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2016/03/31

ビリー・ジョエルとサックス

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ビリー・ジョエルの曲には歌に絡んだり間奏にサックスが入るものが実に多い。これは彼がロックというよりジャズやR&Bマナーの持主だということなのだろうか?彼は一応ロック系のポップ・シンガー/コンポーザーだと思うんだけど、そういう人でこれだけサックスを使うのはやや珍しい。

ビリー・ジョエルの曲でサックスが入るものといえば、一番有名なのは間違いなく「素顔のままで」(『ストレンジャー』)だろう。もちろんフィル・ウッズのアルト。これは1977年の作品だからフュージョン全盛期で、ビリー・ジョエルに限らず多くの人がジャズ系ミュージシャンを起用していた。

ジャズ音楽やジャズマンとしてのフィル・ウッズをあまりご存知でない一般の方々には、フィル・ウッズは「素顔のままで」でのオブリとソロが最も記憶に残るものというか、おそらく唯一聴かれているものなんじゃないかと思う。ジャズマンとしてのフィル・ウッズ・ファンの僕が聴いても良いソロだ。
『ストレンジャー』では「素顔のままで」の次のA面ラスト「イタリアン・レストランにて」でも大々的にテナー・サックス(とクラリネット)がフィーチャーされている。ホーンの使い方としては個人的にはこっちの方が好きなくらいで、大胆なテンポ・チェンジを伴う劇的な曲展開とともに大好きな一曲。
「イタリアン・レストランにて」でテナー・サックスを吹くのはリッチー・カナータという人だけど、その他リチャード・ティー(エレピ)、スティーヴ・カーン(ギター)、ハイラム・ブロック(ギター)、ラルフ・マクドナルド(パーカッション)など、ジャズ〜フュージョン系の人が大勢参加している。

リッチー・カナータといえば、『ストレンジャー』30周年記念ボックスの二枚目CDとして収録されている1977年6月3日のカーネギー・ホールでのライヴで、「素顔のままで」や「ニューヨークの想い」などのサックス・フィーチャー・ナンバーで見事なテナー・ソロを聴かせてくれている。以前ビリー・ジョエルのライヴは聴いたことがないと書いたけれど、これを持っていたのが完全に頭から飛んでいた。まあ聴いていなかったことは確かだが。

しかもこの1977年6月3日のライヴ、『ストレンジャー』の録音前のものだ。このアルバムの録音は同年7/8月。「ニューヨークの想い」は前作76年の『ターンズタイルズ』収録曲だけど、「素顔のままで」はまだ録音前。既にほぼ完全に曲の形はできあがっている。フェンダー・ローズで弾くイントロも全く同じだしスタジオ・ヴァージョンと殆ど変らない。

だからスタジオ録音での「素顔のままで」でもサックス・ソロはリッチー・カナータでもよかったんじゃないかと、30年目に出たそのライヴ音源を聴いて思っちゃったんだけど、この曲だけフィル・ウッズを使ったのは、そこらあたりがプロデューサー、フィル・ラモーンの商略だったんだろうなあ。

そのカーネギー・ライヴでの「ニューヨークの想い」では、終盤でリズム・セクションの演奏が止りビリー・ジョエルの弾くピアノに導かれたかと思うとそれも止って、リッチー・カナータが長い無伴奏サックス・ソロを吹いているんだけど、それは素晴しいものだ。無伴奏サックス・ソロなんて、上手いジャズ専門サックス奏者のものですら良いものが殆どないのに。

『ターンズタイルズ』収録のオリジナル・スタジオ録音の「ニューヨークの想い」でももちろんサックスのオブリやソロが入る。それもリッチー・カナータだ。世評も高くて人気もある「素顔のままで」より個人的にはこっちの方がビリー・ジョエルの書いた最高傑作なんじゃないかと思っているんだよね。
なお「ニューヨークの想い」、ある時期のリイシューCDではなぜかオブリとソロのテナー・サックスがフィル・ウッズが録音し直したもの(アルトしか吹かないウッズにわざわざテナーを吹かせて)に差替えられていて、YouTubeにもそっちを上げているものがあるので要注意。よくあることだけど、リッチー・カナータで充分素晴しいのになあ。

ビリー・ジョエルのアルバムでサックが入り始めるのはその『ターンズタイルズ』からで、これはそれまでの数年間ロサンジェルスに一時的に活動拠点を移していたビリー・ジョエルが、故郷ニューヨークに戻ってきての第一作。一曲目からどんどんリッチー・カナータのサックス・ソロが入る。

