« 創作楽器が奏でるビートルズ | トップページ | ジェイン・バーキンの歌うアラブ風シャンソンはやっぱりシャンソン »

2016/07/19

レジー・ルーカスとエムトゥーメの課外活動

Mi0001810105

 

280507030388










マイルス・デイヴィス・ファンからは絶対に褒められることがなく悪口しか言われないカルロス・ガーネットというサックス奏者。しかしなかなか悪くないリーダー作品がある。僕が一番良いと思うのが1974年の『ブラック・ラヴ』だ。これはカルロス・ガーネット初ソロ・アルバムにして最高傑作。

 

 

中米パナマ生れのカルロス・ガーネット。1960年代後半にデビューしたのはアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズでだったらしいが、僕は全く聴いていない。そもそもガーネットが吹くこのバンドのアルバムってあるのか?その他チャールズ・ミンガスのバンドにも在籍したらしい。

 

 

しかしガーネットが名を上げるのはやはりマイルス・デイヴィスのバンドに参加してからだ。ガーネットのマイルス・バンドでの初録音は1972/6/6の四曲。そのなかから編集されて「ワン・アンド・ワン」「ヘレン・バット/Mr. フリーダム X」の2トラックが『オン・ザ・コーナー』に収録。

 

 

『オン・ザ・コーナー』のそれらB面におけるガーネットはテナーとソプラノの両方を吹いていて、はっきり言ってどうってことない聴応えのない吹奏ぶりだよなあ。その後1972年12月までの半年間だけマイルス・バンドに在籍して何曲かスタジオ録音している。

 

 

『オン・ザ・コーナー』B面以外で1970年当時にリアルタイムで発表されていたガーネットが吹くマイルスのスタジオ録音は、74年リリースの『ビッグ・ファン』一枚目B面の「イフェ」、同年リリースの『ゲット・アップ・ウィズ・イット』二枚目B面の「ビリー・プレストン」で全部だ。どれも大したことない。

 

 

この間1972年9月録音の二枚組ライヴ・アルバム『イン・コンサート』もガーネットのマイルス・バンド在籍時だったので当然吹いているけれど、これもちょっとなあ。だいたいこのライヴ・アルバムは73年にこのバンドのスタイルがはっきりするまでの過渡期みたいな作品でイマイチなんだ。

 

 

リアルタイムでのリリースは以上で全部だけど、ガーネットの吹くマイルスのスタジオ録音で未発表だったものがかなりあって(何度も書いているが1970年代マイルスは本当にこれが多い)、2007年リリースの『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』に収録されている。

 

 

あとはライヴ録音がブートで少しあるけれど、未発表スタジオ録音もライヴ・ブートもどれを聴いても、マイルス・バンド1972年6〜12月のガーネットのサックスはどこが面白いのか僕にもよく分らない。だからマイルス・ファンからは散々な評判になってしまって、いまだにそうなんじゃないかなあ。

 

 

というわけで僕も長年ガーネットのリーダー作品を買って聴こうという気になれなかったんだけど、CDリイシューされた1974年の初リーダー作『ブラック・ラヴ』を買って聴いてみたらかなり良いので驚いちゃったんだよね。もっともこれを買った理由はレジー・ルーカスとエムトゥーメが参加しているからだった。

 

 

ギターのレジー・ルーカスとパーカッションのエムトゥーメ。二人とも1972〜75年のマイルス・バンドで大活躍し、その演奏ぶりも最高だから大学生の頃から大ファンなんだよね。そして僕はかなり後になって知ったんだけど、この二人のいわばマイルス・バンド「課外活動」みたいなのがいくつかある。

 

 

レジーもエムトゥーメも1975年9月にマイルスが隠遁状態に入ってバンドが自然消滅して以後は、ブラック・ミュージック・シーンで活躍するようになったよね。それはご存知のみなさんが多いはず。ジャズ・ファンというよりもR&B〜ソウル〜ファンク系の黒人音楽リスナーに聴かれているはずだ。

 

 

