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2016/05/24

ラテンなプリンス〜サンタナ〜マイルス

Prince__3121

 

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先月亡くなったばかりのプリンスはカルロス・サンタナのギターが大好きだったんだそうだ。と言ってもプリンスのギター・スタイルにカルロス・サンタナの痕跡を見出すことは、僕にはやや難しい場合が多い。はっきりそうだと聞取れるものは少ないよなあ。多少はありはするものの。

 

 

そうであるとはいえ、プリンスは『パープル・レイン』の頃からシーラ・E を起用していて、彼女と出会ったのはもっとずっと前の1978年頃の話だったらしい。そして打楽器奏者として自分の作品やライヴで重用するようになって以後は、亡くなるまでプリンスのかなりの部分でシーラ・E は音楽的貢献をしている。

 

 

ご存知の方には説明不要のことだけど、サンタナ関連でプリンスとシーラ・E の話をどうしてするのかというと、シーラ・E はラテン・パーカッショニスト、ピート・エスコヴェードの娘で、叔父がメキシコ系歌手のアレハンドロ・エスコヴェード。そのアレハンドロの名親はティト・プエンテなんだよね。

 

 

その他エスコヴェード一族はまあまあ名の知れたラテン音楽ファミリーで、シーラ・E はその血を引きそういう環境で育っているわけだから、そんな彼女をプリンスが長年重用したというのは、サンタナ好きであったことと無関係だったなんて誰も思わないだろう。プリンスの音楽自体にラテンな痕跡は薄いけれども。

 

 

そんなプリンスの音楽にだって濃厚なラテン風味が聴けるものは少しある。僕が真っ先に思い浮べるのは2002年の『ワン・ナイト・アローン…ライヴ!』三枚組だなあ。これの二枚目四曲目にある「エヴァーラスティング・ナウ」中盤で濃厚なラテン・テイストが全面展開しているんだよね。

 

 

 

これは僕が上げたもの。お聴きになれば分る通り2:21あたりからプリンスのギター・ソロ、レナート・ネトのピアノ・ソロ、グレッグ・ボイヤーのトロンボーン・ソロ、キャンディー・ダルファーのサックス・ソロと、こりゃ誰が聴いたってラテン音楽だ。

 

 

前年リリースのスタジオ・アルバム『ザ・レインボウ・チルドレン』にあるオリジナルの「エヴァーラスティング・ナウ」にこんなに濃厚なラテン風味は聴かれない。だから翌年のライヴでああいった感じになっているのはちょっとビックリしたんだよねえ。プリンスの弾くギターもカルロス・サンタナみたいだ。

 

 

またカルロス・サンタナ風なギターは弾かないものの、同じ『ワン・ナイト・アローン…ライヴ!』三枚目の『ジ・アフターショウ』。これの七曲目「ドロシー・パーカー」がこれまたラテン・ファンク調。プリンスはピアノを弾きコンガも叩いている。

 

 

 

『サイン・オ・ザ・タイムズ』収録のオリジナル「ザ・バラード・オヴ・ドロシー・パーカー」にそんなラテン風味はないよね。別段ラテンではなく、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの「ファミリー・アフェア」(『暴動』)にインスパイアされてできあがったような曲調。それが完全に変貌している。

 

 

曲単位ではこれらライヴ音源二つがプリンスでは最も濃厚なラテン風味だけど、アルバム単位ならば2006年の『3121』が一種のラテン・アルバムのような雰囲気を少し持っている。と言ってもアルバムの全12曲中で四曲だけなんだけどね、はっきりと聞取れるものは。でも他のアルバムでは四曲もないもん。

 

 

『3121』のなかでラテン・テイストが一番はっきりしているのが三曲目の「テ・アモ・コラソン」。これも僕が上げたんだけど、僕が現在100個以上アップしている音源のなかで最も再生回数が多く、この曲を激賞するコメントも日々増え続けている。

 

 

 

このYouTube音源に付いたコメントにはスペイン語によるものも多いし(そりゃなんたって曲名がスペイン語題だから、検索して辿り着きやすいはず)、あるいは「まるでスパニッシュ・ボレーロみたいだ」というコメントも付いている。僕はボレーロというよりややボサ・ノーヴァ風かなあと思う。

 

 

『3121』ラストの「ゲット・オン・ザ・ボート」も快活なラテン・ビートを活かしていて、中盤と終盤に打楽器アンサンブルだけのパートだってある。そこにはシーラ・E だって参加しているんだよね。その他いくつかラテン風味な曲が入っている『3121』で、プリンスのアルバムでそういうのは他にはないはずだ。

 

 

もちろんアメリカ音楽におけるラテン風味なんてのはごくごく一般的な当り前のもので、そもそも19世紀から20世紀の変り目あたりにアメリカのポピュラー音楽がはっきりとした形で成立した時には、それはラテン音楽の変型みたいなもんだったのであって、だからジャズでもなんでも初期からかなりラテンの痕跡は強い。

 

 

だからプリンスの音楽が少しそういう感じになっているのだって別にどうってことはない。シーラ・E を重用しただとか、それと関係があるサンタナからの影響だとか、そんなことを言わなくなって当然の話だ。そして僕は今日プリンスにおけるラテン風味とかサンタナとの関係について書きたかったわけではない。

 

 

