暗くて重い「ダウン・バイ・ザ・シーサイド」
『エンコミアム:ア・トリビュート・トゥ・レッド・ツェッペリン』というアルバムがある。タイトル通りレッド・ツェッペリン・トリビュートとしてこのバンドの曲をいろんな人がやっているもので、1995年にリリースされた。熱心なツェッペリン・ファンの僕は出た時にすぐ買った。
でもこのアルバムでツェッペリン・ナンバー12曲をやっている歌手のうち、1995年当時に僕が知っていた人は殆どいない。「ジャメイカー」をやっているシェリル・クロウ、「サンキュー」をやっているデュラン・デュラン、「ダウン・バイ・ザ・シーサイド」をやっているトーリ・エイモスだけだったかも。
他はよく知らない人(聴いた感じではおそらく全員ロック系)だったんだけど、聴いてみたらなかなか面白かったんだよなあ。一曲目がツェッペリン四枚目のアルバムB面の「ミスティ・マウンテン・ホップ」で、やっているのは4・ノン・ブロンズ。知らない名前だったけど、この選曲がいいよね。
その「ミスティ・マウンテン・ホップ」の冒頭では、ツェッペリンの「ブラック・ドッグ」冒頭のエレキ・ギターがギュルギュル〜と鳴っている音をサンプリングして挿入してあって、直後にツェッペリン・ヴァージョン同様にフェンダー・ローズがリフを演奏しはじめ、エレキ・ギターも入って歌が出る。
その歌を歌っているのが4・ノン・ブロンズという名前のバンドの誰なのか今でも知らないんだけど、勢いがあって声に張りもあるし、なかなかいいヴォーカリストだなあ。まあ書いたように冒頭で「ブラック・ドッグ」ド頭の音を使っている以外は、ほぼツェッペリン・ヴァージョンそのまんまだけどね。
二曲目がフーティー&ザ・クロウフィッシュのやる「ヘイ・ヘイ・ワット・キャン・アイ・ドゥー」で、これまた渋い選曲。だってこのツェッペリン・ナンバーは1970年リリースの「移民の歌」シングル盤B面曲で、LPでもCDでもどのアルバムにも入らず、1990年のCD四枚組ボックス・セットで初アルバム収録されたものだからだ。
ツェッペリンのオリジナル・ヴァージョンの「ヘイ・ヘイ・ワット・キャン・アイ・ドゥ」は、1993年以後現在でも解散後リリースのラスト・アルバム『コーダ』のボーナス・トラックとして収録されている。この曲は意外に人気があるらしく、ブラック・クロウズにジミー・ペイジが客演したライヴ盤にもある。
話が逸れるけれど、そのブラック・クロウズとジミー・ペイジとの共演ライヴ盤『ライヴ・アット・ザ・グリーク』はかなり好きな二枚組なのだ。1999年録音翌2000年リリースのもので、たくさんツェッペリン・ナンバーもやっているというのが最大の理由で買ったんだけど、楽しいんだよね。
ブラック・クロウズとジミー・ペイジの『ライヴ・アット・ザ・グリーク』。ツェッペリン・ナンバーじゃないのは全20曲中6曲だけ。だからこれも事実上ツェッペリン・トリビュート・アルバムみたいなものだ。音を聴いただけでは、ジミー・ペイジとオードリー・フリードとの区別は僕には難しい。
ブラック・クロウズとジミー・ペイジの『ライヴ・アット・ザ・グリーク』。ツェッペリン・ナンバーじゃない六曲もジミー・ロジャーズの「スロッピー・ドランク」(リロイ・カーのものはじめ同名異曲が多い曲)とかエルモア・ジェイムズの「シェイク・ユア・マニー・メイカー」とか。
またB.B. キングの「ウォウク・アップ・ディス・モーニング」とかヤードバーズの「シェイプ・オヴ・シングズ・トゥ・カム」とか、ウィリー・ディクスンの書いたリトル・ウォルターの「メロウ・ダウン・イージー」とか、フリートウッド・マックの「オー・ウェル」とかだから、全部カヴァー曲なんだなあ。
なんでもブラック・クロウズとレコード会社との間で当時なにか権利上のトラブルでもあったらしく、それでオリジナル・ナンバーは発売できなくて、それでこういうツェッペリン・ナンバーとブルーズ〜ロックンロール・スタンダードばかりの二枚組ライヴ・アルバムになったらしい。僕なんかにはその方が嬉しい。
