小泉今日子の歌うジョージ・ハリスン
大変ミスリーディングな記事タイトルでゴメンナサイ。
何度も書いて申し訳ないけれど大の愛聴盤である井上陽水奥田民生の『ショッピング』。どれもこれも古い米英ロック〜ポップへのオマージュで成立っている作品だけど、参照した元の曲が一番はっきりとモロに出ているのが九曲目の「月ひとしずく」だ。これはどうにも分りやす過ぎると思うほど。
『ショッピング』収録曲は全く一つもYouTubeに上がっておらず、実は僕が三曲ほど上げたのも速攻で日本を含む全世界で再生不可になってしまった。だからちょっと試聴していただくということができないのが残念なんだけど、ファンが自分でカヴァーしたのが結構上がっている。
そのなかで『ショッピング』ヴァージョンの「月ひとしずく」に一番近いと思うのがこれ→ https://www.youtube.com/watch?v=7TDGaQkDHtU あるいは歌は全くダメでスライド・ギターもないけれど、冒頭のアクースティック・ギターの刻みだけならこれが一番近い→ https://www.youtube.com/watch?v=Cw6SH-gbbSc
「月ひとしずく」のオリジナル・ヴァージョンは小泉今日子によるもの。例えばこういうの→ https://www.youtube.com/watch?v=yJMHSDSZ-xU この曲ももちろん井上陽水と奥田民生の合作だけど、歌詞だけ小泉今日子が書足して完成させており、作詞者のところには彼女の名前もクレジットされている。
そういう一連の小泉今日子ヴァージョンではあまり分らないんだけど、さきほど二つYouTube音源を貼った『ショッピング』ヴァージョンのカヴァー。それら素人ファンさん達がカヴァーしたもので充分お分りの通り、これはジョージ・ハリスンの「マイ・スウィート・ロード」なんだよね。
もちろん『ショッピング』収録ヴァージョンの「月ひとしずく」とは月とスッポンなんだけど、上げさせてくれないんだからしょうがないじゃないの。それさえ聴ければどれだけジョージの「マイ・スウィート・ロード」ソックリか手に取るように分るんだけど、はぁ〜まあ仕方がないんだろうなあ(嘆息)。
ジョージの「マイ・スウィート・ロード」はこれ→ https://www.youtube.com/watch?v=0kNGnIKUdMI 冒頭のアクースティック・ギターのカッティングといい、そこへ入る前奏や間奏のスライド・ギターのサウンドといい、その後に出るリズム・セクションの演奏といい、『ショッピング』ヴァージョンの「月ひとしずく」はそのまんまなんだ。
あるいは大勢のミュージシャン、特にアクースティック・ギターの音を多重録音して分厚くした、いわゆるウォール・オヴ・サウンド風な創りもソックリなんだよね(なんとかYouTubeに上げさせてくれないか?関係者のみなさん、そうした方がCD売れますよ)。ここまでソックリだというのは『ショッピング』のなかでも際立っている。
でもここまでは前置で、本題はそのジョージの「マイ・スウィート・ロード」が入った彼のオリジナル・アルバム『オール・シングズ・マスト・パス』の話。これは1970年録音・リリースのビートルズ解散後のジョージ初のアルバムにして、彼のソロ三作目。70年ってことはバンド解散と同じ年だよね。
ってことは『オール・シングズ・マスト・パス』の収録曲はビートルズ時代から書き溜めていたものに違いない。録音が1970年の5〜10月。ポール・マッカートニーがビートルズ脱退を表明したのが同年4月で、解散のための訴訟を起したのが12月30日。そこがバンド正式解散の日付になるんだろう。
ジョージの『オール・シングズ・マスト・パス』はまさにそういったビートルズ解散騒動の真っ只中で製作されたということになるなあ。音だけ聴くと、リリース順ではバンドのラスト作『レット・イット・ビー』とは違ってそんな雰囲気は感じられないので、とっくに心は離れていたってことだ。
それはジョージだけではなく四人全員そうだった。既に1968年あたりから彼らはバラバラで、特にジョンなんかビートルとしてはやる気はもう全くなかった。それにしては『ホワイト・アルバム』でも『アビー・ロード』でもいい曲を書いて歌い演奏しているんだけど、天才とはそういうもんだろう。
そんなわけでビートルズ解散騒動の真っ只中で製作されたジョージの『オール・シングズ・マスト・パス』は、現在の僕にとって四人の元ビートルのソロ・アルバムではおそらく最も愛するもの。個人的嗜好もあるし音楽的評価としても僕の中ではこれがナンバー・ワンなのだ。ジョージ・ファンだしね。
LPレコードでは三枚組だった『オール・シングズ・マスト・パス』。正直に告白すると僕はアナログ盤では買っていない。聴いていなかったという意味ではない。絶賛するクラスメイトが何人かいたので、レコードを借りて聴いてはいたんだけど、そういう高校生の頃は良さが分らなかったんだなあ。