一番有名なのは間違いなくエムトゥーメの1983年「ジューシー・フルーツ」だ。同年リリースの同名アルバムからシングル・カットされ、ビルボードのR&Bチャートで八週も一位を独占したメガ・ヒット・ナンバー。バーニー・ウォレルも弾いている。

 

 

 

これは大ヒットした7インチ・シングル・ヴァージョンだけど、同名アルバムのヴァージョンは約六分間。また約五分の12インチ・シングルとか約七分のインストルメンタル・ミックスとかもある。この12インチのが僕は一番いいんじゃないかと思う。

 

 

 

今年2016年6月に亡くなったばかりのPファンクのキーボード奏者バーニー・ウォレルが参加しているほか、女性ヴォーカルはタワサ・エイジー。まあ今聴くといかにも1980年代っぽいブラック・コンテンポラリーで古くさい音だなとは思うものの、多数のヒップホップ・ミュージシャンにサンプリングされている。

 

 

エムトゥーメの「ジューシー・フルーツ」をサンプリングしたなかには、僕でもよく知っているノトーリアス B.I.G やスヌープ・ドッグがいたり、あるいは他にもアリシア・キーズやジェニファー・ロペスなど有名歌手もいる。ノトーリアス B.I.G のなんか曲名がそのまんま「ジューシー」だ。

 

 

一方レジー・ルーカスの方はマドンナの1983年デビュー・アルバムをプロデュースしたのが最も有名だろう。次作の大ヒット・アルバム84年の『ライク・ア・ヴァージン』も途中までレジーが関わっていたらしいのだが、制作途中でマドンナと意見が合わなくなってレジーは降りたんだそうだ。

 

 

またレジーとエムトゥーメは二人でタッグを組んでいくつもアルバムをプロデュースしているよね。一番有名なのはステファニー・ミルズかなあ。彼女のアルバムを1979年から82年にかけて四枚もプロデュースしているし、その他いろんな音楽家のプロデュースをしているなかにゲイリー・バーツがいる。

 

 

ゲイリー・バーツもマイルス・ファンには評判の悪いサックス奏者で(そもそも1970年代のマイルス・バンドでマイルス・ファンに評判のいいサックス奏者はデイヴ・リーブマンだけ)しかし個人的には70年12月ライヴ録音の『ライヴ・イーヴル』での数曲とか悪くないソロもあるとは思う。

 

 

そんなゲイリー・バーツをレジー・ルーカスとエムトゥーメがプロデュースしたのはやはり1980年だからマイルス・バンド以後。そして同じマイルス・バンド1970年代のサックス奏者だったカルロス・ガーネットの『ブラック・ラヴ』はこのコンビのプロデュースではないが、演奏で二人が参加している。

 

 

ガーネットの『ブラック・ラヴ』が1974年作ということは、レジー・ルーカスもエムトゥーメもマイルス・バンドでバリバリ大活躍中の時期。だから<課外活動>と僕は言うんだけど、『ブラック・ラヴ』は直接的にはマイルス関係というより、エムトゥーメ・ウモジャ・アンサンブルからの流れだろうね。

 

 

ウモジャなんじゃ?っていう人がいるかもしれないが、エムトゥーメのマイルス・バンド在籍時の1971年にこのユニット名で『アルケブ・ラン:ザ・ランド・オヴ・ザ・ブラックス』というアルバムを録音し翌72年にリリースしている。レジー・ルーカスはいないが、ガーネットは参加している。

 

 

エムトゥーメ・ウモジャ・アンサンブルにはガーネットだけでなく同じくマイルス・バンドのサックス奏者ゲイリー・バーツもいるし、またドラムスがこれまたマイルス人脈のンドゥング・レオン・チャンクラーとジャバリ・ビリー・ハートの二人。そしてベースがマイルスとほんのちょっぴり関係があるバスター・ウィリアムズだ。

 

 

このなかからウモジャ・アンサンブルのリーダーであるエムトゥーメはもちろん、バスター・ウィリアムズとジャバリ・ビリー・ハートがガーネットの『ブラック・ラヴ』に参加しているもんね。それにギターのレジー・ルーカスを加え、さらにトランペットのチャールズ・サリヴァン、ピアノのアラン・ガンブズなど。

 

 

