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2016/05/12

今からロバート・ジョンスンを買うならば

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1990年リリースの二枚組CD完全集が売れまくったらしいロバート・ジョンスン。しかしあの二枚組は別テイクがマスター・テイクがそのまま続いて並んでいるのでやや聴きにくいと思う。だからあれで戦前ブルーズ入門をしたけれど、そのまま中古屋へ売払ってしまったという人が結構いるらしい。

 

 

僕の場合はアナログ時代からいろんなジャズメンのマスター・テイクに続いて別テイクがそのまま並んでいるようなレコード、例えばチャーリー・パーカーのサヴォイとかダイアルとかの録音集とかも好んで聴いていたし、「別テイクが並んで」と言っても全て一つしかないロバート・ジョンスンは聴きやすかった。

 

 

パーカーのサヴォイとかダイアルの録音完全集は別テイクが四つとか五つとか続いて並んで収録されているから慣れないとしんどいよね。それでもパーカーの場合は以前も触れた通り、テイクを重ねる度にかなり違う内容のソロを吹いているから聴き飽きはしない。サイドメンは同内容のソロだけど。

 

 

それでもやっぱりしんどいというジャズ・ファンもいるんだろう、サヴォイやダイアルのマスター・テイクだけの録音集もLP時代からあって現在CDでも出ているし、完全集でもワン・セッションごとにマスター・テイクだけ先に全部並べておいて、別テイクはその後にまとめてあるというCDも存在する。なぜか僕は全部持っている。

 

 

ロバート・ジョンスンの場合別テイクが発売されたのは、僕の知る限りでは前述の1990年コロンビア盤完全集が初だったから、アナログ時代には聴いたことがなかった。当時『キング・オヴ・ザ・デルタ・ブルーズ・シンガーズ』というLPレコードが第一集と第二集とあって、それでみんな聴いていたのだった。

 

 

その『キング・オヴ・ザ・デルタ・ブルーズ・シンガーズ』の第一集と第二集は別テイクが一切収録されていないばかりか、録音順とか録音場所なども無視して並べられていた。といっても当時の僕はそんなことは全く意識していないというか認識すらしていなかったのだ。でもよくできたLP二枚だったよね。ジャケット・デザインもいい。

 

 

それに比べたら1990年の二枚組CD完全集で初めてロバート・ジョンスンを聴いたというファンはちょっぴり可哀想だったかもしれない。僕らアナログ時代に聴き馴染んでいたファンはそんなこともなかったけれど、あの二枚組C完全集CDは最初に書いたようにやや聴きにくかったと思うもん。

 

 

CD化されたロバート・ジョンスンはそれが初めてだったはずだけど、聴きにくいというファンが多いせいなのか関係ないのか、その後いろんな別の形のリイシューCDが出るようになっている。前述のLP盤『キング・オヴ・ザ・デルタ・ブルーズ・シンガーズ』二枚も、そのままの形で二枚のCDになっている。

 

 

しかしそのアナログ盤二枚のCD化は完全集ではない。アナログ盤時代にそれを聴き慣れていたファンか、あるいはその時代のことを追体験したいという新しいファンが買っているんだろう。なにを隠そう僕も持っているが、殆ど聴いていないという有様。というかロバート・ジョンスンは何種類も持っている。

 

 

コンプリート集だけでも僕の持っているロバート・ジョンスンは三種類。音楽内容は完全に同一なのにどうして三つも持っているんだろう?まあジャケット・デザインなどパッケージングが三つとも少しずつ違ってはいるけれどね。そのうち一つはなぜかCD三枚組でそれが箱に入っているというもの。

 

 

そしてロバート・ジョンスンのCD完全集のうち、いろんな意味で一番聴きやすくオススメだと僕が思うのが、2011年リリースの二枚組『ザ・センティニアル・コレクション』だ。現在の僕はもうこれしか聴かないんだよね。

 

 

 

この『ザ・センティニアル・コレクション』のなにがいいって、まず第一に一枚目に1936年11月のサン・アントニオ録音、二枚目に翌37年6月のダラス録音と明瞭に分けて収録されていて、ロバート・ジョンスンのレコーディング・セッションはこの二つだけだから大変に分りやすい。

 

 

しかも一枚目のサン・アントニオ・セッションも二枚目のダラス・セッションも、まずマスター・テイクだけ先に全部まとめてあって、別テイクは「オルタネイツ」と書かれてその後ろにまとめて収録されているから、これでロバート・ジョンスンを初めて聴くという入門者でもとっつきやすいだろう。

 

 

