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2016/07/10

ジャズ界初の白人オリジネイター

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油井正一さんはルイ・アームストロングを最高級に評価する一方で、内心の本音ではビックス・バイダーベックが一番好きだったらしい。といっても油井さん自身がはっきりとそう語ったことはないはず。いろんな文章や状況証拠などからそう推測するだけのこと。でもほぼ間違いないだろう。

 

 

僕が一番はっきりと憶えている油井さんがビックスについて書いている文章は、東京創元社から出版された油井さんの第一著書『ジャズの歴史』のなかでのもの。あの本は完全に古くなっていて復刊される気配すらないんだけど、アルテスパブリッシングから復刊された『ジャズの歴史物語』よりも面白かった。

 

 

東京創元社から出ていた『ジャズの歴史』は初版が古い(確か1958年だったかなあ?)こともあって、新しいジャズについては全く触れられておらず、モダン・ジャズについても少しだけ。八割方が戦前の古典ジャズの話題で、これが生れて初めて読みふけったジャズ書だったから、僕は今みたいになったのかもなあ。

 

 

『ジャズの歴史』ではルイ・アームストロングの1925〜28年という全盛期の録音を時代順に追って、そのスタイルの変遷を詳細に分析したり、またジャズ側のライターがベシー・スミスについて一章を割いてあれだけ詳しく書いてあったりするような文章は、今でもお目にかかったことがない。

 

 

大学生の頃に買ったジャズ書のなかでの最大の愛読書こそ東京創元社から出ていたその『ジャズの歴史』で、評価の高い『ジャズの歴史物語』よりもはるかに好きで繰返し読んでいた。そのなかで一章を割いてビックス・ベイダーベックについて書いてあったのが、僕がこのジャズマンを知った最初だった。

 

 

といっても『ジャズの歴史』でビックスについて割いた一章は、ビックス本人もさることながら、彼のコルネット・スタイルへの唯一の影響源とされるエメット・ハーディの話が中心。どこからどう影響を受けたのか、エメット・ハーディとサッチモの出会いとか、そのへんのことが詳しく書いてあったんだよね。

 

 

しかしエメット・ハーディという人はただの一つも録音のない人物だから、音で具体的にそれらを辿ることは不可能。だから油井さんも様々な文献資料に基づいて推測を交えながらいろんな話を展開するといったような具合だったように記憶している、今でも彼について書いてある文章はかなり少ないよね。

 

 

ネットで検索すると少し見つかる程度で、それらも全てビックスの話に関連してのものだけ。こりゃ当然だよなあ。録音がないんだし、今ではビックスに大きな影響を与えた「伝説上の」ジャズマンだということになっている。なんでも油井さんの文章によれば、エメット・ハーディと共演した際にサッチモは降参したという。

 

 

サッチモが降参といっても、エメット・ハーディのスタイルはサッチモとは全く異なるもので、ノン・ヴィブラートでソフトでストレートな音色だったらしいので、サッチモ・スタイル一色の時代に、自分とは全然違う吹き方をするコルネット奏者が存在し、しかもその演奏内容が素晴しいので感心したという意味なんだろうなあ。

 

 

油井さんの本では、確かコルネットの第二ヴァルヴをあまり使わないスタイルがエメット・ハーディの特徴の一つで、それでビックスも同じようなヴァルヴの使い方になったと書いてあったような記憶がある。しかしトランペットやコルネット含め管楽器奏法のことが分らない僕には今でもチンプンカンプン。

 

 

まあとにかくそんなことで油井さんが熱心に書いていたビックスの録音集を聴いてみたいと思ってレコードを探したら、コロンビア録音集の一枚物が見つかったのだった。それがCBSソニーから出ていた『ビックス・バイダーベック 1927-1929』で、これの選曲・編纂・解説もやはり油井さんだった。

 

 

その『ビックス・バイダーベック 1927-1929』は全16曲で、「シンギン・ザ・ブルーズ」とか「アイム・カミング・ヴァージニア」という畢竟の名演二曲を含むコロンビア系録音の代表作がだいたい収録されていた。ライナーノーツの油井さんによればヴィクター系音源はビッグ・バンド録音が中心だとあった。

