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2016/07/15

マイルスの初期プレスティッジ録音がなかなかイイ

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4ビートのアクースティック・ジャズをやっていた頃のマイルス・デイヴィスでは、コロンビア録音よりもその前のプレスティッジ録音の方が好みである僕。1951〜56年までだ。もちろん一番良いのが56年の例の二回のマラソン・セッションから生まれた “in’”四部作であるのは間違いない。

 

 

あの “in’”四部作は、マイルスがプレスティッジに録り溜めた全26曲からレーベル側が四枚に分けて、しかも1957年のコロンビア移籍後に一年に一枚ずつリリースしたもの。それは大資本のメジャーであるコロンビアの宣伝力によってマイルスの知名度と人気が上がり、プレスティッジのアルバムも売れることを見込んでのこと。

 

 

あの四枚のうち最初に出た『クッキン』は1957年のリリース。その後リリース順に58年の『リラクシン』、59年の『ワーキン』と続き、最後の『スティーミン』をプレスティッジがリリースしたのはなんと61年のこと。つまりコロンビアの『カインド・オヴ・ブルー』までも既に出ていた。

 

 

これがレコード会社の商魂たくましいところなんだけど、当のマイルスがプレスティッジに録音してあったその四枚の音楽内容だって、リアルタイムでリリースされていた1950年代末〜60年代初頭のコロンビア録音の諸作と同時期に出ても、同じように全く違和感なく受入れられていたらししい。

 

 

ってことはあの進行形四部作になった1956年5月と10月の録音におけるマイルス・クインテットの音楽がどれだけ質の高い優れたものであったかという証拠でもある。しかしながら、僕はそれらの前にプレスティッジに録音された50年代前半の録音も結構好きなのだ。

 

 

マイルスのプレスティッジでの初アルバムは、リリース順では1951年の『ザ・ニュー・サウンズ』になるが、これは10インチ盤LPで僕は現物を見たことがない。その次が53年の『ブルー・ピリオド』でこれも10インチ盤。次いで同年にやはり10インチの『ザ・コンポジションズ・オヴ・アル・コーン』。

 

 

その後1954年『マイルス・デイヴィス・カルテット』、同年の三枚『マイルス・デイヴィス・オール・スター・セクステット』『マイルス・デイヴィス・クインテット』『マイルス・デイヴィス・アンド・ソニー・ロリンズ』、55年の『マイルス・デイヴィス・オール・スターズ』vol.1と vol.2 の二枚と、全部10インチ盤。

 

 

ここまで全てリアルタイム・リリースでは10インチ盤LPが続き、お馴染みの12インチ盤LPは1955年の『ザ・ミュージング・オヴ・マイルス』が初。この後は全て12インチLPなので、そのまま日本盤LPが出ていたし、CDでもほぼそのままの形でリイシューされているから僕もよく知っている。

 

 

最初の九枚の10インチ盤LPは僕は現物を見たことがなく、プレスティッジがそれらに収録されていた音源を今で言う 2in1のような形で12インチLPにしてリリースし、その後CDリイシューしているものしか見たり聴いたりしていない。自称マイルス・マニアがそれでいいのか?と言われそうだ。

 

 

その九枚の10インチ盤LP音源は、一曲残らず全て12インチ盤LPに再録されCDにもなっているので、音源そのものは不足なく聴くことができる。そういうプレスティッジの10インチ盤録音をまとめて12インチにしてリリースした最初のものが1956年リリースの『ディグ』だ。

 

 

『ディグ』は1951年10月5日のマイルスのプレスティッジへの二回目の録音が中心。マイルスのプレスティッジ初録音は同51年1月17日の四曲5テイクで、それらは他のものと併せ『マイルス・デイヴィス・アンド・ホーンズ』というプレスティッジの12インチ盤LP三作目に収録されている。

 

 

『マイルス・デイヴィス・アンド・ホーンズ』は僕にとってすらはっきり言ってあまり面白くない内容のアルバム。ジャケット・デザインもなんだかワケが分らない気持悪いものだなあ。実質的には『ディグ』こそがプレスティッジでのマイルスのスタートみたいな感じに見える。

