« 一番好きなポピュラー・ソング「シボネイ」 | トップページ | 忘れじのジャコ・パストリアス »

2016/02/14

フュージョン・アルバムとしてのアリサのフィルモア・ライヴ四枚組

 

417y0rwad4l_2

 

Kingcurtisliveatfillmorewest

 

Stuff_stuff_101b









アリサ・フランクリンに関する記事のタイトルがこんなのばかりで申し訳ない。こういうタイトルだと、コイツまたいつもの調子でおかしなことを言うなと思われるに違いないんだけど、アリサの例の1971年フィルモア・ウェストでのライヴ・アルバム。2005年にライノがリリースしたCD四枚組完全盤は、ある意味<フュージョン・アルバム>としても面白いように思う。

 

 

もちろんアトランティックが1971年にリリースしたオリジナルLPにそんな側面はない。現行二枚組CDにもない。だってそれらはどっちも全てアリサの歌入りナンバーしか収録していないからね。最高の名盤だけど、普通の、いや普通ではないが、ソウル・ライヴ・アルバムだ。

 

 

フュージョン的側面があると僕が思うのは、やはり2005年ライノ・リリースの四枚組『ドント・ファイト・ザ・フィーリング:ザ・コンプリート・アリサ・フランクリン&キング・カーティス・ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト』だ。これにはバンドのインストルメンタル演奏が実にたくさん入っている。

 

 

この四枚組完全盤、2005年にライノがリリースした時は、ライノの公式サイトからの直販しかなかったはず。僕も絶対にほしかったから、買おうとしたものの、当時のライノの通販ページが僕には分りにくくて、特にカード決済の場面でどうしても決済できず、買えなくて最高に悔しかったのだ。

 

 

周囲のブラック・ミュージック・ファンはみんな買っていたようだから、僕の側の問題だったんだろう。その時に諦めて以後、しばらくは忘れていたのだが、最近中古でかなり安くしかもアマゾンで簡単に買えたので、この四枚組を約十年経ってようやく買って聴いてみた。そうしたらこれが最高なんだ。

 

 

アリサが歌う曲は聴いていたので、さほどの強い感慨はなかったんだけど、それまで単独盤では出ていた伴奏のキング・カーティスのバンドとメンフィス・ホーンズによるインストルメンタル演奏が、それには入っていなかった未発表曲も含め、全部抜出してプレイリストを作ってみると、優に一時間四十分以上もあるんだよね。

 

 

バンドのインストルメンタル演奏部分だけ全部抜出して作ったプレイリストを聴くというのも邪道とは言えないだろう。だって1971年当時から抜出した単独盤がリリースされていたんだから。どれもこれもファンキーで超カッコよくてしょんべんチビリそうなのだ(笑)。

 

 

レッド・ツェッペリン・ナンバー「胸いっぱいの愛を」なんかは、キング・カーティスの単独盤で曲目だけ見ていた頃は、この曲ってエレキ・ギターのイメージしかないから、キング・カーティスってサックスだろう、サックスなんかでこの曲をインストルメンタル演奏するのなんか、全然聴きたくもないぞとしか思っていなかったもんなあ。

 

 

それがいざキング・カーティスのバンドがインストルメンタルでやる「胸一杯の愛を」を実際に聴いてみたら、カッコいいんだなあ。完全に予想をいい意味で裏切られてしまった。特にディスク2に入っている二回目の演奏は、「ワナホラララ〜ヴ」というリフ部分をトロンボーンが吹いていて、なかなかいい。

 

 

<本編>とも言うべきアリサが歌う部分でも、多くのロック・ナンバーを採り上げていて、それも大好きなんだけど、それはまた違う話で言いたいことがあるので、別の機会に改めて書くことにしよう。キング・カーティス・バンドとメンフィス・ホーンズがインストルメンタルでやるロック・ナンバーは他にもいくつかある。

 

 

プロコル・ハルムの「青い影」(A Whiter Shade of Pale)もそうだね。これもカヴァーの多い名曲だし、元々若干黒い感じがあるような気が僕はしていたから、インストルメンタル・ソウルになっても違和感は個人的にはない。まあツェッペリンの「胸一杯の愛を」だってそうだけど。

 

 

ツェッペリンの「胸一杯の愛を」は、マディ・ウォーターズが歌った「ユー・ニード・ラヴ」(https://www.youtube.com/watch?v=V-VCiYLX9ts)のパクリだからね。ツェッペリンはこんなのばっかりだよね。最近のCDクレジットでは、申し訳程度にウィリー・ディクスンの名前も添えられるようにはなっているけどさ。

 

 

あるいはソウル・ナンバーのインストルメンタル・カヴァーもある。僕の大好きなスティーヴィー・ワンダーの「サインド、シールド、デリヴァード・アイム・ユアーズ」がそれ。もっともこれは歌がいい曲だからアリサが歌ってくれても良かったんじゃないかという気もするけれど、バンド演奏もファンキーだ。