だって僕はUKロックではレッド・ツェッペリンのファンだったんだから、そういうギンギンの派手でハードなロックが好きで、ジョージの『オール・シングズ・マスト・パス』を聴いても、なんだかこりゃ地味でちっとも面白くないなあとしか思えなかったんだよね。だから自分ではレコードを買わなかった。
その時代の地味な印象が残っていたもんだから、CDリイシューされるようになってもなかなか買わず、自分でお金を出して『オール・シングズ・マスト・パス』を買ったのは、なんと2001年のニュー・センチュリー・エディションが初だったという。あまりにも遅すぎた。聴いてみたら虜になったよ。
2001年だといろんな音楽を聴くようになっていて、なかには渋めのスワンプ・ロックなども大好きになっていたし、以前触れたように(https://hisashitoshima.cocolog-nifty.com/blog/2016/04/post-4cbf.html)ある時期以後はLAスワンプ勢を起用したUKロックこそ最高と考えるようになっているからねえ。
『オール・シングズ・マスト・パス』、確かにLAスワンプ勢が参加していて、ボビー・ウィットロック、カール・レイドル、ジム・ゴードンという直後にデレク・アンド・ザ・ドミノスになるリズム・セクションだし、ボビー・キーズ&ジム・プライスのホーン陣や、あるいはエリック・クラプトンもデイヴ・メイスンもいる。
その1970年頃のクラプトンもデイヴ・メイスンもスワンプ・ロックな音楽をやっているし、彼らも含め全員要するにディレイニー・アンド・ボニー・アンド・フレンズのUKツアーからそのまんま移行してきているわけだ。あれには(長年実際の音は聴けなかったが)ジョージだって参加していたわけだし。
しかしながらそういうメンツをそのまま起用しているにしては、ジョージの『オール・シングズ・マスト・パス』にスワンプ臭みたいなものは僕はちょっとしか感じない。これは不思議だ。じゃあ僕はこのアルバムのなにがそんな元ビートルが創ったナンバー・ワン・アルバムというほど気に入っているんだろう?
一つにはアルバム二曲目でシングル・カットもされ大ヒットしたらしい(「らしい」というのはリアルタイムでの実感がゼロだから)「マイ・スウィート・ロード」のキャッチーで明快なメロディが大好きということはあるなあ。この後トレード・マークみたいになったジョージの弾くスライド・ギターもいいよね。
「マイ・スウィート・ロード」ではアクースティック・ギターがサウンドの骨格になっているというのも近年の僕の音楽趣味にピッタリ合致する。ツェッペリンみたいにファズの効いたギンギンのエレキ・ギターが鳴り響くものこそ最高だと思っていた高校生の頃の僕に良さが分らなかったもの当然。
曲名の「我が愛しい神よ」とか、歌詞のなかに出てきてリフみたいにしてリピートされる「ハレルヤ」や「ハレ・クリシュナ」とかの宗教的メッセージみたいなものはどうでもいいというか、キリスト教者でもなければインド宗教にもさほど強い興味もない僕には全くピンと来ないものだ。
そんな曲名とか歌詞内容とか多くの日本人音楽ファンは重視していないだろう。一部にはそんな宗教と愛のメッセージみたいなものを真剣に書いている日本語の文章もあって、それはそれで別に文句はないんだけど。でもねえ、ハレルヤはともかくハレ・クリシュナとかはこの時代までジョージが罹っていた流感みたいなもんじゃないか。
そんなものよりやっぱり重層的に重なるアクースティック・ギターの分厚いサウンドや、スライド・ギターが入るあたりの素晴しさとか、リズム・セクションの演奏が入ってくる瞬間のスリルとか、ジョージが歌いバック・コーラスがリフレインを繰返すメロディの美しさとか、そういうのが魅力だよなあ。
あれぇ〜、なんか「マイ・スウィート・ロード」の話しかしていないのにもうこんなに長くなっちゃったぞ。元がLPレコード三枚組だった作品だから本当にいい曲がいっぱいあって、それらを話しはじめるとどんどん長くなってキリがないんだよね。CDでは二枚組だからアルバムの構成はイマイチ分りにくい。
だからサンタナのライヴ盤『ロータス』みたいに最初二枚組CDで出ても、再びCDでも三枚組でオリジナルLP通りのフォーマットで『オール・シングズ・マスト・パス』も出し直してくれると嬉しいんだけどなあ。LPレコードでは三枚目だった<アップル・ジャム>だけは僕は今でもあまり好きじゃないけれど。
また『オール・シングズ・マスト・パス』はフィル・スペクターのプロデュースで、確かに三曲目の「ワウ・ワウ」なんかはスペクターのウォール・オヴ・サウンドの真骨頂を発揮した一曲。それ以外もアルバム収録曲がなんだかモゴモゴとくぐもったような音だから、やはり彼のプロデュースだけはある。
いやもう本当にジョージの『オール・シングズ・マスト・パス』を僕がどれだけ好きかということをアルバム全体にわたって詳細に書いたらとんでもなく長くなってしまうので、今日はこのあたりまでにしておく。それにこのアルバムを自分のお金では2001年に初めて買ったような僕なんかより、みなさんの方がしっかりお分りのはずだからね。
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