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2016/05/25

たまにはウィントン・マルサリスのことでも書いてみよう

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ウィントン・マルサリスについて一度書いておかなくちゃなとは思うものの、今ではいいと思うものが殆どないように聞えるのでかなり腰が引け気味。書くといっても、いろんな方がいろんなことを言う「ジャズ史におけるウィントン・マルサリス登場の意義」とかそんなことを書く気はサラサラない。

 

 

そんな難しいことを考えるのは面倒くさいというのが最大の理由だけど、もう一つ、最近の僕はどんな音楽でもそんな歴史的意義だとかなんとかいうものよりも、単に音を聴いて美しい・楽しいというような種類の感慨しか持たなくなりはじめているので、音楽を聴きながらあんまり深く考えないんだなあ。

 

 

だからウィントン・マルサリスについても、今聴直して音楽的に美しい・楽しい・面白いという視点でしかモノを言うつもりはない。とはいえやはりウィントンにはいいものが殆どないように今では思うんだけど、僕が大学生の頃に彼が登場してきた時は、こりゃ凄いトランペッターが出てきたねと思ったものだった。

 

 

スタジオ・アルバムでは今聴いてもデビュー作の『ウィントン・マルサリスの肖像』の一部と、ハービー・ハンコック名義のワン・ホーン・カルテット作品『カルテット』が一番いい。どっちも1981年の録音・発売で、前者の半分と後者の全部は、実は東京での全く同じレコーディングからなんだよね。

 

 

『ウィントン・マルサリスの肖像』の半分はハービー・ハンコック+ロン・カーター+トニー・ウィリアムズという黄金のリズム・セクションに、サックスで兄のブランフォード・マルサリスが参加している東京録音。残り半分がニューヨーク録音で、ケニー・カークランド、ジェフ・テイン・ワッツなど。

 

 

『ウィントン・マルサリスの肖像』ではどう聴いてもハービー+ロン+トニーのリズム・セクションでやった録音がいい。残り半分もサックスはブランフォードだけど、ピアノのケニー・カークランド+ドラムスのジェフ・テイン・ワッツ(ベースは複数)がよくなるのはこの数年後からだから。

 

 

ブランフォードもケニー・カークランドもジェフ・テイン・ワッツも1985年頃までウィントンのバンドのレギュラー・メンバーだけど、85年頃の演奏と比べると81年の『ウィントン・マルサリスの肖像』での演奏はまだまだダメだ。既によかったとしてもハービー+ロン+トニーの演奏と並ぶとどうにも分が悪いだろう。

 

 

ウィントンはこの1981年のデビュー時からレギュラー活動のサイドメンにしていたのはケニー・カークランドやジェフ・テイン・ワッツなどで、ハービー+ロン+トニーの三人と一緒に録音するというのはコロンビア側のアイデアだった。もっとはっきり言えば日本の当時のCBSソニーの企画。

 

 

それで1981/7/28に東京は信濃町のCBSスタジオで、それら三人の黄金のリズム・セクションと一緒にたくさん録音し、それらのうちサックスのブランフォードが参加した四曲(ハービーだけは三曲)はウィントン名義のリーダー作に、ワン・ホーンでの録音はハービー名義の『カルテット』になったというわけ。

 

 

そういうわけなので『ウィントン・マルサリスの肖像』で黄金のリズム・セクションが揃っていいる三曲「RJ」「シスター・シェリル」「フー・キャン・アイ・ターン・トゥ」とハービー名義の『カルテット』は、サックスが入っているかいないかだけの違いであって、全く同じセッションからのもの。

 

 

アルバム全体で見たら大して面白くもない残り半分を含む『ウィントン・マルサリスの肖像』より、全曲が黄金のリズム・セクションであるハービーの『カルテット』の方が断然いいのは間違いない。しかし曲単位で言うと、前者B面一曲目の「シスター・シェリル」が一番いいように思う。

 

 

 

最高だよなあこれ。兄ブランフォードのソプラノ・サックスはどうってことないかもしれないが、リズム・セクション三人の演奏、特にハービーがいいね。そしてウィントンの吹くソロは、当時油井正一さんも「パッと花が咲くかのよう」と激賞していたもんね。

 

 

