« アンチな人が多いマイルスの『ビッチズ・ブルー』で聴けるジガブー風ドラミング | トップページ | コルトレーンのモンク・コンボ修業時代 »

2016/06/25

ユッスーの1987年アテネ・ライヴが素晴しい

Unknown









ちょっと前(だいぶ前?)の『レコード・コレクターズ』誌輸入盤紹介コーナーで荻原和也さんが紹介されていて、僕はそれで出ているのを初めて知ったユッスー・ンドゥールの1987年アテネでのライヴ録音盤『ファテリク』。これが素晴しい。荻原和也さんに感謝します。ありがとうございます。

 

 

これが『レコード・コレクターズ』輸入盤紹介のコーナーに載っていたわけだから、『レコード・コレクターズ』といい『ミュージック・マガジン』といいその他といい、やっぱり海外盤紹介のページしか役に立たんよなあ。まあこれは前も言ったけれど。日本盤が出るものなんて本当にごく一部だもんね。ヴェトナム人女性歌手レー・クエンなんか見たことないよ。

 

 

ユッスーの『ファテリク』だって僕はその荻原さんの記事しかいまだに見たことないんだけど、他に話題にしている人っているのかなあ?レー・クエンだって荻原さんしか話題にしないじゃないか、紙メディア上では。ネット上にはブログなどで少しいるけれど。いや、別にそんなグチを書きたいわけじゃない。

 

 

僕が今日書きたいのはそのユッスー1987年アテネ・ライヴが最高に素晴しいってことだ。『レコード・コレクターズ』で荻原さんがどういう紹介をされていたのか忘れてしまったけれど(読直せばいいんだけどさ)、僕が買った紙ジャケCD附属のブックレットにそこそこ詳しい英語の文章が載っている。

 

 

『ファテリク』は正確にはユッスー・ンドゥール・エ・レ・シュペール・エトワール・ドゥ・ダカール名義で、全六曲約50分。この時のユッスーは、どっちがメイン・アクトだったかは分らないが、ピーター・ゲイブリエルとライヴ・ステージを分け合ったようだ。

 

 

ご存知の通りピーター・ゲイブリエルはユッスーをある意味「見出して」世界に紹介した立役者みたいな人で、ゲイブリエルが最初にユッスーを観たのは1980年のパリでのことだったとブックレット解説に書いてある。ユッスーの本格デビュー前のことだ。

 

 

と言ってもユッスーの「本格デビュー」を何年としたらいいのかは僕にはよく分らない。彼がエトワール・ドゥ・ダカールに加入したのが1979年らしく、当時ユッスー18歳。エトワール・ドゥ・ダカールは79年結成との情報があるけれど、それが本当ならユッスーの加入はその直後だったことになる。

 

 

しかしエトワール・ドゥ・ダカールの結成が1979年というそのネット上の情報はオカシイんじゃないだろうか。いやホント正確な情報が探しても見つからないからちゃんとしたことは言えないんだけど、エトワール・ドゥ・ダカールは、名前は違うのかもしれないが1970年代初めには活動をはじめていたんじゃないかなあ。ユッスー加入時の79年には既に人気バンドだったはず。

 

 

それでも1979年に加入してすぐにユッスーが実力を発揮しはじめ、80年代初期には独立してバンド名をシュペール・エトワール・ドゥ・ダカールに変更して事実上ユッスーがリーダーのバンドになる。タマ(トーキング・ドラム)のアッサ・チャムはその頃からの盟友にして欠かせない重要人物。

 

 

そしてユッスーの本格デビューは1984年の『イミグレ』で、ここからがユッスーの世界的快進撃のはじまりということになるんだろう。ってことはピーター・ゲイブリエルがパリで1980年に初めて観たというユッスーのステージはやはりまだ本格デビュー前ってことだなあ。その頃の音源もある。

 

 

『ユッスー・ンドゥール・エ・レ・シュペール・エトワール』というタイトルの四枚バラ売りのCDシリーズがあって僕も持っているのだが、これらが1980年代初期の音源集らしい。しかし84年の『イミグレ』以前にCDにして四枚分も録音があったのだろうか?う〜ん、あるってことなんだろうね。

 

 

その四枚シリーズのシュペール・エトワール・ドゥ・ダカールの音源集ではヴォーカルがユッスーじゃない曲もある。しかしこりゃもうどう聴いてもユッスーに聴き劣りする。それら四枚は1984年『イミグレ』以前の1981〜83年あたりの録音集だと思うんだけど、既にユッスーの存在感が抜群だ。

 

 

だから1980年のパリでのユッスーのライヴを聴いてピーター・ゲイブリエルが魅了され、その後セネガルのダカールに通うようになったという話も納得なのだ。そんなゲイブリエルの87年アテネでのライヴに招かれたのかどうか知らないが、ユッスーのその時のライヴ録音『ファテリク』。

 

 

1987年のユッスーというとアルバム『ザ・ライオン』くらいまではリリースされていたんじゃないかなあ。だって87年アテネ・ライヴの『ファテリク』では『ザ・ライオン』収録曲の「コック・バルマ」を歌っている。一曲目がお馴染み「イミグレ」だし、それ以外にもいろいろと既存曲を歌っている。

 

 

1985年リリースのアルバム『ネルソン・マンデラ』からもアルバム・ラストのタイトル曲の「ネルソン・マンデラ」と一曲目の「ンドビネ」を採り上げて、『ファテリク』になった87年アテネ・ライヴで歌っているもんね。『ファテリク』五曲目の「サマ・ドム」は『ザ・ライオン』八曲目の「サマ・ドゥーム」と同じ曲だ。

