンバーだ。6/8拍子でピアノで三連符を弾きながら歌うし、ホーン・アンサンブルもまるでメンフィス・ホーンズ。
しかも「リヴァー」の方では三連の完全なサザン・ソウル・ナンバーでホーン・アンサンブルもメンフィス・ホーンズみたいなのに、途中でトロンボーンがワーワー・ミュートを付けてソロを吹いていて、なんだかトリッキー・サム・ナントンがマスル・ショールズのスタジオでやっているみたいだ。
ニューオーリンズ風なのとサザン・ソウル風なのと、どっちがデヴィナの本領なのかちょっと分りにくいくらいだ。2011年に『ブラック・クラウド』で知って、これ一枚しかなかったからYouTubeで探してみると、こんなサザン・ソウルの名曲もやっているんだよね。
この「アイド・ラザー・ゴー・ブラインド」は、エタ・ジェイムズやスペンサー・ウィギンズなどで有名なサザン・ソウル・スタンダードだし、YouTubeで探すと他にも同趣向のものがいろいろと見つかるし、ニューオーリンズ風の人だと思ったデヴィナは、ひょっとしてこっちの方が本領なのか?
一作目の『ブラック・クラウド』には二曲あるサザン・ソウルは二作目『サンシャイン』では殆ど聴けない。6/8拍子で三連符を弾くというのは四曲目の「オールウィズ・フロム・ミー」だけだし、それだってサザン・ソウルともやや言いにくい感じだし、やはり僕の先の見立は間違っているんだろうね。
一作目『ブラック・クラウド』にはもう一曲、四曲目の「シュガー・ムーン」も6/8拍子の三連ナンバーだけど、これはサザン・ソウルではないね。ニューオーリンズ風でもないけれど普通の米南部風バラードだ。それら以外はほぼ完全にニューオーリンズ・クラシックスをやる時のドクター・ジョンによく似ている。
『ブラック・クラウド』で一番ドクター・ジョン風だろうと思うのは、七曲目の「リップスティック・アンド・クローム」。これは『ガンボ』に入っていても全然おかしくないと思うくらいソックリだ。特にピアノの弾き方なんかそのまんまじゃないかなあ。
YouTubeで探すと、同曲のこういうライヴ・ヴァージョンも複数見つかる。最高に楽しいよねえ。アルバム『ブラック・クラウド』のなかでも、この曲が一番猥雑で面白いような気がするなあ。
『ブラック・クラウド』では、九曲目「ポケット」でだけデヴィナがフェンダー・ローズを弾いていて、この曲のリズム感覚はアルバム中一番面白い感じだから、アクースティック・ピアノでやったらどうなっていただろうなあと思ってしまう。なお、この曲でのトランペット・ソロは短いけどかなりいい。
リズムの感じといえば、2014年の二作目『サンシャイン』では、五曲目の「アイ・トライ・トゥ・ビー・グッド」がややラテン風というかアフロ・キューバンなフィーリングで、今までの二枚を通してそういう感じなのはこの曲だけだから、これまた面白い。ニューオーリンズ音楽だからラテン風は当然だけどね。
二作目『サンシャイン』の方は、一作目『ブラック・クラウド』にあった2〜4ビート系ニューオーリンズ・ジャズな感覚をもっと拡大して適用したようなアルバムで、ホーンの使い方なんか本当にかなりジャジーだ。アルバムの出来は一作目の方がいいんじゃないかとは思うんだけど、二作目も大変楽しい。
調べてみたら、デヴィナ&ザ・ヴァガボンズの結成は2006年のことらしく、拠点はミネソタのツイン・シティーズ(ミネアポリス・セント・ポール)に置いていて、アメリカとイギリスとヨーロッパでライヴ活動をしているらしい。YouTubeで探しても、その当時のライヴ音源がいくつか見つかる。
なお、そういうことが書いてあるWikipediaの記述でも、今までリリースされたアルバムは『ブラック・クラウド』と『サンシャイン』の二枚だ。アマゾンで探すと、他にもいろいろ出てくるのはなんなんだろう?そして(その記述にはないが)今年2016年3月25日に三作目『ニコレット・アンド・テンス』のリリースが予定されているらしい。楽しみだよなあ。
デヴィナ&ザ・ヴァガボンズの公式サイトで見てみたら、その三作目はライヴ・アルバムのようだから、ますます楽しみだ。曲目を見てみたら、二枚の既存のアルバム収録曲やそれ以前のシングル曲や、あるいはスタンダード曲もある。
それにしても2011年に、どうしてこういうデヴィナ&ザ・ヴァガボンズみたいなバンドが出現したんだろうなあ。21世紀、しかも10年代に、こんな音楽は時代の流行に特別即してもいないし、新しい感覚が多少聴けるような気はするけれど、基本的にはだいたい百年くらい前の音楽をほぼそのまま蘇らせたものだし。
デヴィナだけでなく、以前触れたジャネット・クライン(なんだかんだと言ったけれど、結局CD買っちゃった)とか、あるいは日本での保利透さんなどのぐらもくらぶとか、ひょっとしてそういう古典復興の流れができつつあるのだろうか?う〜ん、ちょっとそのあたりは鈍感な僕には全然分らなくて、ただ単に賑やかで面白くて聴いて楽しいから聴いているだけなんだけど、どうなんだろうなあ?
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