« Prince (1958 - 2016), Requiescat in pace | トップページ | シナトラのトーチ・ソング集 »

2016/04/23

チャーリー・ヘイデンのスペイン民俗音楽

81izom5dfxl_sl1417_









チャーリー・ヘイデンという音楽家についてはあまり熱心に聴いていない僕で、いろんなジャズマンの作品にサイドマンとして参加しているのを聴いているだけで、おそらくオーネット・コールマンの一連のアルバムでベースを弾いているのがヘイデンを聴いた最初に間違いない。『ジャズ来たるべきもの』などなど。

 

 

もちろんそういったオーネットのフリー・ジャズ・アルバムでのヘイデンのベースはなかなか良くて僕も気に入っているのに、ヘイデンのリーダー・アルバムを殆ど聴いていないのはどうしてなんだろうなあ。それでも『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』だけは大好きでたまらない。

 

 

ヘイデンの『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』は1969年録音で翌70年リリース。しかしこれ、大学生の頃に最初に聴いた時はなにがなんやらサッパリ理解できなかったなあ。いろんな名盤選で名前が挙る作品だからそれでちょっと買ってみただけで、聴いてもどこが面白いのやら。

 

 

今は面白くて大好きな『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』。これを当時全く理解できなかったのは、今聴直して考えるとその理由はよく分る。これはジャズではなくスペイン民俗音楽なんだよね。ヘイデンはジャズ・ミュージシャンでこのアルバムも一応ジャズ作品ということになってはいるけれども。

 

 

フリーなアヴァンギャルド・ジャズに分類されているらしいねこのアルバムは。大学生当時からフリー・ジャズも好きだった僕で、以前書いたようにオーネットもアルバート・アイラーも非常に明快で分りやすく聞えていたのに、『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』が分らなかったのはジャズじゃないからだ。

 

 

参加しているミュージシャンはほぼ全員フリー系のジャズ・ミュージシャンばかりで、ドン・チェリーとかデューイ・レッドマンとかラズウェル・ラッド(ジャズ漫画家ラズウェル細木さんのペン・ネームはここから)とか、まあそんな人達が中心だし、彼らの取るソロもアヴァンギャルドだし。

 

 

だけどそれだけなら当時の僕が理解できなかったような作品に仕上っているというのは理解できないんだよね。当時から『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』はスペイン内戦(1936−39)に題材を採った作品だというのはよく知られていて、僕もそういう文章を読んではいたんだけど。

 

 

しかしながらスペイン内戦については世界史的な知識はちょっと持っていたものの、音楽的な経験は皆無だったもんなあ。そもそも内戦を題材にしたスパニッシュ・フォーク・ソングを一秒たりとも聴いたことがなかったし、そうでなくてもスペイン音楽全般についてもパコ・デ・ルシアくらいしか知らなかった。

 

 

余談だけどそのパコ・デ・ルシア。僕が大学生の時におそらくただ一人熱心に聴いていたスペイン人音楽家で、フラメンコ・ギタリスト。ジャズ・ファンにはアル・ディ・メオラやジョン・マクラフリンと組んだ例のスーパー・ギター・トリオで有名だろうけれど、あのギター・トリオは僕はさほど好きではなかった。

 

 

ああいうのより僕はパコが自分の本領であるフラメンコをやっているものの方が圧倒的に好きで、当時松山で彼のコンサートがあって出掛けていったら、あまりの素晴しさに絶句・口あんぐりだったもんね。その時のパコのグループはほぼ全員ナイロン弦ギタリストだったような。他に少しの楽器奏者もいた。

 

 

そのナイロン弦のスパニッシュ・ギターを弾くパコの指さばきも見事の一言。ナイロン弦ギターであれだけアヴァンギャルドに弾くまくる人は僕は他にあんまり知らないんだなあ。完全にフラメンコ音楽だったグループのサウンドも凄く魅力的で、しかし会場は超ガラガラ。ほぼ誰もいないというのに近かった。

 

 

あと大学生の頃には、何度も書いているようにマイルス・デイヴィスやチック・コリアなどがやるスパニッシュ・スケールを使った曲と演奏は大好きだったんだけど。でもまあ彼らはスペインの音楽家ではないからなあ。スペイン音楽とその旋律に魅了されそれ風に仕立てたあくまでジャズ作品だったからなあ。

 

 

大学生の頃はその程度のものだったんだから、今聴くとスペイン民俗音楽作品だとしか思えないヘイデンの『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』の面白さがちっとも分らなかったのも当然だったんだろう。今聴くと最高に面白い。政治や社会的メッセージ性のことはやはりあまりよく分らないけれど。

 

 

A面一曲目「ジ・イントロダクション」からしてもはや普通のフリー系モダン・ジャズの雰囲気ではない。これを書いたのはカーラ・ブレイでピアノも弾いている。ホーン群などのアレンジも間違いなくカーラ・ブレイだ。ビバップ以後のモダン・ジャズではあまり使われない普通のクラリネットも聞えたりする。

 

 

カーラ・ブレイは『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』最大のキー・パースンで、名義がチャーリー・ヘイデンのリーダー・アルバムということになっているだけじゃないのかと思うくらい重要な役割を果している。全八曲中三曲のオリジナルを書き、それ以外の曲も全てカーラ・ブレイによるアレンジなんだよね。

 

 

ってことはこのアルバム、カーラ・ブレイの作品といっても過言じゃないくらいだなあ。彼女は自分名義のリーダー作でも1980年の『ソーシャル・スタディーズ』に「リアクショナリー・タンゴ」みたいな作品があるし、それは曲名通りタンゴなんだけど、だから旋律はスパニッシュだし、一体何者なんだろうこの人?