 

 

『ファテリク』ラストの「イン・ユア・アイズ」はピーター・ゲイブリエルと一緒に歌う。というよりもこれはゲイブリエルのバンドにユッスーがゲスト参加した曲で、ゲイブリエルがユッスーを発掘して名を広めた功績には敬意を表するものの、はっきり言って1987年のゲイブリエルのバンドとヴォーカルは聴いても聴かなくてもいいような。

 

 

だから『ファテリク』ではゲイブリエルとのジョイントになるラスト六曲目の「イン・ユア・アイズ」より前の五曲、ユッスーとシュペール・エトワール・ドゥ・ダカール単独の演唱が素晴しいのだ。これはもう本当に聴いていてユッスーの伸びやかで張りのある声といいバンドの躍動感といい文句なしなんだなあ。

 

 

ユッスーの最高傑作アルバムは1990年の『セット』だということになっていて、それには僕も全く異論はないし、個人的好みだけならそのちょっと後くらいが好き。だけれどもそのちょっと前、80年代後半のものがかなりいいよなあ。ユッスーが20代後半という年齢でヴォーカリストとして若くて一番ピチピチ・キラキラ輝いていた時期だから。

 

 

その1980年代後半のアルバムのなかでは89年リリース(ということになっているが?)の『ザ・ライオン』が個人的には一番好きだ。その頃に近いユッスーとシュペール・エトワール・ドゥ・ダカールのライヴ録音が残っていたなんてね。しかも良い録音状態だし、嬉しい。

 

 

1987年アテネ・ライヴの『ファテリク』では書いているように単独では五曲やっているのだが、どれもこれもユッスーやバンドのサウンドが跳ねていて魅力的。先行する(はずの)スタジオ録音ヴァージョンも持っているから聴き比べてみると、どれもアテネ・ライヴの方が活き活きとしている。

 

 

『ファテリク』の時のバンドはユッスーを除き演奏者は八人で、それ以外にダンサーが一人いるから全部で十人編成。ハビブ・フェイエ(ベース&キーボード)やアッサ・チャム(タマ)などお馴染みの主要メンバーももちろんいるし、それ以外の面々もユッスーのバンド常連の人達による熟練の演奏。

 

 

ユッスーが自分のバンドでやる音楽を「ンバラ」と名付けたのがいつ頃なのか知らないが、そのンバラの最高傑作である1990年の『セット』で聴ける音楽スタイルは、この87年アテネ・ライヴで既に完成している。そして僕はやっぱりライヴ・アルバム好きなんだよなあ。

 

 

ライヴ録音にはスタジオ録音ではどうやっても出せない生のグルーヴ感があって、それが1970年代アメリカ産ファンク・ミュージックでもそうなんだけど、この80年代後半のユッスーのバンドによるンバラでもやはり同じなんだなあ。当時28歳だったユッスーの声も伸びやかで文句なしに素晴しいよ。

 

 

だいたいユッスーってライヴ・アルバムが少ないというか殆どないんじゃないのかなあ。今まで僕がCDで持っているのはやはりシュペール・エトワール・ドゥ・ダカールの名前が出ている『ル・グラン・バル Vol.1 & 2』の一枚だけだった。何年のライヴかどこにも書かれていないのが残念だけど。

 

 

でも収録曲のレパートリーと、これは明記されてあるバンド・メンバーの顔ぶれと、出てくる音とユッスーの声から推測して、『ル・グラン・バル Vol.1 & 2』もやはり1980年代後半かもなあ。このライヴ・アルバムCDはおそらくオリジナルはカセットテープで発売されたものをCD化したもの。

 

 

それ以外には『ライヴ・アット・ユニオン・チャペル』という2002年のロンドン・ライヴを収録したDVDを持っていただけだ、僕の場合は。それら二つのライヴCDとDVD以外で、今までユッスーのライヴ・アルバムって出ているのだろうか?僕が知らないだけか?セネガル現地でなら売っているのか?

 

 

う〜ん、まあそのへんはセネガルの、といううかアフリカ・ポピュラー・ミュージックのマーケットのことについて全く無知な僕にはどうにも分らないし、現地リリースとワールド・リリースとの食違いが今でもあるみたいだし、どうにもならんよなあ。僕は完全に他力本願の甘ったれリスナーだから日本で買いにくいものはほぼ買う気がない。

 

 

それでも『レコード・コレクターズ』誌で荻原和也さんが紹介して下さって、それでアマゾン・ジャパンで探したら簡単に買えて(そこはピーター・ゲイブリエルのおかげか?)、もう何ヶ月も楽しんでいるので嬉しい。ユッスーは今年三月に新作もリリースしたらしく、それも入ってくれば買うだろうけれど、それよりも1980年代後半〜90年代前半の録音がもっとあるのなら、そっちをもっと聴きたいなあ。

« アンチな人が多いマイルスの『ビッチズ・ブルー』で聴けるジガブー風ドラミング | トップページ | コルトレーンのモンク・コンボ修業時代 »

音楽(その他)」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ユッスーの1987年アテネ・ライヴが素晴しい:

« アンチな人が多いマイルスの『ビッチズ・ブルー』で聴けるジガブー風ドラミング | トップページ | コルトレーンのモンク・コンボ修業時代 »

フォト
2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