« ソニー・レガシーはマイルスの未発表スタジオ・セッションを全部出してほしい | トップページ | ブラス群の咆哮とR&Bフィーリング〜『アトミック・ベイシー』 »

2016/03/05

豊穣なゴアの大編成ヴォーカル・ミュージック〜『ザ・ジャーニー・オヴ・サウンズ』

711gkoh9fil_sl1325_

 

71dh05hqc0l_sl1304_









荻原和也さんのブログで(http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-01-07)、ライスから日本盤が出ることを知った『ザ・ジャーニー・オヴ・サウンズ』(ア・ヴィアージェム・ダス・ソンス)シリーズ。今年一月リリースの第一弾の「ゴア篇」と第二弾の「ポルトガル領インド篇」を買って聴いてみた。

 

 

 

 

そうしたら「ゴア篇」があまりに素晴しくて、一回聴いただけで一発でノックアウトされちゃったんだなあ。このシリーズは、ポルトガルが世界中を航海し植民地支配をしていた時代に世界中に遺した音楽的痕跡を聴くという眼目のもので、インド西部の都市ゴアも1961年までポルトガル領だった。

 

 

僕はゴアの音楽に関しては全くなにも知らない状態だったと言うべきで、以前やはりライスから出ていたタイトルは忘れたなにか一枚物アンソロジーしか聴いたことしかない。それもさほど強い印象に残っていない(からタイトルも憶えていない)。だから今回の『ザ・ジャーニー・オヴ・サウンズ』で驚いた。

 

 

『ザ・ジャーニー・オヴ・サウンズ』シリーズの「ゴア篇」に収録されている音楽も、誰がなにをやっているのかサッパリ分らないんだけど、音を聴いたらその素晴しさには誰だって一発で参ってしまうはず。何年の録音か分らないが、演奏しているガヴァーナというグループは1988年結成らしい。

 

 

だから古い伝統音楽だとか民俗音楽だとかではなく、完全なる現代ポピュラー・ミュージックだね。そのことは音だけ聴いてもよく分る。聴いた感じ、ガヴァーナはかなりの大所帯グループのようで、音は基本的にギター(族弦楽器)+打楽器+ストリングス+大編成ヴォーカル・コーラスで形成されている。

 

 

ギター(族弦楽器)や打楽器やストリングスや、たまに入るピアノやオルガンなどといった楽器の演奏よりも、なにより一番強く感銘を受けるのが大編成ヴォーカル・コーラスだ。そのコーラス・ワークは、どう聴いても明らかにキリスト教会での賛美歌合唱の強い影響下にあるから、ポルトガル由来だ。

 

 

ハーモニーの創り方は、ゴアを植民地支配したポルトガルが持込んだキリスト教会のものだけど、旋律はヨーロッパ由来のものとだけは言えない。長調と短調を細かく行き来しながら進む独特のエキゾティックなメロディは、明らかに東南アジア〜南洋歌謡のそれだ。インドネシアのクロンチョンにも似ている。

 

 

インドネシアのクロンチョンだって、元はポルトガルが持込んだギターやその他の弦楽器を使って成立したポピュラー音楽なんだから、インドネシアとインドはさほど地理的な距離も文化的な距離も離れていないし、同じポルトガル領だったインド西部のゴアの音楽との共通性が聴けても、不思議じゃない。

 

 

ただクロンチョンはかなり洗練され完成された音楽であるのに対し、『ザ・ジャーニー・オヴ・サウンズ』の「ゴア篇」で聴けるガヴァーナは、もっと素朴でプリミティヴな雰囲気。とはいえ大編成ヴォーカル・コーラスのハーモニー・ワークは超絶品というか、世界でも一級品だろうと感じるけれどね。

 

 

なかでも一番いいと思うのが五曲目の「ゴア」で、ピアノの音に導かれ、ギター(?)のような弦楽器とシンプルな打楽器の音も入り、それに続いて「ごあ〜、ごあ〜、ごあ〜」と輪唱が出てくる瞬間に、なんて素晴しいんだと感動してしまう。歌手一人の単独歌唱部分もあって、それが合唱と入混じって進む。

 

 

ライス盤の日本語ライナーノーツを書いている田中昌さんによれば、この「ゴア」という曲はちょっと特別なものらしく、中村とうようさんが解説を書いた山内雄喜の『ハワイ・ボノイ』に入っていたらしい。僕はそれを持っていて聴いたはずなのに、完全に忘れていて、初めて聴く曲のように思ってしまった。

 

 

