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2016/03/07

スティール・ギターによるゴスペル・ミュージック

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アメリカの黒人宗教音楽にセイクリッド・スティールというジャンルがある。ある時期以後日本でもリスナーが随分増えたようなので、ご存知の方も多いと思う。ジャンル名通り、ペダル・スティール・ギターを使うのが最大の特徴で、ペンテコステ派教会で1930年代から存在するものらしい。

 

 

そんなに古くから存在するジャンルであることは、僕はこれを聴くようになって以後いろいろと調べていて初めて知ったことで、僕は確か21世紀になってからセイクリッド・スティールを聴始めたのだった。きっかけは、これもご多分に漏れずロバート・ランドルフの活躍によってだった。

 

 

日本でも、そしておそらくアメリカ本国でも、セイクリッド・スティール界ではロバート・ランドルフが一番有名なペダル・スティール奏者だろう。ファースト・アルバムが2002年の『ライヴ・アット・ザ・ウェットランズ』で、これがとんでもなく凄いという噂をなにかで見て、試しに聴いたらぶっ飛んだ。

 

 

『ライヴ・アット・ザ・ウェットランズ』は、ロバート・ランドルフ&ザ・ファミリー・バンド名義のアルバムで、彼はこのバンド名義でこれ以後も何枚もアルバムを出している。一作目『ライヴ・アット・ザ・ウェットランズ』が凄まじかったので、次作以後も買っているけど、それらはちょっとねえ。

 

 

ロバート・ランドルフはペダル・スティール・ギターのジミ・ヘンドリクスとか言われることがあるらしい。確かにとんでないというか、こんなペダル・スティールは全く耳にしたこともなく、想像すらできなかった革命的なものだ。ペダル・スティールであるという先入観は、音を聴けば消し飛ぶね。

 

 

 

今となっては、繰返し聴き続けているのは、その一作目の『ライヴ・アット・ザ・ウェットランズ』だけで、これですらかなりポップというか、もはや全然セイクリッドな音楽ではなく完全に世俗化したもので、言ってみればゴスペル音楽の世界からソウル音楽の世界に旅立ったサム・クックのようなもの。

 

 

完全にソウル〜ファンク化したロバート・ランドルフ。一般的にはそういうアルバムの方が人気があるようだ。そういう意見を多く見掛けるし評価も高いけど、個人的に好きなのはバンド結成後は第一作目だけ。そしてこれ以前のいろんなセイクリッド・スティール・アンソロジーでの演奏はもっと好き。

 

 

ロバート・ランドルフで、こんなペダル・スティールの弾き方があるんだとビックリした僕は、それがセイクリッド・スティールというものだと知って、セイクリッド・スティールのCDをいろいろと買漁るようになった。アメリカ本国でも1990年代になって再発見され録音されるようになったものらしい。

 

 

買漁ったといってもそんなに大した数ではない。ライヴ・アルバム中心に十枚程度。探せばもっとあるんだろう。どれも20世紀から21世紀への変り目あたりに録音されたものばかり。ロックやソウル、ファンクっぽいアプローチの弾き方から、トラディショナルなゴスペル・スタイルまで様々。

 

 

そういう世紀の変り目あたりにライヴ録音されたセイクリッド・スティールのアンソロジーの中に、ファミリー・バンド結成前のロバート・ランドルフも入っていて、これがなかなかいいんだよなあ。既に彼のペダル・スティールはファミリー・バンド結成後のものに近いから、こういう人なんだろうね。

 

 

ロバート・ランドルフ以外の、わりとトラディショナルなゴスペル・スタイルで弾くペダル・スティール奏者も、だいたいエレベとドラムスが付いてバンド編成になっている。さらにヴォーカルが入る場合もあって、ヴォーカルが入ると普通のゴスペル音楽に聞えるね。伴奏がペダル・スティールというだけで。

 

 

なかにはブギウギっぽいシャッフル・ビートを使ったスタイルのセイクリッド・スティールも結構あって、何度も書いているように、アメリカ黒人音楽でのブギウギ・ビートが大好きな僕にとっては大変親しみやすい。録音されるようになったのが20世紀の終り頃だから、世俗音楽の影響も強いんだろう。

