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2016/06/05

前衛テナーマンのスタンダード・バラード集

Asballads_for_trane_f

 

Crescent









アーチー・シェップというジャズ・テナー・サックス奏者。彼は1960年代半ばにジョン・コルトレーンに見出されてコルトレーンの1965年録音『アセンション』その他に参加したことで有名になった人のはず。実際シェップはコルトレーンこそが憧れで、コルトレーンのように吹きたいと思った人だ。

 

 

しかしシェップがコルトレーンのアルバムに参加して吹いている二つ『アセンション』『ニュー・シング・アット・ニューポート』は作品全体としては面白いものの、シェップのプレイに関してはどうってことないんじゃないかなあ。同じく参加しているテナーマンならファラオ・サンダースの方がいいような気がする。

 

 

シェップが音楽家としての本領を発揮しはじめるのはもっと後、コルトレーンが亡くなって以後の1960年代末あたりからだよねえ。特に69年のアルジェリアはアルジェでのライヴ録音盤『ライヴ・アット・ザ・パン・アフリカン・フェスティヴァル』などのアフリカ指向な作品が面白い。

 

 

そのあたりのいわばアフロ・セントリックなシェップの作品が一般の多くのジャズ・ファンにどう聴かれているのか僕にはちょっと分らない。彼は一応フリー・ジャズの人ということになっていて、そういう作品ばかりだし、アフリカ指向なアルバムでだって彼の吹くテナーはフリーなスタイルだしね。

 

 

そんなアーチー・シェップが、敬愛して止まない先輩であり師匠でもあったジョン・コルトレーンゆかりの(主にスタンダードな)バラード曲ばかりを、しかもフリー・スタイルではなくストレート・アヘッドなスタイルでやったアルバムが一枚あって、個人的にはそれがシェップでは最大の愛聴盤なんだよね。

 

 

それが1977年の『バラード・フォー・トレーン』。これは日本のDENON、すなわち日本コロムビアが録音しリリースしたアルバムなんだよね。70年中頃〜80年代頭あたりまでかなあ、イースト・ウィンドとかDENONとかトリオとか日本の会社がいいジャズ・アルバムを出していたなあ。

 

 

シェップのDENON盤『バラード・フォー・トレーン』のプロデューサーは小沢善雄氏。小沢氏はシェップがマサチューセッツ州立大学で教鞭を執っていた時代の同僚で知己だった。そして『バラード・フォー・トレーン』は小沢氏やDENON関係者が持ちかけた企画ではなく、シェップ自らの発案だったらしい。

 

 

1977年というコルトレーン死後ちょうど10年が経過した時点で、コルトレーンゆかりのバラード・ナンバーばかりをそれもスタンダードなメインストリーム・スタイルで吹くというアイデアを、どういうわけでシェップが思い付いたのかは分らない。シェップには64年に『フォー・フォー・トレーン』というアルバムもある。

 

 

『フォー・フォー・トレーン』もコルトレーン曲集だったけど、当時はコルトレーンが大活躍中で、このシェップのアルバムも当時インパルスに在籍していたコルトレーンが会社側に推薦して実現したものだった。またもう一つ67年の『ワン・フォー・ザ・トレーン』はなぜかCDは廃盤のまま。

 

 

『ワン・フォー・ザ・トレーン』は1967年のコルトレーンの死のわずか三ヶ月後のライヴ録音で、一度CD化されたもののすぐに廃盤になって一向にリイシューされないので、僕は買い逃している。どんな音楽だったのか忘れてしまった。まあ時代の産物というかそりゃコルトレーンの死の直後だしなんとなく分るような。

 

 

というわけでシェップが「トレーン」の名をはっきりと打出したのは以上三作品。そのなかで1977年の『バラード・フォー・トレーン』は彼にしては異色なというか普通のハード・バップ作品だ。しかもこれがかなりいいんだなあ。知ったきっかけは松山のジャズ喫茶ジャズ・メッセンジャーズでよくかかっていたから。

 

 

僕はそのジャズ・メッセンジャーズで『バラード・フォー・トレーン』を聴いたのがシェップ初体験だった。というかこのジャズ喫茶のママの愛好盤だったのか繰返し頻繁にかかっていたので、それで聴き憶えたテナーマンだったから、こういうスタイルの人なのかと思い込んでいた。

 

 

こういう人なのかとは要するにスタンダードなバラードをストレート・アヘッドなスタイルで吹くような普通のハード・バップなテナーマンなのかと。『バラード・フォー・トレーン』でも時々フリーキーな音やちょっと突拍子もないフレイジングをすることはあるけれど、それは本質は守旧派であるドルフィーだって同じことだ。

 

 

そのつもりでこれ以前のシェップの作品やコルトレーンのアルバムに参加しているのを聴いたら、こりゃもう全然違うフリーでアヴァンギャルドな人だから面食らって、そしてそっちの方がシェップ本来のスタイルだと分るようになった。それでも僕は『バラード・フォー・トレーン』が一番好きなんだなあ。

 

 

『バラード・フォー・トレーン』には六曲収録されている。一曲目の「ソウル・アイズ」はマル・ウォルドロンの書いた曲で、マルの作品にコルトレーンが参加したものもあるけれど、それよりも1962年のコルトレーン・カルテットによるインパルス盤『カルテット』のヴァージョンの方が有名なはず。