実はプリンスが亡くなって彼のCDばかりしばらく聴続けていた時期に、彼の音楽にラテン風味がかなりあることに(いまさらながら初めて)気が付いて、それについて文章をまとめたいと思っていろいろ調べていたら、プリンスがサンタナ好きだったことを知った。しかしこの話をこれ以上発展させる能力は僕にはない。

 

 

本当は別のことを書きたかった。それはサンタナがマイルス・デイヴィスの曲をやっていることに僕は大変遅ればせながら昨2015年に気が付いたのだ。それは1971/7/4のフィルモア・ウェストでのライヴでのことで、やっているのはジョー・ザヴィヌルの書いた「イン・ア・サイレント・ウェイ」。

 

 

どうして気が付いたのかというと、ある事情で『サンタナ III』のことを調べていて、これのCD二枚組レガシー・エディションが2006年に出ていることを知り、その二枚目がその1971年フィルモア・ライヴをフル収録したもので、そのなかに「イン・ア・サイレント・ウェイ」の文字を発見。

 

 

それを発見したのが昨2015年暮れのことで、驚いた僕は慌ててその『サンタナ III』のレガシー・エディションを買って聴いてみた。附属ブックレットを見ると、そのサンタナが1971年のフィルモアでやった「イン・ア・サイレント・ウェイ」は『フィルモア・ザ・ラスト・デイズ』で既発のようだ。

 

 

その『フィルモア・ザ・ラスト・デイズ』というアルバムも僕は初見で、これも調べてみたら1972年にアナログ盤ボックスが出ているんだなあ。リイシューCDだって91年に出ている。僕はこれをなんと昨2015年まで何十年間ず〜っと知らないままで過してきた。マイルス・ファンなのにね。

 

 

それまでマイルスがカルロス・サンタナに自分のバンドのレギュラー・ギタリストにならないかと二回声を掛け二回とも断られているだとか、1981年のマイルス復帰後に何度か共演はしているだとか、その程度の知識しか持っておらず、サンタナ・バンドがマイルス・ナンバーをやっていたなんてね。

 

 

こんなのでマイルス・ファンを自認しているんだから(他認は決してされたことはない)、どこがマイルス・ファンなんだか聞いて呆れるよねえ。なんてアホで鈍感なんだ僕は!まあしかし呆れるとかアホだとか鈍感だとかは僕の常態なんですぐに気にしなくなって、『サンタナ III』レガシー・エディションの二枚目を楽しんだ。

 

 

サンタナが1971年のフィルモアでやっている「イン・ア・サイレント・ウェイ」はそうとしか書かれていないものの、マイルスによるスタジオ・オリジナルに即して「イッツ・アバウト・ザット・タイム」を引続き連続演奏し、終盤でもう一回「イン・ア・サイレント・ウェイ」が出てくるという具合。

 

 

 

出だしの「イン・ア・サイレント・ウェイ」部分ではカルロス・サンタナが軽いパーカッション伴奏に乗ってメイン・テーマを弾きそれに同じギターのニール・ショーンが絡むんだけど、それはあっと言う間に終って「イッツ・アバウト・ザット・タイム」になると、カルロス・サンタナが例のエレピ・リフを弾き始める。

 

 

するとすぐにその(マイルスのオリジナル・ヴァージョンではエレピが弾く)リフをニール・ショーンがコード弾きでやりはじめ、ドラムスやパーカッションによるリズムが活発になって、それに乗ってカルロス・サンタナが、次いでニール・ショーンがインプロヴィゼイションを繰広げるというような展開だ。

 

 

そして「イッツ・アバウト・ザット・タイム」部分では打楽器のリズムが本当に賑やかで、さながらラテン・マイルスというような調子なんだよね。特にニール・ショーンがアドリブを弾く部分でパーカッションが派手に目立つ。パーカッションはホセ・チェピート・アレアスとマイク・カラベージョの二人。

 

 

ドラムスのマイケル・シュリーヴは特にその必要はないと思うのに、なぜかマイルス・オリジナルでのトニー・ウィリアムズみたいにハイハットとスネアのリム・ショットだけに限定している時間帯がある。とはいえパーカッションの二人が派手に鳴らしまくるので、演奏全体は全然静かな感じではない。

 

 

このリズムが相当派手で賑やかなラテン・マイルス風「イッツ・アバウト・ザット・タイム」はちょっと面白いね。ニール・ショーンとのツイン・ギター体制だった時代のサンタナ・バンドらしい仕上りで、やっぱりこのバンドはそうやってなんでも濃厚なラテン風にアレンジして演奏するのがいいなあ。

 

 

そしてサンタナのオリジナル・アルバムでは、以前も強調したように1971年の『サンタナ III』(正式なアルバム・タイトルはシンプルに『サンタナ』なんだけど、それではデビュー・アルバムと区別不能)が僕は一番魅力的に聞えるということも改めて再確認した。ラテンなサンタナこそチャーミングだよね。その後のジャズ〜フュージョン路線は僕にはよく分らない。

 

 

なお、前述の通りシーラ・E と密接な関連があるニューヨーク・ラテンの雄ティト・プエンテは、従ってプリンスとも繋がっていることになるわけだけど、言うまでもなくサンタナはこの時期よくティトの曲をやっていたことを念のために書添えておく。

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