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2016/05/02

なにをやってもラテン・ファンクになるドクター・ジョンのライヴは最高だ

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ドクター・ジョンってキャリアの長さのわりにはライヴ盤が少ないような気がするんだけど、僕も持っているのは『トリッピン・ライヴ』と『ライヴ・アット・モントルー 1995』の二つだけ。おそらく他にももっとあるんだろうけれど、この二つのうちでは断然後者モントルー・ライヴの方が楽しい。

 

 

『ライヴ・アット・モントルー 1995』はタイトル通り95年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのパフォーマンス。主役の他、ギター、ベース、ドラムス、パーカッション、トランペット、サックス二本。このバンドがもう最高なんだなあ。サックスの一人はテナーのアルヴィン・レッド・タイラーだ。

 

 

アルヴィン・レッド・タイラーは、僕が1995年前後に現地ニューオーリンズのライヴハウスでドクター・ジョンのライヴを観た時にもステージ上にいて生を聴いた。そしてこの時のライヴが素晴しくて強く印象に残っているんだけど、『ライヴ・アット・モントルー 1995』はその感触にかなり近い。

 

 

その時のニューオーリンズでのライヴも『ライヴ・アット・モントルー 1995』も、一曲目がお馴染み「アイコ・アイコ」。前者ではグッと重心を落したヘヴィーなファンク・ナンバーになっていた記憶だけど、後者モントルー・ライヴでも全く同じだ。

 

 

 

今貼った映像は、このモントルー・ライヴはDVDでも出ているのでそこからのものだ。ご覧になればお分りの通り、バンドが演奏するなかドクター・ジョンがゆっくりと踊りながらピアノのところまで歩み出てきて、ピアノを弾き出し歌い出すとういう趣向は、僕がニューオーリンズで観たのと同じ。

 

 

それにしてもこの「アイコ・アイコ」のグルーヴ感はどうだ。最高に楽しいじゃないか。『ガンボ』でやっていた時のような3−2クラーベのラテンな感触は薄くなっているけれど、ファンク・ミュージックとしてはこの1995年モントルー・ライヴの方がはるかにグルーヴィーでカッコイイ。腰が動くね。

 

 

テナーのアルヴィン・レッド・タイラーのソロ、続いてロニー・キューバーのバリトン・ソロ、トランペット・ソロ、ギター・ソロになる。ギターはやはりニューオーリンズ現地で観たのと同じボビー・ブルームだよね。ボビー・ブルームはマイルス・デイヴィス・バンドでも一時期弾いたので、名前だけは前々から知っていた。

 

 

要するに『ライヴ・アット・モントルー 1995』はほぼ同じ頃にニューオーリンズの小さなライヴハウスで僕が体験したライヴの記憶に一番近いサウンドで、それを時々思い出す程度で実際の音はCDなどでは聴けなかったのが、2005年になってようやくこのモントルー・ライヴが出たというわけだ。

 

 

そりゃもう嬉しかったね。しかしこんなに素晴しい内容のライヴを1995年に録音しておきながら、どうしてそれを2005年までリリースしなかったんだろうなあ。そのへんはちょっと不思議だ。またスタジオ作品だけど僕の大好きな1999年の『デューク・エレガント』、あれの感触にもかなり近い。

 

 

ドクター・ジョンの最高傑作は『ガンボ』か『イン・ザ・ライト・プレイス』になると思うんだけど、個人的な好みだけなら断然そのデューク・エリントン曲集『デューク・エレガント』がナンバー・ワンなのだ。エリントンのスウィング・ナンバーがファンク・チューンに化けているからねえ。

 

 

『デューク・エレガント』を聴いた時は、ああ〜そうかぁエリントンの言う「スウィング」とは今の時代で言えば要するに「ファンク」のことなんだなと一人で勝手に納得して内心嬉しくてたまらなかった。エリントン・ミュージックの本質的先進性とドクター・ジョンの解釈の見事さにも唸ってしまった。

 

 

『デューク・エレガント』のバック・バンドも、ボビー・ブルームのギター、デイヴィッド・バラードのベース(トゥー・ファンキー!)、ハーマン・アーネスト III のドラムスにロニー・キューバーのバリトン・サックスが入るという編成で、全員『ライヴ・アット・モントルー 1995』にも参加している。

 

 

だから僕の好きな『デューク・エレガント』と『ライヴ・アット・モントルー 1995』のサウンドがソックリなのもこれまた当然だろうね。ってことはその頃(正確に何年だったのかは完全に忘れた)ニューオーリンズ現地で僕が観たライヴも同じサウンドだった記憶だから同じバンドだったかも。

