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2016/03/15

クインシーの音楽酒場

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時差の関係で日本では今日がクインシー・ジョーンズ83回目の誕生日だから。

 

 

以前ちょっとだけクインシーの『Qズ・ジューク・ジョイント』に触れたけど、この1995年のアルバム、クインシーのリーダー作では僕が一番好きなものなのだ。これの前作89年の『バック・オン・ザ・ブロック』も相当よかったけど、『Qズ・ジューク・ジョイント』の方がはるかに好き。

 

 

なにが好きと言って『Qズ・ジューク・ジョイント』は、古いブラック・ミュージックのカヴァー中心なのだ。古いブラック・ミュージック・ナンバーが大好きでたまらない僕には、これ以上ない内容。いきなりルイ・ジョーダンの「レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール」をスティーヴィー・ワンダーが歌い出す。

 

 

「レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール」では、スティーヴィーだけでなく、U2のボノやレイ・チャールズもヴォーカルを取る。しかもこれへの導入部である「ジューク・ジョイント・イントロ」では、マイルス・デイヴィスはじめ、物故した様々なミュージシャンの声がサンプリングされ、会話を交す。

 

 

マイルスやチャーリー・パーカー、ビリー・エクスタイン、レスター・ヤングなどの物故した黒人ミュージシャンに加え、スティーヴィーやレイ・チャールズなども参加して賑やかに会話した後、ファンクマスター・フレックスが「さあ、楽しくやろうぜ(レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール)!」と叫び、演奏がはじまるという具合。

 

 

 

 

演奏本体のアレンジそのものは、レイ・チャールズの1959年『ザ・ジーニアス・オヴ・レイ・チャールズ』一曲目でのクインシー自身がやった同曲とほぼ同じなんだけど、そのレイも再び参加している『Qズ・ジューク・ジョイント』の方がもっと賑やかで楽しいように聞えるなあ。

 

 

最初にこのCDを聴いた時に、この導入部の創りだけでもう降参しちゃった。そして『Qズ・ジューク・ジョイント』というアルバムのコンセプトが、1946年のこの古い曲を取上げたことだけでなく、その導入部だけで分ってしまう。ブラック・ミュージックの遺産へのトリビュートなのだ。

 

 

二曲目がベニー・ゴルスンの「キラー・ジョー」。と思うとマイケル・ジャクスンの『オフ・ザ・ウォール』収録の「ロック・ウィズ・ユー」が来る。マイケルの『オフ・ザ・ウォール』は、クインシー自身のプロデュースだったしね。そのオリジナルを書いたロッド・テンパートンがここでも参加している。

 

 

その次がまた1953年の曲「ムーディーズ・ムード・フォー・ラヴ」で、そのオリジナル・ヴァージョン(それも元々クインシーのアレンジだった)でテナー・サックスを吹いていたジェイムズ・ムーディーが、このヴォーカル入りの新ヴァージョンでもソロを取る。なかなかいい感じだ。好きな人だし。

 

 

その次がブラザーズ・ジョンスンの「ストンプ」。これは1980年だね。ここでも様々なヴォーカリストが入れ替り立ち替り歌う。そしてデューク・エリントンの1943年のナンバー「ドゥー・ナッシング・ティル・ユー・ヒア・フロム・ミー」だ。サックス・ソロを吹くのがジョシュア・レッドマン。

 

 

ジョシュア・レッドマンというテナー・サックス奏者は個人的にはあまり評価していない人なのだが、ここでは結構いい感じに響く。フィル・コリンズが歌い、それにワーワー・ミュートを付けたジェリー・ヘイのトランペットが絡む。元々「コンチェルト・フォー・クーティー」だった曲だからね。

 

 

以上書いてきた曲以外は個人的にはさほどには知らない曲だけど、ブックレットのオリジナル英文解説を読むと、どれも全部1970〜80年代のブラック・ミュージック・ソングらしい。一番古いエリントンの1940年ナンバーからそのあたりまで、このアルバム収録曲は全部そんな感じの過去の黒人音楽なのだ。

 

 

つまりアルバム・タイトルの『Qズ・ジューク・ジョイント』とは、クインシー(Q)の好きな古いブラック・ミュージックが流れる音楽酒場とでもいうような意味なんだろう。クインシーのプロデュースとアレンジは、いつも隠し味的というか、アレンジしているのかしていないのか分らないような感じだ。

