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2016/04/11

キャプテン・ビーフハートはブルーズマン

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キャプテン・ビーフハートの最高傑作は1969年の『トラウト・マスク・レプリカ』だということになっている。これには僕も異論は全くない。このアルバムのプロデューサーは盟友フランク・ザッパ。最初に聴いた時はなにがなんやらワケが分らなかったけど、今では最高に楽しめる。

ただ個人的な好みだけで言えば『トラウト・マスク・レプリカ』ではなく、1967年のデビュー・アルバム『セイフ・アズ・ミルク』が一番のフェイヴァリットなんだよね。そしてこれが一番最初に好きになったビーフハートだった。これは明快なブルーズ・アルバムで、ライ・クーダーも参加している。

どの曲でライ・クーダーが弾いているのかちゃんとしたことが載っていないし調べても情報が出てこないんだけど、アルバム一曲目のミシシッピ・デルタ〜シカゴ・スタイルなストレート・ブルーズ「シュア・ナフ・ン・イエス・アイ・ドゥ」冒頭から聞える印象的なスライド・ギターはライなんだろうか?
この一曲目なんかはそのまんまなブルーズなわけだけど、『セイフ・アズ・ミルク』はホワイト・ブルーズマンであるというビーフハートの特徴というか本質というか拠って来たるところを分りやすく明確に示しているから、ブルーズ好きの僕は一回聴いて即大好きなアルバムになった。

白人ブルーズ・シンガーといえる音楽家で僕が一番好きなのはエルヴィス・プレスリーとボブ・ディランの二人なんだけど、長年キャプテン・ビーフハートは彼らに次ぐ三位だった。この三人のうちエルヴィスとビーフハートが白人ブルーズ歌手だというのは分りやすいはずだけど、ディランは分りにくいかもしれない。

ディランがどういう具合にブルーズを消化して自分の音楽の本質の一部として活かしているかはまた別の記事にしたいと思う。エルヴィスはデビュー当時から亡くなるまでブルーズ・ナンバーばっかり歌っているし、元々「黒人みたいにブルーズ〜R&Bを歌える白人」という触込みだったわけだし。

そしてビーフハートは歌い方というか声質はハウリン・ウルフそっくりの濁声だよねえ。何度も強調しているように濁った音・声が澄んだキレイな音・声より好みな僕なんかにとっては最高なんだよねえ。彼がどうやってああいう声・歌い方になったのか知らないが、あるいはウルフを意識したのかもしれない。

『セイフ・アズ・ミルク』でというよりビーフハートの全アルバムでストレートなブルーズ形式の曲は案外多くなくて、『セイフ・アズ・ミルク』でも前述の「シュア・ナフ・ン・イエス・アイ・ドゥ」くらいなんだけど、その他殆どの曲がブルーズ・オリエンティッドであることは聴けば分るはず。

もちろんビーフハートの音楽のベースになっているのはブルーズだけではない。ガレージ・ロックやサイケデリック・ロックな雰囲気もあるし、なかには彼にしては珍しくポップな曲だって混じっている。さらに『トラウト・マスク・レプリカ』ではパンクやフリー・ジャズ的な要素も聞取れるわけだし。

『セイフ・アズ・ミルク』ではB面三曲目だった「プラスティック・ファクトリー」も相当にブルージーだというかこれもストレート・ブルーズだね。ちょっとハウリン・ウルフの「スプーンフル」に似ているし。この曲ではリトル・ウォルターみたいなブルーズ・ハープが聞えるけれど、ビーフハート本人によるもの。
こういうのを聴いているとやっぱりビーフハートはブルースマンなんだと実感するし、だからもろデルタ〜シカゴ・ブルーズな『セイフ・アズ・ミルク』は最高だよなと思ってしまう。デビュー・アルバムだからまだブルーズを自己の音楽の中に完全に消化しきれずストレートに出ているということかもしれないけれどね。

『セイフ・アズ・ミルク』にはタジ・マハールも参加していることになっているんだけど、ギターではなくタンバリンとパーカッションらしく、しかもどこで演奏しているのかは聴いてもちっとも分らない。このアルバムでのタジはまあ無視してもいいんだろうというかタジだと分るものが聞えないもんなあ。

