ミーターズのスカスカ・ファンク
昨2015年11月にニューオーリンズ音楽界のドン的存在、アラン・トゥーサンが亡くなった。僕個人はアラン・トゥーサンのリーダー作には特にこれといった強い思い入れがなく、だから彼のリーダー名義録音は好きなものが少ない。どっちかというと他の歌手に提供した曲や他人の作品のプロデュース・ワークなどの方が好きなのだ。
アラン・トゥーサンのプロデュースでミーターズをバック・バンドというか一種ハウス・バンドのように起用して、それでニューオーリンズ音楽の八割を、というのが大袈裟なら多くを創りだしたのは確かなことだ。ドクター・ジョンの最高傑作に推す声もある『イン・ザ・ライト・プレイス』もそう。
アラン・トゥーサンはまたマルチ楽器奏者でもあって、ドクター・ジョンの『イン・ザ・ライト・プレイス』でもピアノやエレピだけでなく、エレキ・ギターやドラムス、パーカッション、もちろんバック・ヴォーカルでも参加している。そしてこのアルバムこそ僕がミーターズを聴いた最初だった。
アルバムにクレジットが書いてあったはずだけど、大学生の頃に『イン・ザ・ライト・プレイス』を最初に買った時は全く気にも留めていなかった。ただ単にかっこいいバック・バンドだなと思って聴いていただけ。1973年のアルバムだからミーターズ全盛期だけど、彼らの名前すら知らなかった。
今ではミーターズこそがニューオーリンズ・ファンクでは最高のバンドだったと考えているんだけど、その最高傑作は僕の考えでは『イン・ザ・ライト・プレイス』の翌年1974年の『リジュヴネイション』(邦題は嫌いなので書かない)だね。たまらなくカッコよくて痺れちゃう。
『リジュヴネイション』の頃にはミーターズも歌うようになりヴォーカル曲が多いけど、最初はインストルメンタル・バンドだった。初期の代表曲にしてミーターズの代名詞みたいな「シシー・ストラット」(1969年)だって「ア〜〜〜ヤッ!」と叫ぶ声ではじまるけれど、その後は最後までインスト。
この曲が初期のと言わず全体を通してミーターズ・ファンクの特徴が一番分りやすい。なんともスカスカな音だよねえ。特にジガブー・モデリステのドラムスとレオ・ノセンテリのギターは間が多くて独特のグルーヴ感だ。
僕がこの「シシー・ストラット」を初めて聴いたのは、まだミーターズの全オリジナル・アルバムがきちんとCDリイシューされる前の1995年にライノが出したCD二枚組アンソロジー『ファンキファイ・ユア・ライフ』でだった。それをリリースの二・三年後に買って聴いたけど、当時はどこがいいのやらサッパリだった。
以前も書いたけれど1969〜77年の(オリジナル・)ミーターズの全公式音源がサンデイズドからちゃんとCDリイシューされたのは20世紀から21世紀の変り目くらいとかなり遅かったから、それまではそのライノの二枚組しか聴けなかった。英Charlyからもなにか出ていたみたいだけど、それを知っていてもライノの方が信用度大なのだ。
ジョシー・レーベル時代(1969〜70)ののミーターズはさっきの「シシー・ストラット」みたいなスカスカ・サウンドばっかりで、独自のグルーヴ感を持ったインストルメンタル・バンド。その独特のノリに僕は最初着いていけないというか良さが分らず、同じニューオーリンズのバンドならネヴィル・ブラザーズの方が好きだった。
そんなガイコツのような骨格だけみたいなファンク・サウンドというのは、アメリカのファンク界全体を見渡しても初期のミーターズ以外には見つかりにくい。少なくとも僕にはそうだ。ジェイムズ・ブラウンだってスライ&ザ・ファミリー・ストーンだって、ホーンなども入りもっと音が分厚くて分りやすくノリやすい。
骨皮筋右衛門みたいなサウンドはこれだけ聴くより、他のR&B〜ファンク歌手のバックに廻った時の方が分りやすく真価を発揮するような気がする。例えば2015年にマトモな形でCDリイシューされたリー・ドーシーの『イエス・ウィ・キャン』はじめ彼の作品の多くは伴奏がミーターズ。
リー・ドーシーの作品もまたバックがミーターズであるばかりかプロデュースがアラン・トゥーサンだ。1970年の作品である『イエス・ウィ・キャン』その他を聴くとこのコンビの実力がよく分る。ホーンも入って賑やかで分りやすいし、ニューオーリンズ・ファンク入門にはうってつけの一枚。リトル・フィートがカヴァーした曲もあるよ。
初期ミーターズのスカスカ・インストルメンタル・ファンクで僕が「シシー・ストラット」同様好きなのが1970年の「チキン・ストラット」。同年の『ストラッティン』一曲目でシングル・カットもされた。カッコイイなあ。個人的にはこっちの方が「シシー・ストラット」より好き。
ミーターズはその『ストラッティン』がジョシー最終作、というかこのレーベルは破産したのでリプリーズに移籍して、その第一作『キャベッジ・アリー』(1972)からは彼らは歌い始める。コアなミーターズ・ファンはインスト・バンドだったジョシー時代の方が好きらしいけど、僕はリプリーズ時代もかなり好き。
バンドのノリというかグルーヴ感もリプリーズ時代は少し変化している。ジョシー時代よりは間が少なくなって、より明快でノリやすいサウンドになっているよね。それでも『キャベッジ・アリー』ではまだまだスカスカだけど、その次の1974年『リジュヴネイション』ではホーンも入って分厚くなる。
『リジュヴネイション』のプロデュースもアラン・トゥーサン(とうか全部そうなんだけど)なので、ホーン・セクションを導入するというアイデアはアランの着想だったのか、それともミーターズ自身の考えだったのか、いずれにせよとにかく僕の耳にはそれが大成功しているように聞える。
『リジュヴネイション』に入っているのが、僕の考えではミーターズの最高傑作にしてニューオーリンズ・ファンク・アンセムの「ヘイ・ポッキー・ア・ウェイ」だ。 ジガブーのスネア、アートのピアノ、レオのギターの順に出てくるサウンドがファンキーでタマランね。
ヴォーカルも「ヘイ・ポッキー・ア・ウェイ」での歌はかなり出来がいいように思うんだけど、この曲のメイン・ヴォーカルは四人のうち誰なんだろうなあ?アートの声のようにも思うけど僕はちょっと自信がないし、クレジットもないので分らないのが残念だ。どなたかご存知の方に教えていただきたいと思う。
1976年の『トリック・バッグ』ではアルバム・タイトル通りアール・キング・ナンバーをやり、ローリング・ストーンズの「ホンキー・トンク・ウィミン」も採り上げていたりする。後者のストーンズによるオリジナルは間だらけのスカスカ・サウンドなんだけど、ミーターズのはそうじゃない。
このあたりになるともう従来のミーターズ・ファンク・サウンドはかなり形が崩れてきているというか失われてきていて、どうってことのない普通のロックに近い感じになっている。『トリック・バッグ』も好きなアルバムだけど、別にミーターズじゃないとできないようなものでないように思うなあ。
ジガブーのドラムスもレオのギターも普通のロックっぽいサウンドだし、こうなるとジョシー時代のスカスカ・ファンクの方が魅力的だったように僕にも思えてくる。今じっくり聴直すとジョシー時代の方がよかったような気がするんだけど、それでも僕はやっぱり『リジュヴネイション』が一番好きなんだよね。
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