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2016/03/26

ギリシア人歌手のサルサだったりシャアビだったり

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ご存知の方も多いと思うけど、ギリシア人歌手ヨルゴス・ダラーラスには、僕の聴いた限りでは一曲だけサルサ・ナンバーがある。ベスト盤『ザ・ヴェリー・ベスト・オヴ・ヨルゴス・ダラーラス』九曲目の「アスタ・シエンプレ」がそれ。

 

 

 

「アスタ・シエンプレ」は有名なキューバの曲で、1965年にこれを書いたのはカルロス・プエブラ。どうして有名かというと、この曲はチェ・ゲバラが同年にキューバを出る際に、フィデル・カストロに宛てた別れの手紙への返礼という意味合いで書かれたものだからだ。

 

 

一説によると「アスタ・シエンプレ」は200人以上の歌手が歌っているらしいが、僕はヨルゴスのを含め六つしか持っていない。YouTubeで探すといろいろと上がっていて、こういうのがわりとトラディショナルなヴァージョンらしい。

 

 

 

「アスタ・シエンプレ」を歌っているキューバ人歌手で一番知名度があるのは、おそらくオマーラ・ポルトゥオンドだろうね。それもなかなかいい。それも含めどれも全部もちろんラテン・ナンバーだけれど、サルサなフィーリングはない。どうしてヨルゴスのだけあんな風なんだろう?

 

 

先に音源を貼ったヨルゴスのはギタリスト、アル・ディ・メオラとの共演だ。スタジオ録音だけど、『ザ・ヴェリー・ベスト・オヴ・ヨルゴス・ダラーラス』のブックレットには”previously unreleased” との記載があるので、おそらくこのベスト盤でしか聴けないんだろう。

 

 

ヨルゴスとアル・ディ・メオラといえば、全曲ラテン・ナンバーをやったその名も『ラテン』というアルバムは有名だよね。1987年だったかなあ。僕はリマスター盤と銘打ったCDで持っているけど、アル・ディ・メオラというギタリストは、指が高速・正確に動くという以外の美点を僕は見出しにくいからなあ。

 

 

商業的に成功し玄人筋からの評価も高いらしい『ラテン』だけど、そういうこともあってか僕にはどうもイマイチだった。ヨルゴスは他にもアル・ディ・メオラを使っている作品があるらしいんだけど、僕は全く聴いていない。『ラテン』がイマイチだったしアル・ディ・メオラも好きじゃないし。

 

 

だけど音源を貼ったサルサ風の「アスタ・シエンプレ」だけはかなりいいと思うなあ。書いたように未発表曲とのことだけど、こんなに面白いものがどうして未発表のままでベスト盤にしか入っていないんだろうなあ。いくつかあるアル・ディ・メオラとの共演作からのアウト・テイクに違いない。

 

 

こっちは同じヨルゴスによる同曲のライヴ・ヴァージョン→ https://www.youtube.com/watch?v=1UBq3f_bM1A  最初に貼ったスタジオ・ヴァージョン同様にやはりピアノの弾き方がサルサ風だし、ティンバレスも入るしフルートだって入っている。これは何年頃のライヴなんだろうなあ?

 

 

同じくヨルゴスのライヴでの「アスタ・シエンプレ」→ https://www.youtube.com/watch?v=ddD5wM1d0yg  こっちははっきり2001年と書いてある。スタジオ・ヴァージョンも上に貼ったライヴ・ヴァージョンもアレンジは同じだけど、2001年のでは別の男性歌手も歌っている。

 

 

しかしこんなにはっきりとサルサをやっているヨルゴスというかギリシア人歌手というのは不案内な僕は知らない。普段からラテン風も結構やるヨルゴスだし、そもそもギリシア音楽やそれにかなり近いトルコ音楽・アラブ音楽とラテン・テイストとの相性はかなりいいと思うけど、もろサルサってのはないような。

 

 

アラブ歌謡の女王であるレバノン人歌手フェイルーズにもラテン・フィーリングな曲は結構ある。エル・スールで『アーリー・ピリオド・オヴ・フェイルーズ』を買うと付いてくる十曲入りのCDR『初期フェイルーズ・エキゾティック歌集』にそんなラテン・フィーリングなのが結構あるんだよねえ。