 

 

21世紀に入る頃には、普通のというか従来からよく知られているゴスペル音楽はかなり聴くようになっていたので、そういうものに近いスタイルのセイクリッド・スティールについては、特別どうということもない感じがする。まあアメリカの黒人ゴスペル音楽なんだから、根本的な違いはないはず。

 

 

元々セイクリッド・スティールは、教会で音楽の伴奏に普通使われているオルガンなどが貧乏で買えない教会が、オルガンの代用品としてラップ・スティール・ギターを使い始めたのが発祥らしい。それが先に書いた1930年代のことで、そしてすぐに熱狂的に用いられるようになって全米に拡大した。

 

 

普通の黒人ゴスペル音楽同様に、その1930年代誕生直後頃のセイクリッド・スティールの録音が残っていれば大変興味深いところなんだけど、存在しないみたいだなあ。書いたように本国でも再発見されたのが1990年代だったようで、録音された輸入盤CDが日本に入ってきたのが20世紀末のはず。

 

 

そういうわけだから、トラディショナルなセイクリッド・スティールの姿はほぼ分らない。聴けるCDに微かに香る伝統スタイルの名残から想像を逞しくするしかないんだなあ。でもほぼ全部エレベとドラムスが入っているからなあ。ポピュラー音楽ファンには聴きやすいけど、興味は拡大しにくいんだなあ。

 

 

いろいろと聴けるライヴ録音のセイクリッド・スティールのなかで、一番凄いなあと思うのが『トレイン・ドント・リーヴ・ミー:1st・アニュアル・セイクリッド・スティール・コンヴェンション』の中にあるオーブリー・ゲント(Aubrey Ghent)の、アルバム・タイトルになっている曲で、約12分間熱狂的な演奏が続く。

 

 

オーブリー・ゲントは、ロバート・ランドルフやキャンベル・ブラザーズ同様、セイクリッド・スティールの世界では有名人らしく、単独のCD/DVDもリリースしているらしいけど僕は持っていない。ロバート・ランドルフよりも伝統的なスタイルを残している人で、黒人教会での熱狂ぶりもよく分る。

 

 

ちょっと調べてみたら、オーブリー・ゲントはウィリー・イートンの甥で、祖父ヘンリー・ネルスンも50年以上にわたってセイクリッド・スティールを弾き、かつてはシスター・ロゼッタ・サープやマヘリア・ジャクスンとステージで共演したことがあるらしいから、アメリカ宗教界では有名一族なんだろう。

 

 

シスター・ロゼッタ・サープやマヘリア・ジャクスンは、アメリカ宗教音楽を聴く人なら知らぬ人はいない存在だけど、彼女達がセイクリッド・スティールのギタリストと共演したことがあるというのは、調べるまで全く知らなかった。もし音源などが残っていれば最高に面白そうだけどなあ。ないんだろうね。

 

 

なかにはハワイアンなペダル・スティールを弾く人も入っていて、ペダル・スティールはハワイ音楽で使われる楽器だから、こういうのはセイクリッド・スティールに馴染がない人でも聴きやすいだろう。ビートルズの「カム・トゥゲザー」にインスパイアされたようなものもある。リフがそのまんまなのだ。

 

 

CDアルバムもそう何十枚もはないまま、日本では若干下火になっているのかもしれない(僕だけ?)セイクリッド・スティール。アメリカ本国では、主に南部の黒人教会内で相変らず熱狂的に続けられているはず。他の宗教音楽同様真の姿は教会現場でしか分らないけど、商品化されたものもなかなか楽しいよ。

 

 

なお ”Sacred Steel”という言葉、これだけでネット検索すると、ドイツのヘヴィ・メタル・ロック・バンドが全くの同名で、そっちもたくさん出てくるので、ヘヴィ・メタルも好きな僕だけど(レッド・ツェッペリン・ファンには多いはず)、興味のない方は要注意(笑)。

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