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2016/03/10

実は全部キャロル・ケイなのかも

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ポピュラー・ミュージックを熱心にいろいろ聴くようになると、しばらく経ってだいたいみんなベースの音が大好きになるだろうと思うんだけど、もちろん僕もその一人。でもこれ、普通に前で歌う歌手だけ聴いているごく一般のみなさんはそうでもないようだ。

 

 

僕だって1979年に熱心にジャズを聴くようになるまでは全く同じで、歌謡曲でもなんでもやはり前面に出る歌手や楽器奏者しか聴いておらず、伴奏、特にベースの音なんか全然意識すらしていなかった。けれどこれは、僕を含めみなさんそれが耳に入っていないということではないだろう。

 

 

本格的に音楽を聴始めて初めて納得できたことだけど、ベースの音がしっかりしていないと演奏が締らないばかりか歌手も上手く歌いにくいものらしい。中学生の頃、玉置宏司会のテレビの歌番組(『ロッテ歌のアルバム』だっけなあ?)で、だれか女性歌手が「いつもベースの音を聴きながら歌っています」と喋っていて、当時はなにを言っているのやら分らなかった。

 

 

その女性歌手が誰だったのかは全く憶えていないんだけど、その言葉が凄く不思議だったから、それだけ今でもよく憶えているのだ。そして本格的にレコードを聴きまくるようになると、ベースがどれだけ大切なものなのかシロウトなりに分るようになってきて、その後はベースばかりに耳が行くようになった。

 

 

ベースに耳が行くといっても、それは例えばジャコ・パストリアスみたいに華麗に弾きまくり目立ちまくるようなベーシストだけではない。彼のベースはいわば主役級で、誰だって耳が行かざるを得ないようなスタイルだ。ジャコが独立して自分のビッグ・バンドをやっていた頃、ジャコは自分以外にもう一人脇役をこなすベーシストを雇うべきだと言っていた専門家がいたなあ。そういうジャコとかではなく、完全なる脇役というか縁の下の力持ち的存在こそが素晴しく思えてきた。

 

 

ブラック・ミュージックにおける黒人ベーシスト、例えばモータウンのジェイムズ・ジェマースンの貢献ぶりなどは、今ではもう最高級に素晴しいと思っている。といっても、ジェマースンだと思われているものの多くが実はキャロル・ケイだったりするんだけど、それを知ったのはかなり最近の話。

 

 

ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』でのベース演奏が、ひょっとしたら一番有名かもしれないキャロル・ケイ。彼女は自分のオフィシャル・ホーム・ページで、自分がベースやギターを弾いたヒット(の一部)をまとめてあって、それを見るとモータウンの録音のかなりの部分が彼女の演奏だ。「ユニオンの支払調書から」となっているから、客観的事実なんじゃないかな。

 

 

 

このキャロル・ケイのオフィシャル・ホーム・ページを見て驚いた僕は、我慢できずに彼女にメールを送り、するとすぐに御本人から丁寧な返信が来て、しばらくメールのやり取りをしていた。それでいろいろ面白いことが分ったんだけど、それは20世紀のことで、しかもそのメール(20通か30通はあったはず)を保存してあったPowerBook2400ののHDDがクラッシュしてしまい、バックアップも取っていなかったので、全てが完全に未来永劫消え去った(涙)。

 

 

世界で最も有名なベーシストであろうポール・マッカートニー。初期ビートルズ時代の彼のベース・スタイルに一番大きな影響を与えたのはジェイムズ・ジェマースンだけど、1967年頃からポールのベース・スタイルが変化するのはビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』の影響なんだよね。すなわちキャロル・ケイだ。

 

 

しかもその初期の最大の影響源だったジェイムズ・ジェマースンのベース(とされているもの)だって、多くが実はキャロル・ケイだったとしたならば、これは一体どういうことになるのだろうか。ビートルズ時代のポールのベースは、これ最初から最後までまでぜ〜〜んぶキャロル・ケイの影響下にあったということになっちゃうぞ。

 

 

もっとも『ペット・サウンズ』でのキャロル・ケイは、ブライアン・ウィルスンの譜面通りに弾いたわけだし、モータウンでの仕事も譜面があったんだろう。譜面を見ながら弾いているような写真があるから。その意味ではポール・マッカートニーが受けた影響とは、キャロル・ケイ(のスタイル)からのものとは言えないのかもしれないが。

 

 

ジェイムズ・ジェマースンを含むいわゆるファンク・ブラザーズにしろ、キャロル・ケイなどのセッション・ミュージシャンにしろ、一時期までのモータウンのアルバムにはほぼクレジットされない、完全なる縁の下の力持ちだった。リアルタイムではこういう人達の存在すら一般のファンには知られていなかったはず。

 

 

