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2016/06/21

ジャズの4ビートもアイルランド音楽がルーツ

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中村とうようさんが最初に言出したのかどうかは全然知らないんだけど、少なくとも僕はとうようさんの文章で初めて読んだ「アメリカ音楽のリズムの基本はアイリッシュ・ミュージックにある」という説。今ではまあまあ普及・拡散しているようで、随所で見掛けるようになっている。

 

 

以前も書いたんだけど(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/post-0096.html)僕はジャズとロックという20世紀のアメリカ音楽のメインストリームだった(前半50年間がジャズ、後半50年間がロック)二つの音楽は、基本的に同じような音楽だと思っているけど、これもアイリッシュ・ミュージックがルーツだという話。

 

 

1950年代前半に大ブレイクしてその後のアメリカ音楽界のみならず世界中のいろんな音楽に大影響を与えてきたロックには、かなり白人音楽の要素が混じり込んでいる。マウンテン・ミュージックとかカントリー・ミュージックなどなど。そしてそれら白人音楽もアイルランド音楽がルーツ。

 

 

カントリー・ミュージック=アイリッシュ・ミュージック起源説を最も明確に裏付ける音資料が、アイルランドのバンド、チーフタンズの1992年作『アナザー・カントリー』だ。言うまでもなくチーフタンズはアイルランドが中心のケルト音楽バンドで、最初はケルト伝承音楽ばかり演奏していた。

 

 

チーフタンズのデビューは1963年の『ザ・チーフタンズ』。この後しばらくはバンド名の後に数字番号が付くだけのアルバム・タイトルが続くので、このデビュー・アルバムは俗に『ザ・チーフタンズ 1』と呼ばれる。この頃はまあホント世の中にこんなに地味な音楽があるのかと思うくらい地味。

 

 

デビュー後しばらくはヴォーカルなしのインストルメンタル演奏ばっかりで、伝統的なジグやリールなどだけ。それを華美な伴奏もなくイーリアン・パイプやティン・ウィッスルで極めて淡々と演奏するといった感じ。無伴奏のものも多いから、1960年代の派手なロック全盛期によくこんな音楽で世に出ようと思えたもんだよなあ。

 

 

そう考えると現在に至るまでチーフタンズが継続的にバンド活動を続けられていることが不思議に思えてくるくらいだ。1990年代以後の人気ぶりしか知らずエエ〜ッ?と思う方は、是非試しに『ザ・チーフタンズ 1』とか『2』とかあたりを買って聴いてみてほしい。ビートルズが大人気の時代だったことを考えるとその地味さに驚くはず。

 

 

その頃は書いたようにヴォーカルなしのインストルメンタル・ケルト音楽なんだけど、チーフタンズがいつ頃からヴォーカルを使うようになったのか、全アルバムを順番に聴直して確かめないと分らないから、それはかなり面倒で時間がかかるし、それに僕は彼らの全アルバムを持っているというわけでもない。

 

 

はっきりしているのは同じアイルランド(と言っても北アイルランドのベルファスト)出身の歌手ヴァン・モリスンと組んだ1988年の『アイリッシュ・ハートビート』が、当然ながらヴァンのヴォーカルを大々的にフィーチャーしていて、これが高く評価されヴァン人気もあって売れたらしい。

 

 

遅くともこの1980年代末頃からはヴォーカルを多用するようになったチーフタンズ(繰返すが僕は全アルバムは聴いていないので、もっと前から使っているんじゃないかと思う)は、1990年代に入ると世界各地のいろんな音楽家との<他流試合>を試みるようになって、その最初が前述の92年『アナザー・カントリー』。

 

 

1992年の『アナザー・カントリー』はチーフタンズがアメリカの様々なカントリー畑の音楽家と全面共演したアルバムで、レコーディングのほぼ全てがやはり92年に米カントリー・ミュージックのメッカであるナッシュヴィルで行われている。チーフタンズは当時のレギュラー・メンバー六人がそのまま参加。

 

 

そしてアメリカ側から参加しているのはドン・ウィリアムズ、リッキー・スキャッグズ、チェット・アトキンス、ウィリー・ネルスン、コリン・ジェイムズ、エミルー・ハリス、ベラ・フレック、ケヴィン・コネル、サム・ブッシュ、ザ・ニッティ・グリッティ・ダート・バンドなどなど錚々たる面々。

 

 

名のある人ばかりだけど、なかでもチェット・アトキンスやエミルー・ハリスなどは超の付く有名人だ。チェット・アトキンスのギター・スタイルは各方面に多大な影響を与えて、そのなかには初期ビートルズのジョージ・ハリスンもいる。「オール・マイ・ラヴィング」間奏のギター・ソロなんかそのまんまだ。

 

 

エミルー・ハリスもグラム・パースンズやボブ・ディラン関連その他でロック・ファンの間にもかなり名前が浸透している人。しかしながら僕個人にとって一番馴染み深い名前はウィリー・ネルスンなんだよね。なぜかと言えば彼には『スターダスト』というアルバムがあるからだ。ジャズ・スタンダード曲集。

 

 

ウィリー・ネルスンの『スターダスト』は1978年のアルバム。アルバム・タイトルになっている超有名曲が一曲目なんだけど、それ以外にも「ジョージア・オン・マイ・マインド」「ブルー・スカイズ」「オン・ザ・サニー・サイド・オヴ・ザ・ストリート」「ムーンライト・イン・ヴァーモント」などなど。

 

 

デューク・エリントンの「ドント・ゲット・アラウンド・マッチ・エニイモア」だって歌っているもんね。大学生の頃にこの『スターダスト』をある人からこんなのがあるけどいいから聴いてみてと教えてもらって、買って聴いてみて正解だった。でも当時ウィリー・ネルスンがどういう人かは全然知らず。

