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2016/03/06

ブラス群の咆哮とR&Bフィーリング〜『アトミック・ベイシー』

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1930年代デッカ録音集など戦前ものに比べたら、カウント・ベイシー楽団の戦後録音作品はあまり聴いていない僕。それでも昔大学生の頃は戦後録音も結構レコードを買って聴いてはいた。特にパブロ・レーベルからかなりたくさんレコードが出ていて、全部追掛けられないくらいだった。

 

 

ところでベイシーの戦前ものでもデッカ録音は、現在CDでは三枚組の完全集になっていて、その三枚組デッカ録音集は、例の小出斉さんの『ブルースCDガイド・ブック』にも掲載されているくらいなのに、コロンビア系録音は、『アメリカズ・#1・バンド』という四枚組ボックスだけだよなあ。全集ではないはず。

 

 

コロンビアという会社は、LP時代から自社の戦前古典音源のリイシューについてはかなり冷淡で、一部の有名人を除きロクなリイシューをしていない。あのデューク・エリントン楽団みたいにムチャクチャ評価の高い超有名音楽家についてすら、1930年代コロンビア系録音をいまだに全集では出していないほどだ。

 

 

全集で出ているのは、ジャズ系音楽家では、ルイ・アームストロングとビリー・ホリデイくらいじゃないのかなあ、戦前コロンビア系録音は。カウント・ベイシー楽団についても、LP時代はタイトルは忘れたがなにか二枚組レコードがあっただけだから、それに比べたらCDでは多少マシではあるんだろう。

 

 

戦前録音はともかく、ベイシー楽団の戦後録音は本当にあまり聴いていなくて、大学生の頃に結構レコードを買っていたけれど、戦前録音に比べたらイマイチな魅力しか感じなかったし、今でも似たような考えだ。昔一番好きでよく聴いていたのが『シナトラ・アット・ザ・サンズ』だったというくらいだから、ダメだこりゃ。

 

 

『シナトラ・アット・ザ・サンズ』はタイトル通り、フランク・シナトラがフロントで歌い、クインシー・ジョーンズのアレンジでベイシー楽団が伴奏をするという1966年のリプリーズ盤二枚組。これだって、現在では完全に興味をなくしCDでは買っていないので、全然聴かないもん。

 

 

現在CDで買い直しているもののうち、戦後のベイシー楽団の作品で一番好きなのは、1956年のライヴ盤『ベイシー・イン・ロンドン』と58年の俗称『アトミック・ベイシー』だね。どっちも現在では完全集CDのような形で、LP時代には収録されていなかった曲もたくさん入ってリイシューされている。

 

 

どっちも大好きなんだけど、どっちかというとルーレット盤『アトミック・ベイシー』の方をよく聴くなあ。レーベル名通り、アナログLPではレーベル面がルーレット状になっていて、ターンテーブルに載せて廻すと、まさに回転するルーレットに見えてそれも面白かった。もちろん音楽も最高だ。

 

 

『アトミック・ベイシー』は全曲ニール・ヘフティの作編曲。エリントンとは違ってベイシーは自分で作編曲することは少なくて、それでも戦前はかなりシンプルなリフばっかりのバンドだったので、誰がアレンジャーかなんてことは全然意識しなかったんだけど、戦後はいろんなアレンジャーを使っている。

 

 

一番有名なのは、パブロ盤その他でアレンジをしているサミー・ネスティコだろう。でもまあ彼のアレンジは僕には特段どうってこともないように聞えていた。その後全然聴直していないので、今聴けばまた違った感想を持つかもしれない。それに比べて『アトミック・ベイシー』のニール・ヘフティは凄い。

 

 

『アトミック・ベイシー』では、特にブラス(金管)群のド迫力のドライヴ感が凄まじい。それこそがこのアルバムの真骨頂だね。一曲目の「ザ・キッド・フロム・レッド・バンク」なんかたまらんよねえ。ソロを取るのはベイシーのピアノだけで、それもちょっとだけ。ブラス群の咆哮が中心のアレンジだ。

 

 

 

この「ザ・キッド・フロム・レッド・バンク」でのベイシーのピアノ・ソロは、モロにストライド・ピアノ・スタイルで弾いていて、図らずも彼のルーツを如実に示している。戦前から戦後を通していろんなところでそれが散見されるベイシーのピアノ演奏だけど、これほど露骨なものは少ない。

 

 

B面一曲目の「ワーリー・バード」(アーリー・バードのもじりだろう)もそんなブラス群の咆哮が中心だけど、こちらではテナーのエディ・ロックジョウ・デイヴィスがソロを吹く。大好きなテナー・ブロワーなんだよね。1940年代後半のクーティー・ウィリアムズ楽団での演奏はその随分後になって知った。

 

 

 

ジャンプ・ミュージックをやっていたその1940年代後半のクーティー・ウィリアムズ楽団でのエディ・ロックジョウ・デイヴィスを聴いたらますます大好きになったんだけど、僕はこのテナー・ブロワーは『アトミック・ベイシー』で初めて聴いた人で、それで大好きになったのだ。

 

 

何度か書いているように1930年代のベイシー楽団はプリ・ジャンプ・バンドみたいな存在で、ブルーズ・シャウターだって雇っていたんだから、その後本格的なジャンプ・ミュージック楽団で活躍したエディ・ロックジョウ・デイヴィスが戦後のベイシー楽団でブロウするのは、不思議でもなんでもない。

 

 

