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2016/07/04

ビートルズを歌う最近のポールと英国式ユーモア

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ビートルズ解散後のポール・マッカートニーのソロ・アルバムで一番好きなのは1991年の『アンプラグド(公式海賊盤)』なのだ。こういうポール・ファンは少ないかもしれない。普通はもっと前、1970年代のソロ『ラム』とかウィングズの『バンド・オン・ザ・ラン』とかだよなあ。僕も好きだけどね。

 

 

その頃1970〜80年代はかつてのビートルズ・ナンバーをあまりやらなかったポール。やはり<ポスト・ビートルズ>ということを強く意識していたんだろうなあ。それはそれで音楽家としての立派な矜持だったと思うのだが、僕などはソロ・ナンバーもいいけどビートルズ・ナンバーの方がもっといいんだなあ。

 

 

それがポールもいつ頃からか、スタジオ・アルバムではやはり新曲をやるものの、ライヴではそれらに混じってたくさんのビートルズ時代の曲をやるようになって、僕が聴いた最初は1989/90年のライヴ・ツアーからの録音を二枚組CDに収録した『トリッピング・ザ・ライヴ・ファンタスティック』だった。

 

 

あの二枚組ライヴ・アルバムも大好きなんだよね。なんたってビートルズ・コーナーがあるくらいだ。「さあ、ここで神秘的だった時代に戻るよ、あのシックスティーズという時代に」と喋りながらピアノを弾き、そしてそのまま「ザ・ロング・アンド・ザ・ワインディング・ロード」がはじまる。それに続いて四曲のビートルズ・ナンバー。

 

 

ビートルズ・コーナーでなくても『トリッピング・ザ・ライヴ・ファンタスティック』には「ガット・トゥ・ゲット・ユー・イントゥ・マイ・ライフ」「バースデイ」「シングズ・ウィ・セッド・トゥデイ」「エリナ・リグビー」「バック・イン・ジ・USSR」「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」「レット・イット・ビー」「ヘイ・ジュード」なども収録されている。

 

 

さらに「イエスタデイ」「ゲット・バック」、そして「ゴールデン・スランバー」〜「キャリー・ザット・ウェイト」〜「ジ・エンド」のあのメドレーもあって、『トリッピング・ザ・ライヴ・ファンタスティック』では実に多くのビートルズ時代のポールの自作曲が随所にちりばめられていて本当に楽しい。僕はリアルタイムではポールのソロ活動の方に思い入れがある世代なのになあ。

 

 

それらビートルズ・ナンバーはアレンジもほぼそのままで、例えば『レット・イット・ビー』でフィル・スペクターが付加したあの華美なオーケストラ伴奏を批判して、1970年代はシンプルなアレンジでやっていた「ザ・ロング・アンド・ザ・ワインディング・ロード」だって豪華な伴奏入りだ。

 

 

その豪華なオーケストラ伴奏は、『トリッピング・ザ・ライヴ・ファンタスティック』ではポール・ウィキンスがシンセサイザーで出している。ポールとロビー・マッキントッシュのギター・バトルが聴ける「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」でもやはりシンセサイザーでオーケストラ伴奏やSEを再現。

 

 

そんな具合である時期以後はこんなにビートルズ・ナンバーをやってもいいのかと心配するくらいやるようになっているポール・マッカートニー。ライヴ盤での『トリッピング・ザ・ライヴ・ファンタスティック』の次作が翌1991年の『アンプラグド』で、ここでもビートルズ・ナンバーが多い。

 

 

タイトル通り例のMTVの企画によるアクースティック・ライヴだから全部生楽器。ヘイミッシュ・スチュアートが弾くベースも(アップライト・ベースではなく)ギター型のアクースティック四弦ベース。鍵盤担当のポール・ウィキンスはアクースティック・ピアノかオルガンかアコーディオンだ。ポールは主にギターを担当。

 

 

『アンプラグド』が大好きな理由のもう一つとして古いリズム&ブルーズ〜ロックンロール・ナンバーのカヴァーが多いというのもある。なんたって一曲目(現場では違ったらしいが)がジーン・ヴィンセントの「ビ・バップ・ア・ルーラ」だ。ジョン・レノンの『ロックンロール』でも一曲目だったので意識したのかもね。

 

 