『ブラック・ラヴ』でさらに特筆すべきはディー・ディー・ブリッジウォーターの参加だろうなあ。アルバム三曲目の「バンクス・オヴ・ナイル」でリード・ヴォーカルを取り、その他三曲でもバックで歌っている。一曲目「ブラック・ラヴ」もディー・ディーの歌がいいとする文章があるけれど、それは違う。

 

 

一曲目「ブラック・ラヴ」での女性リード・ヴォーカルはアヨデール・ジェンキンスだ。しかしこの人は何者なんだろう?全然知らない歌手なんだけど「ブラック・ラヴ」での歌はかなりいいんだなあ。ディー・ディーもバック・ヴォーカルで参加している。

 

 

 

今貼ったのをお聴きになれば分るようにこれはジャズ・ファンクではない。「ジャズ」などという前置の必要ない完全なるファンク・チューンなのだ。ヴォーカルが終ると一応ガーネットのテナー・サックス・ソロがあるので、そこだけがかろうじてちょっぴりジャズ的要素かと感じる程度だよね。

 

 

しかしそのサックス・ソロもその背後でほぼ全面的に女性ヴォーカル・コーラスが入っているもんね。こんなのは1974年当時のジャズ人脈の音楽家が創るファンク・ミュージックには少ない。アルバム二曲目のタイトルが「エボネスク」だから、これはいかにも時代を感じさせる黒人意識高揚みたいなものかなあ。

 

 

「エボネスク」でもガーネットのテナー・サックスと女性ヴォーカル・コーラスが絡み合い、そのバックでファンクなリズムが躍動。三曲目がいよいよディー・ディーのリード・ヴォーカルが全面的にフィーチャーされる「バンクス・オヴ・ザ・ナイル」。

 

 

 

どうだろう?イイネこれ。ガーネットのソプラノ・サックス・ソロを除けばどこにもジャズ的な要素のないソウル〜ファンクな音楽だ。しかもこれ1974年1月録音ということは、ひょっとしてディー・ディー・ブリッジウォーターの最も早い録音なんじゃないだろうか?彼女は当時24歳。

 

 

アルバム・ラスト五曲目の「タウラス・ウーマン」ではレジー・ルーカスが彼らしいカッティング・ギターを弾くのも聴き物。それ以外でも弾いてはいるものの、1974年ならレジーが大活躍していたマイルス・バンドで聴けるようなプレイが目立たないもんね。「タウラス・ウーマン」ではおそらくはレジーが曲創りでも貢献しただろうというカッティングだ。

 

 

アルバム中ベスト・トラックはおそらく四曲目の「マザー・オヴ・ザ・フューチャー」だろう。ヨーデルみたいなヴォーカルはガーネット本人なのか?この曲はノーマン・コナーズがカヴァーしているよね。コナーズは『ブラック・ラヴ』にも参加していて、ジャバリ・ビリー・ハートとのツイン・ドラムス体制になっている。

 

 

ジャバリ・ビリー・ハートのマイルス・バンドでの録音は『オン・ザ・コーナー』くらいしか知られていないけど、1972年録音の未発表曲に「ジャバリ」というそのままのタイトルのものがあるんだなあ。全然大したことない演奏だけど、『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』で聴ける。

 

 

カルロス・ガーネットの『ブラック・ラヴ』は全曲ガーネットの作編曲で、叫ぶというか呻いているようなヴォーカルも含めそのあたりもマイルス・バンドでは全く分らない側面だ。『ブラック・ラヴ』を聴くとかなり面白い音楽家だと分る。マイルス・ファンもちょっと聴いてみてほしい。きっと見直すと思うよ。

« 創作楽器が奏でるビートルズ | トップページ | ジェイン・バーキンの歌うアラブ風シャンソンはやっぱりシャンソン »

リズム&ブルーズ、ソウル、ファンク、R&Bなど」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: レジー・ルーカスとエムトゥーメの課外活動:

« 創作楽器が奏でるビートルズ | トップページ | ジェイン・バーキンの歌うアラブ風シャンソンはやっぱりシャンソン »

フォト
2024年2月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29    
無料ブログはココログ