アクースティック・ビートルズ
ビートルズのアクースティック・ナンバーで僕が一番好きなのはポールの「マザー・ネイチャーズ・サン」。だけど『ホワイト・アルバム』では最初にバスドラ、途中からオーケストラが入ってくるから、これが「ブラックバード」みたいに全編アクースティック・ギター弾き語りのみならよかったのにと長年思ってきた。
そうしたら1995年に出た『アンソロジー』の三巻目にまさにそのポールによるアクースティック・ギター弾き語りのみのヴァージョンが収録されていてこれは嬉しかった。こういうのを聴きたかったんだよねえ。『アンソロジー』CD三つには他にもいろいろとアクースティック・ヴァージョンの曲があるよね。
『ホワイト・アルバム』ではエリック・クラプトンのエレキ・ギターをフィーチャーしているジョージの「ワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」も、『アンソロジー』にはジョージによるアクースティック・ギター弾き語りヴァージョンが収録されていて僕はそっちもかなり好きなんだよね。
いまさらな当り前のことを言うけれど、ビートルズにはエレキ・ギターやエレピなどの電気楽器を使っていないアクースティック・ナンバーが結構ある。といってもベースだけはエレベを使っているけれど、エレベすら入っていない100%アクースティックな曲だってまあまああって結構好きなんだ。
ベースがエレベなだけのものも含めビートルズのアクースティック・ナンバーだけを集めたプレイリストをiTunesで作ってあって、それを見ると全部で40曲ある。彼らの曲が全部で何曲あるのか調べるのも面倒くさいけれど、そのうちの40曲とは意外に少ないよねえ。もっとあるという印象だった。
もっともこの40曲というのは、オリジナル・アルバムと『アンソロジー』シリーズその他にアクースティック・ヴァージョンがある曲はダブりを防ぐためにどっちかより好きな方しか入れていないので、それを全部入れたら45曲くらいにはなるはずだ。それでもやっぱり少ないような印象だよね。
2014年秋のトルコ古典歌謡アルバム『Girizgâh』にスッカリ惚れ込んでしまって以来、他の全てのジャンルの音楽でもそういった少人数編成のアクースティックな音楽の方がどっちかというと好きになってしまったから、ビートルズでもiTunesでそんなプレイリストを作ってCD-Rに焼いては楽しんでいる。
高校生の頃から大ファンだったレッド・ツェッペリンは、ご存知の通り三作目がアクースティック・アルバムみたいなもんだし、それ以前もそれ以後もかなりアクースティック・ナンバーが多い。ジミー・ペイジも最初はインクレディブル・ストリング・バンドみたいなものにしようかと思ったらしいね。
ローリング・ストーンズも1968年頃からアクースティック・ナンバーが増えてくるようになり、同年の『ベガーズ・バンケット』はそればっかりだし、その頃から米南部音楽趣味が濃厚に出るようになり、また主にグラム・パースンズとの密接な関係を通してカントリー・ロック路線も出てくるようになった。
話をビートルズに戻すと、彼らのやったアクースティック・ナンバーは公式アルバムに収録されているものでは1963年の第二作『ウィズ・ザ・ビートルズ』の「ティル・ゼア・ワズ・ユー」が初のはず。一作目『プリーズ・プリーズ・ミー』やシングル盤にはアクースティック・ナンバーは一つもない。
でもポールが歌う「ティル・ゼア・ワズ・ユー」はご存知の通りビートルズのオリジナル曲じゃないんだよね。書いたのはメレディス・ウィルスン。アニタ・ブライアントやペギー・リーの歌唱で知られた曲。ポールは多分ペギー・リーのヴァージョンを下敷にしているんだろう。僕はビートルズのよりペギーのヴァージョンの方が好き。
