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2016/07/31

モブリーさんゴメンナサイ

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マイルス・デイヴィス・バンド在籍時代があるので、それで何度か言及しているテナー・サックス奏者ハンク・モブリー。個人的にはあまり好きじゃなく評価もできにくいなあと思っている人なんだけど、しかし別に二流とかB級とかいうジャズマンでもない。単に僕の好みじゃないというだけ。

 

 

これは間違いなくマイルス・バンドでのモブリーの前任がソニー・スティットを挟んでジョン・コルトレーンだったのと、後任がジョージ・コールマンを挟んでのウェイン・ショーターだったという、ただこの一点のみが理由だ。だから僕だけではなくマイルス・ファンには人気がないんだよね。

 

 

マイルス・バンドでのサックス奏者関連については以前詳しく書いたので、今日はそれ以外のモブリーの話。彼のリーダー・アルバムはそんなにたくさんは聴いていない。それでもアナログ時代は何枚も持っていて、なかには愛聴盤がいくつかあった。現在CDで買い直しているのは三枚だけだ。

 

 

それが1955年の『ハンク・モブリー・カルテット』、58年の『ペッキン・タイム』、60年の『ソウル・ステイション』の三つ。このうち一番最初の奴はアナログ盤では全く買ったことも聴いたこともなかった。『ハンク・モブリー・カルテット』は10インチLPしか存在しなかったからだ。

 

 

10インチだから六曲しか入ってなくて、当然全部で30分もない。これしかなかったもんだから僕がジャズ・ファンになった1979年には既に入手がかなり困難で、ジャズ喫茶でも全くかからず、しかもCD時代になってもなかなかリイシューされないので、完全に<幻の名盤>扱いされていた。

 

 

そういう『ハンク・モブリー・カルテット』のCDリイシューは21世紀に入ってからのこと。これが買えた時は嬉しかった。モブリー・ファンではない僕ですらそうだったので、日本にもかなり多い彼のファンならそりゃ跳上がるほど嬉しかったはず。今は iTunes Store でも普通に買える。

 

 

それで名前だけ前々から聞いていた1955年の『ハンク・モブリー・カルテット』を何十年目かにして初めて聴いてみた。いざ実際に耳にしてみたら、かなり地味ではある(モブリーはいつもそうだね)ものの内容はいいんだなあ。でもまあそんな名盤扱いするほどのものではないように思う。

 

 

モブリーの事実上の初リーダー・アルバムである『ハンク・モブリー・カルテット』。ワン・ホーン編成であることと、リズム・セクションが結成当時のジャズ・メッセンジャーズ、すなわちホレス・シルヴァー、ダグ・ワトキンス、アート・ブレイキーであるという、この二つが美点だなあ。

 

 

たったの25分しかないっていうのもかえっていいんじゃないかなあ。モブリーのサックスは本当に地味でいつも淡々としていて、多彩で変幻自在の吹奏ぶりを披露する人でもない。だからアルバムがあまり長いと途中で飽きちゃって聴くのをやめたくなっちゃうんだよねえ、僕は。

 

 

同様の理由で38分もない『ソウル・ステイション』もいい。これもワン・ホーン・カルテット編成で、ドラムスがやはりアート・ブレイキー。しかもピアノが僕の大好きなウィントン・ケリーだもんなあ。世間一般の評価ではこのアルバムこそモブリーでは一番いいものということになっているはず。

 

 

モブリーにとっての『ソウル・ステイション』は、同じモダン・ジャズ・テナーではソニー・ロリンズにとっての『サクソフォン・コロッサス』、ジョン・コルトレーンにとっての『ジャイアント・ステップス』みたいな金字塔的なアルバムなんだろうなあ。1960年のウィントン・ケリーも一番いい時期。

 

 

『ソウル・ステイション』のB面二曲目のアルバム・タイトル曲は本当に寛いだブルーズ(形式は12小節3コードでないが)で、ロックで言えばレイド・バックしたというような雰囲気の演奏で、モブリーだけでなく、ブルーズが得意なウィントン・ケリーも実にいい感じのファンキーなソロを弾いている。

 

 

 

個人的に『ソウル・ステイション』で一番好きなのは、その次のアルバム・ラストのスタンダード・バラード「イフ・アイ・シュド・ルーズ・ユー」だ。これがあるからこそこのアルバムの個人的なポイントが高くなるというくらい大好きな曲なのだ。モブリーはややミドル・テンポにして演奏している。

 

 

 

「イフ・アイ・シュド・ルーズ・ユー」。ジャズマンが演奏したものではトランペッター、ブッカー・リトルの1961年ベツレヘム盤『ブッカー・リトル・アンド・フレンド』のヴァージョンが一番好きで、これは大学生の頃からの愛聴盤。いや、愛聴盤ではないな、アルバム中その一曲だけが好きだった。

 

 

『ブッカー・リトル・アンド・フレンド』ヴァージョンの「イフ・アイ・シュド・ルーズ・ユー」は、ピアノ・トリオの伴奏をバックにブッカー・リトルだけが淡々と吹くというもので、アルバムに参加しているトロンボーン奏者とテナー・サックス奏者は入らず、ピアノの間奏もないトランペット・フィーチャー・ナンバー。

 

 

 

