イナタいルイジアナ・スワンプ・ポップ〜クッキー&ザ・カップケイクス
クッキー&ザ・カップケイクスという米ルイジアナのスワンプ・ポップ・バンドが大好きなんだけど、1956年にこのバンド名になって以後も、僕の知り限りこのバンドにオリジナル・アルバムは一枚もないはず。全て7インチのシングル盤だ。それが現在CDなどのアルバムとしてまとめられている。
僕が持っているのは1997年に英Aceがリイシューした30曲入りの『キングズ・オヴ・スワンプ・ポップ』というもので、僕の知る限りおそらくこれが一番充実していて収録曲も一番多いCDアルバム。ブックレットの英文解説もかなり詳しい。このバンドについては詳しい情報が少ないからね。
僕がクッキー&ザ・カップケイクスを買ったのは、最初は彼らそのものに関心を抱いてのことではない。レッド・ツェッペリンで有名なロバート・プラントを中心にした例のプロジェクト、ザ・ハニー・ドリッパーズの1984年作『ヴォリューム・ワン』に「シー・オヴ・ラヴ」という曲があったからだった。
あの五曲入りEP『ヴォリューム・ワン』。全部古いリズム&ブルーズ〜ロックンロール・ソングばかりで、元はアトランティックのアーメット・アーティガンが希望して実現したプロジェクトだったらしい。アーメットはご存知の通り古い黒人音楽マニアのトルコ人で、アトランティックもそういう傾向の会社だ。
ロバート・プラントが歌ったレッド・ツェッペリンも、ご存知の通り彼ら自身のレコード・レーベル、スワン・レコーズを設立するまでは、アルバムは全てアトランティックからリリースしていた。最初レッド・ツェッペリンとしての契約時に巨額のお金が動いたという噂もあったもんね。
だからロバート・プラントだって(あるいはジミー・ペイジだってその他多くのロック・ミュージシャンだって)アトランティックのアーメット・アーティガンには頭が上がらなかったはずだ。そういうわけであのザ・ハニー・ドリッパーズが誕生し、五曲入りEPが1984年にリリースされたというわけだね。
そのEPのなかにあった「シー・オヴ・ラヴ」は正直に言うとそれで初めて聴いて知った曲だったのだ。これ以外の四曲「アイ・ゲット・ア・スリル」「アイ・ガット・ア・ウーマン」「ヤング・ボーイ・ブルーズ」「ロッキン・アット・ミッドナイト」は、1984年時点で既にまあまあ知っていた。
特にレイ・チャールズの「アイ・ガット・ア・ウーマン」はエルヴィス・プレスリーも1956年にやっていて、ザ・ハニー・ドリッパーズ・ヴァージョンでは、そのエルヴィス・ヴァージョンそのままに終盤スロー・テンポになるアレンジでやったのに、そこはカットされちゃったとプラントがぼやいていたなあ。
ロイ・ブラウンの「ロッキン・アット・ミッドナイト」もロック・ミュージシャンによるカヴァーが多いスタンダード化したR&B〜ロックンロール・クラシックだ。ザ・ハニー・ドリッパーズ・ヴァージョンではジェフ・ベックのスライド・ギターも聴き物。シャッフル・ビートでホーン・リフも賑やかで楽しい。
だからまあそれらは最高に楽しいけれど別に目新しくはなかった。それに対して初めて聴いた「シー・オヴ・ラヴ」が新鮮で大好きになってしまって、ここではジミー・ペイジがギター・ソロを弾いているから、入っているストリングスのアレンジもおそらくペイジによるものなんだろう。
そのザ・ハニー・ドリッパーズ・ヴァージョンを貼っておこう→ https://www.youtube.com/watch?v=2BoUzzFXuVU この曲の魅力の虜になっちゃって、未知の曲だったので調べてみてこれがフィル・フィリップスがオリジナルのヒット曲だと知った→ https://www.youtube.com/watch?v=L0DTHA3HVj8
フィル・フィリップスがこれをヒットさせたのは1959年らしい。ビルボードのR&Bチャート一位、ポップ・チャートでも二位まで上昇しているから大ヒットだね。そしてフィル・フィリップスと同じスワンプ・ポップ・バンドのクッキー&ザ・カップケイクスが63年に録音しているのも知ったというわけだ。
それでフィル・フィリップスとかクッキー&ザ・カップケイクスとかのCDアルバムがほしいと思って探したんだけど、1980年代後半にはまだ出ていなかったような気がする。とにかく僕は見つけられなかった。ようやく買えたのが前述97年のクッキー&ザ・カップケイクスのアンソロジーだった。
