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2016/07/07

ジャンプするシスターはラップの元祖

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聖なる宗教音楽であるアメリカ黒人ゴスペルのなかには、世俗音楽のブルーズとどこが違うのか全く分らないようなものがいろいろとある。そのなかで最も分りやすいのがギター・エヴァンジェリストと呼ばれる人達だろう。最も有名なのはおそらくブラインド・ウィリー・ジョンスンだね。

 

 

ギター・エヴァンジェリストという種類の人達をひょっとしてご存知ない方がいらっしゃるかもしれないので簡単に説明しておくと、文字通りギターを弾きながら聖書の教えや様々な宗教的メッセージなどを歌に乗せて説いて廻る伝道師(エヴァンジェリスト)のことで、昔からたくさんいる。

 

 

そんなギター・エヴァンジェリストのなかで1920年代にしか録音が残っていないブラインド・ウィリー・ジョンスンが最有名人だというのは、ひょっとしてライ・クーダーのおかげなんだろうか?1984年のヴィム・ヴェンダース監督の映画『パリ、テキサス』のサウンドトラック盤でカヴァーしたので。

 

 

1984年というとブラインド・ウィリー・ジョンスンのCD二枚組完全集はまだリリースされていなかったんじゃないかなあ。現物のクレジットを確かめてみないと正確なことは分らないが、僕の場合は『パリ、テキサス』のサントラ盤のことは知らず、しかも84年だとまだライをちゃんと聴きはじめていない。

 

 

あっ、確かめてみたらブラインド・ウィリー・ジョンスンのCD二枚組完全集がレガシー(コロンビア)からリリースされたのも1984年になっているなあ。う〜ん全然憶えていないのだが、しかし僕がこれを買ったのはそのもっと後、おそらく90年代前半のことで、しかもライ・クーダーを本格的に聴きはじめる前のことだ。

 

 

だから僕の場合はライのカヴァーとは関係なく古いアメリカ黒人音楽のCDリイシューがどんどんはじまった1990年代前半にブラインド・ウィリー・ジョンスンを知ったのだが、多くのロック・リスナーにとってはやはり『パリ、テキサス』サントラ盤収録のライのカヴァーで有名になった人なんだろうね。

 

 

しかし今日僕はブラインド・ウィリー・ジョンスンの話をしようと思っているわけではない。聖なるゴスペルと俗なるブルーズとの境界線なんか存在しないんだということを言いたいのであって、そのためにそれが最も分りやすい好人物であろうギター伝道師シスター・ロゼッタ・サープの話をしたいんだよね。

 

 

シスター・ロゼッタ・サープはもちろん女性で1921年アーカンソー生れのギター・エヴァンジェリスト。小さい頃から母親に連れられてホーリネス教会の集会などで既にギターを弾きながらゴスペルを歌っていたらしく、1930年代に入る頃には旅回りの伝道師集団に加わっていたという。

 

 

だからシスター・ロゼッタ・サープは最初からゴスペルを歌うギター・エヴァンジェリストとして出発したわけだ。初録音は1938年にデッカ・レーベルに四曲。全部彼女一人でのギター弾き語りで宗教的歌詞だから、普通のゴスペル・ソングだね。しかしその後すぐにジャズ・ビッグ・バンドとの共演がはじまる。

 

 

録音が残っているそのジャズ・バック・バンドというのが他ならぬラッキー・ミリンダー楽団。ラッキー・ミリンダーの名前には敬虔なゴスペル・ファンは顔をしかめるかもしれない。主に1940年代に大活躍したジャンプ系のジャズ・バンドだよね。世俗も世俗、卑俗芸能の極地に位置するようなビッグ・バンドだからだ。

 

 

シスター・ロゼッタ・サープとラッキー・ミリンダー楽団との初共演は、僕が持っている録音完全集(CD二枚組が七つ)では第一集の一枚目15曲目の「トラブル・イン・マイ・マインド」が初。それを含め1941年に立て続けに八曲録音していて、しかもそれらのレコードはかなりヒットしたようだ。

 

 

だからシスター・ロゼッタ・サープはゴスペル界の人間にして世俗的に売れて有名人になったアメリカ音楽史上初の人物だということなる。サム・クックの大人気よりも数十年早いのだ。しかしだね、ラッキー・ミリンダー楽団との共演録音を聴くと、これ、どこが「聖なる」音楽なのか?とかなり疑問に思うよ。

 

 

歌詞内容がほんのかすかに宗教的かもなとは思うものの、それも彼女一人のギター弾き語りよりは相当薄くなっていて、だいたい曲名だって「ロック・ミー」とか「フォー・オア・ファイヴ・タイムズ」とか「シャウト・シスター・シャウト」とか世俗的なものだ。”Rock Me” なんてスケベな表現なんだしね。

 

 

それらのうち「シャウト・シスター・シャウト」はシスター・ロゼッタ・サープやゴスペル音楽にさほど強い興味のない日本人ブラック・ミュージック・ファンでも知っているだろう。なぜかというと中村とうようさん編纂の『ブラック・ビートの火薬庫〜レット・イット・ロール』に収録されているからだ。

 

 

