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2016/07/18

創作楽器が奏でるビートルズ

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熱心なビートルズ・ファンの僕なのに、いやだからこそかえって厳しくなるのか、ビートルズの曲のカヴァー集で本当に成功していると言えるものは少ないような気がするけれど、成功しているもののうち僕が特に気に入っている二つがウアクチのと映画『アイ・アム・サム』のサウンドトラック盤。

特にウアクチの2012年作『ビートルズ』はいい。僕が聴いたなかでは間違いなく最高のビートルズ・カヴァー・アルバムだ。ウアクチって日本でどれくらい人気があるのか知らないが、1978年結成のブラジルの器楽音楽集団で今までに14枚もアルバムを出している。昨年だったか活動停止しちゃったらしいけど。

でも僕もえらそうなことは全然言えないんだよね。その2012年作の『ビートルズ』で初めてその存在を知ったグループだから。しかもミナス・ジェライス出身ということで、最近の僕はブラジル音楽で「ミナス」という言葉を見ただけで警戒して近寄らないようにしているもんね。

でもある方にこれはいいぞとオススメされてウアクチの『ビートルズ』を買って聴いてみたらこれが面白かった。こんなビートルズ・ナンバーは聴いたことがなかったね。書いたようにインストルメンタル音楽集団だから、全くヴォーカルの入らない楽器だけの演奏なんだけど、ジャズメンがやるようなビートルズ・カヴァーとは全く違う。

ジャズメンがやるビートルズ・カヴァーで僕が初めて聴いたのは、おそらくウェス・モンゴメリーの1967年A&M盤『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』収録のタイトル曲と「エリナ・リグビー」だったと思う。ドン・セベスキー編曲のオーケストラ伴奏でウェスが弾くビートルズも悪くはないんだけれど。

あのウェスの『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』はピアノとベースがマイルス・デイヴィス・バンド時代のハービー・ハンコックとロン・カーターで、ドラムスがグラディ・テイト。このリズム・セクションがなかなかいいし、ハービーとロンも当時のマイルス・バンドでは聴けないファンキーな演奏をしているし。

それでもビートルズのオリジナル・ナンバーの熱心なファンである僕にはやはりなんかちょっと違うような気がしていたのも事実。ジャズメンやジャズ歌手がやるビートルズ・ナンバーのカヴァーというのも実にたくさん聴いたけれど、ピンと来るものって本当に少ないよなあ。

同じインストルメンタル演奏でもウアクチのはなにもかもぜ〜んぜん違うんだなあ。2012年のウアクチの『ビートルズ』がもっと前の1970年代とか80年代にもし出てその時に聴いたとしたら、僕は良さが全く分らなかっただろう。どこにも分類しようがないような音楽だし。

ウアクチは基本的には自分達で作った創作楽器で演奏する集団。CDで音だけ聴いてもどんな楽器で演奏しているのかはちょっと想像しにくいんだけど、なんだか筒かパイプかなんかでできたようなものとか、木琴みたいな音とか、その他種々の打楽器系とか、そんなのが中心になっているみたいな音だ。

もっとも他のアルバムはともかく『ビートルズ』では創作楽器に混じってエレキ・ギターやエレベやピアノといった一般的な楽器も聞える。二曲目「ゲット・バック」後半で派手にファズの効いたエレキ・ギターが鳴るんだけど、これなんか今聴くと入ってない方がよかったんじゃないかとも思える。

いろんな曲でフルートみたいな管楽器が主旋律を吹く音が聞えるけれど、これはやはりどうもフルートそのものらしい。三曲目の「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」もそう。なんだか分らないがポコポコと鳴っている打楽器系の音に乗せてフルートがこの曲の主旋律を吹くのを聴くと少し不思議な気分だ。

ポコポコ鳴る打楽器系の音(これはなにかの筒を鳴らしているに違いない)は、ウアクチの『ビートルズ』の中核を成していて、ほぼどの曲もそれがサウンドのベースになっている。これをおとなしいサウンドだと想像したら大間違い。例えば二曲目「ゲット・バック」でもかなり激しいビートを表現している。

「ゲット・バック」ではそういうポコポコ鳴る打楽器の音が複層的に重なって、強い生命力を感じさせる激しいビートを形成し、それに乗ってフルートや、あるいはやはりなにかの鐘のような音の創作打楽器や、さきほど書いたようにエレキ・ギターなどが次々と現れて演奏するというかなり面白い内容。

複数の筒というかパイプでできた楽器を手かなにかで叩いてポコポコという音を出す楽器は、名前は知らないがウアクチ結成当時から彼らのサウンドの中心になっているものらしい。『ビートルズ』でもほぼ全ての曲で聞えるし、リズムやサウンド・テクスチャーの中核になっているのが分る。

創作楽器を中心に演奏するというとイロモノというか変り種、オモシロ楽器演奏家だと見做されそうな気がするけれど、CDでウアクチの音だけ聴くとそんな考えは完全に消し飛んでしまう。とにかく演奏技術がとんでもなくハイ・レベルでバカテクだし、しかもその技術が美しい音楽表現に結びついている。

ウアクチの『ビートルズ』に収録されているビートルズ・ナンバーはいわゆる中期〜後期のものばかりで、一番古いものでも1966年『リヴォルヴァー』収録の「フォー・ノー・ワン」だ。この曲の冒頭で聞えるエレキ・ギターかあるいはシンセサイザーみたいなギュ〜ンという音はなにで出しているんだろう?