音質も『ザ・センティニアル・コレクション』では1990年の初CD化の時のものよりもかなり向上している。といっても以前書いた何年のリリースなのかなんなのかどこにも書いていない謎の金色CD『キング・オヴ・ザ・デルタ・ブルーズ・シンガーズ』第一集のとんでもない高音質には及ばないけど。

 

 

まあでもその金色CDがどうしてこうなっているのか全く分らない謎のというか異常な高音質だったのであって、それを知らない(というリスナーが殆どのはず)場合には『ザ・センティニアル・コレクション』で充分な音質向上を実感できるはず。もっとも1936/37年録音だからほどほどではあるけれど。

 

 

そういうわけで、CD二枚の収録形式も音質的にもロバート・ジョンスンの『ザ・センティニアル・コレクション』は、入門者にはもちろん従来からのファンにもオススメしやすい内容の完全集なんだよね。1990年の二枚組で入門し挫折し中古屋へ売払ったというリスナーの方は是非買ってみてほしい。

 

 

肝心のロバート・ジョンスンの音楽そのものについてはもう僕なんかが言うようなことがなに一つ残っていないはず。ちょっとだけ書いておくと、一応デルタ・ブルーズマンということになっている彼は一聴明瞭なようにさほど典型的なデルタ・ブルーズマンではなく、リロイ・カーなどシティ・ブルーズの影響がかなり色濃い。

 

 

戦後シカゴ・ブルーズやそれがルーツになった英米ブルーズ系ロックなどの土台になっているブンチャブンチャという、例えば「スウィート・ホーム・シカゴ」や「ランブリン・オン・マイ・マインド」や「カム・オン・イン・マイ・キッチン」その他多くで聴けるリフ・パターン(ウォーキング・ベース)は元はブギウギのものだ。

 

 

ロバート・ジョンスンは1936/37年の録音しか存在しないので古い人のように思われているかもしれないけれど、同じくデルタ出身で戦後シカゴに出て大成功したマディ・ウォーターズとほぼ年齢差のない完全なる新世代の新感覚カントリー・ブルーズマンだ。都会のブルーズもたくさん吸収している。

 

 

ギターとヴォーカルの腕が評判になりレコーディング・セッションを行うようになる前に、アメリカ各地でいろんなブルーズやあるいはブルーズだけでなく様々な音楽を聴いたはず。前述のブギウギ・ベースのリフ・パターンも間違いなくその時代のブギウギ・ピアニストの左手を模したものだからね。

 

 

 

また僕が昔はどこがいいんだかサッパリ分らなかったのに今では最も好きなロバート・ジョンスンの音源の一つである1936年サン・アントニオ録音の「ゼイア・レッド・ホット」。これはいわゆるブルーズ形式の曲ではなくラグタイムなのだ。彼の残した録音でそういうのはこれ一曲のみだけど面白い。

 

 

 

「ゼイア・レッド・ホット」はブルーズ形式じゃないから、普通のブルーズ・ファンはあまり熱心に聴いていないかもしれないけれど、再結成後のリトル・フィートが1996年リリースのライヴ盤『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』で「キャント・ビー・サティスファイド」とのメドレーでやっている。

 

 

「キャント・ビー・サティスファイド」はマディ・ウォーターズ・ヴァージョンでお馴染みのデルタ・ブルーズ・ナンバーで、それとブルーズ形式の曲ではないロバート・ジョンスンの「ゼイア・レッド・ホット」が繋がっていてなかなか面白い。しかも「ゼイア・レッド・ホット」部分ではジャズ風な管楽器も入る。

 

 

ラグタイム・ナンバーなんだからディキシーランド・ジャズ風の管楽器アンサンブルやソロが入っても全然不思議じゃないよね。『ライヴ・フロム・ニオン・パーク』二枚組は僕はなかなかお気に入りのリトル・フィートのライヴ盤。ロウエル・ジョージは当然いないけれど音楽内容はかなりいいんだよね。ロウエルのいないリトル・フィートなんてという方も是非。

 

 

ディキシーランド・ジャズ風ホーン・アンサンブルやクラリネットのソロが入るそのリトル・フィート・ヴァージョンの「ゼイア・レッド・ホット」を聴いて、僕はアッ!と思っちゃって、これはいいぞとロバート・ジョンスンのオリジナルも聴直して初めてその魅力に気付いたというのが正直なところ。

 

 

 

デルタ・スタイルでは一番いいと思うスタンダードの「ローリン・アンド・タンブリン」の焼直しである「イフ・アイ・ハッド・ポゼッション・オーヴァー・ジャッジメント・デイ」とかも大好きだけど、「ラヴ・イン・ヴェイン・ブルーズ」みたいなリロイ・カーの影響が強いものが僕はもっと好きなんだなあ。

 

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