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2016/07/13

関係ないでしょ

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「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」という古いブルーズ・ソング。僕は大学生の頃にベシー・スミスのヴァージョンで知った曲。それは1923年録音でピアノ伴奏はクラレンス・ウィリアムズ。いやあ、ベシーのこういう歌は何回聴いても本当にいいなあ。

 

 

 

「エイント・ノーバディーズ・ビジネス(・イフ・アイ・ドゥー)」ってのは、要するに「(私がなにをしようと)他人には関係ないでしょ」「そんなの勝手でしょ、だから放っておいてちょうだい」とかその程度の意味で、ベシーの歌う歌詞を聴いてもそんなフレーズが繰返し並んでいる。

 

 

この古いブルーズが僕は本当に大好きで、いくつくらい持っているんだろうと iTunes ライブラリ内を検索してみたら27個出てきた。もっとも “Ain’t” が “T’aint” だったり “Business” が “Bizness” だったり “Biz-Ness” だったりする。

 

 

だからちょっとずつスペリングを変えながら何度か検索を繰返して27個見つかったので、それらを全部一つのプレイリストにして録音順に並びかえてちょっと聴いてみた。僕が持っている一番古い「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」はオリジナル・メンフィス・ファイヴのヴァージョンだ。

 

 

オリジナル・メンフィス・ファイヴのヴァージョンで歌っているのはアナ・メイヤーズで1922年録音。調べてみたらこれがこの曲の史上初録音らしい。完全に1920年代クラシック・ブルーズのスタイルだけど、そんなには黒い感じがしないよね。

 

 

 

アメリカ黒人音楽は時代を遡れば遡るほど黒さとかブルージーさが薄くなっていく。逆に時代が進むほど黒さが濃厚に出てくるというか取戻したというようなことになっていて、これはちょっと面白い事実だ。昔はあまり黒さを露骨に打出すと、多くの白人リスナーに敬遠されたってことかなあ。

 

 

社会的にも黒人がアメリカの一般社会で占める地位が低くて、人種意識を全面的に打出して権利拡大(というか普通化)を叫びながら運動するようになった1960年代以後じゃないかな、音楽的にも真の意味で本当にブラックネスが強く出てくるようになるのは。つまりソウルやファンク・ミュージック以後だ。

 

 

だから20世紀初頭の商業録音開始当時の黒人音楽家たちは、多くの場合は白人であったろうメインの音楽購買層にアピールしないとレコードが売れないもんだから、そのためにやはり音楽的な黒さを薄めていたかもしれない。僕が1920年代のクラシック・ブルーズを聴いてもさほど強くは黒さを感じないのもこのせいだなあ。

 

 

もっともそのちょっと後に録音するようになるアメリカ南部のカントリー・ブルーズは真っ黒けなんだけど、これはおそらく(ジューク・ジョイントなど現場の)聴衆の大半が同じ黒人で、黒人コミュニティ内で育まれてきたものだったからなんだろう。その黒いフィーリングをそのままレコードにしたんだろうね。

 

 

それに対しブルーズ界では最も早く商業録音を開始した1920年代初期のクラシック・ブルーズの歌手たちは全員大都会で活動していて、必ずしも黒人コミュニティ内だけに存在していたような人達ではなかった。カントリー・ブルーズメンと違って全員専業のプロ歌手だったから、食べていかなくちゃいけない。

 

 

そんな話はともかく「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」。僕が持っている最も古いアナ・メイヤーズとオリジナル・メンフィス・ファイヴの初録音に続くものは、1923年2月録音のアルバータ・ハンター・ヴァージョンで、それもオリジナル・メンフィス・ファイヴの伴奏で歌っているんだよね。

 

 

アルバータ・ハンター・ヴァージョンがどう探しても YouTube で見つからないのが残念だけど、これは先に音源を貼ったアナ・メイヤーズ・ヴァージョンにソックリなのだ。前の年に出たそのレコードを聴いていただろうということと、伴奏者が同じだから同じアレンジを持込んだんだろう。

 

 

アルバータ・ハンターの次が最初に音源を貼ったベシー・スミスのバージョン。同じ1923年だけど、ベシーの方は四月録音だから二ヶ月だけ遅い。でもこれは当時の事情からすれば同時期と言っていいんじゃないかな。録音時期が二ヶ月しか違わないんだから、録音時のベシーはアルバータ・ハンターのレコードは聴いていなかったはず。

 

 

最初の二つが管楽器なども入るジャズ・バンドっぽい伴奏なのに対し、ベシーのはピアノ伴奏だけというアレンジ。直後にフレッチャー・ヘンダースンとその楽団がベシーの伴奏を務めるようになるが、ベシーの最初の録音八曲は全てクラレンス・ウィリアムズのピアノ伴奏だけで、彼のいろんな意味での貢献も大きい。

 

 

僕はそのベシーのヴァージョンこそが「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」というブルーズ・ソングを全米で広めたものだろうと長い間思っていた。実際ビリー・ホリデイが(二回も)これを録音したり、またダイナ・ワシントンも歌ったりしたのは、明らかにベシーの影響だ。

 

 

ビリー・ホリデイはなんでも10代の頃にベシーの「ケアレス・ラヴ」が大好きで、これやその他ベシーのレコードをかけながら娼家の雑巾がけをしていたという話が残っているくらいだし(それにしては歌い方はそうでもないけれど)、ダイナ・ワシントンだってベシー曲集を出しているくらいだ。

 