でも上でも書いたように、僕はそれでもいいんじゃないかと最近は思い始めている。以前はケシカランことだと考えていたんだけど、よく考え直してみたら、一般のファンだって特になんにも意識しなくても、ごく自然にベースやリズム・セクションの音を聴いている。音楽の魅力とはそういうものだ。

 

 

名前がはっきりクレジットされているもののうち、僕が一番好きなジェイムズ・ジェマースンのプレイは、マーヴィン・ゲイの『ワッツ・ゴーイング・オン』二曲目「ワッツ・ハプニング・ブラザー」でのもの。特に "war is hell, when will it end?" と歌う背後で跳ねていて、実にゾクゾクするね。しかもアルバム中でこの曲だけなぜか妙にベースが目立っているようなミックスだし。

 

 

 

『ワッツ・ゴーイン・オン』は2001年に二枚組デラックス・エディションが出て、それにアルバム全曲の<デトロイト・ミックス>というのが収録されている。それの「ワッツ・ハプニング・ブラザー」では、演奏自体は当然全く同一だけど、さほどベースが目立つようなミックスでもなくやはり聞えにくい。

 

 

だからオリジナル・アルバムのミックスがちょっとヘンなんだなあ。モータウンの元々の本拠地デトロイトでやったのでそう呼ばれるデトロイト・ミックスが最初の<完成品>だったらしい。しかしそれを聴いたマーヴィンが納得せず、ハリウッドでミックスをやり直して、それをベリー・ゴーディーも認めたようだ。

 

 

僕は2001年にそのデトロイト・ミックスを聴いた時に、なんて生々しい音なんだと驚き、最初からこっちを出せばよかったのにと、ベリー・ゴーディーの判断の方が正しかったんじゃないかと思ったものだった。デトロイト・ミックスはリズム・セクションがオーケストラの音とやや分離しているような感じで、特にドラムスとコンガの音が非常にクッキリと聞える。

 

 

でもジェマースンのベース・サウンドは、当時発売されたオリジナル・ミックスの方が聞えやすいので、その意味でだけはよかったんだけども。いずれにしても、カッコイイ音で録音されミックスされたベースやリズム・セクションの面々が、『ワッツ・ゴーイング・オン』でちゃんとクレジットされているのはいいね。

 

 

アメリカ・ポピュラー音楽におけるエレクトリック・ベースは、どう聴いてもああいったリズム&ブルーズやファンク・ミュージックのスタイルが一番カッコイイように思う。というかベース(やその他リズム隊)がしっかりしていないと成立しないような種類の音楽だし、どれもこれもベースがカッコイイ。

 

 

エレクトリックではないウッド・ベース(アップライト・ベース)の音では、ありとあらゆる全音楽ジャンル中、僕が聴いた範囲で一番凄い音で録音されていると思うのは、ジャズ・ピアニスト、ウォルター・ビショップ・Jr. の1961年録音『スピーク・ロウ』におけるジミー・ギャリスンだ。これはもう全員ビックリ仰天するはず。どうしてこんな音で?と理解できないほど凄まじいド迫力の野太い音で録れていて、腰を抜かすね。

 

 

ジミー・ギャリスンにしろポール・チェンバースにしろダグ・ワトキンスにしろチャールズ・ミンガスにしろ、その他全員いつも同じような音を出していたんだろう。あの『スピーク・ロウ』の時でだけギャリスンが普段と違った演奏をしたとも考えにくい。だからこれは完全に録音だけの問題なんだろう。

 

 

ウォルター・ビショップ・Jr. というピアニスト自体は、僕は全然好きでもなく、ジャズの本場アメリカにならそこらへんにいくらでも転がっていそうな凡庸な人だとしか思えず、『スピーク・ロウ』だって名盤との世評とは裏腹に、どうってことないものだと僕は思っているけど、野太いウッド・ベースの音を聴きたい時にだけ聴く。

 

 

ウッド・ベースの録音に関しては、1970年代の一時期ウッド・ベース本体に直接ピックアップを取付けて、それでライン録りした音をレコードに収録していた時期がある。そういうレコードがかなりあった。これはもうなんとも残念なもので、演奏内容は分りやすいけどペラペラな音で大嫌いだった。

 

 

そういうことは当時多くのジャズ・ファンが言っていた。それなのになぜか一時期どこもみんなあれをやっていたんだなあ。大好きだったアート・ペッパーのヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ盤におけるジョージ・ムラーツもそう。最初はこういうもんなのかと思って聴いていたけれど、だんだん腹が立ってくる。

 

 

さすがにそういうウッド・ベースの録音方法はしばらくしたら誰もやらなくなり、普通にマイクで空中の音を拾う録音方法に戻っている。それでジョージ・ムラーツの音を聴いたら全然違うので、そりゃそうだよなと納得した次第。まあいずれにしても、ウッド・ベースにしろエレクトリック・ベースにしろ、ベースがちゃんとした音じゃないと音楽は死ぬ。

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