だからビートルズのオリジナルでアクースティックな曲というのは1964年の第三作『ア・ハード・デイズ・ナイト』の「アンド・アイ・ラヴ・ハー」が初だ。僕も大好きな曲。これ、実を言うとビートルズのよりポールが『MTVアンプラグド』でやっているヴァージョンの方がもっと好きだ。
このDVDヴァージョンはCDヴァージョンとはミックスが少し違っていて、ヘイミッシュ・スチュアートのリード・ヴォーカルよりポールのハモりの方が大きく聞えるので、個人的にはイマイチな感じだけれど、官能的なフィーリングは伝わるはずだ。
ポールのこの『MTVアンプラグド(公式海賊盤)』は1991年作で、この企画を一躍有名にした92年のエリック・クラプトンのより早い。ヴェテラン・ロッカーのアンプラグド・アルバムで僕が一番好きなのがこのポールのもの、その次が以前も触れた93年のロッド・スチュアートのもので、クラプトンのなんか・・・。
アクースティックなサウンドが大好きな僕だから、これはダメだと思っているクラプトンのだって聴けば聴いたでまあまあ楽しめはするんだけどね。でもいくつもやっている古いブルーズ曲が妙に小綺麗で清潔になってしまって全然つまらないし、「レイラ」だってあんな感じにしちゃったらねえ。
それに比べたらポールの『アンプラグド』は、エルヴィスの「ブルー・ムーン・オヴ・ケンタッキー」を、前半ビル・モンローのオリジナル通りゆったりしたテンポのブルーグラス風で出てワン・コーラス歌い、後半エルヴィス・ヴァージョンに即してアップ・テンポのロックロールで歌うとか、いろいろと面白いんだよね。
クラプトンも同じ『アンプラグド』でやっている「サンフランシスコ・ベイ・ブルーズ」も、ポールの『MTVアンプラグド』の方が楽しくて面白いし、「グッド・ロッキン・トゥナイト」とか「シンギング・ザ・ブルーズ」といった古いR&B〜ロックンロール・ナンバーも最高にゴキゲン。
また話がビートルズから逸れた。彼らが一番たくさんアクースティック・ナンバーをやっているのは二枚組の『ホワイト・アルバム』。全体的に多いし、特に「マーサ・マイ・ディア」〜「ジュリア」までの一枚目B面は「アイム・ソー・タイアド」以外全部アクースティック・ナンバーだ。
以前も触れたように『ホワイト・アルバム』は各面の構成というか曲の流れが実によく考え抜かれているもので、その中でも特にそういう構成の妙を感じるのがその一枚目B面なんだよね。「ブラックバード」〜「ピギーズ」〜「ロッキー・ラクーン」〜「ドント・パス・ミー・バイ」あたりは絶妙すぎる。
『ホワイト・アルバム』でのアクースティック・ナンバーで一番好きなのが、最初に書いたように二枚目A面の「マザー・ネイチャーズ・サン」。どうしてだか自分でもよく分らないが、この曲が「ブラックバード」などより昔から大好きなんだよねえ。曲調もサウンドも歌詞内容も全部大好きだ。なぜかそっちはYouTubeにはない。
『ホワイト・アルバム』のラストにはジョンが書きリンゴが歌うこれもアクースティックな絶品バラード「グッド・ナイト」がある。ジョージ・マーティンのアレンジ・指揮による豪華で瀟洒なオーケストラ入りで、ウットリと聴惚れてしまう。ビートルズでリンゴが歌ったものではこれこそ最高の一曲だろうね。
「グッド・ナイト」はアルバムを締め括るのにこれなく以上ないピッタリなフィーリングの曲だから『ホワイト・アルバム』でもラストだし、僕の自作アクースティック・ビートルズ集プレイリストでも当然ラストだ。いろいろと素晴しいバラードがあるビートルズだけど、これこそ個人的ナンバーワンかも。
いや、エレクトリックだけどポールの「ヒア、ゼア・アンド・エヴリウェア」があるからその次かな。ビートルズ時代のポールのアクースティックといえば、「ウェン・アイム・シックスティー・フォー」とか「ハニー・パイ」みたいなジャズっぽいオールド・ポップな曲も彼は得意で、そういうのも僕は大好きなんだよね。
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