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2016/07/17

ベッドタイム・ミュージック〜ビル・エヴァンス

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アメリカでも日本でもそして世界中で今でも大人気のジャズ・ピアニスト、ビル・エヴァンス。今年もエディ・ゴメス+ジャック・ディジョネットでやった例の1968年モントルー・ライヴの頃の同一メンバーによるスタジオ未発表録音集が出る(出た?知らん)とかいうので、かなり話題になっていたよね。

 

 

あるいはかの『ワルツ・フォー・デビイ』のクリスタル・ディスク盤とかいうものも今年出るらしく、それはなんと一枚20万円(!)もするんだそうだ。どれほどの高音質か知らないが、一枚のCDに20万円も払う人間がいるのか?と思っちゃうんだけど、まあ一部にはいるんだろうなあ。

 

 

僕はだいたいジャズでもなんでもブルージーだったりファンキーだったりラテンだったりするものが好きな場合が多い音楽リスナーなので、ビル・エヴァンスなどは昔からイマイチで、今ではマイルス・コンボでの録音を除き全く聴かなくなっている。それでもアナログ盤LPでは結構買って聴いてはいたなあ。

 

 

そんなビル・エヴァンスのアルバムのなかでのかつての最大の愛聴盤は、実はピアノ・トリオものではなく、ギタリスト、ジム・ホールとのデュオ録音盤1962年の『アンダーカレント』だった。これを一番繰返し聴いていた。なぜかと言えば、これは20代はじめの頃の僕のお決りの就寝音楽だったのだ。

 

 

就寝音楽と言っても『アンダーカレント』一曲目「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」だけはややハードでスウィンギーな演奏だから、これを外して残りの五曲だけをカセットテープにダビングしてウォークマンに入れ(当時 iPod ほかデジタル携帯音楽プレイヤーはない)ベッド脇に持込んでいた。

 

 

そんでもってイヤフォンを耳に入れ部屋の電気を消して「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」を除く(と約25分)『アンダーカレント』を聴きながら目を閉じるというのが僕の習慣だったのだ。これがほぼ毎晩のことだったので『アンダーカレント』は相当な回数聴いたことになるなあ。

 

 

『アンダーカレント』をご存知の方なら就寝音楽にピッタリだというのは納得していただけるはず。二曲目の「アイ・ヒア・ア・ラプソディ」から(アナログ盤では)ラストの「ダーン・ザット・ドリーム」まで、どれも全てテンポのないようなゆったりしたバラード調で静かな演奏だもんねえ。

 

 

ファンキーにドライヴするような音楽の方が絶対に好みの僕なんだけど、そういう『アンダーカレント』みたいなものだって結構聴くんだなあ。ベッドに入って電気を消して目をつぶり聴いていると、そのまま25分経たないうちに眠りに就いてしまうことが多く、朝までイヤフォンが耳に入ったまま。

 

 

しかしこれは逆を言えば、当時の僕にはそういう聴き方じゃないと『アンダーカレント』は楽しめないアルバムだったと言えなくもない。ピアノとギターのインタープレイの絶妙さ、互いの間の取り方、押し引き駆引き、どこでどの音を置くかなどといった音楽的に細かいことが分るようになったのはもっと後のこと。

 

 

そういう細かいところまで耳が行くようになってからの『アンダーカレント』はまた別の聞え方になってきた。例えばかつての就寝音楽としては外してダビングしていた一曲目の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」。ビル・エヴァンスのピアノでテーマがはじまり、直後にジム・ホールのギターに移行する。

 

 

その最初のピアノによるテーマ演奏の際にジム・ホールが入れるギター・フレーズの音列とタイミングは絶妙すぎる。上手いなんてもんじゃない。ワン・コーラスのテーマ演奏後はそのままギター・ソロになるけれど、その背後で弾くビル・エヴァンスの伴奏ぶりも見事だ。なんて巧妙なインタープレイなんだ。