 

 

四枚組完全盤で何度もやっている「ノック・オン・ウッド」とか「メンフィス・ソウル・シチュー」とか「ゼム・チェンジズ」とか、もうたまらん。最高だ。こんなにファンキーでカッコイイ演奏を、キング・カーティス名義の単独盤があったのに、それを無視して聴いてこなかったなんて、僕はなんというアホなんだろう。

 

 

バンドのメンツが最高なんだよね。コーネル・デュプリーのギター、ビリー・プレストンのオルガン、ジェリー・ジェモットのベース、バーナード・パーディーのドラムス(とメンフィス・ホーンズ)。1971年という時点ならこれ以上ないというグルーヴ感を出せる面々だよね。特にドラムスのバーナード・パーディーは凄すぎる。

 

 

そしてここからがようやくこの文章の本題なんだけど、こういうキング・カーティス・バンドの演奏を聴いていると、この数年後の1970年代中頃から盛んになる(ジャズ系)フュージョン・ミュージックとの違いが、僕には全く分らないんだよね。単にグルーヴィーなインストルメンタル演奏というだけじゃない。

 

 

そもそもジャズ系でもなんでもフュージョンってのは、元々インストルメンタルR&B/ソウルという側面があったはずだ。もちろんそうじゃないフュージョン・アルバムもたくさんあったんだけど、フュージョン・バンドの代表格のように言われていたあのスタッフなんかは、完全にインストR&Bだよね。

 

 

1970年代終り頃にスタッフを聴始めた頃から、どうもこのバンドはジャズ系というよりソウル系であって、フュージョンじゃなくインストルメンタルR&Bと呼んだ方が、演奏内容に相応しいんじゃないかと思っていた。そういうことを当時言う人がいたかどうかは知らないが、僕個人の間違いない実感だった。

 

 

だって1976年に第一作をリリースしたスタッフには、エリック・ゲイルとともに、前述のアリサ&キング・カーティスの71年フィルモア・ライヴで弾いていたコーネル・デュプリーがいるし、バンドの音も黒くてファンキーだし、実際ソウル・ナンバーのインストルメンタル・カヴァーがあったりする。

 

 

当時は知らなかったことなんだけど、スタッフは元々ジョー・コッカーの1976年作『スティングレイ』のバック・バンドとして集められたのが出発点だったらしい。もっともあのジョー・コッカーのアルバムには、その後のスタッフになる面々以外にも大勢のミュージシャンが参加してはいるけれどね。

 

 

スタッフ結成後も黒人女性歌手サリーナ・ジョーンズのサポート・バンドになったりもしているし、やはりこのバンドは歌抜きソウル・バンドだと言った方が分りやすい。第一作に大好きなキャロル・キングの「アップ・オン・ザ・ルーフ」もある。これだってR&Bナンバーだよ。

 

 

またスティーヴィー・ワンダーが好きだったのか、第二作『モア・スタッフ』に「アズ」が、第三作『スタッフ・イット』に「ラヴ・ハヴィング・ユー・アラウンド」が、『ライヴ・スタッフ』に「サインド、シールド、デリヴァード・アイム・ユアーズ」があって、モントルー・ライヴでもやっている。「ブギ・オン・レゲエ・ウーマン」もある。

 

 

そう、「サインド、シールド、デリヴァード・アイム・ユアーズ」は、前述の通りアリサのフィルモア・ライヴでも、キング・カーティスのバンドがインストルメンタル演奏していたわけで、スタッフ・ヴァージョンとの本質的な違いなんて、僕の耳には全く分らない。フュージョンってそういうもんじゃないの?

 

 

スタッフは人気はあったけれど、玄人筋からの評価は低くて、一般のジャズ・ファンでも硬派な人達は完全にバカにして聴かなかった。今でもスタッフをちゃんと聴いて音楽的に評価する人なんてほぼ皆無だろう。だけど、アリサのフィルモア・ライヴ四枚組完全盤での、バンドのインストルメンタル演奏を聴いたら、みんな考えを改めるんじゃないかなあ。

« 一番好きなポピュラー・ソング「シボネイ」 | トップページ | 忘れじのジャコ・パストリアス »

リズム&ブルーズ、ソウル、ファンク、R&Bなど」カテゴリの記事

コメント

ぼくの高校生の頃(74~76年)、キング・カーティスやブッカー・Tは「インスト・ソウル」とフツーに呼ばれてましたよ。スタッフの本質はバック・バンドにあったので、ソロ・アルバムよりこうしたバックでの方が、好演がたくさんありましたね。

bunboniさん、じゃあそれならスタッフもそう呼ばれていたかもしれないですねえ。どう聴いてもインスト・ソウルだとしか思えませんからねえ。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 一番好きなポピュラー・ソング「シボネイ」 | トップページ | 忘れじのジャコ・パストリアス »

フォト
2023年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