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2016/06/28

レイ・チャールズのジャズ・ピアノ

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リズム&ブルーズ歌手兼ピアニストのレイ・チャールズ。彼にはジャズ・インストルメンタルをやった録音が結構あって、何枚かアルバムにもなっている。僕も長年リズム&ブルーズだけの人だと思い込んでいたので、全く気が付いていなかった。というかそもそもレイをあまり熱心に聴いてこなかったというのが事実。

 

 

アナログ盤ではアトランティック時代初期のリズム&ブルーズ録音のベスト盤コンピレイションをなにか一枚持っていただけで、それで超有名な「ハレルヤ・アイ・ラヴ・ハー・ソー」とか「アイ・ガット・ア・ウーマン」とか「ワッド・アイ・セイ」とかその他いくつか聴いていた程度だった。

 

 

大学生の頃にテレビでレイ・チャールズのライヴ・コンサートが流れたことがあって、名前だけは知っていたので観てみたら、それはカッコよかったなあ。詳しいことは全く憶えていないんだけど、確かその時レイはアクースティック・ピアノとフェンダー・ローズを行き来しながら弾いていたような。

 

 

そして実を言うとそのテレビで観た時にレイが盲目の人だということを初めて知ったくらい無知だった僕。当時の僕はリズム&ブルーズなんかほぼ全く聴いていなかったのに、その時テレビで観たレイのライヴは凄くいいなあと感じたのだった。記憶ではビッグ・バンドを従えていたような気がする。

 

 

それでも前述の通りベスト盤一枚しか買わず、CDリイシューがはじまってからも同じようなもんで、ベスト盤CDを買っただけだった。こりゃオカシイね。僕がレイ・チャールズをちゃんと掘下げるようになったのは2005年の八枚組ボックス『ピュア・ジーニアス:コンプリート・アトランティック・レコーディングズ 1952-1959』を買ってから。

 

 

『ピュア・ジーニアス:コンプリート・アトランティック・レコーディングズ 1952-1959』。タイトル通りアトラティック時代のレイの録音全集で、このCD八枚組でレイ・チャールズを初めてちゃんと聴いてみて、その音楽の素晴しさ・楽しさ・魅力をおそらく初めて理解したのだった。遅いよなあ。

 

 

八枚組の『ピュア・ジーニアス』。CDで八枚とは大きいなと買った時は思ったんだけど、でもアトランティック録音完全集にしてはちょっと少ないのかもしれない。でも合計九時間以上あるからそんなもんなのか。もちろんリズム&ブルーズが中心だけど、かなりジャズ録音があることをその時ほぼ初めて知った。

 

 

今聴直すとレイ・チャールズのリズム&ブルーズの録音にもかなりジャズの要素が混じり込んでいるし、あるいはカントリー・ミュージックの要素もあったりして、1930年生まれという世代を考えるとこりゃ当然だよなあ。30〜40年代ならジャズとブルーズはまだ分離していない。

 

 

レイ・チャールズのジャズ録音アルバムは1957年の『ザ・グレイト・レイ・チャールズ』が初らしい。しかもこれは代表作「ハレルヤ・アイ・ラヴ・ハー・ソー」や「アイ・ガット・ア・ウーマン」「メス・アラウンド」が入ったレイの初LPアルバム『レイ・チャールズ』に続くアトランティック第二弾。

 

 

ってことはアトランティック時代の最初からジャズをやっていたってことだよねえ。そしてやはり『ザ・グレイト・レイ・チャールズ』はアーメット・アーティガンではなく、アトランティックのジャズ部門統括者ネスヒ・アーティガンのプロデュースだ。この点ネット上の情報は一部間違っているものがある。

 

 

『ザ・グレイト・レイ・チャールズ』のオリジナルLPレコードは全八曲。僕の持っているリイシューCDではそれ以外に九曲のボーナス・トラックが入っていて、1961年の『ザ・ジーニアス・アフター・アワーズ』から六曲、同年のインパルス盤『ジーニアス+ソウル=ジャズ』から三曲という具合。

 

 

そのうち『ザ・グレイト・レイ・チャールズ』と『ザ・ジーニアス・アフター・アワーズ』は全く同じセッション音源なので、これをドッキングさせるのは納得できる。メンバーもほぼ同じだし、アレンジだってどっちもクインシー・ジョーンズだし。しかしインパルス盤からどうして入っているんだろう?