 

 

その後リンダ・ロンシュタットが1983〜86年にかけてスタンダード曲集を立て続けに三枚出したり、ロッド・スチュアートが21世紀に入ってからスタンダード曲集ばかり五枚も出すようになったりしているけれど、いくらジャズ系スタンダード好きの僕でもああいうのはどうもイマイチだなあ。

 

 

ウィリー・ネルスンの『スターダスト』は1978年だから、その手のものの先鞭を付けたようなアルバムだったのかもしれないが、あの『スターダスト』だけは大学生の頃の愛聴盤だった(今ではそうでもない)。その後この人が1960年代から活躍するアメリカ・カントリー畑の音楽家であることを知った。

 

 

そういうわけでチーフタンズの『アナザー・カントリー』でも、ウィリー・ネルスンが歌う五曲目の「グッドナイト・アイリーン」はロック歌手も非常によく歌う有名曲だということもあって馴染めるんだけど、しかし今日の文章の本題にはそれはあまり関係がない。問題は4ビート系のズンズン進むビート。

 

 

『アナザー・カントリー』一曲目の「ハッピー・トゥ・ミート」はパディ・モロニーの書いた曲で、ザ・ニッティ・グリッティ・ダート・バンドやベラ・フレック、サム・ブッシュなどが参加して演奏するインストルメンタル。最初6/8のお馴染みのジグなんだけど、すぐに4/4のリールに移行する。

 

 

6/8拍子のジグとか4/4拍子のリールとかはケルト音楽では最もポピュラーなリズム・スタイルで、チーフタンズはデビュー直後からそんなのばっかり演奏しているわけだから、『アナザー・カントリー』でパディ・モロニーがそんな曲を書いてイーリアン・パイプを吹いても全然どうってことはない。

 

 

しかしその「ハッピー・トゥ・ミート」には書いたようにたくさんのアメリカ人カントリー・ミュージシャンが参加してナッシュヴィルで録音された演奏だからなあ。バンジョーの音だってはっきり聞えるし、お聴きなれば分る通り1:57あたりから突然4ビートになる。

 

 

 

この4/4拍子部分のスウィング感。これはまさにアメリカン・ポピュラー・ミュージックの基本中の基本のリズムじゃないか。カントリーは言うに及ばずジャズのフラットな4ビートにソックリそのまんまだもんね。最初にリンクを貼った僕の過去のブログ記事中で僕が強調したジャズのビートはアイルランド音楽ルーツだという証拠。

 

 

しかしこの「ハッピー・トゥ・ミート」におけるフラットにズンズンと進む4ビートのスウィング感を、アメリカ人ミュージシャンが大勢参加しているからそうなっているだろうなんて思っちゃいけないよ。このビート感はケルト伝承音楽に昔からあるものなんだよね。ウソだと思うならチーフタンズの初期録音を聴いてみて。

 

 

この手の快活な4ビートは『アナザー・カントリー』にはたくさんあって、三曲目の「ワバッシュ・キャノンボール」も全く同じ。リッキー・スキャッグズが歌っているんだけど、ビートは完全に4/4拍子。しかしながら曲自体はパディ・モロニーの書いたオリジナルと彼のアレンジしたケルト伝承曲のメドレーなんだよね。

 

 

 

「ワバッシュ・キャノンボール」ではキース・エドワーズがドラムスを叩いていてなかなかスウィンギー。そしてそのスウィング感はジャズの4ビートのそれにソックリだね。その他アルバム中例を挙げていたらキリがないくらいだから、こりゃもうジャズの4ビートがアイルランド音楽由来というのは間違いないだろう。

 

 

ロックの場合中村とうようさんが『ロックへの道』というCDアンソロジーを編み丁寧な解説を寄せてくれているおかげで、ロックのビートがアイルランド音楽ルーツだというのがよく分るようになったんだけど、ジャズのビートだって全く同じだという説はまだ言う人が少ないからなあ。でも間違いないと思う。

 

 

アメリカには18世紀から19世紀にかけてかなり大量のアイルランド移民が流入し、19世紀半ば頃はアメリカの全移民の約半分がアイルランド系だったくらい。現在でもアメリカの総人口のおよそ12%がアイルランド系の出自だ。12%は相当多いぞ。だからアイルランド文化の影響はアメリカにかなり色濃くある。

 

 

20世紀半ばに勃興したロックがブラック・ミュージックだけでなく白人カントリー・ミュージックの影響を非常に強く受けていることは常識だ。そしてそのカントリー・ミュージックのルーツが紛れもなくアイルランド音楽だというのが、チーフタンズの『アナザー・カントリー』を聴くとよく分るし。

 

 

カントリー・ミュージック(従ってそれに影響を受けたロック・ミュージック)だけでなく、ズンズン進むフラットなジャズの4ビートのスウィング感だってそのルーツはアイルランド音楽だという、これは僕の場合1996年にグリーン・リネット・レコーズのアンソロジーで初めてケルト伝統音楽を聴いた時以来抱いていた考えを、『アナザー・カントリー』を聴いて一層強く確信した。

 

 

チーフタンズの『アナザー・カントリー』は、ケルト伝承音楽家とそれをルーツに成立したアメリカのカントリー・ミュージックの音楽家達との全面共演というのが表向きの看板だけど、同じアメリカ大衆音楽であるジャズが無関係だなんて思う方がオカシイだろう。音を聴けば誰だって明確に分ることなんだから。

 

 

繰返す。ジャズはアフリカのリズムとヨーロッパのハーモニーが合体してできた音楽だという話はウソだ。ジャズのビート感覚はアフリカ由来なんかじゃない。アイルランド由来に他ならない。

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