それでその『キングズ・オヴ・スワンプ・ポップ』を聴いてみたらこれが良かったんだなあ。音楽のスタイルを表現するのに「イナタい」という言葉あるけれど、まさにこのイナタいという言葉がピッタリ似合うアメリカ南部ルイジアナのスワンプR&B〜ポップで、一度聴いて大好きになっちゃった。
クッキー(本名ヒューイ・ティエリ)がこのバンドを結成したのではなく、シェルトン・ダナウェイがブギ・ランブラーズとして1950年代初頭に結成したバンドらしく、クッキーは52年に加入して、直後からリード・ヴォーカルとテナー・サックスをダナウェイと分け合うようになっていたようだ。
まだブギ・ランブラーズの名称だった1955年に「シンディー・ルー」と「サッチ・アズ・ラヴ」を録音している。二曲とも『キングズ・オヴ・スワンプ・ポップ』に収録されているが、「シンディー・ルー」はあまりスワンプっぽくないロックンロール。「サッチ・アズ・ラヴ」は相当ラテンなアレンジ。
「サッチ・アズ・ラヴ」にはなんだかよく分らない打楽器(おそらくボンゴ?)とクラベスまで入っていて、クラベスがはっきりと3-2クラーベのリズムを刻んでいる。クッキーのバンドではこういうのはその後全くなくなって完全に三連のスワンプ調の曲ばかりになるので、今聴くとなかなか貴重で面白い。
1956年にバンド名に「クッキー」の名前を出すようになり、直後に「&ザ・カップケイクス」の名称に変更して以後の録音はほぼ全てファッツ・ドミノ風三連ナンバーばかり。その前年頃にローカルなライヴ・ツアーをファッツ・ドミノのおそらく前座として一緒に廻っていたらしいから、強い影響を受けたはず。
僕はファッツ・ドミノよりクッキー&ザ・カップケイクスの方を本格的には先に聴いたので、最初はクッキーってなんてチャーミングなんだ、三連のイナタいスワンプ・ポップって最高だなと思って何度も聴いたんだけど、その後ファッツ・ドミノをちゃんと聴いてみたら完全にそのまんまだったという(笑)。
CD附属のブックレット英文解説によれば、クッキーは自身の音楽の最大の影響源としてやはりファッツ・ドミノ(とハンク・ウィリアムズ)の名前を挙げている。これは当然だ。本人に言われなくたって音を聴けば誰だって分る。クッキーの曲もどれもこれも全部ダダダ・ダダダという三連ばかり。
クッキー&ザ・カップケイクス最大のヒット曲は1957年ジュッド・レーベル録音の「マチルダ」で、これが59年に売れたらしい。それでもう一回62年にリリック・レーベルに再録音している。CDにはどっちも収録されているけれど、どっちもほぼ同じで大した違いは聞取れない。
僕の持っている『キングズ・オヴ・スワンプ・ポップ』では、1962年ヴァージョンが二曲目、オリジナル57年ヴァージョンがラストに収録されている。ほぼ同じだけど、ほんのかすかに出来がいいように思う62年リリック・ヴァージョンはこんな感じ。
なかなかチャーミングなポップ・ミュージックだよねえ。オリジナル・ヴァージョンが1959年にビルボードのチャートを上昇してからは、この「マチルダ」は言ってみればスワンプ・ポップのアンセムみたいなものになったらしい。この曲がというかこの曲だけがクッキーのヒット・ナンバーだ。
書いたように最初はロバート・プラントが歌うザ・ハニー・ドリッパーズの「シー・オヴ・ラヴ」に取憑かれて、そこから辿って行着いたクッキー&ザ・カップケイクスだけど、CDを聴いたら「シー・オヴ・ラヴ」よりも、その「マチルダ」とか一曲目の「ガット・ユー・オン・マイ・マインド」とかの方がいいね。
30曲あるそのCD、一部を除きどれもこれも全部ファッツ・ドミノ風ダダダ・ダダダという三連スワンプ・ポップばっかりだから、一度に続けて全部聴くこともないんじゃないかという気もするし、まあ二流・B級の人ではあるんだろうけど、それでもクッキーの方が個人的にはファッツ・ドミノよりも好きだったりするんだよね。
« 激アツなツイン・サックスの奔流 | トップページ | キースのヨレヨレ・ヴォーカル »
「リズム&ブルーズ、ソウル、ファンク、R&Bなど」カテゴリの記事
- ロックだってソウルにカヴァー 〜 イーライ・ペーパーボーイ・リード(2023.11.30)
- いまだ健在、往時のままのメンフィス・ソウル 〜 ウィリアム・ベル(2023.08.24)
- こうした音楽を心の灯にして残りの人生を送っていきたい 〜 カーティス・メイフィールド『ニュー・ワールド・オーダー』(2023.08.03)
- さわやかでポップなインスト・ファンク 〜 ハンタートーンズ(2023.07.17)
- コンテンポラリーR&Bもたまにちょっと 〜 ジョイス・ライス(2023.06.21)
コメント