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2016/02/06

最大級の衝撃だったサカキマンゴー『オイ!リンバ』

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ここ十年ほどのあらゆるジャンルの新作CDアルバムで(といっても新作はワールド・ミュージック系以外はあまり買わなくなってしまったが)、なにが衝撃だったかって、そりゃもうサカキマンゴーさんの2011年の新作『オイ!リンバ』以上の衝撃はなかった。

 

 

 

『オイ!リンバ』は、正確にはサカキマンゴー&リンバ・トレイン・サウンド・システムというバンド名義のアルバムだ。この名義のバンド、これ以前にもアルバムがあるけど、それまで全く聴いたことがなかった。サカキマンゴーさんという日本人の親指ピアノ奏者がいるという知識しか持っていなかった。

 

 

『オイ!リンバ』のリリースに先だって、収録曲の「茶碗むしのクンビア」のプロモーション・ヴィデオが公開されていて、それでハマったというリスナーの方が結構いるらしい。僕も何度も繰返し観たけれど、その頃はイマイチな印象だった。アルバムの中で聴いたら最高だから、なぜだったんだろうなあ。

 

 

だから「茶碗むしのクンビア」とか、その他一・二曲先行公開されていた曲を聴いて、『オイ!リンバ』購入を決めたのではない。購入の決め手はTwitter上でしぎょうさんがベタ褒めしていたからだった。それで思い切って買って聴いてみたら、もうこれが最高すぎた。興奮したなんてもんじゃない。

 

 

あまりに興奮しすぎて、「ここ50年くらいの世界中のポピュラー・ミュージック界の最高傑作だ」と発言してしまったくらいだった。今、冷静に考えると、50年に一枚というのは言過ぎだったけど、少なくとも21世紀になってからでは、ティナリウェンの諸作と並んで、最重要作だろうと思っている。

 

 

冒頭の「プロローグ」がラジオ番組ななにかみたいな感じに仕上げていて、それでサカキマンゴー&リンバ・トレイン・サウンド・システムというバンドを紹介し、2トラック目から本編が始るという趣向は、さほど珍しいものではない。僕に馴染の深い分野でも、ウェザー・リポートの『8:30』二枚目B面のスタジオ・サイドもちょっと似た感じだった。

 

 

でもこういう仕掛になぜか極めて弱い性分の僕は、このラジオ番組風の「プロローグ」と、それに続いて即座に出てくる「ロシアの蠅」が始った瞬間に、もう降参してしまった感じだった。僕ってなんてナイーヴなんだろう。親指ピアノが聞えてくると、それがエレベとドラムスの伴奏と三位一体になっていて。

 

 

親指ピアノというか、ムビラやリンバやカリンバなどは、それまでも聴いていて、割と好きな種類の音楽だったんだけど、サカキマンゴーさんの親指ピアノは、それまで聴いたことのない響きをしていたから驚きだった。なにがヒミツなのか分らないけど、指先からなにか出ているだろうという人もいたね。

 

 

チウォニーソが歌う「ネマムササ・ロック」を除いては、全てヴォーカルもサカキマンゴーさんだけど、はっきり言うと彼のヴォーカルは、親指ピアノに比べたら魅力が薄い、というと語弊があるかもしれないが、若干弱いよね。これはほぼ全員そう言っている。『オイ!リンバ』では殆ど気にならないけどね。

 

 

特に先行PVだけを聴いていた頃にはイマイチと思っていた「茶碗むしのクンビア」での歌は、なかなかいい味を出していて、曲調によく似合っていて、ヴォーカルだけならアルバム中一番いいように僕の耳には聞える。もちろん親指ピアノのソロもいいし、エレベとドラムスもいい。

 

 

エレベとドラムス、それまで全く名前すら見たことのないお二人だけど、『オイ!リンバ』での演奏ぶりは素晴しいとしか言いようがない。ベーシストの長谷川晃さんは、このアルバムがリンバ・トレイン・サウンド・システム初参加らしいけど、彼がこのバンドのキー・パースンになっているように聞える。

 

 

サカキマンゴーさんがリンバ・トレイン・サウンド・システムを結成したのは2006年のことらしい。その頃は全く感心すら抱いていなかった。凄い親指ピアニストがいるらしいという噂を知ったのがここ数年のことだ。ドラマーの井戸本勝裕さんは、その頃から叩いているのだろうか?