話が逸れちゃったね。レッド・ツェッペリン・トリビュートの『エンコミアム』。三曲目は僕もよく知っていたシェリル・クロウのやる「ジャメイカー」(レゲエ・ナンバーの "D'yer Mak'er" は「デジャ・メイク・ハー」じゃないよ)で、アクースティック・ギターで刻むレゲエ風リズムはおそらくシェリル・クロウ本人なんだろう。エレキ・ギターも多重録音で彼女がかぶせているかも。
四曲目「ダンシング・デイズ」は『聖なる館』のなかでは「ザ・クランジ」の次に僕が好きな曲で、リズムがいいし、2コーラス目の歌詞なんか最高で笑っちゃうんだよね(あれっ?僕は歌詞内容なんか聴かないって言っているじゃないか?)。それをストーン・テンプル・パイロッツがアクースティック・ヴァージョンでやる。
リリースされた1995年当時僕が一番よく知っている名前だったデュラン・デュランがやる六曲目の「サンキュー」は、ツェッペリンのオリジナル・ヴァージョン通りにアクースティック・ギターとオルガンを中心にしたアレンジで、ヴォーカルのサイモン・ル・ボンの声がロバート・プラントに似ている。
オリジナル・ヴァージョンでのギターがボ・ディドリー・ビート(3−2クラーベ)だった九曲目の「カスタード・パイ」。これをやっているのはメタル・バンドのヘルメットで、それにヴォーカルでノイズ・ロック系で有名なデイヴッド・ヨウが参加して歌っている。エレキ・ギターの音は完全なるメタル系。
僕はヘヴィ・メタルもまあまあ好きで聴くんだけど、もちろんぜ〜んぶレッド・ツェッペリンが道案内をしてくれたおかげだ。ツェッペリン自体はメタル・バンドとは言いにくいだろうけれど、金属的なエレキ・ギターといいヴォーカルの金切り声シャウトといい、先駆け的存在だったのは間違いない。
ロリンズ・バンドがやる十曲目の「フォー・スティックス」はパンクでノイジーな感じに仕上っていて、ロリンズ・バンドらしいサウンド(と言っても当時はロリンズ・バンドを知らず、このアルバムで知って聴いてみただけ)。ツェッペリンのオリジナルにあったワールド・ミュージック風味はほぼ消えている。
11曲目「ゴーイング・トゥ・カリフォルニア」は、ツェッペリンのオリジナル・ヴァージョンはアクースティック・ギターを中心とする生の弦楽器の美しい響きが印象的だったのだが、『エンコミアム』でやっているネヴァー・ザ・ブライドはアクースティック・ピアノとストリングスの伴奏で歌っている。
そしてラスト12曲目「ダウン・バイ・ザ・シーサイド」。ロバート・プラントとトーリ・エイモスがデュエットで歌うこれこそが『エンコミアム』の目玉だろう。それはプラント本人が参加しているということと、アルバム中一番長い七分以上もあって、しかもその上アレンジがかなり秀逸なのだ。
「ダウン・バイ・ザ・シーサイド」。『フィジカル・グラフィティ』でのオリジナル・ヴァージョンはエレキー・ギターとフェンダー・ローズを中心にしたサウンドに乗せてプラントがかなり牧歌的に歌う、のどかでのんびりとリラックスするような雰囲気。中盤やや雰囲気が変るけど。
それが『エンコミアム』では全然違っていて、いきなりファズが効いてメタリックな重たい感じのエレキ・ギターの音が出てきて、それだけでヘヴィーでダークな雰囲気が漂ってくるのだが、続いて出るロバート・プラントがやはりこれまたかなり落込むような感じでつぶやくように歌いはじめ、それにトーリ・エイモスが絡んでいく。
途中からアクースティック・ピアノの音もはっきりと出てくるけれど、メインはあくまでもダークでヘヴィーなエレキ・ギターと、うつむいてつぶやくようなプラントとトーリのヴォーカルだ。このアレンジ、誰が考えたんだろうなあ。これ一曲だけでもなかなか面白いツェッペリン・トリビュート・アルバムだと言える仕上りなんだよね。
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