 

 

 

ジム・ホールのソロが終るとビル・エヴァンスのソロになるが、途中からジム・ホールが弦をミュート気味にしてリズミカルかつスウィンギーにカッティングしはじめる。弦をミュートしているので音程などはほぼ分らず、まるでブラシでスネアを叩いているようなサウンドなんだよね。

 

 

そういうのを同じモダン・ジャズ・ギタリストのタル・ファーロウがよくやっていた。何枚かあるタル+エディ・コスタ(ピアノ)+ヴィニー・バーク(ベース)のトリオ編成でのアルバムで、タル(とだけ書くと最近は若手女性エレベ奏者のことになってしまうが)は自分のソロが終ると同様のことをやる。

 

 

エディ・コスタのピアノ・ソロの背後で、やはりエレキ・ギターの弦をミュートしたままカッティングして弾き、それでまるでブラシによるドラムス伴奏のような音を出していた。1950年代半ば頃の話だ。関係ないだろうが、このタル・ファーロウ・トリオで僕が一番好きなのはエディ・コスタのピアノだった。

 

 

かなりゲージの太い硬い弦を使っているに違いないタル・ファーロウのサウンドやプレイもさることながら、ヴァイブラフォン奏者としても知られるエディ・コスタのピアノが僕はもっと好きで、特に左手で低音部のソロを弾く時が大好き。彼には『ザ・ハウス・オヴ・ブルー・ライツ』という名盤もあるよ。

 

 

タル・ファーロウ・トリオでのエディ・コスタや、自身のリーダー作『ザ・ハウス・オヴ・ブルー・ライツ』などの話はまた別記事で書きたい。話を戻してビル・エヴァンスとジム・ホールの『アンダーカレント』。一曲目の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」以外は書いたように全てゆっくりとして静か。

 

 

昔はそれら五曲全てただ単に穏やかで心が落着くような演奏だと思っていて、だから就寝音楽にしていたわけだし、レーベル(ユナイティッド・アーティスツ)側も「バラード・アルバムを」との企画だったらしい。しかし今になって聴き返してみると、かなり緊張感のあるインタープレイで耳をそばだててしまう。

 

 

だから眠れるどころかハッと目が覚めてしまうのだ。なんというのかなあ、どの曲も全てかなりスローなテンポなんだけど、そのなかでピアノやギターでどの音をどこで出すか、どう配置して並べるかといったことに非常に細やかに気を配っているよね。至極当り前みたいなことを言っているけれども。

 

 

スウィンギーだろうがバラードだろうが、どんな曲をどんな音楽家がやろうとも、音楽家はいついかなる時でも音の非常に小さい細部の隅々にまで心を配っているわけで、今では至極当り前のことだと思うんだけど、昔はただ単にムードを聴いていただけだった。とはいえそういう聴き方がダメだとも思わないけどね。

 

 

特にジャズの場合はなんとなくのムードみたいなもので聴いて「オシャレだ」みたいに思って聴くファンが今でもかなり多いと思うんだけど、それがイカンなんてことは絶対に言えないだろう。ジャズだけでなくあらゆる音楽で、一般の聴衆はごく普通になんとなくいいねと思って聴いているだけのはず。

 

 

音楽を支えているのはたくさん聴いていて楽理なんかにも詳しい専門家や、あるいはマニアックな聴き方をする僕みたいな熱心なファンなどではない。そんなのは例外だ。音楽を支えているのはそんな聴き方じゃなくなんとなくイイネ、カッコイイね、楽しいねと思っているだけの一般のファンだ。

 

 

ジャズのなかでも特にビル・エヴァンスは、これまたなんとなくのオシャレでジャジーなムードを味わうのにはこれ以上ピッタリ来るピアニストもいないだろうという人だもんなあ。だから人気があるんだろうなあ。マニアや専門家がいろいろ言うけれど、そういう部分で人気があるんじゃないはずだ。

 

 

