リンゴは凄いドラマーだよね
ビートルズ最大の魅力は、ひょっとしたらリンゴのドラムスにあるんじゃないかとすら今の僕は思っているくらいなんだけど、昔は「リンゴは下手なドラマー」という声が結構あったらしい。その時代の話は僕は全く知らないんだけど、中高生の頃にはクラスメイトなどからレコードを借りて聴いていた。
でも中高生の頃には誰が上手いとか下手だとか全く分りもせず、ただメロディやハーモニーが美しいとか歌が魅力的だとか楽しいとか、そういう聴き方しかしていなかったから(今も基本的に全く同じ)、リンゴのドラムスについて上手いも下手もなんにも思わなかったのだった。
その頃は公式アルバムに収録されていないビートルズのシングル曲は、シングル盤そのものを集めない限りは、何枚かの編集盤LP(『ヘイ・ジュード』など)でしか聴けなかったので、例えば「レイン」などを聴いていたかどうか、全く記憶がない。
僕が「レイン」を初めて意識したのは、1980年代末のビートルズ初公式CD化の際、そういうオリジナル・アルバム未収録のシングル曲が全部まとめて『パスト・マスターズ』のVol.1とVol.2になってからだった。Vol.2の方は、その初CD化の際に一番最初に買ったものだった。だって有名曲ばかりだし。
『パスト・マスターズ』は2009年のリマスター盤発売の際に二枚組になったけれど、最初にCDになった1980年代末には、前半期のVol.1と後半期のVol.2がバラ売りだった。Vol.1の方は店頭で見たら馴染のある曲目が少なくて、それで有名曲ばかりのVol.2の方を先に買ったのだ。
「デイ・トリッパー」ではじまり「ユー・ノウ・マイ・ネイム」で終る『パスト・マスターズ Vol.2』。その四曲目に「レイン」があって、もうこれで完全にリンゴのドラムスにビックリしてしまったのだった。上手いよね。というか凄いド迫力だ。特にスネアが。
1966年のシングル曲「レイン」はジョンが書いてジョンが歌う曲だけど、リンゴのドラムスだけでなくポールのベースも凄い。この二人が一番活躍するビートルズ・ナンバーの一つだ。 驚いていろいろ聴いてみると、こういうが結構あるもんね。
半年ほどでビートルズの全公式CDを買揃えて聴きまくり、というかその1980年代末か90年代初頭頃、一年間ほどビートルズのCDしか聴いていないのではないかとすら思うほど(まあそれはウソだが)夢中で毎日のように聴いていた時期があって、それでリンゴのドラムスが凄い曲がいろいろと見つかった。
リンゴが四人の中で軽視されがちなのは、結成時のオリジナル・メンバーではなかったのも一因かもしれない。ビートルズ最初のドラマーはピート・ベストだった。彼が1962年8月に解雇されてリンゴになり、同年10月のレコード・デビュー後は、一部を除いて全部リンゴ。
最初のレコード、シングル曲の「ラヴ・ミー・ドゥー」でのドラムスはリンゴだけど、アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』収録の同曲では、セッション・ミュージシャンのアンディ・ホワイトがドラムスを叩いているから、まだこの頃はジョージ・マーティンもリンゴに納得していていなかったんだろう。
でもアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』でも、印象的な一曲目の「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」や、ビートルズ・ヴァージョンでスタンダード化したアルバム・ラストの「ツイスト・アンド・シャウト」でのリンゴのドラムスは、なかなかいじゃないの。
初期の代表的なシングル曲の一つ「シー・ラヴズ・ユー」なんか、タムの連打からはじまって、その後もかなりリンゴのドラムスが活躍するというか、キレイな三声ハーモニーと並んで、この曲の最大の聴き所だと思うんだ。全米でブレイクするきっかけだった「抱きしめたい」だってそうだし、初期から結構あるよね。
1964年のシングル曲「アイ・フィール・ファイン」も、レイ・チャールズの「ワッド・アイ・セイ」みたいな、ややラテン風のちょっと変ったリズムで、あれのドラミングはなかなか難しいと思うんだけどね。リンゴはそれを難なくこなしているもんね。
リンゴは曲を創らずヴォーカルを担当することも少なかったから、それも一因で評価が低いのか、あるいはプロ・ドラマーなのにロールができないから評価が低いのか分らないけど、ロックにロールは必要ない(レッド・ツェッペリンの有名曲の歌詞みたいになってしまった)。ジャズじゃないんだから、アート・ブレイキーみたいなロールが入ったらオカシイぞ。
リンゴのドラミングに一層磨きがかかってくるのが中期以後で、『リヴォルヴァー』以後はとんでもないことになっている。『リヴォルヴァー』一曲目の「タックスマン」や「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」やラストの「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」とか、凄まじいじゃないか。
「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」なんか、バーナード・パーディが自分が影武者でドラムスを叩いたとホラを吹いたくらいだもんね。「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」のスネアも凄まじい。リンゴのドラミングって「レイン」もそうだけど、スネア・ワークに最大の特徴があるよね。
後に『マジカル・ミステリー・ツアー』に収録されたのが、アメリカだけなく英アップルも認めて、CD化の際にオリジナル・アルバム中の一曲として世界標準化した「アイ・アム・ザ・ウォルラス」のスネア・ワークによるグルーヴ感なんか、絶対にリンゴ以外のドラマーでは不可能だ。
『ホワイト・アルバム』収録の「グラス・オニオン」とか「バースデイ」とか「ヤー・ブルーズ」とかは、リンゴのドラムスばっかり聴いちゃうぞ。ヘヴィ・メタル第一号みたいな僕の大好きな「ヘルター・スケルター」だって、ファズの効いたエレキ・ギターとポールのシャウトに負けていないドラミングだ。
1968年のシングル・ヴァージョン「リヴォルーション」だってハードにドライヴするし、初期から決して悪くないリンゴのドラムスは、特に66/67年以後のビートルズでは際立っていて、バンド最大の魅力というか聴き所というか、これでどうして下手という意見になるのかサッパリ分らない。
録音順ではビートルズのラスト・アルバム『アビー・ロード』のラスト(ではなくその後に「ハー・マジェスティ」があるけど)「ジ・エンド」では、珍しいリンゴのドラムス・ソロが聴ける。でもあれは僕はリンゴのドラミングを聴く曲ではないように思う。ああいうのより、歌のバックで真価を発揮するよね。
1995年に出た二曲の”新曲”「フリー・アズ・ア・バード」と「リアル・ラヴ」でも、前者では冒頭のスネア二発が物凄い存在感で、あれ(と直後に出るジョージのスライド)で心を奪われてしまう。あの時に改めてリンゴの凄さを実感したのだった。リンゴはやっぱり凄いドラマーだよ。
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