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2016/05/10

キースのヨレヨレ・ヴォーカル

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僕にとって「キース」とだけ言えば、それはジャレットでもエマースンでもなくリチャーズに決っているんだけど、そのキース・リチャーズがローリング・ストーンズの代表曲の一つ「ギミー・シェルター」を歌っているものがある。『アイリーン』という五曲収録のEP盤に入っていて、これはれっきとした公式盤CD。

 

 

キースが「ギミー・シェルター」を歌ったのは1992/93年のメイン・オフェンダー・ツアーでのことで、あまり詳しいことは知らないのだが、このツアーではこの曲をわりと常時やったらしい。言うまでもなくこれは1969年のストーンズのアルバム『レット・イット・ブリード』一曲目がオリジナル。

 

 

その後のストーンズのライヴでも現在に至るまでの定番曲で、歌うのはもちろんミック・ジャガー。ストーンズではこれをミック以外が歌うなんてことはもちろん全くない。それをキースがストーンズではなく自分のバンドのツアーで歌ったもんだから、キース・ファンは狂喜乱舞、ミック・ファンは大ショック。

 

 

ミック自身もキースがこれを自分のツアーで歌ったことにはやや批判的というかあまりいい気分ではなかったらしい。ちなみにミックはこの1992/93年のキースのライヴ・ツアーを何度か視察していて「ギミー・シェルター」をキースが歌うのも聴いたんだそうだ。どんな気分だったんだろうなあ。

 

 

キースは1988年に初ソロ・アルバム『トーク・イズ・チープ』をリリースし、その後92年に『メイン・オフェンダー』をリリースしている(昨2015年の『クロッシード・ハート』は買っていない)。歌っているのはもちろん全部キースで、先に書いたメイン・オフェンダー・ツアーは二作目のタイトルから。

 

 

またファースト・ソロ・アルバムをリリースした直後の1988/12/25のライヴを収録したキース・リチャーズ・アンド・X・ペンシヴ・ワイノウズ名義の『ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・パレイディアム』というライヴ・アルバムもリリースしている。これにもストーンズ・ナンバーがある。

 

 

『ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・パレイディアム』収録のストーンズ・ナンバーは、収録順に「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」(1963年シングル)、「トゥー・ルード」(『ダーティ・ワーク』)、「ハッピー」(『メイン・ストリートのならず者』)の三つ。後者二つはストーンズでもキースが歌っている。

 

 

だから「トゥー・ルード」と「ハッピー」をキースが自分のライヴで採り上げて歌うのは不思議ではないし、また「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」はストーンズ・ヴァージョンで有名になった曲(だから日本のグループ・サウンズ、ザ・タイガースもやった)だけど、元々ストーンズの曲ではないカヴァーだからね。

 

 

それに『ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・パレイディアム』での「タイム・イズ・オン・マイ・サイド」ではキースは歌わず女性ヴォーカリストのサラ・ダッシュが歌うもんね。サラ・ダッシュといえば『トーク・イズ・チープ』収録の「メイク・ノー・ミステイク」でもキースとデュエットしているね。

 

 

その「メイク・ノー・ミステイク」は『ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・パレイディアム』でもやっていて、やはりキースとサラ・ダッシュがデュエットで歌うんだけど、これはもう断然『トーク・イズ・チープ』のオリジナル・スタジオ・ヴァージョンがいい。なぜかといえば完全なるハイ・サウンドだからだ。

 

 

『トーク・イズ・チープ』の「メイク・ノー・ミステイク」は最初からハイ・サウンドを意識したような曲創りで、なんとウィリー・ミッチェルがアレンジしたメンフィス・ホーンズが参加して演奏しているもんね。柔らかい感じのキースのギター・カッティングもまるでティーニー・ホッジズみたいだ。

 

 

 

『トーク・イズ・チープ』でこんなハイ・サウンドなソウル・ナンバーはこれ一曲だけで、他はキースらしいストレートなロックンロールばかりだから、「メイク・ノー・ミステイク」だけが異様に浮上がっている。もちろん僕はこの曲の大ファン。

 

 

もちろんこれのかなり前からストーンズにソウル・ナンバーはあって、僕が一番好きなのは1978年の『女たち』B面四曲目の「ビースト・オヴ・バーデン」。これはカーティス・メイフィールドみたいなニュー・ソウル。キースの弾くギターのカッティングだってカーティスのそれに似ている。

 

 

 

そうじゃなくなって元々アメリカ黒人音楽の真似ばっかりしていたバンドなのであって、ブルーズはもちろんR&B〜ソウルな曲は以前からかなり多い。だから中心人物のキースが自分のソロ・アルバムで「メイク・ノー・ミステイク」みたいなそのまんまなハイ・サウンドをやっても驚くことはないんだろうけど。

 

 

