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2016/07/09

魅惑の音色サイン・ワイン

Seinmoottar

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2013年に買ったビルマ人歌手ソーサーダトンのCDアルバム『Sae Koe Lone Nae Aung Par Sae』(どう読むんだろう?)。彼女の歌も素晴しくてスッカリ惚れちゃったんだけど、同時に僕は彼女の歌以上に伴奏のサイン・ワインの音色に魅せられてしまったのだった。

ソーサーダトンの『Sae Koe Lone Nae Aung Par Sae』ではいろんな楽器が伴奏で入っていて、ピアノ、笛の音、金属的な鐘の音、竪琴のような音などいろいろあるんだけど、なかでも一番僕の耳を惹き付けたのがポコポコ、パカパカという音色で鳴っている(当時はなんだか正体不明の)打楽器らしきもの。

いや、打楽器なんだかなんなんだかサッパリ分らなかったんだけど、とにかくポコポコという独特の音色でせわしなく叩かれている(ように聞える)おそらくはなにかの打楽器。それはチューニングされていて旋律を奏でているように聞えたのだった。それがサイン・ワインというものだとすぐに知る。

サイン・ワインという名前の環状旋律打楽器だということを知り、その魅惑的な音色の虜になってしまった僕は、いろいろとネットで調べてみてちょっと混乱した。というのはその環状旋律打楽器がサイン・ワインと呼ばれているのに、同時にビルマ音楽のオーケストラの名称もサイン・ワインだったからだ。

こりゃどうなってんの?と思いさらに調べてみると、どうやらビルマ音楽の合奏団をサイン・ワインと呼ぶものの、その編成の中心になっている環状旋律打楽器をもやはりサイン・ワインと呼ぶので、紛らわしいので後者の方はパッ・ワイン(またはパット・ワイン)と呼ぶこともあるんだそうだ。

とにかく僕が魅せられてしまったのは、オーケストラ合奏の素晴しさもさることながら、やはり楽器としてのサイン・ワイン(パッ・ワイン)の音色だったんだなあ。ソーサーダトンのCDアルバムを何度も聴くうちに、だんだんと彼女の歌より伴奏楽器のサイン・ワインの音ばかり聴いてしまうようになった。

それくらい僕にとってサイン・ワイン(パッ・ワイン)の音はまるでチャームの魔法にかけられたみたいに魅力的に響いて惚れてしまった。ソーサーダトンのCDを買ったのはエル・スールだったので(日本でエル・スール以外に買える音楽ショップがあるのか?)、サイン・ワインのCDがないか探してみたのだった。

それで見つかったのがセイン・ムーターという人のサイン・ワイン独奏アルバム『プレイズ・ミャンマー・クラシカル・ソングズ』という一枚。入っている紙に英語で簡単な彼の略歴が書かれてあるんだけど、それによればセイン・ムーターは1952年生まれで、ピアノやザイロフォンなども学んだらしい。

その英文解説には “saing waing”(その他各種表記がある)という言葉は使われておらず、もっぱら “Myanmur drums” と書いてあるんだけど、これがサイン・ワイン(パッ・ワイン)のことだというのは間違いないだろう。セイン・ムーターはビルマのサイン・ワイン演奏の第一人者らしい。

サイン・ワインは環状の木枠の内側に19〜23個の調律されて旋律を奏でる太鼓を置き、奏者はその中央に座って両手の掌でそれらを叩き演奏する。言葉で説明するだけではなかなか分っていただきにくいと思うので、一つ演奏例の動画を貼っておく。
この演奏風景は冒頭少しだけ他の楽器との合奏だけど、すぐにサイン・ワイン(パッ・ワイン)中心になるので、その楽器の姿と実際の演奏方法が分りやすいと思う。音質がイマイチなんだけど、取り敢ずサイン・ワインがどんな見た目と演奏法の楽器で、どんな音色かは少し分っていただけると思う。

上掲 YouTube 音源はあまりご存知でない方にサイン・ワインのことを手っ取り早く知ってもらいたいと思って貼っただけで、演奏内容自体は別にどうってことはない。僕は名手セイン・ムーターのアルバムで彼のサイン・ワイン独奏の素晴しさを聴いちゃったからなあ。本当に凄いんだぞ。

いや「凄い」というのはちょっと違うかなあ。確かによく聴くとセイン・ムーターは目まぐるしい高速フレーズを難なく叩きこなす超絶技巧の持主だから「凄い」んだけど、その結果できあがった音楽をボーッと聴いていると、なんだか非常にゆったりとしてリラックスしているように聞えちゃうもんね。

なんというかあんまり好きな言葉じゃないんだけど、一種のヒーリング・ミュージック、インドネシアのジャワ島のガムラン演奏みたいな癒しの音楽に聞えるよなあ、セイン・ムーターのサイン・ワイン独奏は。部屋の中で聴いていると、そのあまりの心地良さに、技巧の見事さを忘れて眠り込んでしまいそうだ。以前も書いたけれど、聴いて寝るってのは悪いことじゃないんだよね。退屈だから寝るとは限らない。

ガムランに喩えたけれど、チューニングされて音階を持ち旋律を奏でる打楽器演奏であるという点でも、またそれがミニマルな音の構築法によって成立っているという意味でも、そしてそれが東南アジアの音楽であるという面でも、インドネシアのガムラン演奏とビルマのサイン・ワイン演奏は似ている。

