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2016/04/10

モンクのブギウギ

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セロニアス・モンクの『ライヴ・アット・ザ・ジャズ・ワークショップ・コンプリート』。これの一枚目九曲目の「エピストロフィー」がちょっと面白い。なにが面白いって冒頭で弾くモンクのピアノの左手が完全なるブギウギ・スタイルなのだ。このアルバムは1964年のライヴ録音でカルテット編成。

 

 

この1964年のライヴ録音は82年にLPレコードで発売されているが、僕はその時には買っておらず『コンプリート』と銘打ったCD二枚組が2001に出たのを買った。調べてみるとLP未収録のものがたくさんあるようだ。その「エピストロフィー」が最初からLPでも出ていたのかどうかは分らない。

 

 

YouTubeでちょっと探してみても見つからないので紹介できないのが残念だ(自分で上げりゃいいんだけど)。もっとも冒頭でブギウギ・ピアノ・スタイルで弾くものの、すぐにチャーリー・ラウズのテナーがテーマ・メロディを演奏しはじめるのでそんなに長くは聴けない。そしてモンクがブギウギ・スタイルで弾くのは不思議ではない。

 

 

モンクのレコード初吹込み、1947/10/15に録音された四曲のうちの一つ「セロニアス」(コンボ編成)でも、途中やはり一瞬だけど左手がブギウギ・スタイルになるところが聴ける。これはもちろんSP盤で発売されたもので、今では何種類かのCDになっているので簡単に聴くことができる。

 

 

以前書いたように(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-5dac.html)モンクのピアノ・スタイルは、ジェイムズ・P・ジョンスンなどストライド・ピアノ直系で、直接的にはやはりストライド・スタイルからスタートしたデューク・エリントンから学んでいるものなのだから、ブギウギだって弾くだろう。

 

 

モンクはいつ頃プロのジャズ・ピアニストとしてキャリアをスタートさせたんだろう?有名なのはマンハッタンのミントンズ・プレイハウスのハウス・ピアニストになった1940年代半ばで、その頃様々なジャズメンといわゆる「カッティング・コンペティション」(競い合い)を繰広げていたんだろう。

 

 

ミントンズ・プレイハウス時代にはかのチャーリー・クリスチャンのセッションに参加してピアノを弾いたのが録音されてレコードにもなっている。全四曲。でもあれは僕は昔からチャーリー・クリスチャンもモンクもその他もどこがいいのかイマイチ分らず、CDでは買ってすらいない有様。

 

 

1940年代半ばにそういうキャリアがあるということは、もっと前おそらく30年代半ばか末頃にはプロ活動をはじめていたんだろう。そしてその頃からオリジナル曲も書始めていたようだ。いわゆるブギウギ・ピアノの大流行は30年代後半だったので、モンクはリアルタイムで聴いていた。

 

 

モンクはストライド・ピアノから出発したと書いたけれど、ストライド・ピアノとブギウギ・ピアノは密接な関係がある。これは別にアメリカ大衆音楽におけるピアノ・スタイルの変遷・歴史などを調べなくても、音だけ聴いていれば、左手のパターンに共通するものがあることは誰だって聞取れるはずだろう。

 

 

ストライド・ピアノもブギウギ・ピアノもラグタイム・ピアノから派生・発展したスタイルだ。商業録音もほぼ同時期から存在する。ストライド・ピアノの方がちょっと古いんじゃないかと思われているようだけれど、それは全米でのブギウギ・ピアノの流行の方がちょっと遅かったというだけの話。

 

 

モンクのピアノはそういう古いスタイルを残していて、それはLP時代になってからの録音でも分るんだけど、もっとはっきり聞取れるのが、やはりさっき書いた最初期のブルーノート録音だ。1947年から52年まで。LPでもCDでもいろんな形でバラバラに出ていたんだけど、今では完全集にまとめられている。

 

 