 

 

しかも僕の持っている『ザ・グレイト・レイ・チャールズ』に入っているインパルス盤『ジーニアス+ソウル=ジャズ』からの三曲「モーニン」「ストライク・アップ・ザ・バンド」「バース・オヴ・ザ・ブルース」は、全部ピアノではなくハモンド B-3 オルガンを弾いているので、聴いた感じもやや違和感があるんだなあ。

 

 

『ジーニアス+ソウル=ジャズ』にはビッグ・バンドが入っていて、これのアレンジもやはりクインシー・ジョーンズ。しかしこのアルバム、僕はあまり好きじゃないんだなあ。クインシーの仕事にしては最も魅力が薄いものの一つなんじゃないかなあ。アレンジがやや大袈裟でケバケバしいし。

 

 

レイ・チャールズがオルガンを弾くのはゴスペル要素の強い音楽家なので当然なんだけど、そのオルガンもハモンド B-3 とクレジットされてはいるものの、何種類かあるこのオルガンの音色には聞えにくい。本当にハモンド B-3 なのだろうか?と疑ってしまう。ちょっとヘンな音だよなあ。

 

 

そういうわけだから『ジーニアス+ソウル=ジャズ』からの三曲を『ザ・グレイト・レイ・チャールズ』のボーナス・トラックとして聴くのは違和感が強いんだなあ。この三曲がラストなので、僕はいつもその前で再生を止めちゃうもんね。そんなのよりミルト・ジャクスンとやったのを入れたら良かったのになあ。

 

 

レイ・チャールズがジャズ・ヴァイブラフォン奏者ミルト・ジャススンとやったのは1958年の『ソウル・ブラザーズ』。同じ時のセッションからの未発表曲集61年盤『ソウル・ミーティング』と2in1で今ではCDリイシューされている。これのドラマーが同じMJQのコニー・ケイでいい感じ。

 

 

MJQは音楽的リーダーのジョン・ルイスが西洋クラシック音楽趣味の持主で、バロック音楽の手法をジャズに持込んだりしたので今では殆ど聴かなくなっているんだけど、もしMJQにブルージー極まりないミルト・ジャクスンがいなかったら、クラシック・ファン以外には魅力のないジャズ・バンドになっていたかもしれないなあ。

 

 

そしてミルト・ジャクスン同様にMJQの(二代目)ドラマー、コニー・ケイも、MJQの録音ではイマイチ分りにくいけれど結構ブラック・フィーリングのあるドラマーで、だから僕は結構好き。しかもレイとやった『ソウル・ブラザーズ』『ソウル・ミーティング』にはブルージーなギターも入っている。

 

 

僕の知っているレイ・チャールズのジャズ・アルバムは以上で全部だ。きっともっとあるんだろう。僕が知っているなかでは『ザ・グレイト・レイ・チャールズ』と『ザ・ジーニアス・アフター・アワーズ』の二枚が一番好き。ジャズ・ファンはあまり知らないかもしれないが、レイのジャズ・ピアノはかなり上手いよ。

 

 

一番凄いと思うのが『ザ・ジーニアス・アフター・アワーズ』収録の「チャールズヴィル」。この猛烈なドライヴ感はどうだ。専門のモダン・ジャズ・ピアニストでもここまで弾ける人はそう多くはない。ジャズ・シーンでも活躍できたことは間違いない。

 

 

 

同じ『ザ・ジーニアス・アフター・アワーズ』から一曲目のアルバム・タイトル・ナンバー。お聴きになれば分るようにブルーズ・ナンバーだから、得意中の得意だ。ファンキーでブルージーでいいね。まるでレイ・ブライアントみたい、いやもっといいかも。

 

 

 

レイ・チャールズのジャズ録音ではこういうファンキー・ブルーズが多くて、彼の専門を考えたら当然のように上手くて魅力的。『ザ・グレイト・レイ・チャールズ』にも「ザ・レイ」「スウィート・シックスティーン・バーズ」がある。後者をどうぞ。

 

 

 

ペギー・リーで有名な「ブラック・コーヒー」もあって、これもまるで生粋のブルーズ・ナンバーにしか聞えないもんなあ。僕も長年ペギー・リーやサラ・ヴォーンで親しんできたものなので、最初に聴いた時は同じ曲だと分りにくかったくらいだ。

 

 

 

以前書いた通りホレス・シルヴァーの代表的ファンキー・ナンバーの一つ「ドゥードゥリン」もやっている。これもホーン群のアレンジはクインシー・ジョーンズでいい仕事ぶりだなあ。ホレスが自分のバンドでやったオリジナルよりいいかもしれないと思うほどだね。

 

 

 

こんな具合で同じ時の録音セッションからのアトランティック盤二枚『ザ・グレイト・レイ・チャールズ』と『ザ・ジーニアス・アフター・アワーズ』はレイ・チャールズによる最高のジャズ・アルバムなんだよね。普通の多くのモダン・ジャズ・ファンはレイにこんなのがあるなんて知らないんじゃないかなあ。

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