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2016/02/27

ブラジル・サッカーなショーロの名曲

 

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本日2/27、FIFA(国際サッカー連盟)の新会長も決ったし、なによりいよいよ2016年のサッカー・Jリーグが開幕しましたね。

 

 

ブラジル音楽である古典ショーロのなかでも、特にピシンギーニャの名曲「1×0」(Um A Zero)を聴いていると、熱心なサッカー・ファンでもある僕は、ブラジル代表チームがピッチの上で躍動する様子がはっきりと浮んでくる。南米スタイルのサッカー、特にブラジルのそれが好きというショーロ・ファンの方なら、みなさん同様だと思う。

 

 

というのも、ショーロ・ファンのみなさんならご存知の通り、「1×0」は1919年のサッカー・コパ・アメリカ(南米選手権)ブラジル大会の決勝戦で、地元ブラジルがウルグアイを破って優勝した時の感動にインスパイアされてピシンギーニャが書いた曲。1対0というのは、その決勝戦のスコアだ(サッカーの世界には<1対0の美学>というものがある)。

 

 

コパ・アメリカは、第一回が1916年に開催されていて、30年開始のW杯、60年開始のEURO(欧州選手権)よりも歴史が古い、世界で最も伝統あるサッカー国別対抗大会なのだ。ちなみにその1919年ブラジル大会決勝で貴重な決勝点を挙げたのが、英雄アルトゥール・フレイデンレイク。

 

 

しかしながら1919年のコパ・アメリカ決勝戦でのブラジル代表に感銘を受けて同年にピシンギーニャが書いたというのにもかかわらず、彼とベネジート・ラセルダによる「1×0」のオリジナル録音は1946年6月と、相当に遅い。僕が知らないだけで、これ以前の録音があったりするのだろうか?

 

 

なお「1×0」も、その他いろんな曲も、コンポーザー・クレジットがピシンギーニャ&ベネジート・ラセルダ名義になっているけれど、実質的にはピシンギーニャ一人の作曲。この二人のコンビは、言ってみれば後のビートルズにおけるレノン・マッカートニー名義みたいなもんだったようだ。

 

 

「1×0」については、超有名曲のわりにはいろいろ調べても詳しい情報が書いてあるものがなく、どれも非常に簡素で、そのなかではこれがまあまあマシなんじゃないかと思う。 当然ながらポルトガル語だけど、なんとか読んでいただきたい。

 

 

 

肝心のピシンギーニャ&ベネジート・ラセルダによるオリジナル「1×0」の音源を貼っておかなくちゃ。これを聴くと、軽快で変幻自在なブラジル・サッカーの動きがよく表現されている。ベネジートのフルートはフォワード、ピシンギーニャのテナーはそれを支えてパスを出すミッドフィルダーだね。

 

 

 

「1×0」も超名曲だから、実に数多くのカヴァー・ヴァージョンが存在し、従ってそのなかにはさほどサッカー・ブラジル代表のスタイルを連想させないというか、あまりリズミカルに躍動していないものだってある。ミディアム〜スローなテンポでしっとりした「1×0」だってあるんだよね。

 

 

貼ったように、オリジナル録音がテナー&フルートによるものだから、その後の「1×0」のカヴァー・ヴァージョンもフルートが軽快に躍動する感じのものか、カヴァキーニョとかバンドリンみたいなブラジル特有の小型弦楽器をフィーチャーするものが多いけれど、ソロ・ピアノとか管楽器アンサンブルとか打楽器だけのアンサンブルとかもある。

 

 

少しだけヴォーカル入りのものもあって、何年頃誰が歌詞を付けたのかは僕は全く知らない。そういうものも悪くはないんだけど、やはりこの曲は器楽曲のイメージだなあ。ショーロのなかにはもちろん最初から歌入りのものだってあるんだけど、僕にはインストルメンタル音楽のイメージが強いもんなあ。

 

 

「1×0」の場合はサッカー・ソングだという側面もあるから、僕の場合はそれもあって余計にこの曲ばかりのいろんなヴァージョンを聴き飽きずに楽しめる。書いたように全部が全部サッカー・ブラジル代表のプレイ・スタイルを連想させるわけではないけれど。

 

 

サッカーに限らずスポーツと音楽って、近いというか同じようなものなんじゃないかと昔から思っているんだよね。どちらもリズム感覚が一番重要だし、なによりどちらも自らの肉体を駆使する身体行為だいう意味では共通するものがある。一流スポーツ選手に歌が上手い人が多いのは納得なのだ。