 

 

シェップも間違いなく『カルテット』収録ヴァージョンからインスパイアされたような演奏だ。コルトレーンの『カルテット』は翌年の『バラード』にもちょっと雰囲気が似たようなストレートなジャズ・アルバムで、二枚とも僕は大好き。『バラード』が好きとかいうと硬派なコルトレーン・ファンには睨まれそうだ。デューク・エリントンとの共演盤だって好きだよ、僕は。

 

 

『バラード』からもシェップは一曲選んでいて、それが二曲目のスタンダード「ユー・ドント・ノウ・ワット・ラヴ・イズ」。まあしかし一曲目の「ソウル・アイズ」といい「ユー・ドント・ノウ・ワット・ラヴ・イズ」といい、シェップのテナー吹奏ぶりはお手本のコルトレーン・ヴァージョンそっくりだ。

 

 

たまにフリーキーになったりスケール・アウトすることがある程度のことで、ほぼコルトレーンそのまんまなんだよね。それは他の曲もだいたい全部そう。コルトレーンに似ていないというかお手本がないものもあって、それはB面一曲目の「ウェア・アー・ユー?」と二曲目の「ダーン・ザット・ドリーム」。

 

 

この二曲はコルトレーンは一度もやっていないはず。ライヴなどで吹くことがあったかもしれないが録音は残っていないので、この二曲をシェップが採り上げた動機は僕にはちょっと分らない。けれども吹奏スタイルはスタンダードをやる時の1965年までのコルトレーンによく似ているもんね。

 

 

「ダーン・ザット・ドリーム」ではシェップはアルバム中これでだけテナーではなくソプラノ・サックスを吹いている。僕の耳にはコルトレーンがソプラノを吹く時の演奏よりもこのシェップのソプラノの方がいいんじゃないかと聞えるんだなあ。リリカルで美しい。まあそういう曲なんだけどね。

 

 

「ダーン・ザット・ドリーム」のアドリブ・ソロの冒頭でシェップは「飾りの付いた四輪馬車」(Surrey With The Fringe On Top)のメロディを引用している。言うまでもなくあのスタンダード・バラード。このあたりなんかフリーでアヴァンギャルドなイメージからは程遠いよね。

 

 

個人的に『バラード・フォー・トレーン』のなかで一番気に入っているのはA面ラストの「ワイズ・ワン」。コルトレーン・ヴァージョンは1964年の『クレセント』収録の曲だ。『トランジション』と並んで大好きなアルバムなんだよね。インパルス時代ではあのあたりが僕は一番好きだなあ。

 

 

しかし『クレセント』収録のコルトレーン・ヴァージョンの「ワイズ・ワン」は、最初シェップがそのまま踏襲しているようにテンポ・ルパートで出てコルトレーンもそのまま吹くものの、中盤の三分過ぎあたりからリズムが活発になって、エルヴィン・ジョーンズがシンバルとスネアでややラテン風なリズムを叩出しているんだよね。

 

 

1960年代のコルトレーンにはそういうリズムがラテンだったりアフリカンだったりするものがあって、僕なんかはそこらへんが一番面白いんじゃないかと思うわけだけど、ファンも専門家もみなさんエルヴィンのポリリズムどうたらは言うものの、ラテンだのアフリカンだのとは言わないよなあ。

 

 

僕なんかにはあの『至上の愛』はラテン/アフロ・ポップ・アルバムのようにすら聞えるんだけどねえ。世界中の誰一人としてそんなことは言ってないなあ。僕の耳と頭がオカシイのか、それともみなさんが精神性だの思想性だのを云々するばかりで音をちゃんとお聴きでないのか、どっちなんだろう?『史上の愛』についてはそういう文章を既に書上げているのでまた後日。

 

 

シェップの「ワイズ・ワン」にはそういうリズムの面白さは全然ない。1960年代から活動するコルトレーン・フォロワーはコルトレーンのそういう側面・面白さはあまり継承していないよねえ。はっきりしてくるのは70年代に入ってラテンやアフリカンなジャズ・ファンクが出るようになってからだ。

 

 

ってことはだよ、コルトレーンが1960年代にやっていた音楽のリズムの面白さを一番よく理解して継承し自分の音楽でそれを表現したのは、誰あろうかつてのボス、マイルス・デイヴィスだったってことだよねえ。1969年の『ビッチズ・ブルー』以後のマイルスには間違いなくそういう面があったよな。コルトレーン本人だってあと五年も生きていれば・・・。

 

 

この手の話については本が一冊書けるくらい言いたいことがあるので控えておく。シェップの『バラード・フォー・トレーン』ではアルバム・ラストの「シーム(テーマ)・フォー・アーニー」も大好き。コルトレーン1958年のプレスティッジ盤『ソウルトレイン』収録のがオリジナル。

 

 

コルトレーンの『ソウルトレイン』は、個人的愛好具合だけならばこれこそナンバー・ワン・コルトレーンで、アルバム全体にわたってリラックスしているし、アップ・テンポのハードな曲でもミドル・テンポのグルーヴィーな曲でもスローなバラードでも本当にいい感じ。シェップのヴァージョンもそれをよく表現しているんだよね。

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