ハワイアン・スラック・キー・ギターの山内雄喜のアルバムに「ゴア」を入れたのは、もちろんポルトガルを通じて繋がるゴアとハワイの関係性を示すためだろう。ご存知の通り、ハワイのウクレレの原型はポルトガル人が持込んだものだし、ギターだって北米メキシコ由来(それもルーツはスペインだが)とだけは言えないような気がしている。

 

 

 

ゴアのギター系弦楽器は、というよりポルトガル(とスペイン)は、世界中にギターやそれに類する弦楽器とそれを使う音楽を持込んでいるわけで、例えば南北アメリカ、特に北米合衆国のポピュラー・ミュージックでは必須の楽器であるギターなんかも、北米大陸で発明されたものなんかじゃないわけだ。

 

 

北米アメリカン・ミュージックとの共通性といえば、やはりゴアのガヴァーナの大編成コーラス・ワークがキリスト教会由来のものであるのと同様、北アメリカ合衆国のゴスペル・クワイアやそれに影響されている世俗音楽の大編成ヴォーカル・コーラスなども当然ながらそうで、だから僕などはとっつきやすかった。

 

 

僕が大感動した五曲目の「ゴア」は、「ごあ〜、ごあ〜、ごあ〜」とリピートしているあたりからして、どうやら現地ゴアを称えるような歌なんだろう。これまた日本語解説の田中昌さんによれば、この曲はトマース・ダキーノ・セケイラという1953年生まれの人が創ったものらしい。かなり最近の人だよね。

 

 

しかもそのセケイラという人は、この音楽集団ガヴァーナの音楽ディレクター、すなわりリーダー的存在らしい。ということは、東南アジア南洋歌謡であるゴア現地の音楽的伝統とポルトガルが持込んで遺したヨーロッパ的音楽的遺産を合体させ、20世紀後半という現代に活かした曲なんだろうね。

 

 

なお、そのあたりのことも含めもっと詳しくいろんな情報が、ポルトガル語解説と並び、ポルトガル原盤にも付いているであろう英文解説に非常に詳しく書かれてあるので、お買いになった方は是非ご一読いただきたい。それによれば、僕が褒めている五曲目の「ゴア」をセケイラが書いたのは1990年となっている。

 

 

五曲目の「ゴア」や、大編成ヴォーカル・コーラスのハーモニー・ワークばかり褒めているような感じになっているけれど、他の曲も全て素晴しすぎる。ギター(族楽器)やシンプルな打楽器に乗って歌うヴォーカルのリズムは、ヨーロッパ由来のものではないね。東南アジア音楽のリズムだ。

 

 

なんだかゆったりと揺れる、まるで船に乗って大海を旅しているような雰囲気のノリを思わせる各曲のリズムを聴いていると、とても心地よくていい気分なんだよね。大編成ヴォーカル・コーラスが細かいリズムを刻みながら、でも全体としては大きなウネリを産んでいるような進み方は、素晴しいの一言。

 

 

ギター(族弦楽器)やシンプルな打楽器やよく聞えるストリングスや、たまに入るピアノやオルガンなどの鍵盤楽器など、いわゆる普通の楽器の演奏は、あくまでスパイス的とでもいうか添物的な音響効果で伴奏に徹していて、決して前面に出て目立ったりソロを弾いたりするようなことはない。

 

 

やはりゴアの音楽集団ガヴァーナの主役は大編成ヴォーカル・コーラスだね。この文章で採り上げている『ザ・ジャーニー・オヴ・サウンズ』でしか聴いていないので、普段からそうなのか、あるいは他にもっと別種の音楽があるのか全く分らないけれど、こんなに素晴しいならもっとたくさん聴いてみたいなあ。

 

 

分りやすかったし、あまりに素晴しくて、こんなに豊穣な音楽には滅多に耳にできるもんじゃないと、一回聴いて大感動してしまった「ゴア篇」に比べて、一月に同時リリースされた「ポルトガル領インド篇」の方は、僕は最初なかなか馴染めなかったけれど、繰返し聴くうちこちらも味わい深くなってきた。

 

 

荻原さんのブログに拠れば、1998年リスボン万博のポルトガル・パヴィリオンの公式CDとしてリリースされた全12タイトルである『ザ・ジャーニー・オヴ・サウンズ』シリーズ。ライスはその全てをリリーする模様。嬉しいね。次は三月にまた二つリリースされる。二ヶ月に二枚というペースなら買いやすい。

« ソニー・レガシーはマイルスの未発表スタジオ・セッションを全部出してほしい | トップページ | ブラス群の咆哮とR&Bフィーリング〜『アトミック・ベイシー』 »

音楽(その他)」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« ソニー・レガシーはマイルスの未発表スタジオ・セッションを全部出してほしい | トップページ | ブラス群の咆哮とR&Bフィーリング〜『アトミック・ベイシー』 »

フォト
2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