 

 

サカキマンゴーさんは、殆どの曲で、鹿児島の一部で使われているらしい頴娃語で歌っているから、僕には外国語にしか聞えないし、意味も全く分らない。CDパッケージ付属の紙に共通語訳が書いてあるけど、殆ど読んでいない。音楽家本人の意向をほぼ無視して、僕は歌詞の意味をあまり聞かないリスナーだ。

 

 

しかしながら、頴娃語で歌うということと、親指ピアノというアフリカ由来の楽器をメインに使い、さらにエレベとドラムスという現代ポピュラー・ミュージックのグルーヴ感を出せる編成で演奏することにより、今流行の<グロカール・ビーツ>そのものを体現している。吉本秀純さんなどはどう聴いているのかな?

 

 

ローカルなサウンドとグローバルなサウンドが、これ以上ない最高レベルで結合しているグローカル・ビーツの(僕の聴く範囲での)最高傑作が、サカキマンゴーさんの『オイ!リンバ』だろうと思っているんだけど、どなたもそういうことを言っていないよねえ。

 

 

アルバム中一番謎なのが七曲目の「新しい鍋」。三分もない短い曲だけど、2011年当時から現在に至るまで何度聴いても、僕みたいな素人リスナーには、どういうことになっているのか解明できない複雑なポリリズムで、ホントこれどういう創りになっているんだろう。演奏者当人だって苦労しそうだよね。

 

 

「新しい鍋」とか、ヒップホップ風「IOTOI」とかは、リズムが最高に面白くて、当時も今も繰返し聴くナンバーだ。この二曲でのグルーヴ感は、先にも書いたように、21世紀の世界中のポピュラー・ミュージック全体を見渡しても、匹敵するものが少ない。

 

 

複雑なポリリズムとか最高のグルーヴ感とか、それはもちろんアルバムのほぼ全ての曲がそうなのであって、10曲目「米はのどごし」もポリリズミックだし、先に書いたチウォニーソが歌う「ネマムササ・ロック」だってそうだ。チウォニーソは残念ながら2015年に亡くなってしまったが。

 

 

アフリカの親指ピアノ音楽を聴く方ならみなさんご存知の通り、「ネマムササ・ロック」は、古くからアフリカで演奏されてきている「ネマムササ」が原型のトラディショナル・ナンバー。僕の持っている『ショナ族のムビラ』にも入っているのでお馴染みだったはずなのに、完全に忘れてしまっていた。

 

 

『オイ!リンバ』でチウォニーソの歌う「ネマムササ・ロック」を聴いて、この曲名どっかで見たことあるなあ、でもどこで見たのか思い出せないなあと思って、しばらく探してようやく『ショナ族のムビラ』に入っているのを再発見して聴直したいう次第。

 

 

 

今貼ったのは『ショナ族のムビラ』のものではないが、だいたい似たような感じだね。こちらはチウォニーソ自身による「ネマムササ」のヴァージョン。 ホーン・セクションも派手に入って、伝統的な感じではないけど、これもまた楽しい解釈だよね。

 

 

 

サカキマンゴーさんのバンドにチウォニーソが客演する「ネマムササ・ロック」が、おそらく従来からのアフリカ音楽リスナーには、一番ウケがいいナンバーなんだろう。11分あるから、僕はちょっと長いような気もするけど、確かにアフリカの伝統と現代ポピュラー音楽との融合という点では最高だ。

 

 

個人的には、書いたように「新しい鍋」とか「IOTOI」とかが一番好き。アルバムで聴いたら凄くいいと思う「茶碗むしのクンビア」だって最高だ。ラストの「Small」は、サカキマンゴーさん一人での弾き語りで、しみじみと沁みる曲調で、これが終ると後を引くようななんとも切ない気分になってしまうんだよね。

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コメント

私は、エルスールで「KARAIMO LIMBA」を買って聴いてました。
カリンバ(親指ピアノ)はアース・ウインドウ&ファイヤーがシンボルにしていて、良く曲の中で使ってましたよね。私も昔、百貨店の催事で「アフリカ展」をやっていた時、ひとつ買いました。ただ、弾く金属に丸くわっかのように付いていた「ビーン」と響く金具は外しましたが。あの響きはあまり好きではありません。「茶わんむしのデジタル・クンビア」はNHKの番組「妄想ニホン料理」で使われてますね。不定期番組ですが面白いので見てます。

TTさん、『カライモ・リンバ』は、ダウナーな前半とグルーヴィーな後半との対比が面白いですね。あれもいいんですが、サカキマンゴーさんはやっぱり『オイ!リンバ』ですよ。もうねえ、全然凄みが段違いです!

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