僕にとってのブッカー・リトルという人は、こういったちょっと湿ってくぐもったようなやや暗い雰囲気の演奏をする時が一番魅力的に聞えるトランペッター。エリック・ドルフィーと組んだ例のファイヴ・スポットでのライヴ・アルバムは火花を散らしてスリリングで凄いなとは思うんだけど、イマイチ好みじゃない。

 

 

個人的はチャーリー・パーカーのヴァーヴでの例のウィズ・ストリングス・アルバムにある「イフ・アイ・シュド・ルーズ・ユー」も好き。パーカーにしてもクリフォード・ブラウンにしても、ウィズ・ストリングス・アルバムでは複雑なアドリブ・ソロがなく、ひたすら美しく歌い上げるだけというのがいいよね。

 

 

 

複雑・難解でアーティスティックな表現よりも、そうやって美しいメロディーをその美しいままに、あまりフェイクせずただシンプルに演奏する・歌うというのこそが、ポピュラー・ミュージックの真の輝きだろうと最近の僕は思うようになっている。同様の理由でフェイクし過ぎるジャズ歌手の多くも最近はイマイチだ。

 

 

いろんなヴォーカリストも歌っている「イフ・アイ・シュド・ルーズ・ユー」。僕はあまり持ってないんだけど、ジャズ・スタンダードばかり歌っていたコロンビア時代のアリサ・フランクリンも歌っている。1964年の『アンフォーゲッタブル』というダイナ・ワシントン曲集に入っているので時々聴く。

 

 

そのダイナ・ワシントン自身のヴァージョンももちろん持っていて、僕は例のマーキュリー完全ボックス・シリーズに入っているのを聴いている。それを聴くと、アリサのヴァージョンはトリビュートらしくアレンジがダイナのものによく似ているんだなあ。この曲に関しては歌の力量はダイナの方が上だろう。

 

 

 

ハンク・モブリーから話が逸れる時間が長くなってしまった。彼のリーダー作ではトランペットやその他のホーン奏者が参加しているものはあまり好きではない。なぜかと言うとモブリーはああいう持味の人だから、あまりブリリアントなホーン奏者が加わっていると、ちょっとかすんでしまうように思うんだなあ。

 

 

だから現在CDではもう一枚だけ持っているモブリーのリーダー作『ペッキン・タイム』にはリー・モーガンがいるもんで、しかもこれは1958年の録音と一番モーガンが輝いていた時期だから、やっぱりモブリーみたいな渋みこそが旨味みたいな人はイマイチに聞えちゃう。

 

 

複数のホーン奏者編成でモブリーが演奏しているものでは、彼のリーダ作ではなくホレス・シルヴァーやソニー・クラークやアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズなどでのプレイの方が断然いい。特に前者二人の作品でのモブリーは本当にいいなあ。輝かしいトランペッターに負けていないように聞えるのが不思議だ。

 

 

負けていないように聞えるのは、モブリー個人がというよりもやはりホレス・シルヴァーやソニー・クラークのアレンジのペンの冴えなんだろう。この二人とも渋くて地味で、場合によってはB級のホーン奏者(繰返すがモブリーはそうではない)を上手く使って素晴しく聞えるように際立たせる腕が天下一品のアレンジャーなのだ。

 

 

ホレス・シルヴァーにしろソニー・クラークにしろ僕が一番評価しているのはいちピアニストとしての腕前ではなくて、そういった作編曲能力とかバンド・リーダーとしての才能なのだ。ソニー・クラークのアルバムでモブリーが吹くのは『ダイアル・S・フォー・ソニー』の一枚だけなんだけど、いい演奏だよね。

 

 

ソニー・クラークの『ダイアル・S・フォー・ソニー』はアート・ファーマー、カーティス・フラー、ハンク・モブリーという三管編成による1957年録音。三管という分厚いサウンドで、ファーマーもフラーも上手いホーン奏者なのに、モブリーだっていい演奏に聞える。自身のリーダー作とは大違いだ。

 

 

ホレス・シルヴァーの作品でのモブリーはもっと際だっていい演奏に聞えるので、やっぱりアレンジャーとしての腕前はホレスの方がソニー・クラークよりも上だ。特にいいのが1956年の『6・ピーシズ・オヴ・シルヴァー』。ホレスのアルバム中個人的にはこれこそがベスト・ワン。最高傑作だと考えている。

 

 

『6・ピーシズ・オヴ・シルヴァー』ではモブリーとドナルド・バードとの二管編成をホレスが実に巧妙なアレンジで旨味に仕上げている。二人とも最高にいい演奏に聞えるもんね。特に一番いいのが以前も書いたがB面一曲目の「セニョール・ブルーズ」。ラテン調のブルーズという僕の趣味からしたらこれ以上ない逸品。

 

 

 

「セニョール・ブルーズ」(とその他)を、ホレス・シルヴァーのバンドが1958年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでやったのが2008年にリリースされた(『ライヴ・アット・ニューポート ’58』)。そこではテナーがジュニア・クックだけど、ほぼ同じアレンジなのに大したことないように聞える。

 

 

スタジオとライヴの違いこそあれ、同じホレス・シルヴァーのバンドでほぼ同じアレンジで演奏しているのに、ハンク・モブリーの方が断然いいように聞えるってことは、やっぱりこのテナーマンの腕前は一級品だったってことだね。マイルス関連で散々悪口を書散らしてゴメンナサイ。

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