 

しかしこの「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」を最も広く普及させたのはジミー・ウィザースプーンだということだ。かのジャンプ・ブルーズ歌手。それが1949年のことで、ジェイ・マクシャン楽団との共演で歌ったそのレコードがヒットしたらしい。そのヴァージョンは僕は持ってないんだなあ。

 

 

僕が持っているジミ−・ウィザースプーンの「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」は1956年アトランティック録音の『ニュー・オーリンズ・ブルーズ』収録のだけ。それを聴くとこれもやはりジャンプっぽいジャズ・バンドの伴奏で、クラリネットやワーワー・ミュート・トランペットが聞えたりする。

 

 

そしてそれまではだいたい “T’ain’t” だったり、あるいは略さずに “It Ain’t” だったりした曲名が “Ain’t” になったのが、そのジミー・ウィザースプーンの1949年録音のレコードからなんじゃないかなあ。これ以後はだいたい全部そうなっているもんね。

 

 

そのジミー・ウィザースプーンのヴァージョンと、そしておそらくはそれに影響を受けてB.B. キングも歌ったりした(BBはよくジャンプ・ブルーズ系の曲をカヴァーしているよね)ので、それで世間一般に広く「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」という曲が広まったってことなんだろうなあ。

 

 

この曲をライヴで繰返し採り上げて歌っているフレディ・キングも、1974年のライヴではバンドの演奏に乗ってギターを弾きつつ、曲紹介で「ジミー・ウィザースプーンのレコードで聴いた曲なんだよ。B.B. キングもやってるね」と言っている。そしてヴォーカル部分よりギターの長いソロが中心。

 

 

もちろんジャズ歌手もたくさん歌っている「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」で、エラ・フィッツジェラルドとかアビー・リンカーンとかその他いくつもあるけれど、それらはだいたいビリー・ホリデイのヴァージョンに即したような感じになっている。インストルメンタルものも少しあるが全部イマイチだ。

 

 

そんな感じでジャズ系歌手は主にビリー・ホリデイのを、ブルーズ系歌手は主にジミー・ウィザースプーンのヴァージョンのを参考にしながら歌っているような「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」。しかしここにそれら二つの流れを一つの演唱の中に合体させたような人がいる。他ならぬエリック・クラプトンだ。

 

 

悪名高い1993年のブルーズ・アルバム『フロム・ザ・クレイドル』を引っさげてのブルーズ・ライヴ・ツアーで、クラプトンは実に頻繁に「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」をやっている。しかし僕が持っているのはライヴ・ヴァージョンではない。公式ライヴ盤にはなっていないはずだ。

 

 

その1994年のブルーズ・ライヴ・ツアーのためにスタジオでリハールをやっている音源がブートCDになっていて、『ザ・ラスト・リハーサル 94』というもの。僕はなぜかこれを持っている。なにか他のロック音楽家のブートを買いに西新宿の魔境に分け入った際に見つけて買ったんだろう。

 

 

言うまでもなくクラプトンのブルーズ・ライヴ・ツアーのリハーサルそのものは眼中にない。なんとなくブート・ショップの棚を漁っていて、なんと「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」をやっているじゃないか!これは『フロム・ザ・クレイドル』にはないぞ、こりゃいったいどんな感じなんだろう?と興味を持ったんだなあ。

 

 

それは最初ピアノ伴奏だけで歌いはじめるのだが、その際の歌が出る前のピアノ・イントロがベシー・スミス・ヴァージョンのクラレンス・ウィリアムズのフレイジングをソックリそのままコピーしているんだよね。間違いなくクラプトンの指示によるものだ。

 

 

 

しかもそのピアノだけの伴奏(ちょっとだけ小さくスネアのリム・ショットが聞えるが)に乗って歌うクラプトンのヴォーカルもベシーのヴァージョンをよく真似ているもんね。フレイジングも似ているし、特に一区切りごとに「ドゥー、ドゥー」と二回か三回繰返すあたりはベシーの丸コピーじゃないか。

 

 

そのクラプトンの歌の背後でのピアノ伴奏のフレイジングやストップ・タイムを使ったりするのもベシーのヴァージョンそのまんまなんだよね。そして上で貼った音源をお聴きになればお分りの通り、歌い終るとクラプトンはやおらエレキ・ギターでソロを弾きはじめ、その部分ではホーン・セクションの伴奏も入る。

 

 

そしてそのエレキ・ギターのソロはフレディ・キングのヴァージョンによく似ているもんね。ってことは1994年のクラプトンは、この曲を前半はクラシック・ブルーズ風にやり、後半はモダン・ギター・ブルーズでやって、それを言わば繋げて合体させたようなアレンジだってことだなあ。

 

 

こりゃちょっと面白いんじゃないだろうか。クラシック・ブルーズとモダン・ギター・ブルーズの合体融合。1990年代以後のクラプトンがやるブルーズを褒めることの全くない僕だけど、この「エイント・ノーバディーズ・ビジネス」だけは良いと思うなあ。YouTube にたくさん上がっているライヴ本番のはやはりイマイチなんだけどね。

 

 

どうも本番になるとクラプトンもちょっと力んじゃってるんだなあ、ご多分に漏れずこの曲でもいつものように。それでヴォーカルもガナったりしているんだけど、上で貼ったのはリハーサルのヴァージョンだからリラックスしているってことなんだろうね。最近のクラプトンのブルーズにもまあまあ悪くないのがあるじゃないの〜(笑)。

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