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2016/07/29

フリーダム・ジャズ・ダンス

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ウェイン・ショーター、ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズを擁した1965〜68年のマイルス・デイヴィスが率いた例のクインテットによるスタジオ録音で一番面白い曲は「フリーダム・ジャズ・ダンス」じゃないかという気がする。66年『マイルス・スマイルズ』収録。
1966年10月24日と25日に録音された『マイルス・スマイルズ』の全六曲。この二日間ではそれら六曲しか録音されておらず(ということになっている)、別テイクもリリースされていない。存在したのかもしれないが、1998年リリースの『ザ・コンプリート・スタジオ・レコーディングズ 1965-1968』にも未収録。

それら六曲の『マイルス・スマイルズ』収録の完成品を聴くと、全曲ワン・テイクで完成したとも考えにくい出来なので、リハーサル・テイクとか別テイクがあったんじゃないかと推測するんだけど、少なくとも公式でもブートでもそれらはリリースされていない。ってことは破棄されたのかもなあ。

それはともかく『マイルス・スマイルズ』B面二曲目の「フリーダム・ジャズ・ダンス」。ご存知の通りこれはマイルスのオリジナル・ナンバーでもなければサイドメンの書いた曲でもない。ジャズ・サックス奏者エディ・ハリスのオリジナルで、前年1965年に録音しているかなりファンキーなナンバー。
これは録音の翌年66年にエディ・ハリスのアルバム『ジ・イン・サウンド』のラストに収録されてリリースされた。なんてカッコいいんだ。ドラムスのビリー・ヒギンズの叩出すややラテンな感じのリズムがいいなあ。ヒギンズはこういうの得意だよね。

しかしこのエディ・ハリスの『ジ・イン・サウンド』が1966年の何月にリリースされたのかが調べても分らないのが残念だ。マイルスがこれを自分のクインテットで録音したのが同年10月だから、それ以前なんだろうとしか推測できない。あるいはまた別の可能性も考えられる。

というのはエディ・ハリスのオリジナル・ヴァージョンでベースを弾くのもまたロン・カーターなのだ。ってことは万が一マイルスのレコーディング前にエディ・ハリスの『ジ・イン・サウンド』がリリースされていなくても、それに参加したロンがこれは面白い曲だからとマイルスに推薦したということは考えられる。

そのあたりの真相は僕には分らないんだけど、少なくとも「フリーダム・ジャズ・ダンス」というエディ・ハリスの曲を有名にしたのがマイルスの『マイルス・スマイルズ』ヴァージョンであったことは間違いないみたいだ。これは僕にはやや意外な事実。

二つとも音源を貼ったので聴き比べていただきたい。僕の耳にはどう聴いてもエディ・ハリスのオリジナル・ヴァージョンの方がファンキーでカッコイイ。だからどうしてこっちが有名にならず、マイルスのカヴァーで有名になったのだろか?おそらくひとえに<マイルス・デイヴィス>の知名度ゆえじゃないかなあ。

リズムがファンキーなラテン調でホーン二管のテーマ吹奏も各人のソロもカッコいいエディ・ハリスのオリジナルに対し、マイルス・ヴァージョンはやや抽象的だ。リズムの感じはやはりジャズの普通の4ビートではないけれど、それでもエディ・ハリスのみたいなファンキーさやラテンさは薄いもんねえ。

1965年の『E.S.P.』から68年の『ネフェルティティ』までのマイルス・ミュージックはだいたいどれもこんな感じで、素材が面白くても料理の仕方が西洋クラシック音楽に近いようなもので抽象的。だから今の僕にはあまり面白く聞えない。それでも「フリーダム・ジャズ・ダンス」だけは悪くない。

『マイルス・スマイルズ』にはもう一つカヴァー曲がある。「フリーダム・ジャズ・ダンス」に続くアルバム・ラストの「ジンジャー・ブレッド・ボーイ」がそれで、ジャズ・サックス奏者ジミー・ヒースの書いた曲。1964年録音・リリースの『オン・ザ・トレイル』収録ナンバーだ。これもいいよ。

ジミー・ヒースはお馴染みパーシー(ベース)とアルバート(ドラムス)のヒース三兄弟の一人で、ジャズ界でこういう三兄弟揃って活躍したというのは、他にはハンク(ピアノ)、サド(トランペット)、エルヴィン(ドラムス)のジョーンズ三兄弟だけなんじゃないかなあ。

ジミー・ヒースとマイルスの関係で面白いのは、1971〜75年の電化マイルス時代にレギュラー・メンバーとして大活躍したパーカッション奏者のエムトゥーメ。彼はジミー・ヒースの息子なのだ。エムトゥーメの本名はジェイムズ・フォアマンで、ステージ・ネームが(ジェイムズ・)エムトゥーメ。

そんなことはともかく『マイルス・スマイルズ』。この後に続く『ソーサラー』『ネフェルティティ』の二枚にあまり魅力を感じない僕にとっては、1966年のこれとその前65年の『E.S.P.』の二枚だけがこの俗に言う黄金のクインテットと呼ばれるマイルス・コンボのスタジオ作では好きなものだ。

