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2016/05/18

バカラックもリオン・ラッセルもカーメン・マクレエで知った

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Close_to_you

 

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オリジナル録音ではないらしいんだけど、カーペンターズのヴァージョンでよく知られているバート・バカラックの有名曲「遙かなる影」(Close To You)。僕がこれを知ったのはカーメン・マクレエの二枚組ライヴ・アルバム『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』でだった。

 

 

最初バート・バカラックとハル・デイヴィッドが「遙かなる影」を書いた時は、ダイナ・ワシントンとライオネル・ハンプトンのためのものだったしい。大ヒットしたカーペンターズのヴァージョンで馴染んでいると、この事実は意外なものだろう。

 

 

 

このダイナの歌う「遙かなる影」は一体どのアルバムに入っているんだろう?僕はダイナの録音はほぼ全部持っているはずなんだけど、どれにも入っていない。彼女は1963年に亡くなっているんだが、上で音源を貼ったのは何年録音なんだろうなあ。調べてもどうもはっきりとしたことが分らない。

 

 

ヴァイブラフォンの音が聞えるからそれは間違いなくハンプトンだ。オーケストラの音も彼のバンドなんだろう。さらに調べてみるとハンプトンのどれかのアルバムに入っているという話だけれど、まあ買わなくてもいいかなあとは思う。でもお聴きになれば分る通りなかなか悪くないよね。

 

 

ダイナとハンプトンのことはともかく、「遙かなる影」は間違いなくカーペンターズの曲だと言っていいだろう。そして僕はカーペンターズの名前は知っていたものの(だって超有名だもんね)、歌は一つも聴いたことがなかった。熱心なジャズ・ファンになった頃は正直に言うとバカにしていた。

 

 

軽いというか軟弱というかそんなイメージをカーペンターズに抱いていた。聴いてみてのことならともかく、一曲として聴きもしないのにオカシイ話だよねえ。でも「イエスタデイ・ワンス・モア」とか「トップ・オヴ・ザ・ワールド」とかは、テレビかラジオでよく流れるのでなんとなく知ってはいた。

 

 

僕はカーペンターズでもモンキーズでもなんでもそういうポップな洋楽を聴きはじめるのはCDリイシューがはじまってからの話(山口百恵とかピンク・レディが好きだったのにヘンだ)で、なにがきっかけだったのか憶えていないけれど、聴いてみると特にカーペンターズなんかは素晴しく美しくて一発で降参してしまった。もっと早く聴けばよかったと痛感した。

 

 

特に「スーパースター」と「ディス・マスカレード」だなあ。この二曲を歌うカレンの歌声は背筋が凍りそうな魔力を秘めているような気がする。どっちもリオン・ラッセルの曲だ。後者の方だけはジョージ・ベンスンのヴァージョンで知っていた。でもあの頃のベンスンも僕はちょっとバカにしていた。

 

 

「スーパースター」も「ディス・マスカレード」もバカラックの一部の曲に似た官能ナンバーで、これらをカレンが可憐な声で歌うとかえってその官能性というか禁断の世界がより一層たまらなく胸に迫ってくる。そして作曲者のリオン・ラッセルもこれまたカーメン・マクレエの前述ライヴ・アルバムで名前を知った人。

 

 

『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』というアルバム・タイトルで分る通り、このカーメン・マクレエの1971年録音翌72年リリースのロサンジェルス録音のライヴ・アルバムは、様々な米国ソングライター(完全盤だと計39人)の有名曲を採り上げて歌ったもので、いわばコンポーザーズ・ショウケースだ。

 

 

大半はジャズ歌手がよく歌うスタンダードがやはり圧倒的に多くて、デューク・エリントン(「サテン・ドール」)やコール・ポーター(「アット・ロング・ラスト・ラヴ」)やヘンリー・マンシーニ(「酒とバラの日々」)やジミー・ヴァン・ヒューゼン(「アイ・ソート・アバウト・ユー」)などなど。

 

 

そしてそれらに混じってリオン・ラッセルの「ア・ソング・フォー・ユー」やバート・バカラックの「遙かなる影」など、このレコードを買った大学生当時の僕には馴染の薄い曲が混じっていたわけだった。普通のポップ〜ロック・ファンなら逆だよねえ。みなさんよく知って聴き馴染んでいるもののはず。

 

 

リオン・ラッセルが以前も書いたようにいわゆるLAスワンプの総帥的存在だったなんてこともま〜ったく1ミリたりとも知らず、カーメン・マクレエの歌う「ア・ソング・フォー・ユー」を聴いて(カーメンは曲紹介でダニー・ハサウェイで知った曲だと言っているが、その名前も謎だった)、いい曲だなあと思っただけ。

 

 