キースはストーンズでもまあまあ歌っている。僕の知る限りストーンズでキースが歌った最初は1968年の『ベガーズ・バンケット』ラストの「地の塩」だ。しかしこの曲ではミックもかなり歌っているし、途中から女性ヴォーカル・コーラスが入るので、キースの歌をフィーチャーしたとも言いにくい感じ。

 

 

 

だから次作1969年『レット・イット・ブリード』B面二曲目の「ユー・ガット・ザ・シルヴァー」がキースの歌を全面的に使ったストーンズでは最初の一曲ということになるんだろう。そしてその次々作72年の『メイン・ストリートのならず者』二枚目A面一曲目の「ハッピー」がキースの歌う代表曲。

 

 

 

一般にストレートなロックンロールをキースやストーンズに求めるリスナー(が世代を問わず多いと思う、ひょっとしそれしか求めていない?)には、この「ハッピー」や1978年『女たち』B面三曲目の「ビフォー・ゼイ・メイク・ミー・ラン」が一番いいものということになるはず。

 

 

 

僕も「ハッピー」や「ビフォー・ゼイ・メイク・ミー・ラン」は大好きで、特に『女たち』に入っている後者は、まるでガイコツみたいな骨格だけの間の多いスカスカなサウンドで、音をビッチリと敷詰めるタイプよりそういうものの方が好みな僕(だってマイルス・デイヴィス・ファンだから)には楽しめる。

 

 

また1981年の『刺青の男』の「リトル T&A」とか、83年『アンダーカヴァー』の「ワナ・ホールド・ユー」とか、あるいは復帰作89年の『スティール・ウィールズ』の「キャント・ビー・シーン」とか、ストーンズでキースが歌うストレートなロックンロール・ナンバーももちろん楽しい。

 

 

だけれども僕がキースの歌をいいなと本当に思った最初は、1980年『エモーショナル・レスキュー』ラストのバラード「オール・アバウト・ユー」なのだ。ホーン・セクションの演奏から入り、それに続いてかなりヨレヨレとしたキースのヴォーカルが出てきた瞬間に、こりゃいいね!と思った。

 

 

 

その「ヨレヨレとした」という形容が、キースの歌うバラードにまさにピッタリ来るようなものじゃないかなあ。あるいはあの「オール・アバウト・ユー」だけだったのだろうか?いやそんなことはないね、先に書いた1989年の『スティール・ウィールズ』ラストにも「スリッピング・アウェイ」がある。

 

 

 

この「スリッピング・アウェイ」こそストーンズでキースが歌う最高曲だと信じている僕。キース自身もかなり気に入っているのか、その後のライヴで繰返し歌っているし、また1995年の『ストリップト』にも再演ヴァージョンが収録されているもんね。

 

 

音源貼ったけど、どうだろうか?最高のバラードじゃないだろうか?ストーンズでキースが歌うものとは、僕にとってはこういうヨレヨレとしたバラード・ナンバーなんだよね。1994年の『ヴードゥー・ラウンジ』にはそういうキースの歌うヨレヨレ・バラードが二曲も入っている。いつも必ず一つだったのにねえ。

 

 

それが四曲目(『ヴードゥー・ラウンジ』は最初からCDでリリースされたのでA面B面はない)の「ザ・ワースト」と14曲目の「スルー・アンド・スルー」。後者の評価の方が高いらしいんだけど、僕は前者「ザ・ワースト」の方が圧倒的に好きだ。

 

 

 

お聴きになれば分る通りアクースティック・ギターを中心としたサウンドで、それにフィドル(ヴァイオリンという感じじゃないよね)とペダル・スティールが絡むという、ストーンズの得意分野の一つである米カントリー・ミュージック風味の一曲。キースのヨレヨレ・ヴォーカルも際立って素晴しい。

 

 

その後の『ブリッジズ・トゥ・バビロン』や『ア・ビガー・バン』でもキースはそれぞれ二曲ずつ歌っているんだけど、アルバム自体がどうにも面白くなかったもんなあ。アルバム・ジャケットもいただけない感じにしか見えないし。またベスト盤『フォーティ・リックス』にもキースが歌う新曲がある。

 

 

そのあたりはもうなんか99%が既発の持っている曲ばかりに一曲とか二曲とか新作を入れて発売されても、ちょっと触手が伸びないよなあ。寺田さんゴメンナサイ。なお最初に書いたキース名義の五曲収録の単独盤EP『アイリーン』のラストには、ブルーズ・スタンダード「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」があって、かなりいい感じ。

 

 

「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」はキースやストーンズにとっては縁の深い曲で、なんたってイアン・ステュアートが亡くなった際に追悼の意味で『ダーティ・ワーク』ラストに収録されているピアノ・インストルメンタル。あれはスチュの弾く「キー・トゥ・ザ・ハイウェイ」なんだよね。

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