 

 

クインシーはある時期から米ポピュラー音楽界のドンのような雰囲気になってしまっていて、例のUSA・フォー・アフリカの「ウィー・アー・ザ・ワールド」でも、新旧様々な音楽家達を取りまとめプロデュース・指揮しているくらいだけど、元々出発点はジャズ・アレンジャーだった人だ。

 

 

クインシーは最初はジャズ・トランペッター(兼アレンジャー)で、1950年代初頭のライオネル・ハンプトン楽団に参加してデビュー、クリフォード・ブラウンやアート・ファーマーといった腕利き達とトランペット・セクションで席を並べていた。例の53年ブラウニーのパリ・セッションにも名前がある。

 

 

 

 

まあしかしブラウニーやアート・ファーマーといったムチャクチャに上手いトランペッターを隣で聴いていたわけだから、楽器の方は早々に見切を付けてアレンジャーに専念するようになったのは、誰でも納得できることだ。特にブラウニーみたいなのを横で聴いていたら、そりゃ誰だってトランペットをやめたくなるよねえ。

 

 

 

 

それでも1960年代前半までは、ディジー・ガレスピーのバンドその他でトランペットを吹いていたようだ。アレンジャーとしてのクインシーの大きな成功は、1962年の「ソウル・ボサ・ノーヴァ」からということになっているけど、50年代から良いアレンジを書いていて、僕も好きなものが結構ある。

 

 

 

 

1950年代のクインシーの仕事で僕が好きなものの一つに、54年録音の『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』がある。ちょっと聴くと簡単なヘッド・アレンジだけのように聞え、実際ジャズに詳しい友人も、僕が指摘する15年ほど前までクインシーのアレンジだと知らなかったくらい。

 

 

 

 

しかしよく聴くとそこはかとなくクインシーのアレンジのペンが入っていて、それが実に効果的なのだ。クインシーがアレンジしているのは、伴奏の楽器演奏部分だけではない。主役のヘレン・メリルのヴォーカル・ラインもかなりアレンジしている。普通のメロディ・ラインというより器楽的な旋律を歌う部分があるしね。

 

 

 

 

それが一番よく分るのが「ス・ワンダフル」「ワッツ・ニュー」「イエスタデイズ」の三曲。この三曲は、ヘレン・メリルの歌うメロディも原曲通りではなく、あらかじめクインシーによって相当アレンジされている。特にそれぞれ2コーラス目にそれが顕著だ。僕はいつもそれを楽しんで聴いているのだ。

 

 

 

 

この『ヘレン・メリル・ウィズ・クリフォード・ブラウン』で顕著なように、クインシーのアレンジのペンというのは、だいたいいつだって自然発生的な演奏に聞えるように考え抜かれているもので、誰にも譜面があるようにはっきり分るようなものより、それこそ真に優れたアレンジャーの証だろうね。

 

 

 

 

もっとも個人的にはクインシー自身のリーダー・アルバムは、一時期まで好きなものが殆どなくて、ジャズ・アルバムでは一番有名で評価も高いらしい1956年の『私の考えるジャズ』とかも、どこがいいのかいまだによく分らない。ずっと後の81年『愛のコリーダ』(The Dude)が一番最初に面白いと思ったものだった。

 

 

 

 

あの『愛のコリーダ』、リアルタイムで聴いた最初のクインシーの作品ということもあったけど、でも一般的にはあまり評価されていないみたいだ。もろディスコ・サウンドだし、ジャズ・ファンはもちろん黒人音楽ファンだってあんなの嫌いだろう。当時はジャズ喫茶でもかける店があったんだけどね。

 

 

 

 

そしてそういう個人的な体験からの思い入れを別にすると、クインシーのリーダー作で本当に評価できると思ったのが、1989年の『バック・オン・ザ・ブロック』が初だったような気がする。これに入っている「バードランド」の話は前にもしたけど(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-8eae.html)、それよりラストの「シークレット・ガーデン」がいいよね。

 

 

 

 

そしてその次の95年の『Qズ・ジューク・ジョイント』が、最初に書いたように一番好きなクインシーのアルバムなんだけど、これ以後は新録音のフル・アルバムというのがないみたいで、ちょっと寂しい気がする。クインシーももう83歳だし、そろそろ引退が近づいている歳なのかなあ?

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