 

 

だからヴィクター系音源ではアンサンブルのなかにビックスらしき音を聴くか、あるいはソロがほんの数小節しかないから、彼のスタイルがイマイチ分りにくいんだと油井さんは書いていた。それでもそれも聴きたいと思ってレコードを探したんだけど、大学生の頃の僕は見つけられなかったんだよね。

 

 

だからそのCBSソニー盤ばかり繰返し聴いていた。これは本当に素晴しかった。A面の冒頭一曲目と二曲目がいきなり「シンギン・ザ・ブルーズ」「アイム・カミング・ヴァージニア」と続くから、このレコードを聴いた人はみんなそれだけでいきなりノック・アウトされちゃうんだなあ。さすがは油井さんの編纂。

 

 

ビックスのコロンビア系音源は、今では本家米コロンビアが『ヴォリューム 1:シンギン・ザ・ブルーズ』『ヴォリューム 2:アット・ザ・ジャズ・バンド・ボール』というバラ売り二枚のCDにして、全43曲をまとめて復刻してくれているので大変助かる。見てみたら1990年のリリースになっている。

 

 

それらCD二枚の全43曲でビックス・バイバーベックという音楽家の姿はだいたい分るし、録音データも詳しい英文解説も付いているから、普通はこれで充分。だけどこの二枚で一番早い録音は1927年2月で、しかしビックスはこれ以前にかなり録音があるんだよね。そしてそれらもなかなか魅力的なのだ。

 

 

ビックスのプロ・キャリアは1923年にウォルヴァリンズという七人編成のバンドに参加してはじまっている。このバンド名はジェリー・ロール・モートンの「ウォルヴァリン・ブルーズ」から取っていて、実際ウォルヴァリンズもこの曲をよくやっていたらしいが、ビックス参加の録音は残っていない。

 

 

その代りと言うわけじゃないが、ビックスが参加してのウォルヴァリンズの録音全17曲のなかには、やはりジェリー・ロール・モートンの「ティア・ファナ」が含まれている。ただしそれを聴いてみても、モートンのオリジナルで聴けるようないわゆる “Spanish tinge” は聴かれない。

 

 

モートンの言う “Spanish tinge”(スペイン風味)とは、イベリア半島の本国というのではなくキューバ風のハバネーラ風に左手が跳ねるもので、中村とうようさんもこれは重視していたし、また油井さんがジャズはラテン音楽の一種だという自説を展開する根拠の一つだったりもしたんだろう。

 

 

ウォルヴァリンズ・ヴァージョンの「ティア・ファナ」にそれがないのは残念なんだけど、それを求めるような音楽性のバンドでもない。その代りこのバンドでの録音に既に「ジャズ・ミー・ブルーズ」「リヴァーボート・シャッフル」というビックスの重要レパートリーが存在する。

 

 

「ジャズ・ミー・ブルーズ」も「リヴァーボート・シャッフル」も前述コロンビア系録音集CDに収録されているビックスの代表曲で、後のディキシーランド・スタイルのジャズメンが繰返しカヴァーしている。聴き比べてみると、確かにビックスのソロの時間もコロンビア系録音の方が長いし、音質もいい。

 

 

だけれども演奏全体の出来だとか曲自体の持つ魅力をよりよく表現できているのは、録音時期の早いウォルヴァリンズ・ヴァージョンの方じゃないかと僕の耳には聞えるんだなあ。少なくとも「リヴァーボート・シャッフル」は間違いなくそうだと聞える。

 

 

後世のディキシーランド・ジャズメン、なかでもシカゴ派のエディ・コンドンは「リヴァーボート・シャッフル」を戦前にも戦後にも録音しているんだけど、それらはどう聴いてもコロンビア系録音の方じゃなく、間違いなくウォルヴァリンズ・ヴァージョンの方を下敷にしているような演奏なんだよね。