 

 

一体何者なんだろう?って僕もカーラ・ブレイは大好きでアルバムをたくさん持っていて愛聴しているんだけどね。でも大学生の頃はヘイデンの『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』での大きすぎる貢献のことは全く頭に入っていなかった。書いたように音楽自体が理解できなかったから。

 

 

『リベレイション・ミュージック・オーケストラ』A面二曲目の三部構成の組曲「エル・キント・レヒミエント」〜「ロス・クワトロ・ヘネラーレス」〜「ヴィヴァ・ラ・キンセ・ブリガーダ」は全てスペインの伝承民俗曲。これらも全てカーラ・ブレイのアレンジだ。21分もあるんだからこれがハイライトだね。

 

 

「エル・キント・レヒミエント」ではいきなりナイロン弦のスパニッシュ・ギター(サム・ブラウン)が鳴り始め、ナイロン弦ギターというのはジャズで使われることは多くない楽器だし、弾いているメロディも全然ジャズじゃないスペイン民俗音楽だし、やはりこりゃジャズじゃなくてスペイン音楽だよなあ。

 

 

ナイロン弦のスパニッシュ・ギターに続きカーラ・ブレイのアレンジしたホーン・アンサンブルが入り、その後トランペット・ソロ(ドン・チェリー?マイク・マントラー?)になる。そのトランペット・ソロは一応少しスパニッシュな雰囲気があるものの、全体的にはやはりフリー・ジャズな吹き方だなあ。

 

 

21分におよぶ三部構成の組曲のなかでは途中でヴォーカルというか人の声が聞えるけれど、録音に参加して誰かが歌っているような感じではなく、今で言えばサンプリング、当時ならおそらくテープかなにかに録ってあるものを挿入しているように聞える。スペイン語だからやはりなにか内戦関係かなあ?

 

 

なおサム・ブラウンの弾くナイロン弦(あるいは1969年当時ならまだガットだったかもしれないが)のスパニッシュ・ギターによる完全なスペイン民俗音楽的旋律は、この組曲全体にわたってほぼ途切れることなく聞えていて、ヘイデンのベース・ソロの時に消えている程度で全面的にフィーチャーされている。

 

 

三部構成の組曲は曲名もスペイン語だし(日本語にすれば「第五連隊」「四人の将軍」「第十五旅団万歳」となるからやはりスペイン内戦に関連したスパニッシュ・フォーク・ソングなんだろう)、曲調も楽器の使い方も完全にスペイン音楽で、これがアルバムの目玉だからかつて理解できなかったのも無理はない。

 

 

なお書いたようにトランペット・ソロだけでなく、ラズウェル・ラッドのトロンボーン・ソロもフリー・ジャズな手法だし、ガトー・バルビエリ(デューイ・レッドマンじゃなくガトーだと思うんだけど)のテナー・サックス・ソロもまあフリー・ジャズだよねえ。そのあたりはやはりジャズメンだ。

 

 

壮大な三部構成の組曲があるA面に比べたらB面はやや小粒。ベース・ソロではじまる一曲目のヘイデンのオリジナル「ソング・フォー・チェ」は、曲名通りチェ・ゲバラにに捧げられたもの。やはりナイロン弦(ガット?)のスパニッシュ・ギターも聞える。後半のホーン・アレンジはやはりカーラ・ブレイだね。

 

 

二曲目の「ワー・オーファンズ」はヘイデンもかつて共演したオーネット・コールマンのオリジナル曲でアレンジはやはりカーラ・ブレイ。彼女のピアノ・ソロが活躍するけれど、これは特にスペイン風な曲ではない。「戦争孤児」という曲名がスペイン内戦関連であることを示唆している程度のことだなあ。

 

 

僕にとってB面で一番印象深いのはラストの「ウィ・シャル・オーヴァーカム」。ピート・シーガーでみなさんご存知の古い伝承ゴスペルで、1969年当時なら公民権運動のアンセムのような名残があった。これが入っているのはやはり時代というものだろうなあ。翌70年にはルイ・アームストロングだって歌っているもんね。

 

 

その1970年録音のサッチモ・ヴァージョンの「ウィ・シャル・オーヴァーカム」(『ルイ・アームストロング・アンド・ヒズ・フレンズ』)が僕はこの有名曲を聴いた最初だったのだ。それには大勢のバック・コーラス勢が参加していて、そのなかにマイルス・デイヴィスやオーネット・コールマンもいるんだよね。

« Prince (1958 - 2016), Requiescat in pace | トップページ | シナトラのトーチ・ソング集 »

ジャズ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: チャーリー・ヘイデンのスペイン民俗音楽:

« Prince (1958 - 2016), Requiescat in pace | トップページ | シナトラのトーチ・ソング集 »

フォト
2024年3月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