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2016/04/09

トンコリが奏でる21世紀型最新音楽〜『UTARHYTHM』

Utarhythm








いやあビックリした、というのも失礼だけど、凄いものが出たもんだ。カラフト・アイヌ伝承の弦楽器トンコリ奏者であるOKIさんのバンド、OKI DUB AINU BANDの新作『UTARHYTHM』が大傑作だ。このバンドやその他OKIさんの音楽は今までもまあまあ聴いてはいたものの、安東ウメ子やマレウレウに関わっているもの以外はピンと来なかった。

 

 

2011年の前作『HIMALAYAN DUB』も面白さが僕には掴めなかったのはなぜだったんだろう?これは僕がレゲエやダブ不感症なせいなんだろうか?レゲエが苦手で、今までいいなと思うレゲエ・ミュージシャンは複数いるものの、これがダブとなると面白さが分りにくいものばかりだった。

 

 

ローリング・ストーンズの1980年作『エモーショナル・レスキュー』がやはりダブ手法を採り入れていて、79年にバハマはナッソーのコンパス・ポイント・スタジオで録音されたものだけど、これはかなり面白い。それも含めこのアルバムはストーンズでは最も過小評価されているものだから、一度しっかり考えて書きたいと思っている。

 

 

それとなんだったけなあ確かブラック・ウフルのダブ・アルバムを聴いて、これはなかなかいいぞ!と思ったのも例外みたいなもんで、それ以外は音楽の制作手法としてのダブの面白さみたいなものは頭では理解できるものの、本当に素晴しいと体で実感できるようなものが殆どなかったのが正直なところ。

 

 

もちろんこれは完全に僕の個人的趣味嗜好によるワガママ勝手な判断で、(スカやロック・ステディや)レゲエやダブなどに不感症なだけなんで、世界中にそして日本にもファンがかなり多いその種の音楽に素晴しいものがたくさんあることを否定するつもりなんかもちろんない。オカシイのは僕の耳だ。

 

 

そういうわけで前作『HIMALAYAN DUB』も何回か聴いて放り出したままだったんだけど、その後マレウレウのライヴでOKIさんの生演奏によるトンコリを聴いてその素晴しさに感動し、その後のマレウレウのアルバムでの伴奏とプロデュースも見事だったと感心したので、新作も迷わず買った。

 

 

そうして聴いてみたOKIさんの『UTARHYTHM』、これがもう一度聴いただけで完全にノックアウトされちゃったんだなあ。おそらく十年に一枚出るか出ないかというとんでもない作品に間違いないと一度聴いて直感し、何度も繰返し聴き込んだ今は心の底からそれを確信している。

 

 

Astralさんがブログでお書きになっているように(http://astral-clave.blog.so-net.ne.jp/2016-03-09)、僕も一種のグルーヴ馬鹿みたいなところがあって、楽しく踊れるか、思わず腰が動くか、ノレるかどうかという基準でポピュラー音楽を判断する人間で、『UTARHYTHM』はその点最高だ。

 

 

『UTARHYTHM』のリズム・セクションである中條卓のベースと沼澤尚のドラムスが創り出すグルーヴ感のカッコよさといったら、世界中見渡しても最近の音楽では比肩しうるものがあまりないんじゃないかなあ。それが一番よく分るのがアルバム・ラストのインスト・ジャム「NT Special」。

 

 

「NT Special」でのリズム・セクションとHAKASE SUNのキーボード、そしてトンコリを弾くOKIさんらが創り出すグルーヴ感は、21世紀では疑いなく最高のものの一つだ。ファンクとしては1960年代末〜70年代前半のジェイムズ・ブラウンに負けているだけだろう。

 

 

「NT Special」でもそうだし他のほぼ全ての曲でそうなんだけど、この新作アルバムでOKIさんがトンコリで出す音は、僕の耳には2011年の大傑作『オイ!リンバ』におけるサカキマンゴーさんの親指ピアノに非常に似ているように聞える。両者の音楽的共通性はよく分らないけど、近いね。

 

 

OKIさんのトンコリとサカキマンゴーさんの親指ピアノが近いというのは、単にその楽器の音だけというんじゃない。バンドの創り出すポリリズミックなグルーヴ感と一体になっているという点でも音楽的に通底するものがあるんじゃないかなあ。『UTARHYTHM』にはアフリカも感じるしね。

 

 

アフリカ的といえば、『UTARHYTHM』九曲目の「Wenko Rock」にはブラジル人パンデイロ奏者のマルコス・スザーノが参加しているんだけど、マルコスを加えてバンドとOKIさんが出しているポリリズミックなサウンドは、一種のアフロビートみたいなものなんじゃないかなあ。