エルトン・ジョンは「ア・ソング・フォー・ユー」を<アメリカン・クラシック>と呼んでいるらしく、その通りリオンの書いた曲ではおそらく一番有名なものだろう。しかし個人的にはこの曲で初めてリオンを知った時良い曲だなとは思いはしたものの、別にリオンを追掛けることはしなかった。

 

 

それにリオンの曲をいろいろとたくさん聴くようになってからは「ア・ソング・フォー・ユー」はイマイチ好みではなくなってきて、先にも述べた「スーパースター」や「ディス・マスカレード」やその他いろいろともっと良い曲が、というと語弊があれば好きな曲がたくさん見つかるようになった。

 

 

それに比べてバカラックの「遙かなる影」はやっぱり何度聴いても最高だなあ。カーメン・マクレエのヴァージョンはチャック・ドモニコのウッド・ベース一本だけの伴奏で歌いはじめていて、途中まではずっとベース伴奏だけだから、今ではさほど好きな雰囲気でもなくなっている。

 

 

でもメロディの良さはベース一本の伴奏で歌うカーメンのヴァージョンでもよく分る。それで「遙かなる影」が大好きになって、しかしカーペンターズは前述の通りバカにしていたから追掛けず、ただ曲を書いたバート・バカラックに興味を持って、この人の曲をもっと聴いてみようと思ったのだ。

 

 

これこそが僕のバカラック事始めだったのだ。今では大好きでたまらなくなっている作曲家だし、去年書いたように2015年ベストテン新作部門第一位に選んだレー・クエンにすらバカラックを強く感じてしまうほど、敬愛するコンポーザーだ。

 

 

 

もう二曲カーメン・マクレエの『ザ・グレイト・アメリカン・ソングブック』で知って忘れられなくなったものがあって、一つは「ミスター・アグリー」。曲紹介でカーメンは私の一番好きな歌手の一人アリサ・フランクリンのアルバムで知った曲で、アリサが主にスタンダードを歌っていた頃のものだと言っている。

 

 

僕はその頃アリサ・フランクリンの名前だけは知っていたものの、ソウル歌手との認識しかなかったので、そんなスタンダードを歌っていた時期があるなんて初耳だった。何度も書いているように今ではこっちの方が僕好みであるコロンビア時代だ。

 

 

 

アリサの歌う「ミスター・アグリー」が入っているアルバムは1963年の『ラフィング・オン・ジ・アウトサイド』。ちょっと貼っておこう。 結構チャーミングなんだよね。直訳すると「醜男さん」になる歌詞の内容はラヴ・ソングだけどちょっとシリアス。

 

 

 

しかしこんなアリサ(カーメンの曲紹介を聴いても「アリサ」ではなく、ましてや「アレサ」なんかじゃなく、「アリーサ」だから、僕もそう表記すべきだろうけど)のコロンビア時代のアルバム、カーメンが歌ったこの1971年時点で知っている人は少ないのかと思ったら、そうでもないようだ。

 

 

というのはカーメンが曲紹介で「ミスター・アグリー」と言った瞬間に、客の一人が「オオ!」と大きな声をあげ強く拍手している。それを受けてカーメンは「今夜私が何一つ上手くできなかったのだとしても、これだけは上手くできたようだわ」などと笑いながら言っている。今考えてもちょっぴり意外だ。

 

 

まあでも僕はあまりいないだろうと思っているジャズ・スタンダードばかり歌っていたコロンビア時代のアリサ・フランクリンにも一定のファンは昔も今もいるってことなんだろうなあ。アトランティック移籍後にソウル歌手としてあまりに大成功したので、僕が勝手にそう思っているだけなんだろうね。

 

 

このアルバムで知った忘れられないもう一曲とは、カーメンが「ビリー・ホリデイの曲をやらずにステージを降りることはできないわ」と言って歌いはじめる「イッツ・ライク・リーチング・フォー・ザ・ムーン」。あなたに届くなんて月に届くようなもので不可能だわというような内容の片思いのラヴ・ソング。ジミー・ロウルズの絶妙なピアノ伴奏にも注目。

 

 

 

この時僕はまだビリー・ホリデイのヴァージョンを聴いていなかった。1936年ブランズウィック録音で、今ではどう聴いてもビリー・ホリデイはそういう30年代後半のコロンビア系録音が最高で、その後のデッカやコモドアやヴァーヴへの録音なんか聴けないよと思っているけれど、全然知らなかったもんなあ。

 

 

 

すぐにCBSソニーから出ていた『ビリー・ホリデイの肖像』という戦前コロンビア系録音のビリー・ホリデイ歌唱集の一枚物LPレコードを買って聴き、大好きでたまらなくなった。今はCD10枚組でこの時期のビリー・ホリデイ・コロンビア系録音は集大成されていて、最高の愛聴盤なんだよね。

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