英米スワンプ・ロック名盤二枚
ロックにもいろいろあるけれど、米LAスワンプ勢を起用したUKロックが個人的には一番好きかもしれない。これは最近のことではなくかなり前からそうなのだ。どうしてそうなのかは自分でも分らないんだけど、一番最初に聴いたのはおそらくデレク・アンド・ザ・ドミノスの『レイラ』。
デレク・アンド・ザ・ドミノス(エリック・クラプトン)の1970年『レイラ』は、米LAスワンプ勢を起用したUKロック名盤のなかでは最初に好きになったもの。これも例によって(こればっかりで申し訳ない)ロック好きの弟が買ってきた二枚組LPを僕も借りて大学生の頃から愛聴していた。
『レイラ』では、最初はエリック・クラプトンとデュエイン(かドゥエインにしてくれ、「デュアン」表記はそろそろ撲滅してくれ)・オールマンの二人にしか僕は耳が行ってなくて、ボビー・ウィットロック、カール・レイドル、ジム・ゴードンの三人のことは殆どなにも分っていなかったし注目もしていなかった。
でも大いに楽しんでいたからなんとなくの米南部臭みたいなものは当時から感じていたということなのかそうでもないのかちょっと分らないなあ。この三人のアメリカ人リズム・セクションのことを自覚的に聴き意識するようになったのは、おそらく大学生の終り頃かもうちょっと後のこと。
意識するようになったきっかけはこれもクラプトン経由で知って買って聴いたディレイニー(これも「デラニー」表記はもうやめてくれ)・アンド・ボニー&フレンズの『オン・ツアー・ウィズ・クラプトン』だったように思う。このアルバムにはクラプトンの他デイヴ・メイスン、そして2001年のデラックス盤で初出のジョージ・ハリスンも参加。
そしてこれのリズム・セクションがまさにボビー・ウィットロック、カール・レイドル、ジム・ゴードンの三人だった。その他ボビー・キーズ&ジム・プライスという数年後にローリング・ストーンズのこれまたスワンプ・ロック名盤である『メイン・ストリートのならず者』に参加するホーン奏者も入っている。
さらにリタ・クーリッジも参加しているよね。リタ・クーリッジもスワンプ系ヴォーカリストと言っていいだろうけれど、個人的にはさほどの思い入れはない。個人的には彼女自身のアルバムよりも、ジョー・コッカーの『マッド・ドッグズ&イングリッシュメン』に参加していたり、あるいはマーク・ベノを起用したとか。
そのジョー・コッカーの1970年『マッド・ドッグズ&イングリッシュメン』は米LAスワンプ勢を起用したUKロックという意味では僕にとって理想的な一枚。これにもボビー・キーズ&ジム・プライス、そしてカール・レイドルやジム・ゴードン、そしてなによりリオン・ラッセルがいる。
そしてそのリオン・ラッセルこそロサンジェルスを拠点として活動した米スワンプ勢の総帥みたいな存在だ。彼はオクラホマ州タルサで活動をはじめたいわゆるタルサ・サウンドが出発で、ロックンロールとそのルーツでもあるブルーズ、R&B、ゴスペルなどを渾然一体とさせた音楽を創り出していた。
リオン・ラッセルがセッション参加した音楽家は挙げていくとキリがないと思うほど多い。ディレイニー&ボニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、エリック・クラプトンなどLAスワンプの影響をモロにこうむった人達だけでなく、グラム・パースンズ、フランク・シナトラ、レイ・チャールズもいる。
リオン・ラッセルが一般的に名を挙げるのはやはり1958年にロサンジェルスに移り住んで当地で活動をはじめ、その後1969〜70年頃ディレイニー&ボニー&フレンズの一員としてアルバムに参加してツアーに帯同し、さらに前述のジョー・コッカーが「デルタ・レディ」を録音してヒットさせてからなんだろう。
「デルタ・レディ」は当初ジョー・コッカーの1969年作『ジョー・コッカー!』に収録されたものだけど、翌70年のライヴ録音『マッド・ドッグズ&イングリッシュメン』でもやっている。この時のライヴの音楽監督的役割を果したのがリオン・ラッセルだった。名曲「スーパースター」もやっている。
「スーパースター」はもちろんカーペンターズでヒットした曲で、カーペンターズも好きな僕(意外だろうか?)だけど、『マッド・ドッグズ&イングリッシュメン』ではリオン・ラッセルのピアノに乗せてリタ・クーリッジが歌っている。カーペンターズ・ヴァージョンの方がいいようには思うけれどね。
先にリタ・クーリッジで忘れられないといえばと言ってマーク・ベノの名前を挙げた。といっても僕は有名な1971年の『雑魚』(Minnows)しか聴いていないんだけど、あれは名盤だよなあ。名盤といっても地味極まりない内容で凄く目立たないアルバムだけど、味わい深いよなあ。