別テイクも含めブルーノートに録音されたシングル曲は全部で47トラック。それが『ラウンド・ミッドナイト:ザ・コンプリート・シングルズ(1947-1952)』というセットに録音順にまとめて収録されている。ほぼ全て管楽器入りのコンボ・セッションだけど、モンクのピアノもたくさんソロを弾いている。

 

 

モンクの重要な代表曲が既にたくさんあるんだよね。一番有名な「ラウンド・ミッドナイト」、僕の大好きな「ルビー、マイ・ディア」(これはピアノ・トリオ)も「ウェル・ユー・ニードゥント」も「エピストロフィー」も「エヴィデンス」も「モンクス・ムード」も「ストレート、ノー・チェイサー」も。

 

 

スタンダードも数多くやっていて、「エイプリル・イン・パリ」とか「ウィロー・ウィープ・フォー・ミー」とか「オール・ザ・シングス・ユー・アー」とか「アイ・シュド・ケア」とか様々。それらのうち最後の二曲はヴォーカリストが歌っているもので、ヴォーカル入りのモンクの録音はその後なくなる。

 

 

といっても僕はモンクの全録音を聴いているというファンでもないので、僕が知らないだけでその後のLP時代になってからもヴォーカリストが参加したセッションがあるのかもしれない。モンクのピアノだってブギウギ・スタイルな左手が聴けるものが他にもきっといろいろあるに違いないね。

 

 

モンクはレコード・デビューがビバップ全盛期真っ只中で、実際典型的なビバップ・ピアニストの代表格バド・パウエルの師匠格だし、マイルス・デイヴィスだってクラブでモンクが弾くコードを聞取ってマッチ箱の裏にメモし、翌日ジュリアードのピアノ室で確かめてみたとかいう逸話が残っているくらい。

 

 

それなのにモンク自身のピアノは、モダンな和声は使っているもののビバップらしさが全くない。そして指摘した通り古いストライド・ピアノやブギウギ・ピアノの痕跡が明確に残っていて、モダン時代のジャズ・ピアニストとしてはかなり特異な例外的存在だ。世代的には不思議ではないんだけど。

 

 

モダン・ジャズ・ピアニストでこんな人は他に一人もいないんじゃないだろうか。唯一ジャッキー・バイアードがそんな古いスタイルをモダン時代に持込んで、それをアヴァンギャルドな録音でも披露する人だ。まあこの二人くらいだよなあ。僕はストライド・ピアノやブギウギ・ピアノが大好きだからなあ。

 

 

ジャッキー・バイアードの方は正直言って僕はそんな特別ファンというわけでもない。リーダー・アルバムは一枚も持っておらず、他の人のサイドマンとしてやったもの、エリック・ドルフィーとかブッカー・アーヴィンとかチャールズ・ミンガスとかのアルバムで聴いているだけ。特にミンガスのバンドでの録音がいい。

 

 

それに比べたらモンクの方は書いたように全部持っている/聴いているわけじゃないんだけど、それでも大ファンだからCDでもたくさん持っていて愛聴盤が何枚もあるし、聴く度にいいなあと実感する。ひょっとしたらモダン・ジャズ・ピアニストでは最大のフェイヴァリットかもしれない。

 

 

何度も書くようだけどジェイムズ・P・ジョンスンとかウィリー・ザ・ライオン・スミスとかファッツ・ウォラーとか、またアール・ハインズとかテディ・ウィルスンとかアート・テイタムとか、そういう主に戦前に大活躍したジャズ・ピアニストのスタイルの方がモダンなものより断然好みの僕だもんなあ。

 

 

モンクは華麗でテクニカルに弾きまくるような人じゃないから、さほど上手いようには聞えないはずだ。そしてコンポーザーとしての魅力の方がはるかに大きい人なんだろうというのはおそらく間違いないだろうと僕も確信している。だけれどもいちピアニストとしても僕はかなり好きなんだよね。

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