それまでの『ストリートライフ・セレナーデ』までのビリー・ジョエルは、ピアノ・ロック、ピアノ・ポップのイメージが強い人で、なんたってコロンビア第一作のタイトルが『ピアノ・マン』だし、『ストリートライフ・セレナーデ』には「ルート・ビア・ラグ」というピアノ・インストがあるくらいだ。

『ピアノ・マン』『ストリートライフ・セレナーデ』の二枚にはサックスは全く出てこない。その後のビリー・ジョエルのイメージからしたらやや意外だけど、むしろその方がピアノ中心の彼本来のスタイルだろう。ジャズ系の人も、前者にラリー・カールトン、後者にウィントン・フェルダーが参加しているだけ。

だからニューヨークに戻ってきてからの『ターンズタイルズ』以後のビリー・ジョエルが、まあ相変らずピアノ中心ではあるけれど、どうしてサックスを多用するようになったのかの方がむしろやや不思議な気がする。2001年の最新作はクラシック作品でそれは聴いていないけれど、それ以外は全てのアルバムに例外なくサックスが入っている。

1980年の『グラス・ハウジズ』は、ビリー・ジョエルにしては例外的なギター・ロック作品でピアノをあまり弾かず、ストレートなロックンロール・ナンバーが多いアルバムだけど、これにだってやはりリッチー・カナータのサックスが聞えるもんねえ。正直に言うとあまり好きなアルバムではない。

『ストレンジャー』がフュージョン全盛期のアルバムだと書いたけれど、しかしフュージョン全盛期といっても、ビリー・ジョエルの次作であるジャズ・アルバムともいうべき『ニューヨーク52番街』では、それっぽいサックスが聴けるのはB面トップの「スティレット」だけなのはちょっとヘンだなあ。

「スティレット」以外では、アルバム・ラストの「ニューヨーク52番街」がディキシーランド・ジャズ風でクラリネットが聞える以外では、A面ラストの「ザンジバル」でフレディ・ハバードがトランペット・ソロを吹くだけなのだ(そのソロ部分だけ4ビートになり、エレベがランニング・ベースを弾き、ドラマーがシンバル・レガートを叩く)。よくよく音だけ聴くとさほどジャジーなアルバムでもないかもね。

ジャズの花形楽器はなんといっても管楽器で、そしてサックスは、ジャズ・アルバムという意味のアルバム・タイトルである『ニューヨーク52番街』より、前作の『ストレンジャー』やさらにその前作の『ターンズタイルズ』での方がたくさん聞えるもんなあ。ジャズやフュージョンは無関係だったのかも。

ってことはビリー・ジョエルがサックスを多用するのはジャズ的な傾向というのではなく、やはりリズム&ブルーズ(これもたくさんサックスが入るジャンルの一つ)などの影響なんだろうなあ。そういう黒人音楽趣味がモロに出たアルバムが一枚あって、1983年の『イノセント・マン』がそれ。

以前も書いた通り(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/post-befb.html)このアルバムはリズム&ブルーズやドゥー・ワップやソウルなど米ブラック・ミュージックへのトリビュート作品だから、サックスなどの管楽器は実に派手に入っている。一曲目の「イージー・マニー」から鳴りまくっている。

『イノセント・マン』では、B面四曲目の「リーヴ・ア・テンダー・モーメント・アローン」でトゥーツ・シールマンスのハーモニカをフィーチャーしている以外は、ほぼ全部の曲でサックスが入っていて、それもデイヴッド・サンボーンやロニー・キューバーやマイケル・ブレッカーなどジャズ系の面々。

彼ら以外にもトランペットのジョー・ファディスやキーボードのリチャード・ティーやギターのエリック・ゲイルなどなど大勢のジャズ〜フュージョン系のミュージシャンが参加していて、しかも出来上りにジャジーな雰囲気は全くと言っていいほどなく、完全にリズム&ブルーズ風なサウンド。

クラシック作品を除くビリー・ジョエルの全アルバムを聴き返すと、こういったそのまんまなブラック・ミュージック・アルバムはこの『イノセント・マン』だけなんだけど、この種の音楽のエッセンスは他の全てのアルバムに活かされていて彼の血肉になっているのがよく分るんだよね。サックスの多用もその一つだったんだろうね。

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コメント

素顔のままでは、最初に発売したLP盤ではリッチー・カナータがソロをとっていて、後でサックスだけフィルに差し替えたんですよね。

「素顔のままで」もオリジナルはリッチー・カナータでしたか!知りませんでした。いいサックス奏者ですよね。

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