 

 

『ライヴ・アット・モントルー 1995』のバンド・メンバーのなかで一番感心するのは、ドラマーのハーマン・アーネスト III の叩出すヘヴィーなファンク・グルーヴだ。さきほど貼った「アイコ・アイコ」でも充分分るはずだけど、さらにもっとよく分るのが七曲目の「ライト・プレイス、ロング・タイム」だね。

 

 

 

なんなんだこのドラムスのカッコよさは!?元々1973年の『イン・ザ・ライト・プレイス』一曲目がオリジナルで、そこではミーターズがバック・バンドだから当然ドラマーはジガブー・モデリステ。それも最高にファンキーだったけどさぁ。

 

 

そのミーターズとやったオリジナルの「ライト・プレイス、ロング・タイム」と比較しても遜色ないどころか、ひょっとしたら『ライヴ・アット・モントルー 1995』のヴァージョンはそれを超えているかも?と一瞬思ってしまうくらいだよなあ。とにかくこのハーマン・アーネスト III のドラミングには降参。

 

 

「ライト・プレイス、ロング・タイム」ではボビー・ブルームのギター・ソロもいいね。おそらくこのライヴ盤でのギター・ソロでは一番いいんじゃないかなあ。ギターといえばドクター・ジョンも一曲だけ弾いている。三曲目の「カム・オン(レット・ザ・グッド・タイムズ・ロール)」。

 

 

アール・キング・ナンバーの「カム・オン」は『ガンボ』でもドクター・ジョンはギターを弾いていたし、元々ピアニストであると同時にというか先にギタリストとして出発した人だからね。『ガンボ』では「ゾーズ・ロンリー・ロンリー・ナイツ」でもギター・スリムそっくりのギター・ソロを披露する。まあこれは以前も書いたので。

 

 

『ライヴ・アット・モントルー 1995』にはジャズメンもよくやるスタンダードが三曲入っていて、「ブルー・スカイズ」「ジー・ベイビー・エイント・アイ・グッド・トゥ・ユー」「メイキン・ウーピー」。これらのうち五曲目の「ブルー・スカイズ」が出色の出来だ。完全なるラテン・ファンク調。

 

 

その「ブルー・スカイズ」は探したけれどYouTubeには上がっていないみたいだなあ。最高にカッコいいんだけどなあ。こんな「ブルー・スカイズ」は聴いたことがない。アーヴィング・バーリンが1926年に書いた古いスタンダードがこんな風になるなんて、ドクター・ジョンの解釈力はさすがだ。

 

 

「ジー・ベイビー・エイント・アイ・グッド・トゥ・ユー」は以前詳しく書いた通り(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2016/01/post-44de.html)僕の大好きな猥雑でスケベな古いブルーズなんだけど、『ライヴ・アット・モントルー 1995』でのドクター・ジョンもなかなかいいフィーリングで歌っている。

 

 

メドレーじゃない単独曲ではアルバム中一番長い10分以上ある九曲目の「ゴーイン・バック・トゥ・ニュー・オーリンズ」はやはりお馴染みのラテン風なファンク・ナンバー。しかしこの曲こんなにもラテン風味濃厚な曲だったけなあ?と思って同名のスタジオ・アルバムを聴直したら全く同じだったよ。

 

 

1992年のスタジオ作『ゴーイン・バック・トゥ・ニュー・オーリンズ』はドクター・ジョンの声が出ていないとかいろいろ言う人もいるんだけど、野心作で大変にスケールの大きな傑作だったと僕は思っている。そのアルバム・ラストに同名曲があったわけだけど、それは四分程度の短いものだからなあ。

 

 

『ライヴ・アット・モントルー 1995』では、それがホーン陣三人とギターが次々と演奏する長いソロのせいもあって10分以上の長さになっていて、しかもラテン・ファンクなグルーヴ感がたまらなく気持いいので、聴いていて全然長く感じない。後半ドラムスとパーカッションによる乱れ打ちになって賑やかで楽しい。

 

 

ルイ・アームストロングみたいになにをやらせてもジャズになってしまうという人は大好きだけど、ドクター・ジョンみたいになにをやらせても(ラテンな)ファンクになってしまうというような人も大好きだなあ。奇しくもその二人ともニューオーリンズの音楽家だよね。やはりこの土地にはなにかある。ドクター・ジョンの現在のところの最新作はサッチモ集だしね。

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