 

 

まあこんな比喩的表現は、サッカーに興味がない、または南米スタイルよりも欧州スタイルのサッカー(と言っても、今は南米出身の実力選手はほぼ全員欧州のクラブでプレイしているから、クラブ・レベルでの違いはもう無い)が好きだというショーロ・ファンの方々には、全くピンと来ないものだろうし、「1×0」やその他のピシンギーニャの音楽そのものには関係のない話だから、このあたりまでにしておく。

 

 

ピシンギーニャ&ベネジート・ラセルダの「1×0」含め共演音源は、いろんな形でCDリリースされているけれど、日本ではライスから『ショーロの聖典』という一枚物になってリリースされたのが、一番いいものだと思う。 今は入手困難となっているけど。

 

 

 

2002年にこのライス盤がリリースされた時に即買い、当時ネットの音楽仲間の間でも話題になっていた。もっともそのなかで一人、何度か触れている熱心な米黒人音楽ファンで野太いサックスの音色が好きすぎる人は、ピシンギーニャは曲は最高だけど、スカスカなサックスの音色は我慢できないと言っていたなあ。

 

 

確かにピシンギーニャのテナー・サックスはまあスカスカすぎるというか、北米合衆国西海岸の白人ジャズ・サックスの軽くてソフトな音色も嫌いじゃない僕ですら、これではアカンと感じてしまうくらいだ。クラシック音楽のサックス奏者の音色(はっきり言って聴けたもんじゃない)みたいで、ちょっとどうもなあ。

 

 

そう思いはするものの、ショーロみたいな音楽にはこれくらいのサックスの音色じゃないと似合わないんだろうなとも思う。これがコールマン・ホーキンスやベン・ウェブスターみたいなテナー・サウンドだったら、とてもあんな軽快なノリは表現できないもんねえ(笑)。だからあれでちょうどいいんだろう。

 

 

もちろんピシンギーニャには「1×0」だけでなく、他にも「ラメント」とか「カリニョーゾ」とか、多くの名曲があるのは、みなさんご存知の通り。僕も「ラメント」なんかの方が「1×0」よりも曲としては優れているんじゃないかと思うんだけど、好みだけなら間違いなく「1×0」だなあ。

 

 

何年頃だったか忘れたけれどおそらく21世紀に入ってから、『カフェ・ブラジル』というCDアルバムが出て、現代のブラジル・ショーロ演奏家達による古典ショーロ名曲再演集だったんだけど、その中にも「1×0」があった。それもフルート・フィーチャー。ジャコー・ド・バンドリンの「リオの夜」とかもあったね。

 

 

何度も書いているから既にみなさんお分りのはずだけど、いろんなものがあるブラジル音楽のなかでも、トラディショナルなスタイルのショーロ・カリオカやショーロ・パウリスタこそ、僕の最も愛するもの。古い録音も好きだし、現代の演奏家が新しい録音で再演したり新曲をやったりしたものもよく聴く。

 

 

北米合衆国の音楽でも、あるいはトルコ歌謡でもアラブ歌謡でも、ルーツ・ミュージック好きだというか、新しいものもさることながら古い伝統的なスタイルの音楽が大好きだという僕の嗜好が、ブラジル音楽についても当てはまっているんだろう。ショーロこそ後のブラジル音楽の屋台骨だしね。

 

 

そしてさらにサッカー大好き人間でもあるという(以前カルメン・ミランダ関係の記事で触れた通り、僕のサッカー・ファン歴は音楽ファン歴よりも数年長い)僕の趣味も手伝って、ピシンギーニャのショーロの名曲「1×0」を、最大のフェイヴァリットにしているんだろう。ゴキゲンなフィーリングとはまさにこの曲のことだよ。

 

 

なお音楽とはなんの関係もない話だが、この競技を広く一般にサッカー(soccer)と呼ぶのは、この競技が根付いていないアメリカと日本くらいだろう。他のフットボール系スポーツと特に区別する必要のない時は、この競技の母国イングランドではもちろんそれ以外の実力国でも、ほぼ全てフットボール(英football、西fútbol、独fußball、葡futebol、仏footballなど)だ。イタリアでカルチョ(calcio)と言われるのが例外な程度。アソシエイション・フットボールが正式な公式名称。

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