ちょっと話がまたいつものように逸れちゃったので再び話を戻すと、『アンダーカレント』三曲目の「ドリーム・ジプシー」。これも曲名通りドリーミーでムーディーなバラードだけど、この演奏で僕が一番好きなのは、エンディングで三拍子を解きテンポ・ルパートになる部分。

 

 

 

そのエンディング部分30秒ほどでは、ビル・エヴァンスの弾くフレーズに合せジム・ホールがギターの弦を最高音の一弦から最低音の六弦まで順にバラッと鳴らす。それも最初は一弦の方から六弦に向って、次いでその逆、そしてそのまた逆と繰返し、最後は一弦→六弦方向の鳴らしで終る。そこが僕は好きなのだ。

 

 

非常に有名なベースのスコット・ラファーロ+ポール・モーティアン(菊地成孔含め一部の人達は「モーシャン」と書くけど、違うんじゃないかなあ?)と組んだトリオ編成のアルバムは評価も高くて、ビル・エヴァンスのかつてのボス、マイルス・デイヴィスも1960年頃このトリオとの共演を画策していたほど。

 

 

マイルスのその目論見はスコット・ラファーロが1961年に急逝してしまい実現しなかった。しかしそれくらい当時のジャズメンも、そして当時から現在までのファンも評価しているピアノ・トリオなんだけど、僕は正直言ってそんなには聴かない。だいたい彼がいるからこそ評価されているであろうラファーロはそんな大したベーシストなのか?

 

 

かつて中山康樹さんが、ジャコ・パストリアスが出てきた時に、既にミロスラフ・ヴィトウスを聴いていたので驚かなかったと言っていたけれど、そのヴィトウスだってその前にスコット・ラファーロがいたから驚くに値しないし、そのラファーロにしてからがその前にジミー・ブラントンがいるじゃないか。

 

 

1940年頃のデューク・エリントン楽団(やエリントンのピアノとのデュオ録音など)でのジミー・ブラントンこそウッド・ベース界史上最大の革命児で、スコット・ラファーロが「まるでホーン楽器のようにベースを弾く」と言われたその褒め言葉は、ブラントンにこそ向けられるべき言葉だろう。

 

 

エリントンとのデュオ演奏も絶品だけど、僕はそれより1940年のエリントン楽団でのジミー・ブラントンはもっと凄いと思うね。「ジャック・ザ・ベア」「ココ」などオーケストラ・サウンドに混じってあれだけ鮮明な音でメロディアスなラインを弾くブラントンの凄さを的確に表現する言葉が見つからないほどだ。

 

 

もちろんそれら二曲はエリントンのアレンジがそうなっているせいもあるけれど、それだってブラントンのプレイがあまりに革命的で凄すぎるから、エリントンだってそれ用のアレンジを書く気になったというだけの話なのだ。ブラントンの後にはたくさん出てくるようになったけれど、それ以前には一人もいない。

 

 

だからビル・エヴァンスのトリオで弾くスコット・ラファーロや、あるいはポール・モーティアンも含めた三人のインタープレイは僕はそんなに凄いとも思わないんだなあ。このトリオの録音で僕が一番好きなのは1961年『エクスプロレイションズ』B面の「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン?」だ。

 

 

 

お聴きになれば分るようにエヴァンスは最初にテーマを弾かない。いきなりアドリブから入り、ほどけている糸を徐々につむいでいき、最終的に一枚の織物に完成するというような弾き方だ。僕はこれが大のお気に入り。ケレンミが好きってことなのか?

 

 

特にテーマ・メロディを演奏する最終コーラスの一つ前のワン・コーラスが好きでたまらない。そのワン・コーラスはテーマ・メロディに近づいてきているフレイジングで、それを全てブロック・コードで弾くのがイイ。こういうブロック・コードでのビル・エヴァンスのヴォイシングは今でも最高に好きだよ。そこにこそマイルスも惚れたのだ。

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