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2016/07/22

マイルスのリミックス・アルバム三種

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僕の知る限りでは今までに四枚出ているマイルス・デイヴィスの音源を使ったリミックス・アルバム。どれも僕にはイマイチな感じなんだけど、そのうち三枚はリリース当時は結構面白がってよく聴いていた。一番早いのが1998年にリリースされた『パンサラッサ』で、全トラックがビル・ラズウェルによるもの。

 

 

なおこの『パンサラッサ』というタイトルのマイルス・リミックス・アルバムはもう一枚あって、1999年リリースの『パンサラッサ:ザ・リミックシズ』。こちらは全6トラックで、全てやっている人が違う。ビル・ラズウェルのもそれも両方ともソニーから出ているが、どうして同じタイトルなんだろう?

 

 

1998年のビル・ラズウェルの手がけたリミックス・アルバムが出て、ひょっとしてそれを踏まえた上でまた別のDJなどがやったので翌年にほぼ同じタイトルでソニーが出したってことなんだろうか?う〜ん、そのあたりの正確な事情は僕には分らないが、音を聴くとこの二枚はそんなに強い関係もないような気がする。

 

 

1998年リリースのビル・ラズウェルのやった『パンサラッサ』は当時本当によく聴いた。その最大の理由は当時の未発表音源が混じっていたからだった。2トラック目の「ブラック・サテン/ワット・イフ/アガルタ・プレリュード・ダブ」のこと。「ワット・イフ」以下の二つが初耳のものだったのだ。

 

 

「ブラック・サテン/ワット・イフ/アガルタ・プレリュード・ダブ」は、最初はタイトル通り1972年の『オン・ザ・コーナー』A面ラストの曲からはじまる。ビル・ラズウェルが確かに音をいじっている。しかし既存の音源を使っているし、さほど大きく印象も違わないので、これは別にどうってことない。

 

 

問題は4:40あたりからの「ワット・イフ」以下だ。いきなり当時は聴いたことのないエレキ・ギターの音が鳴り出して、しかもかなり深めにファズがかかっている。すぐにマイルスの電気トランペットが出てくるが、これも聴いたことがなく、それがファズの効いたギターと絡み合う。しかもカッコイイ。

 

 

 

テナー・サックス・ソロも出てくるが、それはマイルス・ファンクではいつものようにダサい。カッコイイのはギターとマイルスの電気トランペット、そしてその背後で鳴るエレピ等鍵盤楽器とスネアの音。シタールやタブラも聞えるので、録音時期は推測できた。

 

 

その同じグルーヴが11:57まで続き、そこでまたパッと変るのでそこからが「アガルタ・プレリュード・ダブ」ということになるんだろう。そしてそれはタイトル通り1975年大阪でのライヴ盤『アガルタ』で聴き馴染のありすぎるメロディ。しかし『パンサラッサ』収録のはライヴ・テイクではない。

 

 

以前も書いたけれど『アガルタ』一枚目中盤で聴けるあのテーマ・メロディのようなリフは、ライヴ・テイクはブート盤などで聴けるものが他にもあったんだけど、スタジオ録音があるなんてことは、1998年の『パンサラッサ』リリース当時、コロンビアの関係者以外の一般人はほぼ誰も知らなかったはずだ。

 

 

もちろん僕も全く知らなかった、『アガルタ』では「プレリュード」という名前になっている一曲目(というか曲でもない)のテーマ・リフのスタジオ録音は、1998年にビル・ラズウェルがやった『パンサラッサ』で初めて聴いたのだった。マイルスのスタジオ録音は未発表のものが多いとは聞いていたが。

 

 

『パンサラッサ』ではこの2トラック目の「ブラック・サテン/ワット・イフ/アガルタ・プレリュード・ダブ」以外の三つは全て既発音源のリミックス。だから特にそんな大きな驚きはなかった。多少音をいじってはいるけれど、ビル・ラズウェルもそんな大胆には変えていない。変えようもないだろう。

 

 

発売されているマイルスのアルバムで聴ける既発音源では繋がっていないものを繋げた上で、少し音のバランスを変えた程度のことで、ビル・ラズウェルも大胆にいじっていないのは、既発の完成音源のレベルが高いのでいじりすぎない方がいいだろうと判断したのか、あるいはなにか別の理由があるのか。

 

 

そういうわけで僕がリリース当時の『パンサラッサ』で繰返し聴いたのは2トラック目の「ブラック・サテン/ワット・イフ/アガルタ・プレリュード・ダブ」だけ。当時新発売の未発表音源だったこのトラックに収録されているマイルスによるオリジナル音源がリリースされたのは2007年のことだった。

 

 

すなわち『ザ・コンプリート・オン・ザ・コーナー・セッションズ』六枚組。これの一枚目三曲目の「ワン・アンド・ワン(アンエディティッド・マスター)」と、二枚目五曲目・六曲目の「ターナラウンド」「Uーターナラウンド」がそれ。全て1972年の未発表録音で、『オン・ザ・コーナー』になったあたりだ。

 

 

「ワン・アンド・ワン(アンエディティッド・マスター)」→ https://www.youtube.com/watch?v=IngbKMO6niQ  「ターナラウンド」→ https://www.youtube.com/watch?v=1o8QANZdJn0  「Uーターナラウンド」→ https://www.youtube.com/watch?v=tFR9pUQstLU  最後の二つは同じモチーフだ。

 

 