その他エルヴィスがやったビル・モンローの「ブルー・ムーン・オヴ・ケンタッキー」、エリック・クラプトンも『アンプラグド』でやることになるジェシー・フラーの「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」、トミー・タッカーの「ハイ・ヒール・スニッカーズ」、ロイ・ブラウンの「グッド・ロッキン・トゥナイト」など。

 

 

メルヴィン・エンズリーの「シンギング・ザ・ブルーズ」や、古くはないがビル・ウィザーズの「エイント・ノー・サンシャイン」もやっている。それら有名スタンダードやビートルズ・ナンバーやソロ時代の曲は、一番新しいものでも1970年の『マッカートニー』からのもので、それを全部アクースティック楽器だけでやっているからねえ。

 

 

四曲目の「ブルー・ムーン・オヴ・ケンタッキー」なんか、最初ビル・モンローのオリジナル・ブルーグラス・ヴァージョンそっくりにはじまってワン・コーラスやると、突然ポールがギターをアップ・ビートで刻みだして、エルヴィス・ヴァージョンに移行するという面白さ。

 

 

「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」は、書いたように二年後に同じ『アンプラグド』企画でエリック・クラプトンもやるんだけど、クラプトンのあのアルバムでは「アルバータ」と並んで唯一今でも聴けると思うものだなあ。クラプトンのヴァージョンでは全員がカズーを吹いていてそれも面白い。

 

 

ポールの「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」の方が二年早い録音なんだけど、アレンジはクラプトンのもだいたい同じ。歌詞が少し違うけれど、古いブルーズ(やフォーク・ソング)などではよくあることだ。ポール・ヴァージョンではロビー・マッキントッシュがドブロでスライドを聴かせてくれるのもイイ。

 

 

ロビー・マッキントッシュはこのアルバムの多くでドブロ(リゾネイター・ギターの一種というか正式にはブランド名)を弾きしかもスライドを多く使っているから僕好みなんだよね。またポール・ウィキンスのピアノがプロフェッサー・ロングヘア風なニューオーリンズ・スタイルでコロコロ跳ねているのもイイ。

 

 

またビートルズ時代から聴けるポールの英国風ユーモア・センスが散りばめられているのも楽しい。二曲目の14歳の時に書いたと紹介する「アイ・ロスト・マイ・リトル・ガール」が終ると、「そして長い長い時を経てこの曲を書きました」と物語風の紹介で「ヒア・ゼア・アンド・エヴリウェア」がはじまる。

 

 

「ブルー・ムーン・オヴ・ケンタッキー」をはじめる前の曲紹介では、「ビル・モンローの曲です、(マリリン・)モンローの死についての曲」などと言うし、「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」の曲紹介では「ランブリン・ジャック・エリオットのレコードで知ったんだよ、T・S の息子」などと言う。

 

 

誰でも知っているマリリン・モンローと違って、T・S・エリオットなんて英文学に縁の薄いロック・リスナーの方はご存知ないかもしれないけれど、米国生れで英国で活躍した20世紀前半の大詩人。イギリス人ならみんな知っている有名人だ。

 

 

「ウィ・キャン・ワーク・イット・アウト」では出だしの歌詞を間違えてしまい演奏を止めて、「僕、今、歌詞を間違えたよね」と照れた後再開しようとすると、誰の声なのか「ちょっと待って、歌詞はどこ?」と言われ、「え〜と、え〜と・・・」などとわざと戸惑ってみせるのも笑わせる。

 

 

以前も一度触れたけれど、『アンプラグド』でやっている「アンド・アイ・ラヴ・ハー」は、ビートルズでのオリジナルよりグッとテンポを落して官能性の強い仕上りになっていて、どう聴いても僕の耳にはこっちがビートルズ・ヴァージョンを超えているように思える。

 

 

 

そんな具合でとても楽しいポール・マッカートニーの『アンプラグド』。古参ロック・ミュージシャンによる『アンプラグド』アルバムでは一番出来がいいように思うし、個人的には今でも一番よく聴くものだ。ポールはこの後現在までに四つのライヴ・アルバムを出していて、どれもやはりビートルズ・ナンバーが多いんだよね。

 

 

一昨年だったか武道館でもやったらしい来日公演でもやはりビートルズ・ナンバーを多くやったようだし、1970〜80年代と違って90年代以後のポールは、良い意味で過去へのこだわりみたいなものがなくなって、ジョンもジョージも亡き今、自分が遺産を伝えていかなくちゃという気持になっているのかもしれないね。

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