このセカンド・レギュラー・クインテットでの初スタジオ作になった『E.S.P.』はまださほど抽象的な感じには聞えない。アドリブ手法はモーダルではあるものの、聴いた感じはやはりモーダルな手法でやっている1959年の『カインド・オヴ・ブルー』などと殆ど変らないハード・バップだ。

『E.S.P.』で僕が一番好きなのはアルバム・ラストの「ムード」だ。なぜかと言うとこれは1959年以後91年に死ぬまでマイルスのお得意だったスパニッシュ・スケールを使った曲だからだ。いいよこれは。
しかしどうでもいいがこの YouTube 音源はどうして『カインド・オヴ・ブルー』のジャケットを使っているんだろうなあ?まあいいや。この「ムード」で僕が一番好きなのは三番手で出るハービーのピアノ・ソロ。その中盤ではっきりとスペイン風の旋律を弾く箇所で指を鳴らす音が聞えるね。

6:22あたりだ。そこまでトニーがブラシ中心でプレイしていて、それに加えスネアのリム・ショットを入れる程度だったのが、ハービーのソロになるとそのリム・ショットが大きめに聞えるようになり、6:22あたりでハービーが鮮明なスペイン風旋律を弾くと同時にかなり大きな音でリム・ショットを入れる。

それと同時に指を鳴らす音が聞えるんだけど、それは間違いなくマイルスによるものだ。マイルスはスタジオでもライヴでもよく指を鳴らす。それはいつも演奏前にカウントを取るためなんだけど、「ムード」ではそうじゃなく演奏中盤。いい感じのフレーズをハービーが弾くせいなんだろう。ショーターのソロの最後でも誰だか分らない唸り声が聞える。

マイルスのセカンド・クインテットではスタジオ第一作の『E.S.P.』まではハービーも普通にピアノを弾いている。普通にというのは右手でシングル・トーンを弾き左手でコードを押えるというごくごく普通のモダン・ジャズ・ピアノ・スタイル。ところが次の『マイルス・スマイルズ』からそうではなくなる。

『マイルス・スマイルズ』の全曲が普通じゃないというわけではない。僕が気付いている範囲ではA面一曲目の「オービッツ」、B面一曲目の「ドロレス」、ラストの「ジンジャー・ブレッド・ボーイ」の三曲ではハービーは一瞬たりとも左手でコードを押えていない。自分のソロでもマイルスやショーターのソロのバックでも全て。

このおかげなのか関係ないのか、『マイルス・スマイルズ』からマイルスの音楽がかなり違った響きになっている。そして続く『ソーサラー』『ネフェルティティ』の二枚では、アルバムの多くの曲でハービーはもはや右手しか使わないようになり、左手でコードを押えていない時間が長い。どうしてなんだろう?

無調音楽では全然なくはっきりとトーナリティが感じられる音楽ではあるけれど、『マイルス・スマイルズ』以後『ネフェルティティ』までは調性感のやや薄い抽象的なサウンドに聞える。そしてファンキーさみたいなものがほぼない。次作1968年の『マイルス・イン・ザ・スカイ』はファンキーなジャズ・ロックが中心なのに。

だから『マイルス・スマイルズ』の「フリーダム・ジャズ・ダンス」みたいな元はファンキーなナンバーですらアブストラクトな感じに仕上っているけれど、それでもエディ・ハリスの書いたオリジナルがファンキー・チューンだから、まだ結構カッコイイ感じに聴けるのだ。これが1968年まで消えちゃうんだなあ。

そう考えると『マイルス・スマイルズ』にある「フリーダム・ジャズ・ダンス」(と「フットプリンツ」)はある時期以後の僕にとっては1965〜68年のこのマイルス・クインテットがやった曲では最も聴きやすく、いい感じに楽しめる一曲なのだ。そしておそらくこれがこの時期のマイルス・バンドでは唯一まあまあファンキーな曲なのだ。

それが一時期消えていっちゃったのが残念なんだけど、「フリーダム・ジャズ・ダンス』みたいなジャズ・ロックっぽいファンキー感は伏流水のようにマイルスのなかに流れていて、だからそれが1968年の「スタッフ」(『マイルス・イン・ザ・スカイ』)みたいな路線に繋がったんだろうね。

その後はマイルス・ミュージックもどんどんとファンキーになっていって、1970年代にファンクそのものみたいな音楽をやるようになった。それを考えると1966年の「フリーダム・ジャズ・ダンス」は予兆だったのかもしれないなあ。よく聴くと『ソーサラー』『ネフェルティティ』にもリズムの面白い曲が少しあるから。

『ソーサラー』『ネフェルティティ』の二枚で今の僕が唯一面白いと感じるのがリズムで、4ビートじゃない8ビートでラテンなものが数曲あるんだけど、それは別記事にしてそれに焦点を絞って書いてみたい。なお「フリーダム・ジャズ・ダンス」のオリジネイターであるエディ・ハリスも、その後電化ジャズ・ロックをやっているよね。

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