 

 

ジェイムズ・ブラウンらのファンク・ミュージックとフェラ・クティらのアフロビートは、今更言うまでもなく密接な関係があるわけだけど、『UTARHYTHM』にはそれら両方を感じるんだなあ僕は。まあ基本的にはこのアルバムはファンクなんだろうと思うんだけど、かなりアフリカ的でもある。

 

 

OKIさんが果してアフリカ音楽を意識して『UTARHYTHM』を創ったのかどうかは僕には分らないんだけど、OKIさんはもちろんアフロビートはじめアフリカ音楽も間違いなくたくさんお聴きのはずだから、やはりなにか彼の音楽の血肉になって活きているんだろう。音を聴けばそれは分る。

 

 

最高の名手であるトンコリやムックリなどの演奏に比べたら、OKIさんのヴォーカルははっきり言ってやや弱いようには思う。その点でも親指ピアノの名手にして歌は少し弱いサカキマンゴーさんに似ている。しかしOKIさんの乱暴に吐出して投げつけるような歌い方にはかなりの迫力がある。

 

 

『UTARHYTHM』ではヴォーカルもさることながらOKIさんのトンコリやムックリが大きくフィーチャーされていて、ヴォーカル・ナンバーでもインスト演奏部分がかなり長いものが多いというのは正解だったと思える。その方が僕にはノリやすいしバンドのグルーヴ感もたっぷりと味わえる。

 

 

アルバム中一番長い六分の二曲目「City of Aleppo」でもやはりそうで、最初無伴奏でOKIさんのトンコリ演奏がしばらく続くなと思って聴いていると、それが止った瞬間にバンドの演奏が入ってきて、レゲエのビートを叩出す。ここでもHAKASE SUNのキーボードがいい感じ。

 

 

「City of Aleppo」もトンコリをフィーチャーしたインストルメンタルなんだけど、レゲエのビートとダブ的な音処理と相俟って独特の雰囲気を出しているね。六分のトンコリ演奏があっと言う間に感じるくらい心地良い。あとリズム・セクションもさることながらHAKASE SUNのキーボードがやはり肝。

 

 

沈み込むようなヘヴィーな感じではじまる三曲目「Hekuri Sarari」は、途中からリズムがグルーヴィーに跳ねてやはりこれもファンクだなあ。ポリリズミックでもある。先にリンクを貼ったブログでAstralさんはリー・ドーシーの「イエス・ウィ・キャン」を感じると書いていらした。

 

 

僕は「Hekuri Sarari」にリー・ドーシーは薄くしか感じないんだけど、それでもAstralさんのおっしゃりたいことは分るつもり。ソウルやファンクやアフロなグルーヴとフィーリングが、カラフト・アイヌ由来の楽器と音楽と融合して言うことない現代最高の音楽に昇華されている。

 

 

四曲目の「Arahuy」の途中でトンコリとヴォーカルが奏でる旋律は、まるで日本本土の民謡そっくりに聞えるんだけど、これもやはりアイヌの伝承曲ではあるんだろうなあ。この日本民謡そっくりなマイナー・メロディを現代のポリリズミックなファンク・グルーヴに乗せて演唱するもんだから、こりゃもうたまらん。

 

 

リズム・セクションとキーボードを中心にしたバンドの出すグルーヴ感といい、それに乗せてOKIさんが弾くトンコリの魅惑的な響きといい、やはりこれは2011年のサカキマンゴーさんの大傑作『オイ!リンバ』にも共通する<21世紀性>を感じる最高の音楽だ。これを聴かない手はないよ。ジャズ・ファンもJTNC系やなんかにうつつを抜かしてないで、こういうのを聴いてよね。こういうのこそが最新型の音楽だぞ。

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コメント

このアルバムは聴く人によっていろんなものが聴こえてきそうですよね。
OKIがバンド・メンバーにある部分、舵を委ねてるからスケールの大きい音楽になってるんじゃないと思うんです。良いバンドってのはまぁそういうもんですけど。
うまく言えませんが、何度聴いても腑に落ちないというか説明できないものが残る、そんな傑作ですね。JTNC系はどうも僕にはスゴさがきっちり説明できすぎるところがつまらなく感じてしまうんですよ。これはまた別の話ですね。

Astralさん、僕もまだまだ分っていないというか、スケールの大きい優れた音楽ってなんでも全部、何度聴いても「謎」が残ります。その「謎」こそが作品を魅力的にしているわけで、『UTARHYTHM』しかり。だから全然謎がないようなJTNC系は、ちっとも面白くないんですね。

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