ジャジーなジャニス・イアンとメル・トーメ〜「シリー・ハビッツ」
シンガー・ソングライター、ジャニス・イアンという人については、僕は殆どなにも知らないし特別ファンでもないんだけど、唯一「シリー・ハビッツ」という曲が大好き。恋人との別れをジャジーなピアノ・トリオ伴奏で歌うのがなんとも沁みるので、これが入ったアルバムだけ持っている。
「シリー・ハビッツ」が入ったジャニスのアルバムは、1978年のコロンビア盤『ジャニス・イアン』。ジャニスは67年のデビュー・アルバムがやはり『ジャニス・イアン』というタイトルらしいので、区別するために78年盤の方は『ジャニス・イアン II』と呼ばれるようだ。邦題は『愛の翳り』。
僕が持っているその『ジャニス・イアン〜愛の翳り』では、「シリー・ハビッツ」はそのまんま「わるい癖ね」という邦題になっている。僕がこの曲を知ったのは、そのジャニス自身のヴァージョンではない。ジャズ歌手メル・トーメの1981年の二枚組ライヴLP『ライヴ・アット・マーティーズ』でだった。
僕はメル・トーメが好きというわけでもなく、この(当時)二枚組以外には、1960年の『スウィングズ・シューバート・アリー』しか持っていない。これだって、昔から名盤としてよく名前が挙るから買ってみただけなのであって、聴いたらよかったから今でもCDで買い直しているけど、この二つ以外は持っていない。
1981年の二枚組『ライヴ・アット・マーティーズ』は、当時の最新盤だったのでどんなのかなと興味を持ったのと、二枚組なのとライヴ盤であることと、レコード屋の店頭で見たら、僕の大好きなビリー・ジョエルの名曲「ニューヨークの想い」が入っているので、それでほしくなって買ったのだった。
お目当てのビリー・ジョエル・ナンバー「ニューヨークの想い」は、聴いてみたら素晴しい解釈だった。特に “out of touch with the rhythm and blues” という部分で、伴奏がR&B風になるところもイイネ。
ビリー・ジョエル自身のオリジナル・ヴァージョンが元々ジャジーな雰囲気を持った曲なので、こういうジャズのピアノ・トリオでジャズ歌手が歌うのにピッタリだ。数多くのカヴァー・ヴァージョンがある名曲だけど、個人的にはこの1981年メル・トーメのライヴ・ヴァージョンが一番好きだなあ。
そして、この二枚組の五曲目に「シリー・ハビッツ」が入っていた。それまで全く見たことも聴いたこともなかった曲で、ジャニス・イアンという存在すら知らなかったけど、このライヴ盤ではそのジャニスがゲスト参加して、メル・トーメとデュエットで歌っているのが凄くいい感じだったから、大好きになった。
これならジャズ・ファンだって好きになるんじゃないかなあ。現に僕がアップしたこのYouTube音源をいろんなジャズ・ヴォーカル・ファンに薦めると、みんな気に入ってくれる。ジャジーなピアノ・トリオ伴奏でジャズ歌手が歌うということだけでもないはず。
でもこれで、この曲を書き一緒に歌ってもいるジャニス・イアンという人について興味を持ってレコードを買ってみようとは思わなかったのは、ちょっと不思議だ。何度も書いているけど、大学生の頃はこんなことばかりで、ジャズ以外は本格的には追掛けておらず、興味を持っても多くは単発的だった。
ただ「シリー・ハビッツ」だけは、ジャニス自身のヴァージョンを聴いてみたかったので、探してそれが入っていると分った『ジャニス・イアン〜愛の翳り』だけ買ってみた。そうすると「ストリートライフ・セレネイダーズ」があるので、ビリー・ジョエルの曲を歌っているのかと思ったけど、違う曲だった。
よく見たらビリー・ジョエルの1974年作は「ストリートライフ・セレネイダー」で、ジャニスの方は「ストリートライフ・セレネイダーズ」と、微妙に曲名も違っている。ジャニスの方は78年のアルバムだから、可能性はあると思って期待したんだけどなあ。期待通りならちょっぴり嬉しかったけど。
『ジャニス・イアン〜愛の翳り』はCDリイシューされたのをすぐに買っている。なぜかというと、メル・トーメの『ライヴ・アット・マーティーズ』がなかなかCD化されず、というか僕が見つけられなかっただけのようだけど、そういうわけで、どうしても「シリー・ハビッツ」だけ聴きたかったからだ。
『ライヴ・アット・マーティーズ』のリイシューCDは一枚物で、元の二枚組LPからオミットされている曲がある。CDには、元のLPのB面終盤のジェリー・マリガン・ナンバー三曲のメドレーが入っていない。マイルス・デイヴィスが『クールの誕生』でやった「ミロのヴィーナス」もあったんだけど。
それでも『ライヴ・アット・マーティーズ』の一枚物リイシューCDは約79分という収録時間ギリギリいっぱいに詰込んでいて、そのマリガン・ナンバー三曲のメドレー以外は全部入っているから、まあまあいいんじゃないかな。「ミロのヴィーナス」は、メル・トーメの楽器的唱法が聴けて面白かったけどねえ。
マリガンの曲は全部で四曲やっていて、オミットされているのはメドレー三曲。「リアル・シング」一曲だけはCDにも入っていて、マリガンがバリトン・サックスで客演しソロを吹いている。このライヴ盤のフル・タイトルは『メル・トーメ・アンド・フレンズ〜ライヴ・アット・マーティーズ』なのだ。
つまり、何人か<フレンズ>がゲスト参加している。マリガンだけでなく、先に書いたジャニス・イアンだってそうなんだろう。他の<フレンズ>は、サイ・コールマンとジョナサン・シュウォーツの二人。専門のピアニストが伴奏する以外に、メル・トーメ自身がピアノを弾きながら歌うメドレーもある。
それが約八分の「ポーギー&ベス・メドレー」。 ちょっと面白いよねえ。メル・トーメがこんなピアノが弾ける人だったとはね。僕にとってジャズ版『ポーギー・アンド・ベス』はマイルス&ギルのだけで、歌手が歌っているのはこれしか聴いていない。
もちろんクラシック版の『ポーギー・アンド・ベス』ならいくつか聴いてはいる。元々ガーシュウィンのこの作品はオペラなんだし、クラシックの人がやっているのが本来の姿なはずだしね。まあクラシック声楽の発声法がどうも馴染めないというか好きになれない僕だけど、この作品だけは聴く。
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