似ているというかなにか音楽の本質において共通性があるような気がするなあ。インドネシアのガムランは以前菊地雅章の『ススト』関連の記事で書いたように大学生の頃から聴いている僕で、楽器も音楽も、あるいはバリ島のそれに乗せての舞踏も好きなんだけれど、サイン・ワインの方ははつい2013年に知ったばかり。

セイン・ムーターの『プレイズ・ミャンマー・クラシカル・ソングズ』は厳密にはサイン・ワイン独奏ではない。彼の叩くサイン・ワインの他にちょっとした金属音が聞える。鐘かなにかあるいは小さなシンバル(ヤグウェン?)か分らないけれど、それがほんのかすかに聞えるんだなあ。でも目立たない。

だから『プレイズ・ミャンマー・クラシカル・ソングズ』はあくまでセイン・ムーターのサイン・ワイン独奏を聴くアルバムだ。オーケストラ合奏としてのサイン・ワイン音楽なら他にもいくつかあるみたいだ。セイン・ムーターだって『アカデミー・ゴールデン・サイン』という合奏アルバムを創っている。それも見事。

セイン・ムーターのアルバムで僕が持っているのはそれら『プレイズ・ミャンマー・クラシカル・ソングズ』と『アカデミー・ゴールデン・サイン』の二枚だけ。でも現在のビルマ音楽シーンでは中心人物の一人らしいから、きっと現地ではもっとたくさんアルバムがあるに違いない。う〜ん、凄く聴きたいぞ。

厳密な意味での本当にサイン・ワインだけの独奏アルバムも僕は一枚だけ持っていて、それがあの『Beauty of Tradition』の二枚目 「 ミャンマー伝統音楽の旅で見つけたサインワインの独奏」というCDアルバム。これはサイン・ワインだけしか入っておらず、ひたすらポコポコ鳴り続けるだけという。

そのポコポコ、パカッパカッっていうサイン・ワインだけの独奏を約50分間聴いていると、本当に気持いいんだなあ。珍しい人間かもしれないなあ、こんな趣味は。『Beauty of Tradition』第二集でサイン・ワインを叩くのはパンタヤー・セインフラミャイン。この人も現在の名手らしい。

『Beauty of Tradition 』第二集は、第一集同様ビルマ音楽に造詣の深い井上さゆりさん(大阪大学大学院准教授)による非常に丁寧な日本語解説が付いていて、サイン・ワイン独奏の一曲毎にどういう曲でサイン・ワインをどう演奏しているか詳しく書かれてあるので非常に助かる。

楽器としてのサイン・ワインと楽団としてのサイン・ワインについても、日本語ブックレット末尾に見開き2ページにわたって井上さゆりさんが非常に丁寧に解説して下さっていて、日本語で読める文章としては『Beauty of Tradition』附属ライナーノーツが一番良いものに違いない。

そりゃビルマ語でなら詳しい文章もありはするんだろうけれど、今の僕にはソーサーダトンでもセイン・ムーターでも、CDジャケット記載のビルマ語は暗号にしか見えないもん(涙)。日本語や英語など僕が理解できる言葉で書かれてあるもののなかでは、井上さゆりさんのライナーノーツが最高だ。

『Beauty of Tradition』シリーズ二枚は言うまでもなく日本人が企画して現地ビルマに赴いて録音したものだから日本盤だ。二枚のうちでは、ヴォーカル曲の方が圧倒的に多い第一集「ミャンマーの伝統音楽、その深淵への旅」の方が好まれるんじゃないかなあ、多くのファンには。

もちろん僕だってあの第一集も大好きだ。そのなかでは一曲目がサイン・ワイン独奏、二曲目とラスト12曲目がサイン・ワイン楽団のインストルメンタル演奏で、その他パッタラーの独奏も二曲入っているけれど、それ以外は仏教歌謡などヴォーカル・ナンバーだ。その方が普通は聴きやすいだろう。

僕はといえば、ビルマ音楽初体験が最初に書いた通り2013年に買ったソーサーダトンで、直後に(楽器としての)サイン・ワインの虜になってしまって、すぐにセイン・ムーターの独奏CDを買って愛聴し、そうでなくたってジャズみたいなインストルメンタル音楽のファンだから、やっぱりサイン・ワイン独奏がいいんだなあ。

そういうわけで『Beauty of Tradition』も、第二集の「ミャンマー伝統音楽の旅で見つけたサインワインの独奏」の方が聴く回数が多い僕。ホントこのポコポコ、パカッパカッっていう音色の環状旋律打楽器、こんな魅惑的な楽器があるなんて、2013年までちっとも知らなかった。

しかし振返ってみれば、以前このブログで触れた渡辺貞夫さんのバンドの1984年のライヴ音源。「セヴンス・ハイ」後半のラッセル・フェランテのシンセサイザー・ソロが、今聴くとサイン・ワインの音色によく似ている。8:15あたりから。
当時これをFMラジオ放送で聴き、エア・チェックしたカセットテープを愛聴していた頃は、もちろんサイン・ワインなんて言葉すら知るわけもなく、ただなにか旋律を付けた竹かあるいは打楽器かなにかを叩いているような音で魅力的で面白いなと思い、そこだけ巻戻して繰返し愛聴していた。

でもこれ、今聴き返すとサイン・ワインだなあ。ってことは1980年代半ばから既にこんな音色が好きだったんだなあ。調律されて旋律を奏でる太鼓みたいな打楽器がね。それだからこそ2013年にソーサーダトンを聴いた時も、彼女の歌も好きになったけれど、それ以上に伴奏に耳が惹き付けられたってわけだねえ。

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