「シスター・シェリル」はこの1981年東京録音のためにトニー・ウィリアムズが書いたオリジナル曲。トニーは60年代からいい曲をいろいろと書いているよね。「シスター・シェリル」は後にトニーが自分のバンドでも録音・発売しているけれど、先のウィントン・ヴァージョンに遠く及ばない。

 

 

そういう「シスター・シェリル」みたいな傑作がありはするものの、アルバム全体ではやはり先ほど書いたようにハービー・ハンコック名義のワン・ホーン録音『カルテット』の方が断然いい。こっちではメンバーのオリジナル曲も1960年代マイルス・バンド時代のものが多く、その他スタンダードなど。

 

 

ハービーが1960年代に自分のオリジナル・アルバム用に書きフレディ・ハバードが吹いた「アイ・オヴ・ザ・ハリケーン」や、「ザ・ソーサラー」「ピー・ウィー」といった60年代マイルス・デイヴィス・バンド時代の曲や、その他オリジナル曲に加え、三曲の有名スタンダード・ナンバー。

 

 

こういう『カルテット』みたいなのがあるから、ウィントン・マルサリスらいわゆる新伝承派の連中が手本にしていたのは1960年代半ばのマイルス・デイヴィス・クインテットや、それと本質的には同じであるいわゆる新主流派のブルーノート録音だったのだというのは最初からみんな分っていた。

 

 

ただしハービーの『カルテット』のなかで僕が一番いいと思うのはロン・カーターの曲「パレード」。8ビートのややボサ・ノーヴァ風なリズムを使っていて、曲調やメロディ・ラインに独特の情緒がある。このアルバムでこういうのはこれ一曲だけだ。

 

 

 

ハービーはこういう「パレード」みたいな感じの曲もアクースティックなジャズ演奏でもよくやるし、エレクトリックなファンク路線だともっといろんな面白いものをたくさんやっているけれど、ウィントン・マルサリスのリーダー作品でこういった曲は僕の知る限り全く一つもないからなあ。

 

 

その後のウィントン・マルサリスのリーダー・アルバムでは、今聴き返すとスタジオ作には面白いものが全くない。かろうじて聴けると思うのが一連の『スタンダード・タイム』シリーズで、それも1991年の『Vol. 2:インティマシー・コーリング』まで。これの前になぜか『Vol. 3』が出ている。

 

 

どうでもいいが『スタンダード・タイム』シリーズは、最初1987年に『Vol. 1』が出たものの、次が90年の『Vol. 3: ザ・リゾルーション・オヴ・ロマンス』で、その後99年の『Vol. 4』のセロニアス・モンク曲集まで。しかしその間同じ99年だけど先に『Vol. 6:ミスター・ジェリー・ロード』が出た。ヘンなの。

 

 

『Vol. 2』より先に『Vol. 3』だったのでどうなってんの?と思い、その後も『Vo. 4』より『Vol. 6』が先に出たりよく分らない。それはさておきそんな『スタンダード・タイム』シリーズも1998年の『Vol. 5:ザ・ミッドナイト・ブルーズ』以後は全部ダメ。

 

 

というのは『スタンダード・タイム』シリーズの二枚『Vol. 3:ザ・リゾルーション・オヴ・ロマンス』と『Vo. 2:インティマシー・コーリング』にはアルバムのテーマとかコンセプトなんてものがなく、ごく普通にいろんなスタンダードを演奏したのを並べているだけで、演奏もストレートだ。

 

 

だけれどもそれ以後の『スタンダード・タイム』シリーズ(と他の全てのウィントンのスタジオ・アルバム)はコンセプトを決めてその下に選曲し演奏したものか、あるいは特定の作曲家のソングブックで、ウィントンの場合そうなると頭でっかちになってしまい、演奏に伸びやかさがなくなってしまう。

 

 

だからそれら二枚以外は到底聴き返す気すらしない『スタンダード・タイム』シリーズ(それ以外のスタジオ・オリジナル作品は一顧だにする気もない)。それら二枚を聴き返すとやはり『Vol. 3』二曲目の「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」が一番いい。ピアニストの父エリスとのデュオ。

 

 

その「ネヴァー・レット・ミー・ゴー」、二分もない短い演奏なんだけど、本当に美しくてウットリと聴惚れちゃうくらいなんだなあ。これ以外の曲もこのアルバムは全部父エリスのピアノとのデュオかシンプルなカルテット編成で、美しいバラード吹奏中心。