 

 

『ディグ』は昔から評価が高く名盤選なんかにも載っていることがあるのでみなさんよくご存知のはず。僕もマイルスを知った最初の頃に買った。だからこれについては今日はあまり書く気はない。ハード・バップの夜明けとしていろんな人が褒めているから、いまさら僕なんかがなにも言う必要はないはずだ。

 

 

あまり言われないことを一つだけ書いておくと『ディグ』のリイシューCDラストに入っている1951年録音の「マイ・オールド・フレイム」(オリジナル12インチLPには入っていない)。これは間違いなくビリー・ホリデイの1944年コモドア録音盤の同曲からインスパイアされたものだ。

 

 

ちょっと音源を貼っておこう。「マイ・オールド・フレイム」マイルス・ヴァージョン→ https://www.youtube.com/watch?v=FVxRxcV7iyw  ビリー・ホリデイ・ヴァージョン→ https://www.youtube.com/watch?v=jDSUKQZbHEk  1956年以後のマイルスならハーマン・ミュートで吹いたところだろう。

 

 

「奇妙な果実」だけがやたらと名高いビリー・ホリデイの1940年代中期コモドア録音盤では、僕はその代表曲(と世間で言われているもの)よりも、こういう「マイ・オールド・フレイム」や「アイル・ビー・シーイング・ユー」(https://www.youtube.com/watch?v=9l44_n60QQ8)などの方が断然好きだ。

 

 

ビリー・ホリデイの話はおいといて初期プレスティッジ録音のマイルス。1956年10月リリースの『ブルー・ヘイズ』なんか全体的に音楽内容もかなりいいんだ。53年と54年の録音集。個人的にはプレスティッジのマイルスでは55年録音の『マイルス・デイヴィス・アンド・ミルト・ジャクスン』が最高ではあるけれども。

 

 

何度か書いているように『マイルス・デイヴィス・アンド・ミルト・ジャクスン』は4ビートでアクスーティック時代のマイルス・コンボ作品では僕が最も愛するアルバム(ビッグ・バンドものも含めればコロンビアの『マイルス・アヘッド』になるが)で、隠れた名盤だと信じている。個人的は隠れてすらいない。

 

 

僕にとってはレッキとした名盤なんだけど、しかしながら誰一人として『マイルス・デイヴィス・アンド・ミルト・ジャクスン』を推薦していないところを見ると、やはり隠れているんだなあ。僕はジャケットも好き。<うんちマイルス>などと言われ評判の良くないジャケットだけどね。確かに和式トイレでしゃがんでいるような格好だ。

 

 

この隠れ名盤の話は今までに何度か書いているので、今日は『ブルー・ヘイズ』の話。このアルバムなんて隠れているどころか埋れたままで、誰一人意識すらしないし、かなりのマイルス・ファンじゃなかったら存在すら知らないかもしれない。だけど内容はかなりいいぞ。このアルバムにはみなさんお馴染みの三曲が既にある。

 

 

「フォー」「ウェン・ライツ・アー・ロウ」「チューン・アップ」の三曲のことで、全て1956年のファースト・レギュラー・クインテットによるマラソン・セッションで再演している。「フォー」は『ワーキン』、他の二曲は『クッキン』に収録されていて名演として名高いマイルスの得意レパートリー。

 

 

それら三曲のうち「フォー」「チューン・アップ」の二つは、『ブルー・ヘイズ』でも『ワーキン』でも『クッキン』でもマイルスのオリジナル・ナンバーとなっているけれども、実はエディ・クリーンヘッド・ヴィンスンが自分の書いた曲だと主張していて、僕はヴィンスンが正しいんじゃないかと思っている。

 

 

エディ・クリーンヘッド・ヴィンスンはジャズとリズム&ブルーズの中間あたりで活動した人で、アルト・サックス奏者にして歌手。ジャンプ・ミュージックをやっていた例の1940年代クーティ・ウィリアムズ楽団を皮切に、50年代初期には自分のバンドにジョン・コルトレーンを雇ったりもしていた。

