ライヴでシャッフルになってない「バードランド」をようやく聴けた
昨2015年リリースのウェザー・リポートの未発表ライヴ録音集四枚組『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』。こないだようやく買って聴いた。以前から何度か書いているようにこのバンドは、ライヴ録音より完璧に仕上げるスタジオ録音の方が魅力的だと僕は思っているけれど。
それでも僕が最初に聴いたウェザー・リポートが『8:30』で、これはこのバンド初の公式ライヴ・アルバム(日本でだけ発売の『ライヴ・イン・トーキョー』を除く)。店頭で他のいろんなレコードと見比べると、代表曲らしきいろんな曲がたくさん入っていて、それらが全部いっぺんに聴けるならこれがいいなと思って買っただけ。
その後『8:30』に先んじるスタジオ作品を買って聴いてみたら、どう聴いてもそれらスタジオ録音の方がいいんだよなあ。「ブラック・マーケット」も「バードランド」も「スカーレット・ウーマン」も「ティーン・タウン」も「ア・リマーク・ユー・メイド」も「バディア」もなにもかも全部そう。
だから今現在のライヴ盤『8:30』の存在意義とは、ウェザー・リポート・ヴァージョンは初めて世に出た「イン・ア・サイレント・ウェイ」(ザヴィヌル&ショーターのデュオ)と、ジャコのベース・ソロと、ショーターのテナー・サックス・ソロ「サンクス・フォー・ザ・メモリー」と、あとは二枚目B面のスタジオ・サイドはかなりいい。
二枚目B面のスタジオ・サイドを除くライヴ音源で今の僕が一番好きなのは、ショーターが無伴奏でテナー・サックスを吹く「サンクス・フォー・ザ・メモリー」だなあ。1938年の古いポップ・スタンダードで、僕はこれ以前にフランク・シナトラのリプリーズ盤で知っていた好きな曲。
それくらいだよなあ『8:30』のライヴ・サイドで今でもマシだと思うのは。2002年にCD二枚組の未発表ライヴ集『ライヴ・アンド・アンリリースト』が出て、こっちはその当時既に殆ど聴かなくなっていた『8:30』よりはだいぶよかったように思う。これは今でも時々聴く。
そして昨2015年リリースの『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』。タイトルで分る通りこの四枚組は全てジャコ・パストリアス+ピーター・アースキン時代の未発表ライヴ録音集。ジャコのウェザー・リポート在籍は1976〜82年。ピーター・アースキンは1978〜82年だ。
この時代こそウェザー・リポートが一番良かった時期で、個人的にも一番好きな時期なので、ライヴとはいえたっぷり四枚も聴けるというのは嬉しいんだよね。もっとも僕は『ライヴ・アンド・アンリリースト』で聴いたアルフォンソ・ジョンスン+チェスター・トンプスン時代のライヴもかなりいいと思うけどね。
というかファンキーなグルーヴ感という意味では、その1975年頃のアルフォンソ・ジョンスン+チェスター・トンプソン時代の方がグルーヴィーでカッコイイんじゃないかなあ。『ライヴ・アンド・アンリリースト』にある「フリージング・ファイア」とか「マン・イン・グリーン・シャート」とかその他数曲。
だってジャコのベースはスペイシーに飛びまくって、あんまりボトムスをしっかり支えるようなものじゃないからね。ドラミングだってピーター・アースキンよりチェスター・トンプスンの方がヘヴィーでファンキーだし。チェスター・トンプスンはフランク・ザッパのアルバムにも参加しているものがあるよね。
そんな気がしはじめてはいるものの、僕の青春時代を捧げたのはやっぱりジャコ+アースキン時代のウェザー・リポートに他ならない。でもこの編成のスタジオ作は『8:30』の二枚目B面と、それに続いて出た1980年の『ナイト・パッセージ』、それの次作『ウェザー・リポート 82』しかない。
それら三つのジャコ+アースキン時代のウェザー・リポートのスタジオ作では、『8:30』の二枚目B面は楽しいけれどまだ模索状態という感じもあって、それが開花するのが『ナイト・パッセージ』でこれは見事な作品だけど、次の『ウェザー・リポート 82』ではザヴィヌルの音楽性がもう煮詰っている。
それでもスタジオ作では『ナイト・パッセージ』があるからまだいいようなものの、ライヴ作品となると当時リアルタイムで出ていたのは『8:30』だけで、これのライヴサイドは先に書いたように全然ダメなようにしか聞えなくなっているもんなあ。だから昨年リリースの四枚組も半信半疑な気持を抱いていた。
演奏内容に対する半信半疑な気持と経済的な理由と、その二つでなかなか買えなかった『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』。聴いてみたらなかなかいいじゃんこれ。『8:30』や『ライヴ・アンド・アンリリースト』にあるこの編成での録音よりもいいよ。
『ライヴ・アンド・アンリリースト』にあるジャコ+アースキン時代の五曲は、全て『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』にも、別年月日・別場所での録音が収録されている。それらを聴き比べたら『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』の方がいい。