 

 

 

こういう美しいスタンダード・バラードを小難しいことを一切考えず朗々と吹くだけの時のウィントンは、僕はなかなか悪くないものが少しあると思うよ。そしてバラードだけでなくアップ・テンポな曲も全部含め、頭でっかちではないそんなストレートなジャズマンぶりは、ライヴ・アルバムの方が分りやすいんだよね。

 

 

僕が一番いいと思うウィントンのライヴ・アルバムは1999年リリースの七枚組『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』だ。七枚組という大きなサイスだから買って聴いている人が少ないんじゃないかと思うんだけど、どう聴いてもこれが一番いい。録音は90〜94年で全部当時のセプテット編成。

 

 

タイトル通り全てニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ録音。1990〜94年までのウィントンやサイドメンのオリジナル曲もあるけれど、多くがジャズメンがよくやるスタンダード中心で、どれもストレートに胸のすくようなトランペット吹奏ぶりなんだよね。特に一枚目の「チェロキー」がいい。

 

 

「チェロキー」はソロ・デビュー前のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ時代からのウィントンの得意曲で、独立後も頻繁に演奏していて公式アルバムにも何種類か存在するけれど、僕の耳にはどう聴いても『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』一枚目の93年録音が一番素晴しい演奏に聞える。

 

 

その『ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード』一枚目収録の「チェロキー」。全くテーマ・メロディを吹かず、約七分朗々とインプロヴィゼイションをウィントン一人が吹きまくるもので、彼の今までの音楽人生ではおそらくベスト演奏だろうね。ちょっとエチュードみたいだけどさ。

 

 

 

なお Wynton Marsalis は「マルサリスじゃなくてマーサリスだろう、チャーリー・パーカーをチャルリエ・パルケルと書くのか!?」と『スイングジャーナル』誌上で息巻いている人が昔いたけれど、ウィントンはニューオーリンズの人間だ。そんなこと言うならルイ・アームストロングも「ルイス」、シドニー・ベシェも「ベチェット」と書いたらどうかな。

 

 

まあ「ルイス・アームストロング」と発音する人は本国アメリカはたくさんいるんだけどね(「ベチェット」もいるに違いない)。ウィントンの場合僕はライヴで彼が自己紹介するのを聞いた。そうしたら Marsalis は ”sa” にアクセントがあってその前の "Mar" はかなり弱く短く「マサーリス」みたいな感じで、マルかマーか全然聞取れなかったよ。

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コメント

私も、ハービー・ハンコックの「クインテット」が出たとき、CD(確かレコードは2枚組で、CDは1枚で4500円、高っけーと思いながら買った記憶があります)を聴いて、「すごい新人が出たな。さすがハービー、新人発掘も売り出しもうまいなー」と思いましたが、レコード会社の企画だったんですか。これ以降、ウィントン・マルサリスは残念ながらあまり聴いてません。なんか優等生過ぎて、うますぎて?あまり聴く気になりませんでした。怒る人がいると思いますが、渡辺香津美みたいに、うまいんだけど、なんか個人的につまんない、ただの聴かずぎかいですが。

TTさん、ウィントンのことは僕もどうでもいいんですが、渡辺香津美さんは面白いものがいろいろありまして、ウィントンと同列に語るのは大反対ですね。香津美さんに対して物凄く失礼だし、全くご存知ないんだろうとしか思えないですね。YMOと合体したみたいな1970年代末のKYLYNものとか(はっきり言って坂本龍一はYMOしか面白いものがない人)、同じ頃の<カクトウギ・セッション>ものとか、1980年代前半の一連の『MOBO』もの(四枚あります)とか、最高なんですよね!

渡辺香津美さんの話。大変失礼しました。おっしゃるとおり、ほとんど知りません。ちょこちょこ耳にした程度です。CDを買い始めたのも「ギタールネッサンス」シリーズからです。が、「渡辺香津美・Mobo」の2枚組CD持ってました。聴いてみて愕然。バックのリズム隊も、渡辺香津美さんのギターソロも無茶苦茶かっこよいです。 ケイ赤城さんのピアノも抜群。この時代の渡辺香津美さん。もう少し聴いてみます。

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