僕はブルーズ好きだから書いたように「シュア・ナフ・ン・イエス・アイ・ドゥ」や「プラスティック・ファクトリー」が大好きなんだけど、一般的にビーフハート・ミュージックのオリジナリティを発揮していると言えるのは、A面ラストだった「エレクトリシティ」とかだろう。テルミンも聞えて面白い。
ビーフハートの声も「エレクトリシティ」が一番歪んでいるような気がするし、曲調もサイケデリックでアヴァンギャルドだし、こういうのが後にもっと大きく開花するビーフハート・ミュージックを形成したんだろうね。「ドロップアウト・ブギ」とか「アバ・ザバ」みたいな時代の象徴みたいな曲もある。

語りからはじまるB面一曲目だった「イエロー・ブリック・ロード」なんかは相当にポップで、ちょっとおかしな表現だと思うけど、ビーチ・ボーイズを連想させるようなところがあるような気がする。ビーフハートとビーチ・ボーイズを結びつける人なんていないだろうけど、他にもポップな曲はある。
それにしても『セイフ・アズ・ミルク』の次作1968年の『ストリクトリー・パーソナル』二曲目に「セイフ・アズ・ミルク」という曲が入っていて、リイシューCDでは『セイフ・アズ・ミルク』のボーナス・トラックとして同曲の別テイクが入っていたり、三曲目の「トラスト・アス」も同様だったりするけど。

これは『ストリクトリー・パーソナル』は『セイフ・アズ・ミルク』のセッション時の曲群の再録音が多いことに原因があるらしい。そしてやはりブルーズ中心ではあっても、前者の方が後者よりもサイケデリックな要素が強く出ていて、次作『トラウト・マスク・レプリカ』への前兆みたいに聞える。

『セイフ・アズ・ミルク』や『ストリクトリー・パーソナル』と同じくらい好きなのが1971に出た『ミラー・マン』。99年にブッダ・レコーズが出したCD『ザ・ミラー・マン・セッションズ』で愛聴しているけど、これが一番ストレートにブルーズ・オリエンティッドなジャムをやっている。

『ザ・ミラー・マン・セッションズ』収録曲もやはり1967年のセッションでの録音らしく「トラスト・アス」「セイフ・アズ・ミルク」の別テイクが入っているし、多くが『ストリクトリー・パーソナル』に再録音したものが収録されているから、ブルーズ・ファンの僕が大好きなのは当然だ。

19分ある一曲目の「タロットプレイン」とか、15分ある(現行CDでは)三曲目の「ミラー・マン」とか延々とブルーズ・ジャム・セッションを繰広げていて最高なんだよね。ライヴでは同じように長尺ブルーズ・ジャムをやっていたほぼ同時期の英バンド、クリームとかよりもいいかもしれないね。
それら初期録音三作をじっくり何度も聴き込んでからじゃないと、リアルタイム・リリースでは三作目の最高傑作『トラウト・マスク・レプリカ』の面白さは僕にはなかなか分らなかった。ビーフハートがブルーズマンだということが分ってからは『トラウト・マスク・レプリカ』も楽しめるようになった。

ビーフハートの『トラウト・マスク・レプリカ』に至る初期音源という点でかなり面白かったのが、1999年に出たCD五枚組『グロウ・フィンズ:レアリティーズ  1965–1982』。タイトル通り未発表のレア音源集だけど、最初の二枚が66〜68年のセッションでそのまんまのブルーズばかり。

二枚目に入っている1968年のライヴでは「ローリン・アンド・タンブリン」もやっている。もちろん多くの黒人/白人ブルーズマンがやっているあのミシシッピ・デルタ由来のブルーズ・スタンダードで、マディ・ウォーターズみたいなスライドとハウリン・ウルフなビーフハートの歌が最高だ。
ビーフハートの音楽にはいわゆる<ソロ>というものがない。全く一つもないんじゃないかなあ。前述の『ザ・ミラー・マン・セッションズ』収録の長尺二曲ですらソロがない。演奏全体を通してビーフハート含めバンドの全員が一斉に演奏していて、いわば全員が同時にソロをやっているとも言える。

こういう楽器のソロが一切ないような音楽は、ソロこそ命であるジャズのリスナーである僕には最初かなりとっつきにくかった。ジャズだけでなくブルーズやロックなどでも、多くの場合は歌の前や間奏などで楽器のソロが入ったりするしなあ。ビーフハートと彼のマジック・バンドは完全なる集団合同演奏だ。

そんな感じで『トラウト・マスク・レプリカ』に至る初期ビーフハートのブルーズのことを書いていたら、肝心のその大傑作『トラウト・マスク・レプリカ』や、2012年になってようやくオリジナル通りの姿を現した76年録音の傑作『バット・チェイン・プラー』について書く余裕がなくなってしまったなあ。また別記事にしようっと。

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