 

 

ウォルヴァリンズ・ヴァージョン→ https://www.youtube.com/watch?v=pvl9LYNdkpM  コロンビア系録音→ https://www.youtube.com/watch?v=S6DsU4Jptac  エディ・コンドンの戦後録音ヴァージョン→ https://www.youtube.com/watch?v=CFpTayaG-i8 どう聴いても明らかじゃないだろうか。

 

 

ビックスは1924年にウォルヴァリンズを去った後、27年にコロンビア(オーケー)に録音をはじめるまでの間、ジャン・ゴールドケットという人と一緒に活動していた時期がある。すぐに仲違いしてしまうのだが、25年過ぎ頃に一度去ったそのバンド・メンバーからピックアップした数人で録音している。

 

 

全部で24曲残しているのだが、そのうち最も有名なのが1926年録音の「ダヴェンポート・ブルーズ」だ。この曲は後のコロンビア系録音のピアノ独奏「イン・ア・ミスト」と並んで、ロック・ファンでもご存知の方が多いはず。なぜならライ・クーダーが1978年の『ジャズ』でカヴァーしているからだ。

 

 

ビックスのオリジナル1926年「ダヴェンポート・ブルーズ」→ https://www.youtube.com/watch?v=iurxEyqcueg   ライの78年カヴァー・ヴァージョン→ https://www.youtube.com/watch?v=45IgUbJ3524  ライのヴァージョンにはヴァイブラフォンなども入ってなかなか面白いよね。

 

 

ライは同じ『ジャズ』のなかで、ビックスのオリジナルはピアノ独奏だった「イン・ア・ミスト」(なせかそのオリジナル・ヴァージョンは YouTube に上がっていない)をこんな感じにしている→ https://www.youtube.com/watch?v=LHyWkrzlS_M  これにもヴァイブラフォンや管楽器などが入っている。

 

 

こんなのがあるので、ロック・ファン、あるいは少なくともライ・クーダー・ファンにもビックスの名前は知られているんだろう。だからジャズ・ファンはほぼフランキー・トランバウアーとの共演音源にしか言及しないビックスだけど、実はそれらだけでは分らない人でもあるんだなあ。

 

 

そういうわけなので、初録音である1923年のウォルヴァリンズ時代のものにはじまり1930年の自分自身の楽団名義による録音で終るビックスの全録音をどこか完全集にしてリリースしてくれないかな。Masters of Jazz というちょっと怪しい復刻レーベルのものならあるんだけどさぁ。

 

 

最後にどうでもいいことを書いておく。ビックスの多くの録音でもそうなんだけど、古いスタイルのジャズ演奏では、曲の最後でいったん演奏が終った後、まるで残りションベンみたいにちょろっと演奏が入るよね。コーダみたいな奴。言葉で説明しても聴いていない人には分らないと思うんだけど、聴いている人ならあぁ〜あれか!と分るはず。あの残りションベンはなんなんだろう?僕はあれが結構好きなんだけど、モダン・ジャズでは全く聴けない。

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コメント

はじめまして。ビックス他初期ジャズをいろいろ聴いてみたくなり、検索してこのブログを拝見しました。油井正一さんのことですが「ジャズの歴史物語」の56ページに、はっきりと「一番好きなジャズミュージシャンはビックス」と明記されていました。一応お知らせしておきます。私はホワイトマン楽団のビックス、というか、ホワイトマン楽団の音楽が結構好きなのですが、確かにビックスの本領は初期の演奏にこそあるのかもしれませんね。

三浦小太郎さん、コメントいただいていたのに、今まで全く気づいていませんでした。油井さんの『ジャズの歴史物語』は僕も愛読書なんですが、その記述は忘れていましたので、慌てて読み直しました。確かに書いていますね。まあ普段から油井さんは同じようなことをおっしゃっていたらしいです。

昨年九月に復刊文庫化された『生きているジャズ史』も面白いですよ。油井さんの著書では、僕はむしろこちらの方が好きです。

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