 

 

もちろん本編の『アーリー・ピリオド・オヴ・フェイルーズ』にもボレーロやバイヨンなどのラテン・リズムを使った曲がかなりあるし、そういうのを聴いているとアラブ歌謡(やトルコ歌謡)とラテン・テイストの相性の良さを実感する。トルコ人歌手シェヴァル・サムに『タンゴ』という作品もあったし。

 

 

なんども書いている通り、オスマン帝国時代の19世紀末〜20世紀初頭、現在のトルコとギリシアは同一領土内にあって音楽含め文化的に深い関係があったから、その後オスマン帝国が崩壊した後も両国の音楽には共通する要素が多い。希土戦争後の住民交換を経てもそんな感じがあるもんねえ。

 

 

だから1960年代末にデビューした新時代のギリシア人歌手のヨルゴス・ダラーラスだって、トルコ〜アラブな音楽風味濃厚な古いレンベーティカを実によく継承していて、特にさほどでもないようなアルバムにだって、アラブ〜トルコ風味が聴けるものが結構ある。

 

 

ヨルゴスをいろいろと聴いているとかなりアラブ風〜トルコ風な曲は多く、普通のギリシア歌謡だなと思って聴いているとやはりアラブ風な感触が出てきたりするし、レンベーティカのルーツを考えれば当然のことではあるけれど、やはりそういう哀感に満ちたアラブ〜トルコと不可分一体なギリシア歌謡が最高だ。

 

 

ヨルゴスの最も露骨なアラブ・テイストは、最初に書いた『ザ・ヴェリー・ベスト・オヴ・ヨルゴス・ダラーラス』11曲目で僕は初めて聴いた「イーヴン・イフ・アイ・ウォンティッド・ユー」だ。それとはヴァージョンが違うようだけど、ヨルゴスによる同曲を。

 

 

 

こっちは同曲のスタジオ録音→ https://www.youtube.com/watch?v=NDW1A1UjL9Q  アラブ歌謡のファンの方々なら聴いてすぐにあっあれだ!と分るはず。そう、アルジェリアの大歌手ダフマーン・エル・ハラシの「ヤ・ラーヤ」なのだ。

 

 

 

アルジェリア歌謡シャアビの名曲中の名曲だからみなさんご存知のはずだし、僕も大好きでたまらない。最近では同じアルジェリア出身でフランスで活動するラシッド・タハが何度も歌っているので、それで再び有名になった。タハは最初『ディワン』でやり『ラシッド・タハ・ライヴ』でもやっている。

 

 

また例の有名なラシッド・タハ+ハレド+フォーデルのパリでのライヴ・イヴェントの実況録音盤『アン・ドゥ・トロワ・ソレイユ』でもやっているもんねえ。現代ではそういった一連のラシッド・タハ・ヴァージョンでアラブ歌謡の名曲「ヤ・ラーヤ」は有名になっているかもしれないと思うほどだ。

 

 

ダフマーン・エル・ハラシの「ヤ・ラーヤ」は大好きでたまらない僕で、この曲だけいろんな歌手のヴァージョンを集めた一時間半ほどのプレイリストを作って聴いているくらい。なかにはインストルメンタル・ヴァージョンもある。この曲については喋りたいことが山ほどあるから、また別の機会に。

 

 

ともかくヨルゴスの「ヤ・ラーヤ」(という曲名にはなっていないけれど)は、歌詞こそアラビア語ではないものの、伴奏のアレンジも楽器を置換えただけで、打楽器連打からはじまりその後もアラブ伝統的ヴァージョンをそのまま使っているし、歌の旋律ももちろん完全に同じだ。

 

 

こういうヨルゴスのアラブ風味を聴くと、やはりこの人は「分ってる」なあって思うんだ。ギリシアとアルジェリア等マグリブ諸国とは、地中海を挟んだだけのある意味近隣だし、トルコとは正真正銘隣国同士、それに書いたように古代ローマ〜オスマン帝国時代は同一領土内で別の国になってからの方が短いんだし、音楽的には同一文化なんだよね。

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