それら五曲の話は後回しにして、まず一枚目がアルバム『8:30』の二枚目B面のスタジオ・サイドの曲四曲全部ではじまるというのがなかなかいい。『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』ヴァージョンでもオープニングの「8:30」冒頭はラジオ番組みたいな作りになっていて大好き。
「8:30」がライヴでも演奏されていたというのは知らなかった。スタジオ録音ではザヴィヌルのキーボード(ベース音も彼の弾くベース・シンセサイザー)とジャコのドラムスのデュオ演奏だったんだけど、『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』でも全く同じ二人のデュオ。
ひょっとしてあるいはご存知ない方がいらっしゃるかもしれないので書いておくと、ジャコは最初はドラマー志望で腕もよかったらしい。高校生の頃は学校のクラスメイトと組んだバンドでドラマーだった。ある時アメリカン・フットボールの試合で腕をひどく負傷し、それでドラマーは諦めベースに転向した。
『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』一枚目ではいきなりその「8:30」ではじまり、切れ目なしに二曲目の「サイトシーイング」に続く。これも『8:30』スタジオ・サイドの曲で、続く「ブラウン・ストリート」「ジ・オーファン」も全部そう。ライヴでやってたんだなあ。
そしてウェザー・リポートの場合、ライヴでやっていたものはかなりの部分録音している。これは生前のザヴィヌルがかなりのライヴ・ステージをテープに残してあると明言していた。フランク・ザッパその他そういった音楽家は結構いるみたいだ。ザッパの場合は編集してスタジオ作にも混ぜている。
「ブラウン・ストリート」の場合『8:30』収録のスタジオ・オリジナルは、これまたジャコのドラムスだけど(どうしてだったんだろう?)、『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』ではアースキンが叩いている。聴き比べるとやはり本職のドラマーの演奏の方が魅力的かもしれない。
「ジ・オーファン」は『8:30』ヴァージョンでは子供のコーラスが入っていたんだけど、『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』収録ヴァージョンでも途中でそんな声というか音が聞える。だけどコーラスが参加している様子もなくクレジットもないので、おそらくザヴィヌルのヴォコーダーかなあ。
一枚目にある「バディア/ブギ・ウギ・ワルツ」。これは『8:30』のものと同じアレンジのメドレーだけど、昔からこれはどこがいいんだか僕にはサッパリ分らず、今回聴いてもやはり同様なので割愛。一枚目ラストのジャコの無伴奏ソロでは、途中ビートルズの「ブラックバード」のメロディが出てくる。
ジャコと「ブラックバード」と言えば、ウェザー・リポート脱退後の初ソロ作『ワード・オヴ・マウス』B面でやっているよね。ウェザー・リポート時代のライヴでの無伴奏ベース・ソロ・コーナーでは、ジミ・ヘンドリクスの「サード・ストーン・フロム・ザ・サン」をちょっと弾くものだってあるしね。
『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』で個人的に一番興味を惹いたのは、二枚目に入っている「バードランド」だ。以前書いたようにこのバンドがライヴでこの曲をやると、例のブリッジ部分の後がいつでもシャッフルになってしまっていて大変残念。はっきり言って聴けないんだなあ。
ところが『ザ・レジェンダリー・ライヴ・テープス 1978-1981』の「バードランド」はシャッフルになっていない。『ヘヴィー・ウェザー』収録のオリジナルと同じリズムで、これなら聴ける。一瞬シャッフルになりかける怪しい瞬間がありはするけれどね。そうなりやすい曲なんだね。
その「バードランド」は1978年東京録音。ってことは『8:30』収録のものより前(そっちは79年)だよなあ。これはかなり意外な事実で、ちょっとビックリ。そしていつもシャッフルになってしまうのはアースキンのせいだろうと思っていたのだが、そうではなくジャコのせいだということも分った。
今日もやっぱりなんかだんだん長くなってきたなあ。もっともっと書きたいことが山ほどあるこの四枚組ライヴ集。ジャコのファースト・ソロ作収録の「コンティニューム」も二枚目に入っているし、四枚目にもジャコの無伴奏ソロ・コーナーがあり、また四枚目ラストの締め括りは例によって「ディレクションズ」だ。
それにしてもザヴィヌルは「ディレクションズ」という曲にこだわりがあるんだろうね。ウェザー・リポート結成当時からずっと長くやっている。この四枚組のは1978年大阪でのライヴ録音。ザヴィヌルは2007年に死んでいるので、プロデューサーは息子のトニー・ザヴィヌルとピーター・アースキンとなっている。
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