 

 

曲を本当に書いたのがマイルスなのかヴィンスンなのか、真相が今では分りにくいんだけど、とにかく『ブルー・ヘイズ』収録の「フォー」「チューン・アップ」、そして「ウェン・ライツ・アー・ロウ」は、数年後同じプレスティッジに再録したヴァージョンには及ばないものの、なかなか悪くない内容なのだ。

 

 

『ブルー・ヘイズ』の「フォー」も「チューン・アップ」も「ウェン・ライツ・アー・ロウ」も全てマイルスのワン・ホーン・カルテット編成だというのもいいんだなあ。「フォー」はピアノがホレス・シルヴァーでドラムスがアート・ブレイキー。他の二曲はジョン・ルイスのピアノにマックス・ローチのドラムス。

 

 

特に「フォー」でのホレスとブレイキーがいい。1954年録音だからジャズ・メッセンジャーズ結成直前で、例のクリフォード・ブラウンを擁するクインテットでバードランドでやったライヴが二枚のアルバムになったのと同じ時期だ。既にブラウニーに追越されちゃっているけれど、マイルスだって悪くない。

 

 

 

「フォー」は『ワーキン』収録ヴァージョンが『セイ・イット・ラウド!:ア・セレブレイション・オヴ・ブラック・ミュージック・イン・アメリカ』というボックス・セットに選ばれて収録されている。トップがスコット・ジョップリンのラグタイム「メイプル・リーフ・ラグ」で、ラストがラッパー、クーリオの曲という黒人音楽礼賛アンソロジー。

 

 

さてもう一枚僕の好きな初期プレスティッジ録音のマイルスが『ザ・ミュージング・オヴ・マイルス』という一枚。前述の通りリアルタイムではマイルス初の12インチLP盤。なんたって一曲目が大好きなマット・デニスの「ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン?」だもんね。いい曲なんだよね。

 

 

マット・デニスなんて硬派なマイルス・ファンやジャズ・ファンはバカにしているような気がするけれど、今で言うシンガーソングライターの走りみたいな人で、たくさんいい曲を創り、それを自分でピアノを弾きながら歌った人。『プレイズ・アンド・シングズ・マット・デニス』というライヴ盤なんか名盤だ。

 

 

そのマット・デニス自作自演ライヴ・アルバムでも「ウィル・ユー・スティル・ビー・マイン?」が一曲目。「(たとえ世の中にどんなことが起っても)僕と一緒にいてくれるかい?」と」歌う歌詞の、その起ることの例が面白い歌詞内容の曲なんだけど、マイルスのは当然インストルメンタル演奏。

 

 

 

 

 

三曲目の「ア・ギャル・イン・キャリコ」はアーサー・シュウォーツの書いたポップ・ソングで、マイルスはそれをハーマン・ミュートでチャーミングに吹くし、アルバム・ラストのブルーズ曲「グリーン・ヘイズ」は大変にブルージーでいい。ワン・ホーン・カルテット編成で、ピアノとドラムスが既にレッド・ガーランドとフィリー・ジョー・ジョーンズだ。

 

 

「ア・ギャル・イン・キャリコ」https://www.youtube.com/watch?v=UGRQMA7ayfM

 

「グリーン・ヘイズ」https://www.youtube.com/watch?v=_Gt3X51eYMM

 

 

名盤選なんかにもよく載っている『ディグ』と違って、『ブルー・ヘイズ』とか『ザ・ミュージング・オヴ・マイルス』なんかはマイルス・マニアですら誰一人話題にすらしていない。確かに時代を形作ってもいなければ後世に全く影響も与えていないけれど、音楽の楽しみってのはそればっかりじゃないもんね。

 

 

数日前に届いたばかりの新しいマイルス本『MILES:Reimagined 〜 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド』でも、やはりこのあたりはガン無視だったな。そういう方向性の本じゃないから文句言うのは筋違いなんだけどね。

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