エディ・ロックジョウ・デイヴィスは、『アトミック・ベイシー』で一番たくさんソロを任されてて、特にいいのがA面三曲目の「アフター・サパー」。出だしのブワ〜〜ッと唸るようなテナー・サウンドは、リズム&ブルーズなどのリスナーにもアピールするはず。この曲全体がそんなフィーリングだしね。

 

 

 

その他「ダブル・O」なんかもかなり真っ黒けだし、ここでもエディ・ロックジョウ・デイヴィスのテナーが咆哮するし、『アトミック・ベイシー』というアルバムは、戦後のベイシー楽団の作品では最もリズム&ブルーズに接近しているものだ。元々カンザスのブルーズ・バンドなんだから当然だね。

 

 

 

B面二曲目の「ミッドナイト・ブルー」は、タイトル通り真夜中に寛ぐいわばレイド・バックしたような雰囲気の気怠いブルーズ・ナンバーで、これもはっきり言ってジャズ・ファンよりリズム&ブルーズなどのファンの方にアピールしやすいような曲調なんだよね。サックス群やトロンボーン群のムードが最高。

 

 

 

B面ラストの「リル・ダーリン」もそんなレイジーな雰囲気の曲で、ここでは非常に珍しくギターのフレディ・グリーンの単音弾きがはっきり聴けるというかフィーチャーされているような感じで、最初に聴いた時は驚いた。単音弾きといってもソロではなく、アンサンブルに溶け込むアルペジオだけど。

 

 

 

アナログLPでの『アトミック・ベイシー』はこれで終りだった。「リル・ダーリン」はラストを締め括るのにこれ以上ない完璧な曲だから、現行の完全盤CDでは、この後に未発表曲五曲が収録されているのは、なんか勘狂っちゃうんだよなあ。ラストのジョー・ウィリアムズが歌う曲は好きではあるけれど。

 

 

しかもその五曲のアレンジはニール・ヘフティじゃなくジミー・マンディだから、『アトミック・ベイシー』の一部として認めにくいけど、まあいいや。ビッグ・バンド録音で、これの次に好きなのが『ベイシー・イン・ロンドン』で、それは「シャイニー・ストッキング」「コーナー・ポケット」の二曲があるため。

 

 

そして戦後のベイシー関連で一番好きでよく聴くのは、実はビッグ・バンドものではなく、1962年のコンボ録音『アンド・ザ・カンザス・シティ・7』なのだ。なぜかというと特にフレディ・グリーンとリズム・セクションの上手さが一番良く分るから。一曲目「オー、レディ、ビー・グッド」冒頭のピアノ・ソロの背後での動きとか絶妙すぎる。

 

 

 

戦前からコンボ録音もかなりあるベイシーだけど、全時代通して彼のコンボ録音では、この1962年インパルス盤が一番いいように個人的には思っている。人数が少ないのと録音がいいせいで、戦前録音ではイマイチ分りにくいいろんなことがはっきり聞えるんだよね。

 

 

一度だけ大学生の時に、当時住んでいた松山でベイシー楽団のライヴを体験したのだが、その時もフレディ・グリーンのギターがよく聞えた。ピックアップのないアンプリファイしないアクースティック・ギターで、個別のマイクも立っていないようだったのに、どうしてビッグ・バンド・サウンドに混じってあんなに明瞭に聞えるのか不思議でたまらなかった。絶対にマジックだ。

 

 

ちなみに生で見聴きしたそのベイシー楽団、セット・リストなどはあらかじめ決っていなかったようで、どの曲もベイシーがピアノでイントロを弾き始めると、バンドのメンバーがああこの曲かと慌てて譜面をめくり、それでバンドの演奏がはじまるという具合。誰がソロを吹くかも、適宜ベイシーが指で指示していたなあ。

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コメント

私も大学生の時、新宿厚生年金ホールでベイシー楽団見ました。あの頃良く来日してましたよね。私もフレディ・グリーンのアンプを通していないギターの音がはっきり聞こえてきたのにはビックリしました。目で見ているから良く聞こえたんですかねえ。確かベースはアンプを通してましたよね。
私は熱心なベイシーファンではないのでレコードも3枚くらい、CDは一枚も持ってません。「アトミック・ベイシー」と「ストレート・アヘッド」は良く聴いていたような気がします。ベイシー楽団では「クインビー」が一番好きかな。

TTさん、ベイシー楽団のライヴでフレディ・グリーンのギターが明瞭に聞えるのは、ありゃはっきり言ってオカシイんですよね。魔法ですね。

なお、『アトミック・ベイシー」』は、戦後ベイシーには少ない黒い音楽だから好きなんです。戦前の1930年代デッカ録音集などは、どれもこれもブルーズ・ナンバーばっかりで黒くて、戦後録音よりはるかに魅力的ですよ。

デッカの3枚組CD「Complete Decca 1937-39」出てますね。私は手っ取り早く、amazonのmp3で、「Count Basie : 1936-1941 (vol. 1)」を手に入れて聴いてます。CD6枚分で1800円はお買い得ですね。vol.1になってますが、vol.2あるんですかね。ただ、スクラッチノイズがかなり入ってます。レコードおこしですかね。「Complete Decca 1937-39」のほうは、音が良さそうですね。
この時代のJAZZは、心地良くて全然聴いてて飽きませんね。エリントンにしても、サッチモにしても。余裕があって堂々としてますね。この時代に行けて、直に音が聞けたら最高でしょうね。

TTさん、バック・ワシントンとかハーシャル・エヴァンスとかレスター・ヤングとか、ソロを取るサイドメンの力量がそりゃもう全然違いますからね。この頃のベイシー楽団は、エリントン楽団等他のビッグ・バンドと違って、アレンジされている部分は最小限で、大部分がソロ任せですから。

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