マーク・ベノの『雑魚』をLAスワンプ名盤に入れてもいいのかどうかちょっと僕はよく分らないんだけど、入れてもいいのであれば、あれは米LAスワンプ・ロック・アルバムのなかでは一番のフェイヴァリットだ。マーク・ベノはドアーズの「L.A. ウーマン」でギターを弾いたのが一番有名かも。
マーク・ベノもまたまたリオン・ラッセルのバンドで活動をはじめた人だから、LAスワンプ勢とは繋がりが深い。『雑魚』は一曲毎の詳しいパーソネルが載っていないし調べても分らないんだけど、一つはっきりしているのは聞えるスライド・ギターが名手ジェシ・エド・デイヴィスだということ。
その他マーク・ベノ自身の歌とギターの他、クラレンス・ホワイトやジェリー・マギーがギターを弾いているとか、ウッド・ベースがチャック・ドモニコ(カーメン・マクレエで知った人)、エレベがカール・レイドル、ドラムスがジム・ケルトナー、バック・ヴォーカルにリタ・クーリッジ、クライディ・キング、ヴェネッタ・フィールズなど。
つまり参加メンバーを見ればやはりこれはLAスワンプ・ロック・アルバムなんだと言っていいんだろうけど、聞えてくるサウンドからはディレイニー&ボニー系やそこから強い影響を受けたUKロック勢などのような強烈なスワンプ臭は薄いように思う。もっとすご〜〜く地味なサウンドだよなあ。
でも『雑魚』も音を聴けば、マーク・ベノその他多くが黒人ではないにもかかわらず米黒人ブルーズ〜R&B〜ゴスペルを基盤としたフィーリングが強く感じられるのは確か。特にジェシ・エド・デイヴィスのスライドのほか、スライドではないエレキ・ギターのソロに良いのが多いんだけど、誰が弾いているんだろうなあ。
ジェシ・エド・デイヴィスがスライドではないギター・ソロを弾いているのか、それともマーク・ベノ本人なのか分らないし、あるいはボビー・ウォマックが弾いているという説もある。そう言われてみれば確かにウォマックらしい新感覚派ソウル・ギターのような気もするなあ。二曲目「プット・ア・リトル・ラヴ・イン・マイ・ソウル」はグッと重心の低いグルーヴ感のあるソウル・ナンバーで、ここでのギター・ソロもかなり黒いからウォマックなのか?
https://www.youtube.com/watch?v=GaPrY4OZbxk
A面四曲目の「スピーク・ユア・マインド」はソウル・バラード、A面ラストの「バック・ダウン・ホーム」もソウルだし、やはりギターはウォマック?
https://www.youtube.com/watch?v=yUaFAY1eZw4
https://www.youtube.com/watch?v=LYzl2xymcXc
それら二つも歌に絡むオブリガートのギターがいい感じだし、女性バック・コーラスが入るのもスワンピーな雰囲気で最高だよねえ。かと思うとB面では一曲目「グッド・タイムズ」やラストの「ドント・レット・ザ・サン・ゴー・ダウン」なんかはイーグルズを先取りしたようなカントリー・ロック路線。
https://www.youtube.com/watch?v=EAzAXRcg7Sw
https://www.youtube.com/watch?v=xwKxa_Lg9A8
B面二曲目のブルーズ・ロック・ナンバー「ベイビー・アイ・ラヴ・ユー」で聞えるファズとワウの効いたギター・ソロは誰なんだ?そのおかげでちょっとサイケデリックな雰囲気もある。続くB面二曲目「ベイビー・アイ・ライク・ユー」もブルーズ・ロックだけど、オルガンが効いていてドアーズみたいだ。
https://www.youtube.com/watch?v=ivSAhz6MPYo
https://www.youtube.com/watch?v=UJXAwCGJwAg
続くB面四曲目「ビフォー・アイ・ゴー」はまるでこの頃のハリウッド製青春映画のワン・シーンにピッタリ似合いそうな美メロ・バラードで、これだけは女性バック・コーラスの美しい響き以外は黒人音楽臭/LAスワンプ臭が殆どしない。ここではマーク・ベノの歌がいい感じ。
https://www.youtube.com/watch?v=h2ySy5WLV8U
なんだかマーク・ベノの『雑魚』について話したかっただけみたいになってしまったけれど、それくらい米LAスワンプ名盤では『雑魚』が、そしてLAスワンプ勢を起用したUKロック名盤ではジョー・コッカーの『マッド・ドッグズ&イングリッシュメン』が、僕のなかでは最大のフェイヴァリットなんだよね。
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