上で貼ったビル・ラズウェルによる「ブラック・サテン/ワット・イフ/アガルタ・プレリュード・ダブ」と聴き比べていただければよく分っていただけるはず。「ワット・イフ」は「ワン・アンド・ワン(アンエディティッド・マスター)」、「アガルタ・プレリュード・ダブ」は「ターナラウンド」だね。

 

 

ってことは1998年当時ビル・ラズウェルはこうしたマイルス未発表音源のテープ集をコロンビア側から提供されて、おそらくはラズウェル自身も初めて聴いたに違いないそれらからチョイスしてリミックスし、「ブラック・サテン/ワット・イフ/アガルタ・プレリュード・ダブ」に仕上げたってわけだ。

 

 

これは1998年当時のラズウェルも最初は嬉しくて興奮したと思う。膨大にあると噂されてきたマイルスのスタジオ録音未発表音源をコロンビアから聴かせてもらったわけだから、聴きまくったに違いない。そのなかからラズウェルの判断で一番カッコイイということになった上記二つの未発表音源を採用したんだろう。

 

 

個人的には「アガルタ・プレリュード・ダブ」になった「ターナラウンド」はさほどでもない。なぜかというと1975年の大阪ライヴ『アガルタ』での演奏の方がはるかにカッコイイからだ。存在しないかも?とも言われていたスタジオ・オリジナルが聴けたという点でしか面白がる部分がなかったように思う。

 

 

しかし「ワット・イフ」になった「ワン・アンド・ワン(アンエディティッド・マスター)」は今でもホント最高にカッコイイと思うね。曲名で分るように『オン・ザ・コーナー』B面にある曲なんだけど、全然違うもんね。タイトルが同じだけでひょっとして違うモチーフなんじゃないかと思うくらいだ。

 

 

上で貼った「ワン・アンド・ワン(アンエディティッド・マスター)」冒頭から、印象的なファズの効いたギターを弾いているのはデイヴィッド・クリーマー。1972年当時からリリースされている『オン・ザ・コーナー』でも聴けるギタリストだけど、こんなにもカッコよくは響いてなかったもんね。

 

 

ビル・ラズウェルの『パンサラッサ』は2トラック目の「ブラック・サテン/ワット・イフ/アガルタ・プレリュード・ダブ」以外は書いたように全て既発音源だし、しかも大きくいじってないので、新鮮さみたいなものはない。ただしCD一枚に電化マイルスの代表作が収録されているというメリットはあるのだ。

 

 

1969〜75年というマイルスが一番<狂って>いた時期の公式アルバムは、当時リアルタイムで発売されていたものと死後ボックス・セットでどんどん出た未発表音源集と全てを併せると膨大な量になってしまって、普段から聴きまくっているマイルスきちがい以外には、かなり入って行きにくいかもしれない。

 

 

それがビル・ラズウェルの選曲・編集・リミックスによってコンパクトにCD一枚におさまって、一時間もない程度の収録時間だし、1969〜75年の電化マイルス・ファンク時代を取り敢ずなにか一枚<入門編>として聴いてみたいというような、いわば入口に立って迷っているファンにはオススメのベスト盤とも言える一枚なのだ。

 

 

翌1999年の『パンサラッサ:ザ・リミックシズ』は書いたように一曲ずつリミックスを手がけているDJその他が全部異なっていて、曲毎にかなり様相が変化し、しかもDJ達がかなり音をいじくった結果マイルスのオリジナルとも姿を変えていて、これはこれで当時はなかなか面白く聴いた。

 

 

なかでは3トラック目のDJ クラッシュがリミックスした「ブラック・サテン」が僕には一番面白かった。あるいはマイルスのオリジナルからして既にドラムン・ベース風なところのある「レイティッド X」をドク・スコットがさらにそれを強調したというようなリミックスをしている2トラック目も面白いね。

 

 

そして僕が一番面白いと思うマイルス・リミックス集は2007年にリリースされた『エヴォルーション・オヴ・ザ・グルーヴ』だ。全4トラックでたったの14分程度だけど、これが一番カッコイイ。なんたって2トラック目のアルバム・タイトル曲ではヒップホップ・ミュージシャンのナズがやっている。

 

 

「エヴォルーション・オヴ・ザ・グルーヴ」のマイルスによる原曲はあの「フリーダム・ジャズ・ダンス」。1966年『マイルス・スマイルズ』にあるそれからしてグルーヴィーでカッコいい元はエディ・ハリス・ナンバー。それをナズがリミックスしラップ・ヴォーカルをかぶせ、その他いろいろと音を足して仕上げている。
https://www.youtube.com/watch?v=nM9lHfegiOQ

 

 

ヒップホップを聴くファンの方々にはナズ(Nas)は説明不要の有名人だけど、従来からのジャズ・ファンにはジャズ・コルネット奏者オル・ダラの息子と言った方が通りがいいかも。僕が知った順番はナズの方が先だったけれど。そして「エヴォルーション・オヴ・ザ・グルーヴ」にはその父オル・ダラも参加して演奏している。

 

 

そういうわけで、マイルス音源のオリジナルの姿を大きく変えない電化マイルス入門的ベスト盤をという方にはビル・ラズウェルのやった1998年『パンサラッサ』を、そしてヒップホップ風な現代マイルスを聴きたいという方には2007年の『エヴォルーション・オヴ・ザ・グルーヴ』をオススメしておきたい。

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