シスター・ロゼッタ・サープの録音完全集では、1941年にラッキー・ミリンダー楽団との共演で「シャウト・シスター・シャウト」を二回録音している。とうようさん編纂の『ブラック・ビートの火薬庫』収録のは二回目の録音の方で、完全集では “Part 2" と曲名の後に記載されている。

 

 

その「シャウト・シスター・シャウト」(パート2)の方をちょっとご紹介しておこう→ https://www.youtube.com/watch?v=LKKnGg2WCeM  いいねこれ。最高に楽しくジャンプしているじゃないか。ついでに一回目の録音の方もご紹介しておく→ https://www.youtube.com/watch?v=1GcPlCeH2PU

 

 

どうだろう?こりゃまるでジャンピング・シスターだよね。歌詞内容だってどこも宗教的ではなく、完全に世俗的なもの。サウンドは言うまでもなく1940年代ジャンプ系ジャズ・ビッグ・バンドのそれだから芸能色の強い猥雑なもので、だからこりゃ宗教界からは怒られそうだよね。

 

 

実際1940年代にラッキー・ミリンダー楽団と共演したりしていた頃のシスター・ロゼッタ・サープは、教会からは白眼視されていたそうだ。そういう事実があったりするので、熱心な世俗的黒人音楽ファンが教会や教会音楽を必要以上にむやみに敵視したりする原因になったりするわけだよねえ。

 

 

肝心のシスター・ロゼッタ・サープはそんなことには全然お構いなく聖と俗の境界線を楽々と越えて、両方の世界で活動・録音を続けている。ラッキー・ミリンダー楽団とは1940年代初頭一緒に活動し、録音も前述のもの以外にもたくさん残っていて、完全集には15曲収録されている。どれも全部楽しいよ。

 

 

中村とうようさんは前述の『ブラック・ビートの火薬庫』と同じMCAジェムズ・シリーズの一つ『ロックへの道』のなかにも、シスター・ロゼッタ・サープとラッキー・ミリンダー楽団の共演録音一つ収録している。1941年録音の「ロック・ダニエル」。

 

 

 

この「ロック・ダニエル」もシスター・ロゼッタ・サープ(と母親との)自作曲。このなかで彼女自身が弾くギター・ソロはややロニー・ジョンスンっぽいよね。というか彼女のギター単音弾きソロはだいたいいつもロニー・ジョンスンに似ている。ロニー・ジョンスンは1920年代から活躍するブルーズ・ギタリストだ。

 

 

また上で音源を貼った「シャウト・シスター・シャウト」でもよく分るし、あるいは他の多くの曲でもそうなんだけど、シスター・ロゼッタ・サープの歌い方はメリスマの利いた朗々たるコブシ廻しではなく、あまりメロディアスではない喋っているようなものだ。これはかなり面白い事実じゃないだろうか。

 

 

というのはヒップホップの流行以後一般的になったラップ(それ自体はヒップホップ文化とは言えないだろう)。そのラップ・ヴォーカルの祖先は昔のキリスト教会での牧師のスピーチにあると考えて間違いないと僕は思っていて、教会での説教なども楽器伴奏が付いたりしてリズミカルに韻を踏んだりする。ラップ第一号はボブ・ディランの「サブタレニアン・ホームシック・ブルーズ」なんかじゃない。もっと古いんだ。

 

 

これまた中村とうようさん編纂のMCAジェムズ・シリーズの一つ『ゴスペル・トレイン・イズ・カミング』の最初の方にそんなリズミカルで音楽的な牧師の説教が二曲ほど収録されているので、是非ちょっと聴いてみていただきたい。僕の言う牧師の説教=ラップの元祖説を実際の音で納得できるはずだ。

 

 

ってことは1940年代にジャンプ系ジャズ・ビッグ・バンドと共演して、メロディの抑揚が小さくまるで喋っているみたいな歌い方をしているシスター・ロゼッタ・サープは、そんな教会牧師の説教と、その後のラップ・ヴォーカルの橋渡し的な役割を果した人物だったという見方だってできるもんね。

 

 

とうようさん編纂の『ゴスペル・トレイン・イズ・カミング』にもシスター・ロゼッタ・サープは一曲収録されている。1947年録音で、当時活動をともにしていたマリー(Marie)・ナイトとの共演「アップ・アバヴ・マイ・ヘッド(アイ・ヒア・ミュージック・イン・ジ・エア)」。これは普通の宗教曲だ。完全録音集だと第二集の二枚目に入っているヒット曲。

 

 

シスター・ロゼッタ・サープの録音完全集には数えるのなんてやりたくないほど多くのマリー・ナイトとの共演音源が収録されていて、1940年代後半から50年代にかけてずっと一緒に活動していた。1940年代にジャンプ系ジャズ・ビッグ・バンドとたくさん共演したのが例外だったのかもしれない。

 

 

しかしながら録音完全集でシスター・ロゼッタ・サープの残した足跡を辿ると、この人はゴスペル/ブルーズ、聖/俗、教会世界/世俗世界といった境界線なんか意に介さず、そんな狭い枠を軽々と飛越えて活動した第一人者だったのが非常に良く分る。やっぱりそんな区別にこだわりすぎず両方聴いた方が楽しいよね。

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