その「フォー・ノー・ワン」でも、やはりパイプのポコポコ鳴る音がベーシックなサウンドになっている上でフルートが吹くメロディがこの上なく美しく聞える。『リヴォルヴァー』収録のポールの歌うオリジナルも大変美しいメロディだったわけだけど、それがより一層際立っているように思う。

全部1966年以後のビートルズ・ナンバーばかりなんだけど、それもなかには「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」や「サムシング」や「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」といった超有名曲もあるものの、それ以外の多くがやや渋めというかビートルズ・ファンじゃないと馴染が薄いような曲ばかりなのもイイ。

なんなって一曲目が『ホワイト・アルバム』のなかの小品「マザー・ネイチャーズ・サン」で、これは個人的には凄く嬉しかった。あの二枚組収録のポールの曲のなかでは目立たない地味な曲だけど、なんたって個人的には最大のフェイヴァリットだもんね。ウアクチのでは「ジュリア」とか「ディグ・ア・ポニー」とかもいいね。

有名曲に混じって入っているそういう地味な小品も全て凄くチャーミングに仕上っているし、「マザー・ネイチャーズ・サン」「ジュリア」「フォー・ノー・ワン」「ディグ・ア・ポニー」といったあまり採り上げられないけれどビートルズ・ファンなら愛しているナンバーがこんな風になれば嬉しい。

こういうのがあるので貼っておこう。アルバムにも入っている「ヒア・カムズ・ザ・サン」→ https://www.youtube.com/watch?v=8mPnIEVis88  最高にチャーミングだよね。またアルバムには入ってないけれど「ウィズイン・ユー・ウィズアウト・ユー」→ https://www.youtube.com/watch?v=Ev_p2IUC2f4

ビートルズのオリジナルに忠実なアレンジとサウンドではないというか、創作楽器ばかりでやっている器楽アンサンブルだから忠実になりようがないので、メチャメチャ大胆に変貌しているのもいいんじゃないかな。だってオリジナルに忠実ならビートルズ・ヴァージョンを超えようがないんだから。

こんな具合に変貌しているビートルズ・カヴァー集ってウアクチの他にあるのかなあ。僕が無知なだけで知らないだけなんだろうとは思うんだけど、ウアクチの『ビートルズ』を聴いてその面白さ・楽しさに降参してしまった僕としては、これを超える斬新でユニークなものは見つけにくいように思える。

最初に書いたように熱心なビートルズ・ファンだからこそなのか、中途半端なカヴァー集はかえって気持悪くなってしまう僕なんだけど、ウアクチの2012年『ビートルズ』はオリジナルの音楽家に対する深いリスペクトの情も感じるし、その上でこんなに大胆にやってくれたら文句なしだ。

最初に触れた同じく好きな『アイ・アム・サム』のサントラ盤についても書こうと思っていたのに、長くなりすぎてしまうしその余裕がなくなった。アルバム・ラストに入っているニック・ケイヴの歌う「レット・イット・ビー」なんて最高に沁みるんだけど、また別の機会にしておこう。

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コメント

普段の内容からすると意外に思えるニックケイヴの名前に思わず反応してしまいました。
25~30年程昔、大好きで良く聴いていました。
元々パンク~NWの流れで出て来た人でしたが古い黒人音楽にも影響を受けていてヨーロッパ的な退廃感(オーストラリア出身でしたが…)と相まってオルナタブルースとでも言うべき独特の世界観に夢中になりました。
特に3枚目のアルバムでは古いブルースやゴスペル等もカバーしていて、そういった音楽への興味を持ち始めるきっかけの1つにもなりました。
レットイットビーのカバーは未聴ですが探して聴いてみたいと思いますので是非アイアムサムのサントラについての記事もアップして下さい。
本文にあまり関係が無い上に長文失礼しました。

タメさん、ニック・ケイヴの名前を僕が出すなんて、自分でも相当意外なんですよね(笑)。彼が特に好きというわけでもなく、ホント大して聴いてないので、語る資格はないです。でも『アイ・アム・サム』サントラ盤ラストの「レット・イット・ビー」は本当にいいですよ。
https://www.youtube.com/watch?v=z7mJUIrudgM

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